タイム・ラブ

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第三章「一線を越える」

第16話「友達のために」

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「ははっ、大丈夫だって。愛はまだまだそんな歳いってないから」
「え~そうかしら?咲有里さんと比べると私結構老けてると思うんだけど」

愛とアレイは咲有里に淹れてもらったコーヒーと紅茶を飲みながら談笑していた。これもうまい。

「咲有里さんは...特殊な方だよ」
「うーん」
「それより、愛にいくつかメモリーキューブ渡したよね?」
「えぇ...」

愛はズボンのポケットから自分に渡されたいくつかのメモリーキューブを取り出した。

「まだ電池残ってるかい?」
「もう全部無いわ...」
「そうか。僕もあと最後の一個だよ。これも半分しか電池ないけど...」
「私達使い過ぎよね...」

メモリーキューブは未来人の必需品だ。人間のいる過去の時代に行く場合は必ず持っていかなくてはならない。本来なら使う機会は少ないのだが、アレイ達のように不本意ながら過去の時代に長期間滞在することになったら、電池の節約が大切になる。

「一応充電器を持ってきたんだけど...この時代のコンセントに刺さるかなぁ...?」

アレイはテレビの横にあるコンセントの側まで行き、充電器のケーブルをコンセントの穴に近づけた。

「やっぱり...形がまるで違うな...」

当然ながら、コンセントは長方形の穴が横に二つ並んだ一般的な型だ。この型はこの時代の日本では普遍的ではあるものの、アレイ達の時代では違う。充電器は金属部分の先端が丸い棒状になっており、このコンセントには刺さらない。

「タイムマシンがあればなぁ...」

タイムマシンにこの充電器が刺さる型のコンセントがあるが、生憎タイムマシンはまだ故障中だ。

「まだタイムマシンは直らないの?」
「あぁ、悪い。僕の技量じゃ歯が立たない。タイム・テレフォンの方は?」
「こっちもよ。全然繋がらない...」

未だに時間監理局との連絡は取れない。まだワームホールの乱れは続いているらしい。彼らにとっては異例の事態だ。

「ここまで続くのは初めてだな」
「もしかして、ずっとこのままなのかしら...」

愛がうつ向く。アレイは愛の肩に手を乗せる。

「大丈夫。僕達は絶対に助かる。家族みんなでこの壁を乗り越えよう」
「アナタ...」

二人は身を寄せて抱き合う。この二人は完全なる元の時代への帰還を望んでいるようだ。



   * * * * * * *



「もう...ママったら...」
「僕のお母さんもさっき制服姿を自撮りして写真送ってきた...」

ママったら...歳を考えなさいよ、歳を。私達お互い母親に苦労するわね。とにかく家を出て登校路に着く。

「そういえば、これ」

満君は先を歩く私を呼び止めて、何枚か折り畳まれた紙を渡してきた。何々?私はそれを受け取る。

「何これ?」
「昨日の古典の授業、真紀ずっと寝てたでしょ?だから要点とか僕なりにまとめておいたから」

え?何それ?私のためにやってくれたの?私は紙を広げて見る。助動詞の用法や和歌の修辞法など、おそらく昨日古典の授業で石井先生が話したであろう内容が、満君の細かい解説付きで分かりやすく書かれていた。すごい。

「こんなの...いつの間に...」
「真紀が寝静まった後、起きて夜中に書いたんだ。多分昨日の内容分からないと今日の授業も着いていけないと思うから」

私が授業中寝ていたからその分を満君が私のためにまとめておいてくれたという。感謝と同時に多少の申し訳無さを感じた。今日からはちゃんと起きて授業受けよう。

「他に分からないところとかあったら、よかったら僕に聞いてね。もちろん古典以外でもいいから」
「ありがとう!満君!」
「うん」

なんて満君は優しいのだろう。満君の支えがあるなら、嫌いな勉強も頑張ろうという意識が芽生える。どうしてここまで私に尽くしてくれるのか不思議だ。それに、さっきから胸のあたりがドキドキしているのも不思議だ。

「なんなのかしら...コレ...」
「何が?」
「あ、いや、何でもない」
「そう。そうだ、弁当のことだけど」

お弁当?あぁ、昨日約束したお昼休みに手作り弁当を用意してくれるという話だ。今朝満君はしっかり作ってきてくれた。今満君の右手には大きなお弁当の袋が握られている。だが二人分にしてはなにやら大き過ぎなようにも見える。とにかく、そのお弁当がどうしたって?





