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第2章 前世 シャルル視点
11 白馬の贈り物
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青空の下、騎馬での練習試合が行われている。少し離れた場所で、アレクサンダーと騎士団長が見学をしていた。
「ほう。シャルルは正騎士相手に引けを取らないではないか。ロングソードを上手く使いこなせている」
「あの年ですごいでしょう?あの剣は筋肉をつけないと、重くて簡単には使いこなせません。シャルル殿は日々鍛錬をかかせませんから」
騎士団長はまぶしいものを見るように目を細めた。
そして、「愚直なほどにです」と付け加えた。
始めシャルルは離宮の庭で護衛騎士相手に練習していたのだ。だが、あまりに熱心なため、護衛騎士が騎士団長のところに連れてきた。
騎士団長はまず基礎的な訓練を教えた。基礎体力をつけるための地道な運動も、筋肉をつけるための苦しい運動も、真面目にこなした。その上、剣の素振りも一心にする。それどころか、放っておくといつまででもやり続ける。
はじめは遠巻きにみていた騎士たちも、徐々に一緒に訓練をするようになった。
「皇太子殿下の補佐として戦場に出たい」と目を輝かせてシャルルはいう。
しかし、人質王子のシャルルに、それは叶わぬ夢だということが騎士団長にはわかっていた。わかっていたが、いえなかった。
この純真な少年の夢を壊したくなかったのだ。
目の前で汗を流しながら、手に血を滲ませながら、鍛錬し続けるシャルルをどうしても止める気にはなれない。ならば気が済むまでやらせてやろう。
騎士団長は、騎乗で槍や長剣を振る方法を教えた。盾で防ぐ方法も。いつか、それがシャルルの役に立つことを祈りながら。
「そういえば、皇太子殿下がシャルル殿の後見人になられたという噂があります。本当ですか?」
「ああ、本当だ。俺が後見人になった。ゆくゆくは俺の直属の部隊に入れる予定だ」
「……そうですか。シャルル殿の努力は報われたんですね。努力が報われる事なんて、この年になればないと諦めていました。ですが、報われることがあるんですね」
その声が微かに震えているように聞こえて、アレクサンダーは騎士団長の横顔を見た。
騎士団長は一心にシャルルの戦う様子を見つめている。
ふっと心で笑って、アレクサンダーは前を向いた。
「あ……今、相手の騎士はどうしたのだ? 一瞬呆けて攻撃が遅れたが」
「ああ、あれは」
騎士団長は苦笑いした。
「このような青空を背景にシャルル殿が剣を振り上げると、まるで天から舞い降りてきた御使いのように見えるんです。今日のように風があり、髪がなびいているときは特にその傾向が強いのです。そうなると、相手は一瞬、見惚れて出遅れます」
「それはまた、シャルルならではの技だな」
アレクサンダーは少し考え込んだ。
「そうか、あれに白馬を与えようと思っていたが、戦場では目立ちすぎて、敵の的になるやもしれんな。目立たぬように茶色の馬にすべきなのか」
「皇太子殿下の黒馬と一緒にいたら、どちらにせよ目立つでしょう。隣に添わせるおつもりなのでしょう?」
「そのつもりだ。あと2年して16歳になったら、実践に連れて行こうと思う」
「2年後ですか。あの調子なら、それまでにもっと強くなりますよ」
騎士団長は頷いた。
練習試合が終わったようで、シャルルは馬から降りて小走りに近づいてきた。
騎士団長に礼を取り、アレクサンダーに向かう。
「アレク、来ていたんだ」
「ああ、例の白馬が用意できたので、お前に見せようと思ってな。今から厩舎に行けるか?」
シャルルが騎士団長を見たので、騎士団長は「今日の訓練はここまでだ。行ってきなさい」と頷いた。
護衛騎士に囲まれながら、二人で厩舎までの道をのんびりと歩いた。遠くで馬のいななきや、剣がぶつかり合う音が聞こえる。
「人質になるということは悪いことばかりではないんだ。特にお前のように有能な王子にとってはな」
うん?というようにシャルルがアレクサンダーを見上げた。
「シャルル、俺が必ずお前をフェラードの国王にしてやる。それまで、この国で様々な有力者と交流をして、人脈を作れ。
この国で最先端の学問を修めろ。その為に最高の教師陣をつけてやろう。俺の後見があればそれができる。お前はフェラードの賢王になるだろう」
目を見開いたシャルルにアレクサンダーは前方に見える馬を指さした。
「あれがお前の白馬だ」
「すごい! 僕の馬! 馬なんてもらったのは初めてだ。アレク、ありがとう! 僕は国王よりもアレクの愛人の方がいい!」
白馬に向かって駆けていくシャルルを護衛騎士が追いかけた。
「国王よりも俺の愛人か」、と唸るアレクサンダーだった。
「ほう。シャルルは正騎士相手に引けを取らないではないか。ロングソードを上手く使いこなせている」
「あの年ですごいでしょう?あの剣は筋肉をつけないと、重くて簡単には使いこなせません。シャルル殿は日々鍛錬をかかせませんから」
騎士団長はまぶしいものを見るように目を細めた。
そして、「愚直なほどにです」と付け加えた。
始めシャルルは離宮の庭で護衛騎士相手に練習していたのだ。だが、あまりに熱心なため、護衛騎士が騎士団長のところに連れてきた。
騎士団長はまず基礎的な訓練を教えた。基礎体力をつけるための地道な運動も、筋肉をつけるための苦しい運動も、真面目にこなした。その上、剣の素振りも一心にする。それどころか、放っておくといつまででもやり続ける。
はじめは遠巻きにみていた騎士たちも、徐々に一緒に訓練をするようになった。
「皇太子殿下の補佐として戦場に出たい」と目を輝かせてシャルルはいう。
しかし、人質王子のシャルルに、それは叶わぬ夢だということが騎士団長にはわかっていた。わかっていたが、いえなかった。
この純真な少年の夢を壊したくなかったのだ。
目の前で汗を流しながら、手に血を滲ませながら、鍛錬し続けるシャルルをどうしても止める気にはなれない。ならば気が済むまでやらせてやろう。
騎士団長は、騎乗で槍や長剣を振る方法を教えた。盾で防ぐ方法も。いつか、それがシャルルの役に立つことを祈りながら。
「そういえば、皇太子殿下がシャルル殿の後見人になられたという噂があります。本当ですか?」
「ああ、本当だ。俺が後見人になった。ゆくゆくは俺の直属の部隊に入れる予定だ」
「……そうですか。シャルル殿の努力は報われたんですね。努力が報われる事なんて、この年になればないと諦めていました。ですが、報われることがあるんですね」
その声が微かに震えているように聞こえて、アレクサンダーは騎士団長の横顔を見た。
騎士団長は一心にシャルルの戦う様子を見つめている。
ふっと心で笑って、アレクサンダーは前を向いた。
「あ……今、相手の騎士はどうしたのだ? 一瞬呆けて攻撃が遅れたが」
「ああ、あれは」
騎士団長は苦笑いした。
「このような青空を背景にシャルル殿が剣を振り上げると、まるで天から舞い降りてきた御使いのように見えるんです。今日のように風があり、髪がなびいているときは特にその傾向が強いのです。そうなると、相手は一瞬、見惚れて出遅れます」
「それはまた、シャルルならではの技だな」
アレクサンダーは少し考え込んだ。
「そうか、あれに白馬を与えようと思っていたが、戦場では目立ちすぎて、敵の的になるやもしれんな。目立たぬように茶色の馬にすべきなのか」
「皇太子殿下の黒馬と一緒にいたら、どちらにせよ目立つでしょう。隣に添わせるおつもりなのでしょう?」
「そのつもりだ。あと2年して16歳になったら、実践に連れて行こうと思う」
「2年後ですか。あの調子なら、それまでにもっと強くなりますよ」
騎士団長は頷いた。
練習試合が終わったようで、シャルルは馬から降りて小走りに近づいてきた。
騎士団長に礼を取り、アレクサンダーに向かう。
「アレク、来ていたんだ」
「ああ、例の白馬が用意できたので、お前に見せようと思ってな。今から厩舎に行けるか?」
シャルルが騎士団長を見たので、騎士団長は「今日の訓練はここまでだ。行ってきなさい」と頷いた。
護衛騎士に囲まれながら、二人で厩舎までの道をのんびりと歩いた。遠くで馬のいななきや、剣がぶつかり合う音が聞こえる。
「人質になるということは悪いことばかりではないんだ。特にお前のように有能な王子にとってはな」
うん?というようにシャルルがアレクサンダーを見上げた。
「シャルル、俺が必ずお前をフェラードの国王にしてやる。それまで、この国で様々な有力者と交流をして、人脈を作れ。
この国で最先端の学問を修めろ。その為に最高の教師陣をつけてやろう。俺の後見があればそれができる。お前はフェラードの賢王になるだろう」
目を見開いたシャルルにアレクサンダーは前方に見える馬を指さした。
「あれがお前の白馬だ」
「すごい! 僕の馬! 馬なんてもらったのは初めてだ。アレク、ありがとう! 僕は国王よりもアレクの愛人の方がいい!」
白馬に向かって駆けていくシャルルを護衛騎士が追いかけた。
「国王よりも俺の愛人か」、と唸るアレクサンダーだった。
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