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第2章 前世 シャルル視点
12 仮面舞踏会1
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今夜は、伯爵家以上の選りすぐられた家のみ招待された、仮面舞踏会の日である。主催者は王族公爵家嫡男で、シャルルはアレクサンダーの妹である、カロリーヌ王女をエスコートしていた。
今日のアレクサンダーからの課題は、スマートに女性をエスコートできるようになること、衆人環視のもとでのダンスに慣れることである。
美しい旋律が流れ、ダンスが始まった。
「ご令嬢、お手を」
シャルルの差し出した手にカロリーヌ王女が手を添えた。
音楽に合わせて軽やかに踊っているように見えるが、シャルルの心はそこにはない。それを見透かしたように、カロリーヌ王女は囁いた。
「あなた、アレクお兄様が気になって仕方がないんでしょう。大丈夫よ。今、一緒に踊っている令嬢にはなんの興味もないから」
「そんなことは気にしていない」
といいながらも、シャルルは先ほどから、チラチラとアレクサンダーが令嬢と踊る様子を盗み見ている。令嬢は仮面で目元を隠していても華やかな美女ということはわかり、アレクサンダーとお似合いである。それがシャルルにはちょっと悲しかった。
そんなシャルルの様子に、カロリーヌは笑った。
「ねえ、あなた、私と結婚しない?」
「え? 僕とご令嬢が結婚? それ、本気でいっているの?」
「もちろん、こんなことを冗談でいわないわ。あなたはアレクお兄様が好きなんでしょう?私と結婚して、後継ぎの王子を2人ほど作ってくれたら、後は好きにしていいわ。お兄様を追いかけて戦場にでもいけばいいのよ」
とんでもないことをいう王女だ、とシャルルはカロリーヌを凝視した。カロリーヌ王女をリードして、クルリとターンする。
「その結婚って、あなたにとって、メリットはあるの?」
「あるわよ? 国王って、必ず側妃や愛妾を持つでしょ? でも、あなたは絶対にそんなものを持たない。そうよね? 王妃の立場を脅かす存在がいないっていうのは、それだけで精神的に楽だわ。そして、あなたは私が愛人を持とうと、気にせず自由にさせてくれる、そうでしょう?」
「まあ、それは確かだ」
というか、結婚などしたくはないのだが、とシャルルは思う。そして、ターン。
「でしょう。私は窮屈な生活が嫌い。いつでも自由にしていたいの。
あなたはアレクお兄様の後ろ盾があるから、国を留守にしていても国王としての地位が脅かされることはない。私の地位も安泰よ。
あなたは、たまに王宮に顔を見せに帰ってきてくれればそれでいいの。ね? あなたにとっても、すごくいい話じゃない?」
「うーむ。そうなのかなあ」
そうな気もするし、そうでない気もする。
「まあ、ゆっくり考えてよ、急がないから。あなただって、どこぞの嫉妬深い王女様をもらうくらいなら、私にしておくのが一番いいって」
「結婚かあ」
「ねえ、国王の重要な仕事の一つは、後継ぎを作ることでしょう。フェラード王国も国王の直系が次の王になるわけだし、あなたも王族として子供を作らないといけないでしょう」
「そうだね」
痛いところを突かれて、シャルルは気が沈む。
「でもね。アステリアの皇帝は違うわ。一番能力があるものが皇帝になるの。
もし、臣下の子供が皇族よりも力があったら、臣下の子供が次期皇帝になることもありえるのよ。
まあ、次期皇帝は昔からアレクお兄様に決定しているから安心だけどね。アレクお兄様は桁外れに有能だから満場一致よ」
「さすがアレクだ」
アレクサンダーを褒められると自分が褒められるより気分がいい。シャルルはつい顔がほころんだ。そんなシャルルを見て、カロリーヌも頬が緩んだ。
「もっと、すごいことを教えてあげる。私たちの父が皇太子から無事に皇帝になれたのは、自身の能力でなれたのではないの。アレクお兄様というずば抜けた皇子を持ったからなのよ。あの人、幼児のころからすでに特別な子だったんだって」
「ええ? それはすごいな」
「ふふ。だから、現皇帝はアレクお兄様を大切にするし、可愛がるのよ。そして、そのアレクお兄様に可愛がられているあなたは、皆に大切にされるってわけ」
「なるほど」
シャルルは近くで踊るレオナルドをちらりと見た。レオナルドはアレクサンダーのすぐ下の皇子で、自分にとても良くしてくれる。
「今の皇族はアレクお兄様のおかげで地位が安泰なの。
皇位が別の血筋にとって変わられたら、最悪みんなまとめて追放だもの。アレクお兄様がいる限り、それは絶対に起きない。
だから、みんなアレクお兄様に感謝しているし、己の立場をわきまえているの。
ね? 自分の価値がわかった? 今、シャルルは自分の娘と結婚させたい、自分が結婚したい独身男のベストスリーに入っているわ」
ケラケラと屈託なく笑う様子は王女らしくない。
ここで、王女の背に腕をまわすと、王女は上半身を美しく仰け反らせてみせた。
白い首のラインが美しい。
その艶やかさに、周りでダンスを眺めていた貴族たちからどよめきが上がる。
「でも、あなたって本当に女性に興味ないのね。私みたいな美女が言い寄っても顔色一つ変えないなんて」
「僕は女性に興味がないんじゃなくて、アレク以外は興味がないんだ」
