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第一章 暗殺者に手を
11.道中と馬と尻と
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「なるほど…その男をなんとかすれば良いのだな?」
馬を走らせながらゲルラリオはカエデに再び問う。夜の一族の長でも敵わなかった相手が、今向かっている男爵領にいる。たかが男爵程度にそのような戦力を揃えることができるとは到底思えなかったが、カエデいわく本当にいるらしかった。
「はい…お恥ずかしながら私では到底敵わず…」
「ハッハッハッ!見たところレオより少し年上なのだろう?恥じることはないぞ娘よ。お主の成長はこれからだ!」
恥じるように顔を伏せるカエデにゲルラリオは励ましの言葉をかける。女…といって見くびることはないがそれでもまだ若い少女だ。大の男、しかも族長も敵わなかった相手に敵わなくても恥じることはない。
「うんうん多分俺も勝てないし」
レオも同じく頷く。
「…なんだかお前に言われると納得いかないな」
「ええっ⁉︎」
レオが自分より年下だからか、それとも自分が負けたからか分からないが、カエデはなんだが腑に落ちなかった。
「酷いなぁ、でもまだ俺剣術教えてもらって一ヶ月も経ってないから勝てないと思うよ」
「一ヶ月…⁉︎そんなやつに私は負けたのか…」
自分を負かした相手が、実はさほど時間が経っていない素人だということを知ってカエデは愕然とする。
「いや、純粋な近接戦闘だったら流石に勝てないよ。俺が勝てたのは魔法で初見殺ししたに過ぎないからだよ」
レオとて多少のプライドがあるため認めたくはないが、新しく開発した魔法がなければ勝てていなかった。徐々に押されて、ナイフで刺されたか風の刃で頭を飛ばされていただろう。
「それでも負けは負けだ…」
頑固な性格なのか、はたまた清廉潔白な性格なのか分からないがカエデは納得しなかった。
「なにっ⁉︎今新しく開発した魔法と言ったかレオ⁉︎」
「うおっ!急に振り向かないでよ爺ちゃん…」
「それよりも新しく開発した魔法と言ったか⁉︎」
「うん、言ったけど」
ほぼ百八十度に勢いよく振り返ったゲルラリオにレオは驚きながらも頷く。
「何故そんな面白そうな事黙ってたのだ!くそっ!奴を潰したら絶対に儂に見せるんだぞ!」
「あー…分かったよ」
これだから言いたくなかったんだとレオは内心呟いた。まだ一か月も共に生活していないが、毎日の鍛錬によって祖父ゲルラリオの性格がレオには分かってきていたのだ。
少しの面倒くささをレオは感じていると、カエデがこちらをじっと見ているのに気が付いた。
「どうかした?」
「いや…よくその小さい体で馬に乗れるなと思ってな」
現在のレオの体は七歳相応の大きさだ。鐙もないこの世界の乗馬は基本的に力技なので、普通はレオのような七歳の子供が一人で乗れるようなものではない。
「ああ、≪身体強化≫を使ってるからね。流石に素の身体能力だと無理だよ」
「そんなことしてるのか…」
常に≪身体強化≫を発動している。なんてことないように聞こえるが、長時間発動し続けるには細かな魔力操作とかなりの集中力が必要になるのだ。
カエデもある程度の時間は発動し続けることができるが、レオみたいに時間単位では無理だった。
「爺ちゃん後どのくらいで着く?」
屋敷での話し合いの後、数時間眠り、日の出と共に出発した彼らだったが、もう日が真上を通ろうとしている。
「この辺りが丁度半分ぐらいだ。丁度日が沈むころに着くかの」
「了解」
ヴァルフルト侯爵領とウルカス男爵領の距離は比較的近いとはいえ、どれだけ急いでも馬で十二時間かかる。
地球なら一時間程度しかかからないだろうが、車や電車いう移動手段がないこの世界において一番早い移動手段は馬なので仕方がない。
尻を痛めながらも馬を駆けるしかないのだ。
(尻痛いな…)
