27 / 59
第2章 百花繚乱
第27話 進軍
しおりを挟む
突然振られた挨拶に、私は焦ってカーテシーで応える。緩んだ空気に油断していた。
「も、申し遅れました。フェリット伯爵家が息女、リージュでございます。お見知り置きを」
そんな私に、クムト様は気さくに返してくれる。
「そんなに畏まらないでいいよ~。もっと肩の力抜いて。教祖なんて大仰な肩書きだけど、ただのジジイだからさ」
向けられるのは慈愛に満ちた微笑みなのに、何故か寂しさを感じる。どうしたのかと声をかけようとしたけれど、殿下に制されてしまった。
「リージュ、気をつけて。こいつ手が早いんだ。忘れられた事も逆手にとって、女の子食い放題。見た目だけはいいから、若い子は騙されちゃう。今、寂しそうとか思ったでしょ? それがこいつの常套手段なんだ」
殿下は小さな体で、必死に私を隠そうとしている。その仕草はとても愛しくて、頬が緩んだ。
「殿下、心配は無用です。私には頼もしい婚約者がいるのですから。その方以外に、捕らわれるつもりはございません」
少し恥ずかしいけれど、こうして守ろうとしてくださる殿下の気持ちに少しでも報いたくて、声に想いを乗せた。
外野の揶揄う口笛が聴こえたのも無視して、見上げる紫の瞳に頷いてみせると、警戒一色だった表情が綻ぶ。
「うん、リージュの事は信じてる。信じてないのはこいつ! だって、初めてフェティアを面通しした時にいきなり口説いたんだよ!? ︎︎まだ五歳の子供相手に! 信じられる!? リリエッタの時もそう! 油断してたら食べられちゃう!」
リリエッタ様は下の妹君だ。まだ十歳で、フェティア様とは年子になる。それでも王族の血というのか、既に色気が備わっていた。リリエッタ様は王妃様譲りの艶やかな黒髪に紫の瞳が神秘的で、フェティア様は殿下同様、陛下によく似ている。
それでも五歳児を口説くって……。
呆れを通り越して、感心してしまう。
あれ、でも。
「先程は賢者と仰っていましたよね? そのような方が女性にだらしがないのですか?」
疑問を口にすると、勢いのいい答えが返ってきた。
「賢者としては信用できるよ。でも男としては絶対ダメ!」
幼い殿下にこれほど言われるなんて、相当なのかしら。ちらと視線を向けると、さっきまでの憂いはどこへやら。ヘラっとした軽薄な笑みで手を振っている。
「アイン、気持ちは分かるがそこまでだ。クムト、お前が出てきたという事はこの戦、ただでは終わらないのか?」
陛下が問いかけると、クムト様の表情は一変する。それは正に賢者と呼ぶにに相応しい。
「ああ、敵はアックティカだけじゃない。あちらが傭兵を雇っているのは知っているね? 奴らはこのカイザークを奪い、足がかりとして勢力を拡大、一部を譲り受けて国を興そうとしている。宰相はその計画に乗り、資金援助をしていた。宰相は玉座に座り、アックティカ及び傭兵国家と手を組み更に東へ。目標は港を有するルーベンダークだ」
「も、申し遅れました。フェリット伯爵家が息女、リージュでございます。お見知り置きを」
そんな私に、クムト様は気さくに返してくれる。
「そんなに畏まらないでいいよ~。もっと肩の力抜いて。教祖なんて大仰な肩書きだけど、ただのジジイだからさ」
向けられるのは慈愛に満ちた微笑みなのに、何故か寂しさを感じる。どうしたのかと声をかけようとしたけれど、殿下に制されてしまった。
「リージュ、気をつけて。こいつ手が早いんだ。忘れられた事も逆手にとって、女の子食い放題。見た目だけはいいから、若い子は騙されちゃう。今、寂しそうとか思ったでしょ? それがこいつの常套手段なんだ」
殿下は小さな体で、必死に私を隠そうとしている。その仕草はとても愛しくて、頬が緩んだ。
「殿下、心配は無用です。私には頼もしい婚約者がいるのですから。その方以外に、捕らわれるつもりはございません」
少し恥ずかしいけれど、こうして守ろうとしてくださる殿下の気持ちに少しでも報いたくて、声に想いを乗せた。
外野の揶揄う口笛が聴こえたのも無視して、見上げる紫の瞳に頷いてみせると、警戒一色だった表情が綻ぶ。
「うん、リージュの事は信じてる。信じてないのはこいつ! だって、初めてフェティアを面通しした時にいきなり口説いたんだよ!? ︎︎まだ五歳の子供相手に! 信じられる!? リリエッタの時もそう! 油断してたら食べられちゃう!」
リリエッタ様は下の妹君だ。まだ十歳で、フェティア様とは年子になる。それでも王族の血というのか、既に色気が備わっていた。リリエッタ様は王妃様譲りの艶やかな黒髪に紫の瞳が神秘的で、フェティア様は殿下同様、陛下によく似ている。
それでも五歳児を口説くって……。
呆れを通り越して、感心してしまう。
あれ、でも。
「先程は賢者と仰っていましたよね? そのような方が女性にだらしがないのですか?」
疑問を口にすると、勢いのいい答えが返ってきた。
「賢者としては信用できるよ。でも男としては絶対ダメ!」
幼い殿下にこれほど言われるなんて、相当なのかしら。ちらと視線を向けると、さっきまでの憂いはどこへやら。ヘラっとした軽薄な笑みで手を振っている。
「アイン、気持ちは分かるがそこまでだ。クムト、お前が出てきたという事はこの戦、ただでは終わらないのか?」
陛下が問いかけると、クムト様の表情は一変する。それは正に賢者と呼ぶにに相応しい。
「ああ、敵はアックティカだけじゃない。あちらが傭兵を雇っているのは知っているね? 奴らはこのカイザークを奪い、足がかりとして勢力を拡大、一部を譲り受けて国を興そうとしている。宰相はその計画に乗り、資金援助をしていた。宰相は玉座に座り、アックティカ及び傭兵国家と手を組み更に東へ。目標は港を有するルーベンダークだ」
10
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる