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第2章 前世 シャルル視点

8 報奨としての黄金

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両側から伸びてきた近衛兵の手によって、シャルルは上着とシャツを脱がされた。
1人がシャルルにはめられた手枷を踏みつけ床に固定した。

皇帝が玉座の上で、身を乗り出した。ミンス伯爵の小さな目が期待でぎらついている。

振り上げられた剣が恐ろしくて、シャルルはぎゅっと目を閉じた。


「お待ちください!」

両開きの扉が乱暴に開いて、アレクサンダーの大声がした。どこから走ってきたのか、呼吸が荒い。
大股で歩きながら、アレクサンダーは素早くシャルルに目を走らせた。

わずかに見開いた金色の瞳と目があって、感情を失っていたシャルルの碧い瞳に涙が滲んだ。自分の惨めな姿を恥ずかしくも思ったが、今は喜びの方が大きかった。

「無事だったか」とつぶやいて、アレクサンダーは安堵したように両目を閉じ、ため息をついた。
続いて、皇帝の隣で、レオナルドも安堵のため息をついて少しよろけた。


「おお! アレクサンダー! 帰ったか! 待ちかねたぞ!」

皇帝が立ち上がり、満面の笑みを浮かべ両腕を前に広げた。アレクサンダーはきびきびとした動作で玉座の前まできて、跪いた。

「ただいま、戦場から帰還しました。この度の勝利を、偉大なるアステリア帝国の皇帝陛下に捧げ……」

アレクサンダーの良く通る声を、興奮した皇帝の声が遮った。

「おお、おお! 挨拶などよい。今回の遠征、大国相手によくやった! 2~3年はかかると思ったが、1年もしないうちに打ち破るとはな! 我が軍の損害も最小限だったそうではないか。巷ではお前は軍神ではないかとの噂が広がっておるぞ。私も鼻が高いわ」
「ありがたきお言葉です」
「褒美をやろう。お前はいつも褒美を辞退するが、今回は辞退はさせんぞ。黄金がよいか? 領地か? 城か? 国一番の美姫か? なんでもいうがいいぞ」

「では、黄金の王子を」

そういって、アレクサンダーは振り返りシャルルを見た。
シャルルの胸がドクンと鳴った。
シャルルはいまだ、両側から近衛兵に抑えつけられたままだったが、自分に向けられる金色の瞳に、泣きたくなるほどの愛情を見た。

「シャルル。お前は祖国フェラードに剣を向けることはできるか? 将来、俺がフェラードとの戦いに赴くとき帝国の旗下で戦うことはできるか?」
「アレクサンダー皇太子殿下の旗下ならできます」

声の震えを極力抑えてシャルルは答えた。
アレクサンダーは頷き、自身のマントを外してシャルルの肩からかけた。

「陛下。わたしが欲しいのはここにいる黄金の王子です。シャルルを私に賜りたく。彼は私を勝利に導く黄金の天使なのです」
「ほう。黄金は黄金でも、金貨ではなく金色の王子を所望するか。なるほど、フェラードを自国の王子に討伐させるというわけだな。それは一興。奴隷にするより、おもしろい趣向ではないか」

皇帝が喜色満面で高笑いした。ミンス伯爵が落胆したように肩を落とした。
貴族たちの大部分がほっとした様子で、緊張に固まっていた身体を動かした。

「シャルル王子よ。お前はアレクサンダーに忠誠を誓えるか?」

探るような眼を皇帝はシャルルに向けた。シャルルはその目を受け止め、アレクサンダーに視線を移した。
シャルルの大好きな金色の瞳が真剣な眼差しで見つめていた。

「私シャルル・フェルディ・ルイ・フェラードはアレクサンダー皇太子殿下に生涯の忠誠を誓います」

シャルルの宣言に、アレクサンダーが満足気に頷き、皇帝が両手で膝を叩いた。

「よし、よくいった。アレクサンダーよ。フェラードの王子はお前に下賜する。好きにするがよい。近衛、王子の手枷を外せ」
「はっ」

「立てるか?」とアレクサンダーはいいながら手を差し出したので、シャルルは手枷を外された手で、その手を掴み立ち上がった。

「では、シャルル王子は今この場で貰い受けます。それでは御前失礼いたします」
「遠征から帰還したばかりだ。身体を休めるがよい」

シャルルはアレクサンダーに肩を抱かれるようにして、謁見の間を退去した。

シャルルの肩を抱くアレクサンダーの腕の重さと温もりが、凍った心を融かしてくれた。

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