レオは生暖かい風が顔に吹き付けるのを不愉快に思いながら、前を走る祖父ゲルラリオについていった。
馬を走らせながらゲルラリオはカエデに再び問う。夜の一族の長でも敵わなかった相手が、今向かっている男爵領にいる。たかが男爵程度にそのような戦力を揃えることができるとは到底思えなかったが、カエデいわく本当にいるらしかった。
「はい…お恥ずかしながら私では到底敵わず…」
「ハッハッハッ!見たところレオより少し年上なのだろう?恥じることはないぞ娘よ。お主の成長はこれからだ!」
恥じるように顔を伏せるカエデにゲルラリオは励ましの言葉をかける。女…といって見くびることはないがそれでもまだ若い少女だ。大の男、しかも族長も敵わなかった相手に敵わなくても恥じることはない。
「うんうん多分俺も勝てないし」
レオも同じく頷く。
「…なんだかお前に言われると納得いかないな」
「ええっ⁉︎」
レオが自分より年下だからか、それとも自分が負けたからか分からないが、カエデはなんだが腑に落ちなかった。
「酷いなぁ、でもまだ俺剣術教えてもらって一ヶ月も経ってないから勝てないと思うよ」
「一ヶ月…⁉︎そんなやつに私は負けたのか…」
自分を負かした相手が、実はさほど時間が経っていない素人だということを知ってカエデは愕然とする。
「いや、純粋な近接戦闘だったら流石に勝てないよ。俺が勝てたのは魔法で初見殺ししたに過ぎないからだよ」
レオとて多少のプライドがあるため認めたくはないが、新しく開発した魔法がなければ勝てていなかった。徐々に押されて、ナイフで刺されたか風の刃で頭を飛ばされていただろう。
「それでも負けは負けだ…」
頑固な性格なのか、はたまた清廉潔白な性格なのか分からないがカエデは納得しなかった。
「なにっ⁉︎今新しく開発した魔法と言ったかレオ⁉︎」
「うおっ!急に振り向かないでよ爺ちゃん…」
「それよりも新しく開発した魔法と言ったか⁉︎」
「うん、言ったけど」
ほぼ百八十度に勢いよく振り返ったゲルラリオにレオは驚きながらも頷く。
「何故そんな面白そうな事黙ってたのだ!くそっ!奴を潰したら絶対に儂に見せるんだぞ!」
「あー…分かったよ」
これだから言いたくなかったんだとレオは内心呟いた。まだ一か月も共に生活していないが、毎日の鍛錬によって祖父ゲルラリオの性格がレオには分かってきていたのだ。
少しの面倒くささをレオは感じていると、カエデがこちらをじっと見ているのに気が付いた。
「どうかした?」
「いや…よくその小さい体で馬に乗れるなと思ってな」
現在のレオの体は七歳相応の大きさだ。鐙もないこの世界の乗馬は基本的に力技なので、普通はレオのような七歳の子供が一人で乗れるようなものではない。
「ああ、≪身体強化≫を使ってるからね。流石に素の身体能力だと無理だよ」
「そんなことしてるのか…」
常に≪身体強化≫を発動している。なんてことないように聞こえるが、長時間発動し続けるには細かな魔力操作とかなりの集中力が必要になるのだ。
カエデもある程度の時間は発動し続けることができるが、レオみたいに時間単位では無理だった。
「爺ちゃん後どのくらいで着く?」
屋敷での話し合いの後、数時間眠り、日の出と共に出発した彼らだったが、もう日が真上を通ろうとしている。
「この辺りが丁度半分ぐらいだ。丁度日が沈むころに着くかの」
「了解」
ヴァルフルト侯爵領とウルカス男爵領の距離は比較的近いとはいえ、どれだけ急いでも馬で十二時間かかる。
地球なら一時間程度しかかからないだろうが、車や電車いう移動手段がないこの世界において一番早い移動手段は馬なので仕方がない。
尻を痛めながらも馬を駆けるしかないのだ。
(尻痛いな…)
レオは生暖かい風が顔に吹き付けるのを不愉快に思いながら、前を走る祖父ゲルラリオについていった。
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