タイム・ラブ

KMT

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第二章「安心する日常」

第9話「安心する日常」

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朝日がまぶしい。日が目にダイレクトに降り注がれて目が覚めてしまった。まだ眠いのに...。首元がくすぐったい。目を凝らして見てみると、ママの長い髪が巻き付いていた。それをほどいて起き上がる。

「ん~、やっぱり寝心地悪いわねぇ。」

ちゃんとベッドや布団で寝たかったが、こんなことになってしまうとは思ってもいなかったため、持ってきていない。
タイムマシンが墜落、爆発した荒れ地は地面もゴツゴツしており、あちらこちらに大きな倒木が散らばっている。どかそうにも、重過ぎて私の力では無理だ。後でパパに手伝ってもらおう。

「パパ~?」

そういえば、パパはどこかしら?見渡すと、パパはタイムマシンの横で倒木に横たわって寝ていた。いや、寝てはいない。何やら様子がおかしい。

「へにゃぁ...( ゚A゚ )」

髪も肌も真っ白になり、完全に燃え尽きていた。








ピピピピピピピ.......
朝だ。僕は目覚ましの音を止め、ベッドから起き上がる。メガネをかけて、背伸びをする。少し体がダルい。爆発に巻き込まれたこともあり、疲れがまだ残ってるらしい。他にも昨日は色々あったからなぁ...。

「6時45分か...」

タイムマシンで現代にやって来た真紀達。彼女達も昨日はかなり疲れている様子だったので、今日は何か差し入れを持ってくつもりだ。そのために、土曜日にも関わらずこんな朝早くに目覚ましをかけたのだ。彼女達がまだ寝ているとは限らないが。

サー
カーテンを開けて、朝日を目一杯浴びる。パジャマを脱ぎ、私服に着替える。そして一階に下りて準備を始める。冷蔵庫を開け、ソーセージ、お茶、パン類、その他諸々食料品を出し、リュックに詰める。そうだ、庭の倉庫に確かアレがあったはず。アレも持っていくか。それから...

ガラッ

「ふわぁ~、おはよう」

お母さんが眠気を引きずって下りてきた。
はっ!まずい!

「ん~?何してるの~?」

こんなに食料品を勝手に持ち出したら怒られるかもしれない。どうしよう...。

「あ、え、えっと、と、友達が急に今からプチクラ山にピクニックに行こうって言ってね。ほんとに急に連絡が来たから今準備してるんだ~」

また嘘をついてしまった。ごめんなさいお母さん...。罪悪感が再び積もる。

「あらあら~、そうなの。楽しんで来てね♪」

あっさり信じてくれた。そうだ、僕のお母さんはいつもこんな感じだ。天然というか何というか、いつもぽわぽわしている。詐欺師に騙されたりしないか、とても心配になる。だが、今は助かった。

「うん。行ってきま~す」

リュックを背負い、玄関の扉を開ける。お母さんは手を振りながら笑顔で見送る。

ガチャッ
扉を閉めた後、僕は家の裏に回る。外から庭に入れる入り口があるのでそこを通り、倉庫の扉を開ける。中にはキャンプ用のテントとシュラフがあった。







タオルを水で濡らし、パパのおでこにのせる。汗もたくさん溢れ出てくる。

「もう!無理しないでって言ったじゃない!」
「いやぁ...早く...直さないと...いけない...から...その...」

パパは昨晩、一睡もせずにタイムマシンの修理作業を行っていたらしい。そのため、熱を出して倒れこんでしまった。

「だからってアナタが体調崩しちゃったらもとも子もないじゃないの!」
「すいません...」

ママは、息子をしつける母親のようにパパを叱る。確かに、タイムマシンを直せる者はパパしかいない。少しでも直せる可能性があって、それにすがり付こうにもパパがこうなってしまっては困る。

「とにかく!今はしっかり休むこと!いいわね?」
「はい...」
「あの~。皆さん大丈夫ですか~?」

後ろから声が聞こえてきた。振り向くと、満君がいた。背中にはリュック、両腕には何か細長いものを脇に挟みながら重い足取りでやって来た。

「ふぅ、重かった」
「満君!来てくれたのね~♪」
「うん。色々持ってきたよ」
「満君、おはよう。悪いわね。こんな朝早くに来てもらっちゃって」
「いえいえ。あの、よかったらこれ使ってください」

満君は両腕に挟んでいた細長いものを見せた。

「何これ?」
「テントだよ」

満君は目の前でテントを組み立て始めた。ポールを差し込み、テントを立たせる。フックをかけ、フロントポールとリアバイザーポールを設置、地面にペグを打ち込む。リッジポールを固定させ、シートをかけ、ロープでシートを固定させたら完成。

