しがない転生魔族のスローライフ~人生に飽きたので暇つぶしに不幸な子供を救うことにした~

文月紲

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1.しがない魔族の溜息

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 俺の名前はゼフィルス、しがない魔族だ。
 今は人里から遠く離れた洞窟の中を歩いている。

 洞窟の最奥には空間転移の魔法陣が敷かれており、転移先はある一つの無人島だ。
 無人島といっても、俺が何十年という年月を要して開拓した楽園である。

 比較的大きな無人島を、魔術という摩訶不思議な技術によって整地し、生態系を整え、自分の好きなようにカスタマイズした。

 もちろん元の世界を忘れないために、温泉や極めて桜に近い木、風情のある滝や京都を彷彿とさせる街並みも作った。

 ああ、そういえば言い忘れていたな。
 俺ことゼフィルスは転生者である。

 前世は日本人で、これまたしがない中小企業に勤めるサラリーマンだった。
 確か……二十半ばの頃に余命宣告されてその通りに死んだんだっけ。
 
 理由は癌だった。

 しかし、診断された時に慌てることは無かった。
 なぜなら俺の家系は癌の人が多いからだ。

 それに、診断される前から何となく自分は癌で死ぬのかなと思っていたし、まあまあ満足な人生だったから後悔はなかった。

 いや、母と妹を残して逝ってしまったのは一つ大きな心残りだな。
 癌で死んだ父親に母と妹を頼まれたのに、結局は俺も死んでしまった。

 母と妹は泣いてくれただろうか。
 泣いてくれたら嬉しい。
 だが、泣かないで気丈に生活して欲しい。

 矛盾する感情だが、まあ人間の心というのはそんなものだろう。
 あ、俺は人間じゃなくて魔族だったな。
 思わず自虐的な笑みが零れてしまう。
 
 浅黒い肌、くすんだ銀髪、真っ赤な目。
 なにより額についている二本の黒い角。
 誰もが一目俺を見たら魔族だと認識する。

 忌み嫌われ恐怖の憎悪の対象である魔族。
 これは前世での人種差別などのような理不尽による扱いではない。
 魔族は数こそ少ないが、基本的に誰もが強大で人間を殺しまくる。
 まあ人間に嫌われて当然だ。
 俺もそこに対して特に意見はない。

 ただ問題なのは、俺まで他の魔族と同じ目で見られるということだ。
 人間に悲鳴を上げて逃げられ、何なら恐怖で気絶され、軍隊を向けられる。
 異世界とはいえ、前世が人間だった俺にとってかなり心にくることだった。

 人間側の気持ちは分かる。
 納得もしている。
 とはいえ、怖がられて憎悪の目を向けられるのは悲しいことだ。
 
 俺も最初から諦めていたわけではない。
 どうにか友好を得られないかと、何十年も試行錯誤した。
 幸いにも魔族の寿命は限りなく長いので、俺には使える時間が沢山あった。
 だが、結果は分かっている通り全て失敗。
 幾度も刃を向けられ、その度に重い溜息をついた。

 おおよそ三百年ぐらいだろうか。
 俺は遂に諦めた。
 
 もう無理だと悟ったのだ。
 心がポッキリと折れて全てが燃え尽きてしまった。
 色々と頑張った結果は散々である。
 
 魔王、首切り魔族、厄災、氷鬼、etc.
 沢山の嬉しくない異名が付いてしまった。

「はぁ……」

 思わずため息をついてしまう。
 凄い憂鬱な気分になってきた。
 というか今日は何でこんなことを、濁流のように思い出すのだろうか。

 ……ああ、久しぶりに人間の街に行ったからだ。
 何年ぶりだっけ?
 まあいいや。
 俺は人間の営みを見て感傷的になったのだろう。
 
 あ、もちろん姿は魔術で変えている。
 でなければ大騒ぎだ。
 そこら辺の配慮は十分にして街に行った。

 街に訪れた理由は大したことではない。
 ずっと一人だと寂しいからだ。
 別にだれかと話さなくてもいい。
 ただ街の日常を彩る一員になりたかった。

 一応昔は他の魔族と仲良くすることも考えた。
 しかし、ものの数年で無理だと悟った。
 なぜなら俺以外の魔族は総じて狂っているからだ。

 いや……魔族からしたら俺の方が狂ってるように見えるのかもしれない。
 魔族は人間を殺すのが普通で、友好を探っていた俺が異端だ。
 
「ははっ」

 こんなことを考えるのは何回目だろうか。
 数えていないが既に千は超えている。
 そしていつも最後はこう思うのだ。

 なんで俺は転生したんだ、と。

 俺を転生させた張本人がいたら殴り飛ばしたい。
 魔術で吹き飛ばすのもありだ。

「何を考えてるんだ俺は……」

 馬鹿なことである。
 この感傷は温泉にでも入って忘れよう。

 俺は魔法陣に魔力を流しながら思った。

「『転移』」

 一言呟くと、俺の視界が切り替わる。
 暗い洞窟から懐かしさを覚える神社へ。
 心なしか空気が澄んでいる。

 趣のある鳥居や小さな本殿。
 狛犬もどきなど。
 日本人であれば心地よく感じる空間だ。
 もちろん全て俺が作った。
 所々の傷や老朽もわざとである。
 
 鳥居をくぐって階段を下ると、目の前が開けた。
 京都風の街並みが眼前に広がっている。
 人は誰もいない。
 美しいが寂しい街だ。
 この街が人で溢れたらどんなに幸せなことか、楽しいことか。

 そう思いながら俺は風の魔術で宙に浮く。
 歩くのも良いが、今は面倒くさい。
 俺は空を飛んで少し遠くに見える城を目指した。

 頬を風が撫で、耳に風音が響く。
 数分で俺は小さな山にある城に着いた。
 城は西洋風ではなく、日本風の城だ。
 特にモデルはない。
 ただ、強いて言えば姫路城だろうか。
 
 因みにこの城を作るのに何か月もかかった。
 俺に城の知識が無かったからだ。
 とはいえ、俺しか住んでいない。
 日本の記憶を持っているの俺だけだ。
 悲しいことだが気にする必要は無かった。

「ただいま」

 広い空間に声が響く。
 返事をしてくれる人はいない。
 誰もいないので「ただいま」という必要はないのだが、前世での癖だった。
 そして静まり返る空間にいつも寂しさを覚える。
 
 退屈で寂しく、酷く味気ない。
 生きている理由すらない。
 自殺も考えたが体が頑丈過ぎて出来ない。

 これが俺の日常だった。
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