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第一章 暗殺者に手を
13.夜更けに始まる作戦行動
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街を照らしていた灯りが消え、月の光が地上に降り注ぐ頃。
レオとカエデ、そしてゲルラリオの三人はウルカス男爵の屋敷に向けて屋根上を走っていた。
ゲルラリオは言わずもがな、カエデは一族の鍛錬、そしてレオも夜の街を走り回っていた経験があるので、建物の屋根の上を駆けるのは造作もないことだ。
「レオよ、合図はどうする?」
ゲルラリオは斜め後ろを走っているレオに聞く。
「うーん…準備が出来たら俺が≪魔弾≫を空に撃つからそれが合図ってことで」
「ふむ、そうするか」
この作戦はゲルラリオが屋敷にいるであろう男の注意を惹くタイミングが重要となる。だから、いつゲルラリオが囮になりレオとカエデが屋敷に侵入するか示し合わせる必要があった。
「そういえば屋敷に侵入できそうな場所ってあるの?」
丁度隣を走っていたカエデにレオは尋ねる。
「ああ、奴は雇った男の実力を信用してそれ以外の警備はざるだ。仮にあそこの騎士と戦闘になったとしても万が一にも負けることは無い」
「なるほどね。なら大丈夫か」
迷いのないカエデの返答にレオは納得した。
ならばやはり雇っている男を何とかすればこの作戦はこっちのものだ。
「あの趣味の悪いやつが屋敷?」
しばらく走っているとレオの目線の先に趣味の悪い屋敷が見えた。
趣味の悪い、と思ったのは無駄に豪華な噴水や銅像が設置されており、夜なのにもかかわらず屋敷の周囲に煌びやかな照明が灯っているからだ。
「そうだ…相変わらず胸やけがしそうな屋敷だな…」
カエデは眉を顰めて不愉快そうに言う。
「ふむ…ならばあの場所で戦って、戦闘中にあそこのモノが壊れても仕方があるまい?」
ニヤリと笑いながらゲルラリオは言い放つ。あの銅像しかり噴水しかりどれほどの金を使って作られたのか知らないが、戦闘中の事故であるならば仕方がないだろう。
そう、仕方がないのだ。
「はははっ!うんうん、仕方がないよ!」
「ふふっ…確かに仕方がないな」
ゲルラリオの言葉の意図を瞬時に読み取ったレオとカエデは笑いながら同意する。
「っていうか何でカエデたちはこんなことになっちゃったの?」
カエデの母と妹が人質となってしまい、夜の一族も行動不能の状態になってしまったこの状況。何がどうなってこのような事になったのかレオは気になった。
「私たちは安寧の地を求めて旅を続けていたんだが……ある時、謎の男から依頼があった」
目線を前に向けながらカエデは話し始める。
「普段なら素性も分からない奴の依頼など断るんだが、その時金欠でな。恥ずかしい話…男が提示した報酬がかなりの額だったもので了承してしまったんだ」
夜の一族の二十二名が生活するにはそれなりの金が必要だ。だから、丁度金欠の時に報酬が良い依頼が転がり込んできたら多少怪しくても受けてしまうことは考えられることだった。
「まあ…結局それが罠だったんだけどな…後は知っての通りだ。母と妹を人質にされ、私はお前を暗殺しに行った。それだけだ」
話し終えたカエデは後悔の詰まった溜息を吐く。
「依頼を持ち掛けてきた男の正体は分かってないの?」
「ああ、気が付いたらどこかに行っていた。正体は分からずじまいだ」
「なるほどねぇ」
依頼を持ち掛けてきた謎の男。
それに付随して夜の一族を捉えたウルカス男爵。
思ったより闇が深く、面倒な騒動が起きたものだとレオは思った。
「まー…取り敢えず詳しい事は人質を取り返してから話そうか」
屋敷の一番近くの建物の屋根に着地したレオは軽く言い放つ。人質になっているカエデの母と妹を取り返してからではないと、この先の話をしても意味がない。
「じゃあ爺ちゃん少し待ってて」
「うむ。気を付けるのだぞー」
レオは腰に差している短剣に軽く触れながら、先行するカエデの後を追った。
