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第2章 前世 シャルル視点
7 祖国の裏切り
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それは突然の出来事だった。
シャルルが本を読んでいると、部屋の外で騒がしい声がした。扉が乱暴に開かれ、数人の衛兵が乱入した。
「シャルル様。手枷をつけますので、両手を前にお願いします」
「手枷? 私が何をしたというのだ?」
「シャルル様の祖国フェラードが帝国に反旗を翻しました。よって、人質のシャルル様の処遇は今から謁見の間で決められます」
シャルルは全身が凍りつくような感覚を覚え身震いした。
「フェラードが帝国に挙兵したのか? なぜそんな無謀なことを」
「さあ、それは私どもにはわかりかねます。皇太子殿下が大軍を率いて帝国を不在にしている今なら、帝国に勝てるとでも思いあがったのかもしれませんね」
衛兵が苦笑した。
ソフィアが走り寄ってくるのが目の端に見えた。
「それで、処遇とは?シャルル様はどうなるのですか?」
ソフィアが衛兵にすがりついた。
「聞いたところでは、首を切り落とし、フェラードに送る予定だとか」
衛兵が穏やかな声で淀みなくいった。にこやかですらある。
シャルルは叫び出したい衝動を必死で堪えた。
「両腕を肩から切り落として、腕だけフェラードに送るという案も出ています。ああ、大丈夫です。腕を切り落としたくらいで人間は死にませんよ。シャルル様本人は奴隷印を押して奴隷商に売られるとのことですが、どちらを選ぶか皇帝陛下次第でしょう」
ソフィアは衝撃のあまり、絶句してそのまましゃがみこんだ。
お祖父様や、父上母上が私を見捨てたんだ。
もう人質の役目にすら、なっていなかったんだ。
とっくの昔に切り捨てられているとわかっていたはずなのに、こうも明確に突きつけられると衝撃で目の前が真っ暗になった。
シャルルは手枷をはめられ、衛兵に囲まれて謁見の間に連れていかれた。
謁見の間に着くと、貴族たちが立ち並ぶ中、皇帝の前に突き出された。
「跪かせろ」
「はっ」
近衛兵が両側からシャルルの肩を力まかせに押さえ、跪かせた。
ひとりが覆いかぶさるようにして、頭を下げさせそのまま頭を押さえた。
「フェラード王国シャルル王子よ。フェラードが我が国にかみついたぞ。
帝国を裏切ったからには人質に命はない。それが人質の役割だからな。それを承知の上でのフェラードの裏切りだ。お前は祖国に切り捨てられたのだ」
頭を下げたまま聞いていた皇帝の声が、そこから優しいものに変わった。
それが不気味だった。
「首を切り落として、塩漬けにしてフェラードに送り返せ、という案が出ている。
一方で頭の代わりに、両腕を切り落として腕をフェラードに送り、お前は顔に奴隷印を押して奴隷商に売り飛ばそうか、という案もある。それも一興だな」
皇帝はそこで一端話すのを止め、横に立っている第2皇子レオナルドに顔を向けた。
「レオナルドはどう思うか。どちらがよいと思うか。思うところをいってみよ」
「わ、私は……」
「レオナルドよ。お前、顔色が悪いぞ。今にも倒れそうじゃないか」
皇帝はふふふと笑い、謁見の間全体をゆっくりと見まわした。
「誰か、よい案を持つものおらぬか。遠慮なく申すがよい」
「恐れながら」といいつつ。ミンス伯爵が列の前に出た。
ミンス伯爵家は裏で特殊奴隷商を所有している、ともっぱらの噂だった。そのミンス伯爵が、舌なめずりでもしそうなニヤニヤした顔でいった。
「王子殿下の類まれなる美貌は、殺すには惜しいかと。美少年を好むものは大勢おります。高く値をつけてみせますぞ。是非、私に奴隷としてお引き渡しいただきたく」
「ふふん。お前が商売にする気だな。宰相はどう思うか」
問われた宰相は髭を触りながら、首をひねった。
「ここは首を切って差し上げるのが、慈悲だと思われます」
「いえいえ、宰相殿。裏切った国の王子に慈悲など不要なもの。哀れな王子の末路をフェラードに知らせ後悔させてやりましょう」
「そう思うか。よし、近衛兵。ここで、王子の両腕を肩から切り落とせ。あとはミンス伯爵に引き渡し、腕はフェラードに送り返すことにする」
両側にいた近衛兵のひとりが剣に手をかけた。近くにいた近衛兵が布を持ってやってきた。