ごめんなさいね。相変わらず作者の文章力での解説じゃあ全く理解不能だろうけど、我慢してちょうだいね。どうしようもないもの。

とにかく、満君のテント設営の手つきはなかなかのものだった。

「すごいわね!結構手慣れてるじゃない」
「友達や家族とよくキャンプ行ってたからね」
「わざわざ用意してくれてありがとうね」
「いえいえ」
「ねぇ、もう中入ってもいい?」
「いいよ」

私は入り口を開けて中に飛び込んだ。かなり快適だ。床は地面のゴツゴツを感じさせることなく分厚い。天井はほどよく光を通して明るい。暑くもなく、寒くもない。

「それにしても、この時代のテントって自分で一から組み立てるのね~」

ママが呟く。それは感心しているのだろうか。

「未来のテントってどんな感じなんですか?」

満君が尋ねる。過去の人間だから、未来の技術とかが気になるのはわかるわね。

「握りこぶし程度のコンパクトなものでね。小さなヒモがついてて、それを引っ張ると自動的に膨らんで大きくなるの」

家にあるやつのことだ。我が家はあまりキャンプはしないので、小さい頃に数回ほどしか使ったことがないが。

「でも、この時代のテントだって、組み立ては大変そうだけど、クオリティは私達の時代のものにも負けてないわよ」

そう言って、ママもテントの中に入っていった。

「今日からここで寝る~♪」
「へぇ~、確かに快適ね~」

ママもこのテントが気に入ったみたいね。

「ぼ...僕も...テント...入る...」

あ、パパのことすっかり忘れてたわ(笑)。
ママは満君に手伝ってもらいながら、パパをテントの中まで運び、寝かせる。

「あ、そうだ。これも持ってきたんです。これもぜひ使ってください」

そう言って、満君が次に見せたのは。

「これって...寝袋?」
「うん。キャンプ用のシュラフだよ」
「これもわざわざ用意してくれてたの?ありがとう!」
「夏とはいえ、山の上じゃあ夜も冷えるからね。あとそれから...」

まだあるんかい!!
なんでそんなに私達に尽くしてくれるのかしら?

「あとは食べ物とか飲み物を適当に持ってきました。三人いるのでちょっと足りないかもしれないですけど。もし足りなかったら言ってください。買ってくるので」

え?なにこの子!?ちょっと!めっちゃいい子なんですけど!?昨日会ったばかりで、タイムマシンやらワームホールがどーのこーのぼやかす超怪しい一家にここまでしてくれるの!?

「どうして?どうしてそんなに私達のことを助けてくれるの?」
「どうしてって、助けてほしいって頼まれたし。それに、頼まれたこととかも関係なしに、困ってる人がいたら助けてあげたいと思うのはあたりまえでしょ?だから、こんな僕でも力になれることがあるのなら、協力させてほしいんだ」

私の中の何かが変わった。偏見ではあるが、未来人の中では過去の人間はとても危険な者だという考え方が広く定着している。未来人のことを宇宙人かの如く追い求め、未来の技術や思想を略奪し、社会に全面的に公表して晒し者にするような、そんな野蛮な人間であると。だが、満君は違った。満君だけではないが、満君のように心優しい過去の人間だっている。触れあ合ってみて初めて気づいた。

「満君...あんた、何者...?」
「どうしたの急に...って、真紀?泣いてるの!?」
「満君...ありがとう...」
「愛さんまで!?どうしたの二人とも!!」
「あり...が...とう」

気がつけば、一家揃って涙を流していた。テントの床がシワだらけになってしまうくらいに。満君は困惑していたから知らないんだろう。私達が満君に予想以上に助けてもらい、非常に感謝していることに。私達が涙を流すくらい、満君がしてくれたことはとても素晴らしいことだということに。




「また明日も来るので。ごゆっくり」
「うん。ありがとね、満君」

満君という心優しい人間が暮らすこの街。さぞかし平和なのだろう。私も住んでみたいなぁ...。無理かな?いや...

「それじゃあ」
「あ、待って!」

私はテントに戻って、自分のリュックをあさる。思い立ったらすぐさま行動に移す方がよい。

「あった!」

満君のところへ戻って、それを手渡す。

「はいこれ」
「これ、何?」
「発信器よ。これで満君の居場所をチェックさせてもらうわ」
「いいけど...どうして?」
「え?あ、それは...その...あ、あなたが警察とかに行って私達のことをチクらないように行動を見張るためよ!」

ちょっと言い訳が苦しいか?