「これ...マジで満が作ったのか...?」

私達は昼休みに食堂に来た。そして、隣には綾葉ちゃん。その奥には綾葉ちゃんといつも一緒に行動しているという友達の美咲ちゃん。満君の方には背の高い男子二名が座っている。私を含めて計六人、テーブルの上に広げられた満君のお弁当箱を見て驚愕する。

「うん。みんなの分も作ったんだ」
「すごいわね満君」

他の四人もお弁当箱の中に詰められた食材の数々を覗き込んで感銘を受ける。

「この量作るのって大変だったろ...」
「まあね。それと、この機会を利用して真紀をみんなにも紹介しようと思って」
「真紀です!みんなよろしくね!」

満君はお昼休みの時間についでに私に自分の友達を紹介すると言った。みんなをわざわざ連れてきて、しかもみんなの分のお弁当まで作ってきたのだ。どうりでお弁当箱の入った袋がやけに大きいなぁとおもったことだ。

「俺は桐山裕介!よろしくな!」
「派江広樹だ。よろしく」

ふむふむ、裕介君と広樹君ね。OK~♪

「もう言ったけどとりあえず改めて、空野綾葉です!よろしくね」
「私も改めて、谷口美咲です。よろしく」
「みんなよろしくね~♪」
「...」

みんなが一斉に満君を見つめる。「お前は自己紹介しないのか?」と言うかのように。

「あ、えっと、青葉満です...。よろしく...」
「よろしく~」

実はもう密かに深く知り合っているけれど、私と満君の関係を他のみんなはもちろん知らないため、初対面の雰囲気を作らないと不自然に思われる。やりにくいわね...。

「なぁ満、もうこれ食っていいか?腹が減ってしょうがねぇんだ」
「あぁ、いいよ。召し上がれ」
「いただきま~す!」

六人で一緒に手を合わせた。そして裕介君は一目散に箸を掴み取り、唐揚げを箸で挟んで口に運ぶ。

「うめぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

裕介君に続いて綾葉ちゃんと美咲ちゃんも唐揚げを頬張る。

「美味しい!やっぱり満君料理うまいわね~♪」
「料理のうまさは満君のママ譲り」
「さすがだな~」

広樹君は卵焼きを口にしていた。私も食べよっと♪

「もぐもぐ。はぁ~♪美味しい!」

これが満君の味?さすがだわ!咲有里さんにも負けてないんじゃないかしら。親子揃って料理上手なんて、羨まし過ぎるわ。

「ところで真紀ちゃん」
「ん?」

私は箸を止め、綾葉ちゃんの方へ視線を向ける。

「満君といつの間に仲良くなったの?」
「え?」

視線は満君の方へ移動した。満君は「え?何?」とでも言っているかのような顔だ。

「えっとね、実は私満君の家に...」
「ああっ!!!!!!」
「んん~!むぐむぐ~!(え?どうしたの満君!?急に私の口押さえて!?)」
「あっ、ごめん真紀!えっと...僕達実は家が近くにあってさ!朝一緒に登校するようになってそこで仲良くなったの!」

ビックリした~。満君がいきなり私の口を両手で押さえてきた。私何かヤバいこと言おうとしたっけ?

「そうか。そういえば一瞬だけど朝お前らが一緒に歩いてるとこ見かけたな」

え?そうなの?まさか裕介君に見られていたとは...。でも未来人がどうのこうのの話はしてないから私の正体とかはまだバレていないわよね?

「なるほど。それで仲がいいのね」
「そうそう」
「いや~、俺最初見たとき、二人って付き合ってるのかt(ry」

突然広樹君が裕介君の口を両手で押さえた。なぁに?満君の真似?それに綾葉ちゃんが広樹君へ向けてサムアップをしたような気がした。何してるの?

