転生貴族はハッピーエンド主義者~転生しても凡人だったので、努力して手に入れた力で不幸を打ち砕く~

文月紲

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第一章 暗殺者に手を

9.明かされる真相と笑う少年

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「よいしょっと……どう?中々良い場所じゃない?よく俺はここで街中を眺めてるんだよね」

 街の中心部にそびえ立つ時計台。その屋根にレオと糸で縛った暗殺者は腰を掛けていた。冷えた空気が戦闘で火照った体には気持ちいい。

「だんまりか。じゃあちょっと失礼するよ」

 そう言ってレオは暗殺者のフードを剥いだ。

「わお、黒髪。少年……じゃなくて少女かな?」

 フードの下にあったのは黒曜のような美しい黒髪を顎辺りまで伸ばした美少女だった。しかし、彼女の目は鋭く吊り上がり、拒絶感を出している。

「にしても黒髪か…珍しいね」

 黒髪と言えば前世で良く見慣れていた髪色だ。この世界に来てからというもの黒髪の人を見たことが無かったので、彼女が初めてであった。

「あ、魔法使わない方が良いよ。あれくらいだったら俺に当たらないし」
「……っ!」

 侮辱とも取れるレオの発言に少女は唇をかみしめ更に睨む。見た目的に十歳前後の少女がこんな表情をしても良いのかとレオは疑問に思った。

「で、俺は何で君が殺そうとしてきたか知りたいわけなんだよ。話してくれない?」

 と言って話してくれるなんて都合よくいくわけがない。レオは若干の面倒くささと、身勝手な同情感が体の中で渦巻いているのを感じていた。

「じゃあ俺が勝手に話すよ」

 今までの状況から頭の中で組み立てていく。

「まず君は暗殺者。で、俺に勝てないって思っても引かなかったってことはそれだけの理由があるはずだ」

 この時、レオは少し勘違いをしていた。レオの常識ではどんな命令よりも命を優先させるものだ。しかし、暗殺者の中には、任務を遂行するために自分の命を顧みない者がかなりの確率でいる。

 ただ、この勘違いは結果的に良い方向へ行くことになった。

「それだけの理由とは何だろうか。俺が今思いつくのは……雇い主への恩、俺…いやヴァルフルト侯爵家への極度の恨み、後は…人質を取られてるとか?」

 レオは思いつく限りの理由を挙げていく。その間、レオはコッソリ少女の表情を観察していた。この少女は結構表情に感情が出る。だからどこで反応するか確かめていたのだ。

「お、人質…かな?」

 どうやら当たりを引いたようでレオはニヤリと笑う。

「いや、今更無表情になっても遅いからね?君、表情に出すぎだよ」

 口は開かないが表情がコロコロ変わる少女を見て、レオは何だか気が抜けた。初めは冷たい暗殺者という印象だったが、今ではその印象はなくなっている。

「で、人質を取られているんだね?気が進まないかもしれないけど俺に話してみなよ。何か手助けできるかもしれないし」

 少女の意志で暗殺をしてきたのなら容赦は必要ない。しかし、やむを得ない状況ならばレオは手を貸すことに躊躇いは無かった。



 数分経つが、少女は俯いて黙り続けている。

 そんな彼女を見てレオは一つ溜息を吐いて口を開いた。

「一応侯爵家の息子の暗殺未遂ってことで君、このままだと処刑だよ?正直俺と年が近い君にそんなことしたくないんだけど」

 レオだって可能な限り人を殺すなんてことはしたくないし忌避さえしていた。しかし、彼は侯爵家に名を連ねている。なので、貴族としての行いとして処刑しなければいけなかった。



「私の…私の母と妹が捕まっている…」

 更に数分経った頃、ようやく少女は口を開いた。「母と妹が人質に取られている」、その言葉にレオは不愉快な感情がこみ上げてきたのを覚えた。

「私は古くから続く夜の一族の一員だ……私以外にも二十の仲間がいるが…母と妹が捕まっていて動けない…」

 悔しさからか、心配からか、震える声で少女は話す。「夜の一族」という単語は初耳だが、推測するに隠密や暗殺などを請け負ってきた一族なのだろう。

「なるほどね…その相手の名は?」
「……ウルカス男爵家」
「へぇ?」

 まさか男爵と言えども貴族とは。レオはウルカス男爵家という名に覚えはなかったが、一先ず犯人の正体が分かっただけ良しとしようと思った。

「じゃあさっさと潰しに……」
「――だめっ!」

 正体が分かったことだし早く取り返しに行こうとレオが立ち上がった瞬間、少女は突然叫んだ。

「え?」
「取り返せるなら私たちがとっくにしてる……あそこには…ウルカス男爵家には化け物がいるから無理だ!」

 確かに隠密能力に優れているであろう夜の一族がまともに動けないとなると少女の言葉に納得がいく。恐らくレオでは手も足も出ない相手がいるのだろう。

「なるほど…でも大丈夫だよ」

 しかし、レオは何も心配していなかった。

「何がっ…」
「その化け物って…剣神より強い?」

 そう、現在ヴァルフルト侯爵家には王国最強の剣士がいる。

「剣神より…いや、流石にあの伝説の剣神より強いなんてありえない…」
「じゃあ大丈夫」
「は?」

 レオの大丈夫という言葉に少女は惚けた顔で見上げる。「何を言っているんだこのお坊ちゃんは」とでも言いたげな顔だ。

「だって、今うちに剣神いるし」
「へ?」
「剣神って俺の爺ちゃんなんだよね。で、少し前に家に来て俺に剣術を教えてくてるんだよ」

 未だに呆けた顔をしている少女にレオは意味ありげにニヤリと笑った。

「ま、待って、でも私なんかの為に何で…」

 少女達はただの平民に対してレオ達は上級貴族。別にわざわざリスクを冒してまで助ける必要なんて無いはずだと少女は疑問に思った。

「何でって…まあ、俺の主義の為かな」
「主義…?」

 まだ明けぬ夜にレオは改めて自分の主義を映す。

「ああ。だって俺はハッピーエンド主義者だからね」 

 そう言ってレオは笑った。
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