「わかった。でも、僕はそんなことするつもりはないからね」

言われなくてもわかっている。満君はそんなことしないって。秘密も守ってくれるいい人だって。

「じゃあまた明日ね」
「またね~♪」

満君は来た道を戻る。タブレット上には満君の進んでいる道が表示されている。この追跡システムはどんな時代でも利用可能だ。

「真紀、発信器なんて持たせてどうするのよ?」

「...ちょっと提案があるんだけど」





私はタブレットで発信器から受け取った信号を頼りに、満君を追いかける。どうせ今日は何もする事もなく、退屈なのだから。

「街の方に出たら気をつけてよね。怪しい行動は慎むのよ。くれぐれも未来人だってバレないように」
「わかってるわよ。じゃあ行ってきます」

森の奥へ走っていく私を、ママは心配そうに見つめていたらしい。


私が満君に発信器を渡したのは、満君の家を特定するためだ。さっきママに話した提案。身勝手で無理な願いではあるが、満君の家に泊めてもらうように頼むこと。満君が家からわざわざ大荷物でこの山を登り、荷物を届けに来てくれるのは助かるが、それを何度も繰り返すのは大変だ。彼を信頼していないわけではないが、食料だって限りがあり、いつまでもつかわからないし、これ以上苦労をかける訳にもいかない。

家に泊めてもらうのも迷惑であり、大変ではあるが、山の中でこそこそして生きるより、街の中で堂々と暮らし、この時代の人間の中でこの時代に適応していくのがよいのではないか。その方が怪しまれることもないだろう。


満君は山道をすいすいと下る。満君、この山登り慣れてるのかしら?私は下るのに一苦労だ。しばらく歩くと、街の景色がよく見えるところまで来た。そこで満君は止まった。

いい景色だ。街全体が見渡せる。このどこかに満君の家があるのだろうか。

「よし」

すると、満君は自分のリュックを芝生の上に置いた。あれ?家に帰らないの?

満君はリュックの中から絵の具が入った入れ物と、スケッチブックと、三脚を取り出した。あのリュック、食べ物の他にあんなの入ってたのね。結構たくさんのものを入れられるらしい。いや、そんなことより、満君はこれから何をするつもりなのかしら?

「...」

三脚にスケッチブックを置き、パレットに絵の具を出し、色を混ぜて筆をスケッチブックにつける。どうやら何か絵を描くつもりらしい。何を描くのか聞いてみようと、私は満君に近づく。

「...」

しかし、私の足は急に止まった。満君の真剣な眼差しを見たからだ。邪魔してはいけない雰囲気を察知し、近くの木の影に腰を下ろして、様子を見る。

しばらく筆を動かす満君。

「あっ」

満君が笑った。きっとうまく色が塗れたのだろう。つられて私も笑う。

「あぁ...」

満君が困った表情をする。眉毛も少し垂れ下がる。思い通りに色が出せなかったのだろう。つられて私も困り顔になる。

色塗りをする満君を眺めていると、私はなんだか安心する。昨日までの責任に押し潰されそうだった暗い感情が、いつの間にかどこかへ消えてしまった。彼の喜怒哀楽...というほどではないが、顔の表情の変化を見るのが楽しい。まるで、可愛い我が子が無邪気に遊んでいる様を、ほほえましく眺める母親になった気分だ。


気がつけば、3時間も経過していた。満君の様子を見ているだけなのに、全く飽きなかった。不思議だ。楽しい時間があっという間に過ぎてしまうあの感じだろうか。

「できた!」

満君が、今まで見せた中で最高の笑顔になった。もういいだろう。私は拍手をしながら近づく。

「すごい集中力ね~」
「あっ、真紀!いつからそこにいたの?」
「リュックからスケッチブックとか出し始めたとこから」
「ならほぼ全部みてたんだね...」
「ねぇ、絵完成したんでしょ?見せてよ!」
「いいけど...はい」

満君はスケッチブックを私に手渡してくれた。どれどれ?...え?すご。うま!うますぎるわよこれ!何これ!?もはやカメラで写真撮ったのと同じくらいのクオリティじゃない?すごいわ。あまりのすごさに語彙力がなくなったわ。あぁ、すごい。

「すごくうまいわね!これ」
「そう?ありがとう...///」

満君は頬を赤く染めて照れる。なんか可愛い。

「満君は写生が趣味なの?」
「趣味ってわけじゃないけど、これは学校の宿題で出されたからやってるんだ」

この時代にも学校ってあるのね。いや、あたりまえか。

「学校?あなた今歳いくつ?」
「17歳。高校二年生だよ」
「そうなの!?私も17歳よ!高校二年生!!」
「未来にも学校ってあるんだね」
「もちろん。いつも寝てばかりいるけど」
「ダメじゃん...(笑)」

