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第2章 前世 シャルル視点

16 国葬

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 数日後、アレクサンダーが護衛を引き連れ、シャルルの離宮にやってきた。慣れた調子でソファに座ると、開口一番にいった。

「シャルル。フェラードに一時帰国できるようにしてやろう。お前も久しぶりにフェラードの空気を吸ってこい」
「僕はここでアレクと一緒にいた方がいい。帰らなくてもいいよ」

 シャルルは興味なさそうに、アレクサンダーの隣に座った。

「そういうと思っていた。俺も一緒に行ってやる。たまには、フェラードの民衆に成長したシャルルの姿を見せなければな」
「え! アレクも一緒に来てくれるの? じゃあ、帰るよ」

 ころっと態度を変えたシャルルに護衛騎士もメイドも笑いをこらえる。

「シャルルならそういうと思っていた。では荷造りが終わり次第、すぐに出発だ。その前に帰国時に着る衣装を作る。そのつもりでいろ」

 衣装と聞いて、シャルルはげんなりする。シャルルは美しい容姿を持っているが、外面を飾ることに興味がない。
 それなのに、アレクサンダーはシャルルを着飾らせることに熱心である。
 また面倒くさい衣装合わせかあ、とシャルルが肩を落とすと、それを見越したようにアレクサンダーはいった。

「今回の衣装は、俺とお前はお揃いにする。俺が黒でお前が白だ。どうだ、少しはやる気がでたか」

 途端にシャルルの目が輝いた。

「アレクとおそろい! すごい、恋人同士のようだ」

(皇太子様は、シャルル様の扱い方をよく心得ていらっしゃる)、と護衛騎士やメイドたちは同じ思いを胸にした。


 ◇◇◇


(一体、王国民はどうしたのだろう?)

 シャルルがフェラード王国に帰って最初の感想はそれだった。

 王都に入ると、沿道に黒い服の民衆が溢れていた。それにしても、雰囲気が暗い。
 辺りを見渡すと、あちこちに掲げられたフェラード国旗が半旗になっていた。だれか、王族が逝去したのだろうか。

 現在、シャルルはアレクサンダーにいわれて王都の入り口付近で待機している。
 しばらくすると、フェラード国旗で包まれた棺とそれを守る近衛騎士一行が現れた。
 一行は、王都のメインストリートを厳かに通り過ぎていく。民衆たちは、次第にすすり泣きを始めた。
 棺が沿道の騎士たちの眼前を通り過ぎるときには、彼らは棺に敬礼し見送っている。
 その様子に見入っていたシャルルに、アレクサンダーが声をかけた。

「さあ、そろそろ我らもいくぞ」
「ああ」

 気を取り直して、葬列の後ろからゆっくりと馬の歩を進める。
 今日、シャルルは、高価な毛皮を贅沢に飾りつけた白いマントを身に着け、アレクサンダーは色違いの黒いマントを身に着けていた。

 白馬に乗り黄金の髪を輝かせるシャルルと、黒馬に乗り黄金の瞳を輝かせるアレクサンダー。二人の美しい青年の姿に、民衆の目はくぎ付けになった。

「おい、あの金髪はフェラード王家の金髪じゃないか? 隣はまさかアステリア皇家の金色の瞳か?」
「ちょっと! シャルル王子殿下と、アレクサンダー皇太子殿下じゃない?」
「間違いない。あれだけの気品はそうそういないぜ。そうじゃなきゃおかしいだろ」
「でも、シャルル様は逝去されたのだろう? さっきの棺はなんなんだ?」

 民衆たちは口々に言い合っていたが、次第に声が大きくなった。

 シャルルの前方を馬で行く騎士が、
「フェラード王国シャルル王子殿下のご帰還!」
「アステリア帝国アレクサンダー皇太子殿下のご来訪!」
 とよく通る声を張り上げた。

 静まり返った民衆の一人が「おかえりなさい! シャルル殿下!」と叫んだのを合図に、それは大きなうねりとなっていった。

「シャルル、手を振ってやれ」
 アレクサンダーにいわれて、シャルルは沿道の民衆に向かい手を上げ、ほほ笑んだ。

 わあーーーーーーっ!

 大きな歓声が上がった。

「シャルル殿下万歳!」
「ようこそ、アレクサンダー殿下!」

 熱狂的な歓迎だった。

 前を行く葬列の最前列にいる騎士団長が、異変を感じて葬列を停止させた。
「団長! シャルル殿下がご帰還されました。民衆は大騒ぎです」
 後ろから馬を走らせてきた近衛騎士が、騎士団長に向かい叫んだ。

「なんだと? 何をいっている。シャルル殿下は棺の中ではないか」
「ですが、私も確認して参りました。間違いなくフェラード王家の金髪碧眼です。アステリア帝国の軍隊に守られているところを重ね合わせると、シャルル王子殿下に間違いありません。そして、隣に帝国のアレクサンダー皇太子殿下が付き添っていらっしゃいます」
「誠か! では、あの頭部は殿下のものではないのか!」

 騎士団長は眼球が飛び出そうになるくらいに、目を見開いた。




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