「どうしたの?」
「いや!なんでもないの!」
「はぁ...?」

私と満君は首をかしげた。不思議なお友達ね。



   * * * * * * *



「じゃあまた明日ね~」
「うん。また明日~」
「じゃあね」

満と真紀は四人を置いて、先に教室を出て帰っていった。

「もう!裕介余計なこと言わないでよ!私達の計画はあの二人には秘密にして決行するんだから!」
「わりぃわりぃ...」
「でも満の奴、家が近いから仲がいいって言ってたよな?だったら恋してるかどうか逆に怪しくなって...」
「黙ってなさい!ろくに恋愛もしたこともないくせに!」
「お前だってしたことねぇだろ!」

四人は満と真紀の二人には機密で作戦を決行するようだ。

「満君、私達の知らないうちに結構距離を縮めてたみたいだね」
「そうね。あともう一息だわ。私達が背中を押してあげなくちゃ!それじゃあ、今週の土曜日に裕介の家に集合ね。そこで作戦会議よ」
「了解」
「ちょっと待て!なんで俺の家なんだよ!?」
「というわけで、今日はこれで解散!」
「らじゃ~」
「話を聞けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」





「さっきはごめん!いきなり口押さえちゃって」
「どういうつもり?」
「いや、真紀が僕達が同居してること、みんなに話しちゃうんじゃないかと思って...」

なるほど。真紀は確かにそのことを言うつもりだった。満は他のみんなには言わないでおくつもりらしい。

「みんなには内緒にするの?」
「そうだよ。だって同い歳の女の子を家に連れ込んで一緒に寝泊まりしてるなんてヤバいてしょ...変態だよ」
「はい?」

真紀にとってはそれは別に普通のことだった。だが満にとっては悪いイメージを持っているようだ。

「もしみんなに知られたら...」

“満君...さすがにそれはヤバいでしょ...ちょっと引くわ...”

“お前...そういう奴だったんだな...。もう正直着いていけねぇわ...”

“女の子とど、ど、同居だと!?羨まし...あ、いや、違っ...こ、この変態野郎ぉぉぉぉぉ!!!!!!!!”

“ふーん。おめでとう!”

「みんなから変な目で見られちゃうんだよ~~~~~!!!!!!」

考え過ぎである。真面目であるが故に考え方が変なところまで及ぶ。一人謎に喚く満を、真紀はそれこそ変な目で見つめる。

「考え過ぎよ...。みんなそんなことで友達やめるような人じゃないでしょ」

満は顔を上げる。珍しく真紀の方から満を励まそうとしているのだ。真紀は続ける。

「だいたい友達のちょっと引くような意外な一面が知れたところで簡単に関係が終わるわけないでしょ。そんなことで終わる友情なんて偽物よ。友達ってのは他者の事情をなんでも寛大に受け止めてくれる、そんな存在じゃないわけ?」
「...そうだね」

友情や愛情など、小さなきっかけ一つで簡単に崩れてしまうこともある。しかし、そこで完全に終わらないものこそが本物ではないだろうか。関係の鎖は固く脆い。誰かとの距離は永遠であり、一瞬でもある。素敵なくらいに。

「みんな優しいもんね」

満はやはり考え過ぎだ。物思いにふけることが多い故に、物事を余計な範囲まで広げて難しく考えている。そして気づく。自分は真紀を助けながら、いつの間にか真紀に助けられている。真紀がいることで、満の日常はより華やかなものへと変わっていく。満のパレットに色が次々と付け足されていく。境界線がさらに薄れていく。満にとって、真紀はより一層特別な存在として認識されていく。それを一言で言うと果たして何となるのか...。

「真紀...」
「満君」
「何にせよ、真紀の正体を隠さないといけないから同居の件はみんなには内緒ね」
「あっ、そうね...」



二人の距離は、知らない間に少しずつ近くなっていく。そしてそれを待っていたかのように、ある一つの作戦が実行に移されようとしていた。



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