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第1章 開花
第14話 ︎︎反撃の狼煙
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遠くから響くヒメリアの悲鳴を聞きながら、アイフェルトは番兵達に指示を出していく。過去視ができるとはいっても、万能ではない。視る事ができるのは相対しているもののみ。離れている者や、場所の過去を視る事はできないのだ。
この事からも、アイフェルトの力は機密として扱われていた。情報規制を敷き、宰相に情報が漏れないよう慎重に行動している。もし知られてしまえば、宰相一派に直接会う事は難しくなるだろう。会うだけで、計画が筒抜けになるのだから。ヒメリアを投獄したのは、口封じの意味もあった。
実際のところ、宰相と相まみえる機会はそう多くない。次期国王と言っても、まだ王太子の身。しかも十三歳の幼い少年なのだ。積極的に政に関わっていたとしても、さすがに大きな仕事は任されない。本来であれば、今まで学んできた事を実践で覚え始める時期だ。他国の王太子ならば、陳情書などの書類を閲覧する許可が出る程度でしかない。
だがアイフェルトはその力ゆえに、父王の許可を得て議会にも既に参加している。父王もアイフェルトの力の重要性を認識しているのだ。
議会には宰相一派を筆頭に、様々な思想を持つ者達が集まる。中にはアイフェルトを廃し、妹を女王に据えて、子息をその王配にあてがおうとする輩もいた。それらは全て、アイフェルトによって父王に伝えられている。不穏分子を事前に知るには、誂え向きの能力と言えるだろう。
王家の力は代々受け継がれてきた。そのどれもが執政に深く関わり、ザーカイトを豊かな国へと導いている。父王の力も、国交では大いに役立つ。相手の感情が分かるのだから主導権を握り安く、有利な交渉へと誘導できた。
母である王妃の力も、父王と相性がいい。先視は便利そうだが、可能性を垣間見る事しかできない。未来とは、選択を違えれば途端に変わるものだからだ。しかし、それも父王の力と合わされば、格段に精度の高いものへと変わる。
歴代を鑑みれば、おそらくリージュもアイフェルトと相性のいい魔力であると目されていた。
それを踏まえて、リージュに関してはすべての権限を行使できるよう、アイフェルトに一任されている。当然、両親も番だ。どれほど大事な存在なのかを十分に知っている。そこに邪な企てが横やりを入れられる可能性が高い以上、王という立場以前に、父として息子に助力したいと願うのは当然だろう。
アイフェルトはそんな父の望みも理解した上で、リージュ奪還に動き出す。
「コルト、追跡の準備はできているな? ︎︎すぐに出立しろ。バスク、水薬の入手経路を特定、ヒメリアに接触した人物を炙りだせ。エド、お前は宰相派に探りを入れろ。中枢より末端が動くかもしれない」
それぞれが敬礼し、走っていく。それを見ながら窓へと足を向けた。窓枠を触ると、ざらりとした砂が付着している。侵入者の形跡を睨みながら、アイフェルトは思案した。
首謀者は宰相だったとしても、誘拐を実行したのはおそらく下っ端貴族だろう。窓の外を見れば、陽が陰ろうとしていた。真下を覗き込めば、番兵が証拠探しをしている。リージュが拐われたのは二時間ほど前。この部屋は『コ』の字型をした屋敷の二階角にある。向かいには、昨日リージュを覗き見していた空き部屋。離宮といえど、王族の住まいだ。それなりの広さがあり、番兵も要所に配置している。屋上からか、階下からか。どちらにしても侵入者は目立つだろう。
それなのに、明るい昼日中に堂々と侵入してきたのだ。ヒメリア以外にも内通者がいるかもしれない。離宮内はアイフェルトの臣下を集めているが外はそうもいかず、敷地を出れば宰相派が目を光らせていた。
アイフェルトは深く息を吐くと踵を返す。
「僕も出る。馬を引け」
急かす心臓を落ち着かせ、足早に離宮を後にした。
この事からも、アイフェルトの力は機密として扱われていた。情報規制を敷き、宰相に情報が漏れないよう慎重に行動している。もし知られてしまえば、宰相一派に直接会う事は難しくなるだろう。会うだけで、計画が筒抜けになるのだから。ヒメリアを投獄したのは、口封じの意味もあった。
実際のところ、宰相と相まみえる機会はそう多くない。次期国王と言っても、まだ王太子の身。しかも十三歳の幼い少年なのだ。積極的に政に関わっていたとしても、さすがに大きな仕事は任されない。本来であれば、今まで学んできた事を実践で覚え始める時期だ。他国の王太子ならば、陳情書などの書類を閲覧する許可が出る程度でしかない。
だがアイフェルトはその力ゆえに、父王の許可を得て議会にも既に参加している。父王もアイフェルトの力の重要性を認識しているのだ。
議会には宰相一派を筆頭に、様々な思想を持つ者達が集まる。中にはアイフェルトを廃し、妹を女王に据えて、子息をその王配にあてがおうとする輩もいた。それらは全て、アイフェルトによって父王に伝えられている。不穏分子を事前に知るには、誂え向きの能力と言えるだろう。
王家の力は代々受け継がれてきた。そのどれもが執政に深く関わり、ザーカイトを豊かな国へと導いている。父王の力も、国交では大いに役立つ。相手の感情が分かるのだから主導権を握り安く、有利な交渉へと誘導できた。
母である王妃の力も、父王と相性がいい。先視は便利そうだが、可能性を垣間見る事しかできない。未来とは、選択を違えれば途端に変わるものだからだ。しかし、それも父王の力と合わされば、格段に精度の高いものへと変わる。
歴代を鑑みれば、おそらくリージュもアイフェルトと相性のいい魔力であると目されていた。
それを踏まえて、リージュに関してはすべての権限を行使できるよう、アイフェルトに一任されている。当然、両親も番だ。どれほど大事な存在なのかを十分に知っている。そこに邪な企てが横やりを入れられる可能性が高い以上、王という立場以前に、父として息子に助力したいと願うのは当然だろう。
アイフェルトはそんな父の望みも理解した上で、リージュ奪還に動き出す。
「コルト、追跡の準備はできているな? ︎︎すぐに出立しろ。バスク、水薬の入手経路を特定、ヒメリアに接触した人物を炙りだせ。エド、お前は宰相派に探りを入れろ。中枢より末端が動くかもしれない」
それぞれが敬礼し、走っていく。それを見ながら窓へと足を向けた。窓枠を触ると、ざらりとした砂が付着している。侵入者の形跡を睨みながら、アイフェルトは思案した。
首謀者は宰相だったとしても、誘拐を実行したのはおそらく下っ端貴族だろう。窓の外を見れば、陽が陰ろうとしていた。真下を覗き込めば、番兵が証拠探しをしている。リージュが拐われたのは二時間ほど前。この部屋は『コ』の字型をした屋敷の二階角にある。向かいには、昨日リージュを覗き見していた空き部屋。離宮といえど、王族の住まいだ。それなりの広さがあり、番兵も要所に配置している。屋上からか、階下からか。どちらにしても侵入者は目立つだろう。
それなのに、明るい昼日中に堂々と侵入してきたのだ。ヒメリア以外にも内通者がいるかもしれない。離宮内はアイフェルトの臣下を集めているが外はそうもいかず、敷地を出れば宰相派が目を光らせていた。
アイフェルトは深く息を吐くと踵を返す。
「僕も出る。馬を引け」
急かす心臓を落ち着かせ、足早に離宮を後にした。
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