二人で芝生の上で大笑いした。
思えば、この時初めて二人っきりで話したことになる。自己紹介の時はママがそばにいて、じっくり話すこともできなかったし。満君との会話もなんだか安心できて楽しい。

「そうだ!この絵、ママ達にも見せてもいい?」
「あ、うん。いいよ」

私はママとパパに絵を見せ、すごいだの何だの騒ぎあった後、一緒に昼食を食べた。満君が朝に持ってきた分が意外と多く、昼食には困らなかった。その後山を下り、満君に街を案内してもらった。初めてこの時代をしっかり見て回った。私のいた時代にはない様々なお店がたくさんあって心が踊った。





僕と真紀はとあるデパートに来た。ここで神野家の分の夕食を買うのだ。

「へぇ~。昔の時代って感じのデパートね」
「何それ...」
「私の時代のデパートはもっとキラキラしててね、窓もたーくさんあって...」
「真紀、そういうことあんまり言ってると未来人だってバレちゃうかもよ」
「おっと危ない。気をつけなくちゃ」

大丈夫だろうか。


「あ~!何この犬~?可愛い♪私の時代のにはない種類ね~」

「こんな服見たことない!この時代ではこういうのが流行ってるの~?」

「この時代のエレベーターって中から外が見えなくてなんか窮屈ね~」

いや真紀!隠す気ある!?さっきから危険な発言しまくってるんですけど!?ていうか、絶対わざと言ってるでしょ?まぁ、周りの人は「何言ってるんだろう...」って感じで怪しんではいないみたいだから助かったけど...。




「ごめんごめん」
「もう...。発言には気をつけてね」

荷物でいっぱいになった買い物袋を手に、僕達はプチクラ山までの道を歩く。

「ねぇ、満君。今日はありがとう。街を案内してくれて。初めて来たけど、すっごくいい街ね」
「そう?ありがとう」

いつの間にか夕方になっていた。色々騒ぎあって楽しかった。楽しい時間はやっぱりあっという間に過ぎ去っていくものだ。今日一日真紀と一緒に過ごしてみて、彼女のことが少しわかったような気がした。よく食べ、よくしゃべり、よく笑う子だ。最初は未来人であることを意識してかなり身構えていたが、馴れ合ってしまえば現代の人間とそんなに変わらない、普通の女の子なのかもしれないな。


山の入り口で、真紀に荷物を渡す。

「じゃあ、また明日」
「うん!今日はありがとう!じゃあね」

真紀は背を向け、両親がいる場所へ戻っていく。夕日に照らされた背中が遠退いていく。

「真紀!」
「ん?何?」

あれ?何してるんだ僕は。特に用は無いのに、声をかけてしまった。その理由は自分でもわからない。でも、もしかしたら...

「満君?」
「あ、ごめん。えっと...デザート買っておいたから。その袋に入ってる。後で食べていいよ」
「ほんとに?ありがとう!じゃあまた明日ね」

この日の最後の笑顔を見届け、僕も帰路に戻った。

僕は寂しがっていたのかもしれない。それでさっき、用も無いのに話しかけたのかもしれない。もっと一緒にいたい。もっと話がしたい。そんな欲望に支配されていたのかもしれない。これは一体どういう現象なのだろうか。

「真紀...」

名前を呟くだけでも安心する彼女の存在に、僕は深い興味を持っていた。



   * * * * * * *



「もぐもぐ、ん~♪プリン美味しい♪あ、このプリンね、満君が買ってくれたのよ。ほんと満君ってすごく優しいわよね~。他にも色々買ってくれたし~」

満と共にデパートで買った夕食を食べ終え、真紀はデザートのプリンをほおばる。

「真紀、さっきから満君の話ばっかり」
「え?」

先ほどから真紀はものを食べながら、「満君は優しい」を何度も繰り返していた。愛はそのことで、気にかかることがあった。

「もしかしてさ...真紀、満君のこと...」
「え?」
「あ、いや、何でもない」
「え~?何よ~」

愛は、頭の中に浮かんだ可能性をすぐさま引っ込めた。



なぜならそれは...未来人にとっては決して越えてはならない一線なのだ。


「それより、満君にはちゃんと言ったの?」
「ほへ?何を?」
「家に泊めてくれってやつ」





「あっ...(笑)」



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