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第2章 前世 シャルル視点

17 フェラード王宮にて

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 シャルルの帰還を知り、急遽、シャルルの国葬を取りやめた王太子は、列席予定だった貴族と共に、大広間にいた。広間には輝くばかりに美しく成長した我が息子が立っていた。

「父上、母上、お久しぶりです。国葬が行われるようですが、どなたかお亡くなりですか?」

 シャルルはまさか自分が死んだことになっているとは、気づいていなかった。アレクサンダーが、事前に帰国を知らせているはずだと思っていたのだ。
 誰もがシャルルの顔を見て驚いていたが、国を出るとき5歳だった自分の成長に驚いているのだろう、と呑気に構えていた。
 それが何かおかしい。

「あ、ああ。それは気にするな」
「お、大きくなったわね、シャルル」

 王太子と王太子妃は、顔色を悪くして口ごもっている。まわりに視線を向ければ、皆が皆、目を逸らす。
 一体なんだ? とシャルルは隣にいるアレクサンダーに顔を向けた。
 アレクサンダーはシャルルに頷いてみせ、王太子に近づいた。

「王太子殿。貴国と手を組んでアステリア帝国に攻め入ったゴード王国は、帝国の属国となった。知っているか?」
「存じております」

 王太子の額に汗がにじんでいる。広間にいるものは皆、息を飲んだ。

「フェラード王国もまた帝国の属国にしたいところだが、それはしない。なぜだかわかるか? 将来、シャルルをフェラードの国王にしたいからだ。そのためには、フェラード王家は存続してもらわねばならない」
「はい」
「王太子殿が次の王になるのはかまわない。だが、シャルルが国王になりたいと希望すれば、それがいつであろうと、そうだな、貴殿の即位の一日後であろうと、貴殿は早々に退位してシャルルに王位を譲れ。いいな」
「承知いたしました」

 まるで脅迫するように言い放つアレクサンダーに、シャルルも皆と同様に息を飲んだ。
 だがすぐに、気が付いた。このことを、王族と高位貴族たちに認めさせるため、アレクサンダーはフェラードまでついてきてくれたのだと。

「さあ、話はついた。久しぶりの帰還だ。積もる話もあるだろう。俺のことはいいから、ゆっくり話してこい」

 先ほどと打って変わって、シャルルに優しい目で語るアレクサンダーの態度に、広間にいる者たちは正確に理解した。
 シャルル殿下は、帝国で大切にされているのだな、と。
 帝国の皇太子とお揃いの衣装を身に着けて帰還とは、信じられない高待遇である。
 マントを肩で留めるためのブローチも、無造作につけているが、どれほど高価なものか想像もできない大きさと輝きであった。

 今までシャルルに後ろめたさを感じていた貴族たちが一様にほっとした表情をした。
 王子を人質に出して得た平和の中で生活することに、忸怩たる思いを持っていたのだ。
そしてなにより、王子は国王の失態で処刑されていなかった。

 だが、ほっとすると同時に、皆肝に銘じた。シャルルに敵対するということは、アステリア帝国を敵に回すことなのだと。

 こうして、アレクサンダーの今回の訪問の目的は達成されたのだった。



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