「はあ。まあそれでいいわよ、私はシャルルのそういうところを気に入っているんだから」
音楽が終わったので、お互い礼をした。
今日のアレクサンダーからの課題は、スマートに女性をエスコートできるようになること、衆人環視のもとでのダンスに慣れることである。
美しい旋律が流れ、ダンスが始まった。
「ご令嬢、お手を」
シャルルの差し出した手にカロリーヌ王女が手を添えた。
音楽に合わせて軽やかに踊っているように見えるが、シャルルの心はそこにはない。それを見透かしたように、カロリーヌ王女は囁いた。
「あなた、アレクお兄様が気になって仕方がないんでしょう。大丈夫よ。今、一緒に踊っている令嬢にはなんの興味もないから」
「そんなことは気にしていない」
といいながらも、シャルルは先ほどから、チラチラとアレクサンダーが令嬢と踊る様子を盗み見ている。令嬢は仮面で目元を隠していても華やかな美女ということはわかり、アレクサンダーとお似合いである。それがシャルルにはちょっと悲しかった。
そんなシャルルの様子に、カロリーヌは笑った。
「ねえ、あなた、私と結婚しない?」
「え? 僕とご令嬢が結婚? それ、本気でいっているの?」
「もちろん、こんなことを冗談でいわないわ。あなたはアレクお兄様が好きなんでしょう?私と結婚して、後継ぎの王子を2人ほど作ってくれたら、後は好きにしていいわ。お兄様を追いかけて戦場にでもいけばいいのよ」
とんでもないことをいう王女だ、とシャルルはカロリーヌを凝視した。カロリーヌ王女をリードして、クルリとターンする。
「その結婚って、あなたにとって、メリットはあるの?」
「あるわよ? 国王って、必ず側妃や愛妾を持つでしょ? でも、あなたは絶対にそんなものを持たない。そうよね? 王妃の立場を脅かす存在がいないっていうのは、それだけで精神的に楽だわ。そして、あなたは私が愛人を持とうと、気にせず自由にさせてくれる、そうでしょう?」
「まあ、それは確かだ」
というか、結婚などしたくはないのだが、とシャルルは思う。そして、ターン。
「でしょう。私は窮屈な生活が嫌い。いつでも自由にしていたいの。
あなたはアレクお兄様の後ろ盾があるから、国を留守にしていても国王としての地位が脅かされることはない。私の地位も安泰よ。
あなたは、たまに王宮に顔を見せに帰ってきてくれればそれでいいの。ね? あなたにとっても、すごくいい話じゃない?」
「うーむ。そうなのかなあ」
そうな気もするし、そうでない気もする。
「まあ、ゆっくり考えてよ、急がないから。あなただって、どこぞの嫉妬深い王女様をもらうくらいなら、私にしておくのが一番いいって」
「結婚かあ」
「ねえ、国王の重要な仕事の一つは、後継ぎを作ることでしょう。フェラード王国も国王の直系が次の王になるわけだし、あなたも王族として子供を作らないといけないでしょう」
「そうだね」
痛いところを突かれて、シャルルは気が沈む。
「でもね。アステリアの皇帝は違うわ。一番能力があるものが皇帝になるの。
もし、臣下の子供が皇族よりも力があったら、臣下の子供が次期皇帝になることもありえるのよ。
まあ、次期皇帝は昔からアレクお兄様に決定しているから安心だけどね。アレクお兄様は桁外れに有能だから満場一致よ」
「さすがアレクだ」
アレクサンダーを褒められると自分が褒められるより気分がいい。シャルルはつい顔がほころんだ。そんなシャルルを見て、カロリーヌも頬が緩んだ。
「もっと、すごいことを教えてあげる。私たちの父が皇太子から無事に皇帝になれたのは、自身の能力でなれたのではないの。アレクお兄様というずば抜けた皇子を持ったからなのよ。あの人、幼児のころからすでに特別な子だったんだって」
「ええ? それはすごいな」
「ふふ。だから、現皇帝はアレクお兄様を大切にするし、可愛がるのよ。そして、そのアレクお兄様に可愛がられているあなたは、皆に大切にされるってわけ」
「なるほど」
シャルルは近くで踊るレオナルドをちらりと見た。レオナルドはアレクサンダーのすぐ下の皇子で、自分にとても良くしてくれる。
「今の皇族はアレクお兄様のおかげで地位が安泰なの。
皇位が別の血筋にとって変わられたら、最悪みんなまとめて追放だもの。アレクお兄様がいる限り、それは絶対に起きない。
だから、みんなアレクお兄様に感謝しているし、己の立場をわきまえているの。
ね? 自分の価値がわかった? 今、シャルルは自分の娘と結婚させたい、自分が結婚したい独身男のベストスリーに入っているわ」
ケラケラと屈託なく笑う様子は王女らしくない。
ここで、王女の背に腕をまわすと、王女は上半身を美しく仰け反らせてみせた。
白い首のラインが美しい。
その艶やかさに、周りでダンスを眺めていた貴族たちからどよめきが上がる。
「でも、あなたって本当に女性に興味ないのね。私みたいな美女が言い寄っても顔色一つ変えないなんて」
「僕は女性に興味がないんじゃなくて、アレク以外は興味がないんだ」
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音楽が終わったので、お互い礼をした。
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