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5.しがない魔族の発見②

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 濃密な魔力が体に纏わりつく。
 相変わらず気持ち悪い感覚だな……。

 転移先は空中だったので、俺は風系統魔術で落下速度を制御する。
 少女とクソ魔族どもは……いた。
 速度的にクソ魔族どもはもう追いつくはず。
 が、両者の間にはまだ距離がある。
 明らかに甚振っていた。

 十中八九、クソ魔族どもが悪いだろう。
 とはいえ、俺は事情を知らないのですぐに殺すわけにはいかない。
 まずは……四人の魔族を拘束するか。
 
 距離はおよそ百メートル。
 まずは奴らの真上に転移、間髪入れずに拘束だ。

「『転移』」

 完璧。
 魔力反応を極力抑えたので誰も気づいていない。
 続いて拘束する。
 俺が使うのは構築魔術と念動魔術の合わせ技。

「『封鎖牢《チェインジェイル》』」

 魔力によって構築された鎖が、一瞬で四人の身体に巻き付く。
 同時に一か所に引き寄せられ、四人は纏まって拘束された。

「な……なんだ!?」
「何が……」
「え、え?」
「と、とれねぇよぉ!」

 刹那の出来事にクソ魔族どもは喚く。
 聞いていて不愉快な声だが、一応状況を確認しなければいけない。
 俺はクソ魔族どもの正面に降りた。

「おい。どういう状況か教えろ」

 あくまでも強気で、威圧的に。
 魔族に言うことを聞かせるには、圧倒的な武力差を示すのが手っ取り早い。
 文句を言わせる暇なく、俺は魔力を開放する。
 後方でか細い悲鳴が聞こえたが今は気にしない。
 まずは目の前のクソ魔族だ。

「な、なんだよあんた……」

 へぇ……なかなか気概があるな。
 驕りではなく、俺の威圧はかなりのものだ。
 なのにも拘わらず文句を言えるのは、もはや感心すらも覚える。
 だが、今は目の前に集中だ。
 若いとはいえ仮にも魔族。
 油断してはいけない。

「良いから答えろ。お前たちは何をしていた?」

 再び俺は威圧した。
 あ、誰か漏らしたな。
 アンモニア臭がする。
 というか早く答えてくれないだろうか。

「ああそうだ……嘘ついたら殺すからな」
「ひっ……!」

 俺は氷の刃を四人の首元に添える。
 これで嘘をつくことは無いだろう。
 
「言わないのか? なら殺すぞ?」
「い、言います! 言います!」

 氷の刃で首の薄皮を切ると、奴らの一人が必死に口を開いた。

「あの奴隷が逃げ出したんですよ! 飼ってやった恩も忘れて! だから俺達は捕まえて罰を与えようと――――」
「もういい」
「え?」
「不愉快だ」

 ああ、全く不愉快この上ない。
 改めて魔族がクソだという事実を再認識する。
 本当……何でこんな奴らと俺は同じ種族なんだ。
 何度も溜息をついてしまう。
 それで、こいつ等は駄目だな。
 消えた方が良い存在だ。

「いや……あんたも魔族なら分かるだろ!? 魔族はこの世界の支配者なんだよ! 人間なんか俺達の奴隷だ! あいつも奴隷だ!」

 ギャーギャー騒ぎ立てやがって。
 折角の今日という日が台無しだ。

「言いたいことはそれだけか?」
「え……」
「死ね『気流刃《エアブレイド》』」

 風系統魔術の気流刃エアブレイドは、四人の首に絡まって刎ね飛ばす。
 感謝して欲しい。
 痛みを感じる間もなく殺してあげたのだ。
 
「ふぅ……」

 久しぶりに魔族を殺したな。
 魔族とはいえ、気分が良いものではない。
 こいつらの死体は土にでも埋めるか。
 
「あ、あのー……」

 ん?声?
 あ……そういえば忘れてたな。

「大丈夫か」
「はい~。ありがとうなのですよ~」

 ふむ……何だこの生き物は?
 全体的な姿は人間のそれだ。
 だが、身長が三十センチぐらいしかない。
 三頭身か……。
 おまけに背中に羽があって宙に浮いている。
 人間でもないし、魔族でもない。
 妖精族に少し似ているが、違う。

 俺は初めて見る謎の生き物に困惑した。
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