あたりがシンと静まった。
(アレク助けて…… アレク)
シャルルはそこにいないアレクサンダーの名を心の中で呼び続けた。
シャルルが本を読んでいると、部屋の外で騒がしい声がした。扉が乱暴に開かれ、数人の衛兵が乱入した。
「シャルル様。手枷をつけますので、両手を前にお願いします」
「手枷? 私が何をしたというのだ?」
「シャルル様の祖国フェラードが帝国に反旗を翻しました。よって、人質のシャルル様の処遇は今から謁見の間で決められます」
シャルルは全身が凍りつくような感覚を覚え身震いした。
「フェラードが帝国に挙兵したのか? なぜそんな無謀なことを」
「さあ、それは私どもにはわかりかねます。皇太子殿下が大軍を率いて帝国を不在にしている今なら、帝国に勝てるとでも思いあがったのかもしれませんね」
衛兵が苦笑した。
ソフィアが走り寄ってくるのが目の端に見えた。
「それで、処遇とは?シャルル様はどうなるのですか?」
ソフィアが衛兵にすがりついた。
「聞いたところでは、首を切り落とし、フェラードに送る予定だとか」
衛兵が穏やかな声で淀みなくいった。にこやかですらある。
シャルルは叫び出したい衝動を必死で堪えた。
「両腕を肩から切り落として、腕だけフェラードに送るという案も出ています。ああ、大丈夫です。腕を切り落としたくらいで人間は死にませんよ。シャルル様本人は奴隷印を押して奴隷商に売られるとのことですが、どちらを選ぶか皇帝陛下次第でしょう」
ソフィアは衝撃のあまり、絶句してそのまましゃがみこんだ。
お祖父様や、父上母上が私を見捨てたんだ。
もう人質の役目にすら、なっていなかったんだ。
とっくの昔に切り捨てられているとわかっていたはずなのに、こうも明確に突きつけられると衝撃で目の前が真っ暗になった。
シャルルは手枷をはめられ、衛兵に囲まれて謁見の間に連れていかれた。
謁見の間に着くと、貴族たちが立ち並ぶ中、皇帝の前に突き出された。
「跪かせろ」
「はっ」
近衛兵が両側からシャルルの肩を力まかせに押さえ、跪かせた。
ひとりが覆いかぶさるようにして、頭を下げさせそのまま頭を押さえた。
「フェラード王国シャルル王子よ。フェラードが我が国にかみついたぞ。
帝国を裏切ったからには人質に命はない。それが人質の役割だからな。それを承知の上でのフェラードの裏切りだ。お前は祖国に切り捨てられたのだ」
頭を下げたまま聞いていた皇帝の声が、そこから優しいものに変わった。
それが不気味だった。
「首を切り落として、塩漬けにしてフェラードに送り返せ、という案が出ている。
一方で頭の代わりに、両腕を切り落として腕をフェラードに送り、お前は顔に奴隷印を押して奴隷商に売り飛ばそうか、という案もある。それも一興だな」
皇帝はそこで一端話すのを止め、横に立っている第2皇子レオナルドに顔を向けた。
「レオナルドはどう思うか。どちらがよいと思うか。思うところをいってみよ」
「わ、私は……」
「レオナルドよ。お前、顔色が悪いぞ。今にも倒れそうじゃないか」
皇帝はふふふと笑い、謁見の間全体をゆっくりと見まわした。
「誰か、よい案を持つものおらぬか。遠慮なく申すがよい」
「恐れながら」といいつつ。ミンス伯爵が列の前に出た。
ミンス伯爵家は裏で特殊奴隷商を所有している、ともっぱらの噂だった。そのミンス伯爵が、舌なめずりでもしそうなニヤニヤした顔でいった。
「王子殿下の類まれなる美貌は、殺すには惜しいかと。美少年を好むものは大勢おります。高く値をつけてみせますぞ。是非、私に奴隷としてお引き渡しいただきたく」
「ふふん。お前が商売にする気だな。宰相はどう思うか」
問われた宰相は髭を触りながら、首をひねった。
「ここは首を切って差し上げるのが、慈悲だと思われます」
「いえいえ、宰相殿。裏切った国の王子に慈悲など不要なもの。哀れな王子の末路をフェラードに知らせ後悔させてやりましょう」
「そう思うか。よし、近衛兵。ここで、王子の両腕を肩から切り落とせ。あとはミンス伯爵に引き渡し、腕はフェラードに送り返すことにする」
両側にいた近衛兵のひとりが剣に手をかけた。近くにいた近衛兵が布を持ってやってきた。
あたりがシンと静まった。
(アレク助けて…… アレク)
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