いよいよ作戦開始である。
そして、暗闇の中不愉快なほどに光り輝いている屋敷一帯を見て、レオはげんなりとした気持ちになった。
レオとカエデ、そしてゲルラリオの三人はウルカス男爵の屋敷に向けて屋根上を走っていた。
ゲルラリオは言わずもがな、カエデは一族の鍛錬、そしてレオも夜の街を走り回っていた経験があるので、建物の屋根の上を駆けるのは造作もないことだ。
「レオよ、合図はどうする?」
ゲルラリオは斜め後ろを走っているレオに聞く。
「うーん…準備が出来たら俺が≪魔弾≫を空に撃つからそれが合図ってことで」
「ふむ、そうするか」
この作戦はゲルラリオが屋敷にいるであろう男の注意を惹くタイミングが重要となる。だから、いつゲルラリオが囮になりレオとカエデが屋敷に侵入するか示し合わせる必要があった。
「そういえば屋敷に侵入できそうな場所ってあるの?」
丁度隣を走っていたカエデにレオは尋ねる。
「ああ、奴は雇った男の実力を信用してそれ以外の警備はざるだ。仮にあそこの騎士と戦闘になったとしても万が一にも負けることは無い」
「なるほどね。なら大丈夫か」
迷いのないカエデの返答にレオは納得した。
ならばやはり雇っている男を何とかすればこの作戦はこっちのものだ。
「あの趣味の悪いやつが屋敷?」
しばらく走っているとレオの目線の先に趣味の悪い屋敷が見えた。
趣味の悪い、と思ったのは無駄に豪華な噴水や銅像が設置されており、夜なのにもかかわらず屋敷の周囲に煌びやかな照明が灯っているからだ。
「そうだ…相変わらず胸やけがしそうな屋敷だな…」
カエデは眉を顰めて不愉快そうに言う。
「ふむ…ならばあの場所で戦って、戦闘中にあそこのモノが壊れても仕方があるまい?」
ニヤリと笑いながらゲルラリオは言い放つ。あの銅像しかり噴水しかりどれほどの金を使って作られたのか知らないが、戦闘中の事故であるならば仕方がないだろう。
そう、仕方がないのだ。
「はははっ!うんうん、仕方がないよ!」
「ふふっ…確かに仕方がないな」
ゲルラリオの言葉の意図を瞬時に読み取ったレオとカエデは笑いながら同意する。
「っていうか何でカエデたちはこんなことになっちゃったの?」
カエデの母と妹が人質となってしまい、夜の一族も行動不能の状態になってしまったこの状況。何がどうなってこのような事になったのかレオは気になった。
「私たちは安寧の地を求めて旅を続けていたんだが……ある時、謎の男から依頼があった」
目線を前に向けながらカエデは話し始める。
「普段なら素性も分からない奴の依頼など断るんだが、その時金欠でな。恥ずかしい話…男が提示した報酬がかなりの額だったもので了承してしまったんだ」
夜の一族の二十二名が生活するにはそれなりの金が必要だ。だから、丁度金欠の時に報酬が良い依頼が転がり込んできたら多少怪しくても受けてしまうことは考えられることだった。
「まあ…結局それが罠だったんだけどな…後は知っての通りだ。母と妹を人質にされ、私はお前を暗殺しに行った。それだけだ」
話し終えたカエデは後悔の詰まった溜息を吐く。
「依頼を持ち掛けてきた男の正体は分かってないの?」
「ああ、気が付いたらどこかに行っていた。正体は分からずじまいだ」
「なるほどねぇ」
依頼を持ち掛けてきた謎の男。
それに付随して夜の一族を捉えたウルカス男爵。
思ったより闇が深く、面倒な騒動が起きたものだとレオは思った。
「まー…取り敢えず詳しい事は人質を取り返してから話そうか」
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「じゃあ爺ちゃん少し待ってて」
「うむ。気を付けるのだぞー」
レオは腰に差している短剣に軽く触れながら、先行するカエデの後を追った。
いよいよ作戦開始である。
そして、暗闇の中不愉快なほどに光り輝いている屋敷一帯を見て、レオはげんなりとした気持ちになった。
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