【完結】あなたが欲しい~前世を思い出したのは、最愛の王太子に処刑の危機迫る時だった

ノエル

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第2章 前世 シャルル視点

5 兵士たちからの加害 ※微 

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ある日、庭で素振りをしていると、仕事が終わった夜警の兵士たちの会話が聞こえてきた。

「王子っていっても、人質だろ? それに、こんなところで忘れられた王子じゃねぇか」

「でもなあ」

「王族に触れるなんて機会、これを逃したらもうねぇぞ。あんな綺麗な子供、平民には、いやあ貴族の子供にもいねぇ。あんな綺麗なのは王族だけなんだよ。王族だぞ?さわりてぇなあ」

「おい、まだ10歳だぞ。変な気起こすなよ」

「変な気なんざ起こさねえさ。ちょっとばかし、みんなで遊んでやるだけだ。お前だって、ちょっと触ってみたいと思うだろう?」

「まあ、それは否定できんな」


後はごしょごしょという声だけで聞こえなかった。シャルルは身震いした。なにかねっとりした不潔なものがまとわりついてくるような不快さだった。

今日はもうやめようと、宮に戻りかけた時だった。

練習用の模造剣をしまおうと、物置小屋の扉を開けた時、横から手が伸びて羽交い絞めにされ、物置小屋の背後まで引きずられた。

今まで、シャルルの身体を触れたことがあるのは、両親と乳母、マリアンとそしてアレクサンダーだけだった。

王族の身体は許可なく触れてはいけないのだ。許可なく触れれば、処罰の対象になることは周知の事実だった。

それが、今、無遠慮に後ろから羽交い絞めにされていることに、シャルルはパニックを起こしそうになっていた。
 

「おい。お前は口を押さえろ」 

「まかせとけ」


二人目の兵士がシャルルは口をふさいだ。暴れたが相手は鍛えられて兵士で、びくともしない。
何をされるのかわからない恐怖で目の前が真っ黒になった。


「ご心配いりません、王子様。みんなでちょっと遊ぶだけです」


前に立っていた三人目の兵士がシャルルのシャツのボタンを外していった。


「うん? これはなんだ?」


兵士はシャルルの首からぶら下げられていた、布袋を手に取った。
シャルルの身体が硬直した。

兵士はにやりと笑い、「へえ、王子様がこんなに大切にしている物ってなんでしょうねえ」といって袋を取り上げた。
 

もごもご

シャルルは精いっぱい暴れたが、抑えつける兵士の力が増しただけで、どうすることもできなかった。


「やけに軽いな。何が入ってんだ? うん? なんだこれ?」

袋を逆さに振ってでてきたのは、糸でしばった黒い髪の房だった。
  

「なんだ。髪の毛か。ちぇっ、こんなもの大層に」 


シャルルの頭に血が昇った。それは、シャルル以外の誰も触れてはいけないものなのだ。

ぎゃはは、と笑って、兵士は髪の毛を踏み潰した。


無我夢中でシャルルは口を塞ぐ手を噛んだ。口の中に兵士の血の味が滲んだ。シャルルはそれを吐き出した。


「痛え! このやろう!」


切れた兵士が殴ろうとしたが、シャルルの異様な殺気に飲まれて踏みとどまった。


「アレクの髪! それはアレクの髪だ! お前、今、皇太子殿下の髪を踏んだな!」

「え?え? 何ていった? 皇太子殿下? アレクって、もしや」

「そうだ! アレクとはアレクサンダー皇太子のことだ! お前、皇太子の髪を踏んだな! その足で!」


シャルルを拘束していた兵士が驚愕の表情を浮かべた。


「ちょっ、ヤバイぞっ。それはヤバイぞ。黒髪なんて、そうそういねえぞ。それはこの王子様のいうとおり、皇太子殿下の髪なんじゃねぇのか」

「た、確かにな。確かに、これは皇太子殿下の髪だろう。それで、ばれたら俺はどうなる?」

「皇太子殿下の髪を踏んづけたんだ。ばれたら、お前、足を切り落とされるぞ!」

「まじか! だよな! そうなるよな! だけど、お前たちも一蓮托生だぞ」

「俺らも、連座かよ!」

兵士の拘束が緩み、シャルルは四つ這いで這っていって、アレクサンダーの髪を拾った。
その髪を頬に押し付け目を潤ませているシャルルを見下ろし、兵士の一人がいった。

「俺ら、逃げちまった方がよくねえか?」

「おう、それに思うんだけどよ。皇太子殿下から髪をもらうなんてよほどだぞ? この王子様に皇太子殿下の後ろ盾があるとは想定外だ。ばれたら殺されるぞ。あの殿下は半端じゃねぇからな」

「おう、逃げようぜ!」

あっという間に3人の兵士は逃げていった。
 

アレクの髪の毛が僕を助けてくれた。
アレクの髪の毛があの嫌な兵士たちを追い払ってくれた。
アレクはいつだって、僕を助けてくれるんだ。


シャルルが泣きながら歩いていると、日中勤務の警備兵がやってきたところだった。兵士たちは乱れたシャルルの姿を見て顔色を変えて走り寄った。

シャルルが途切れ途切れに事情を話すと、一人が騎士団本部に連絡に行き、もう一人が侍女のソフィアを呼びにいった。

ソフィアは洗面器に水を張ってくれたので、シャルルは丁寧にアレクの髪を洗った。
アレクサンダーの髪を触っていいのはシャルルだけなのだから。

あんな男に髪を踏ませたことがアレクサンダーに申し訳なく、そして、シャルル自身も悔しかった。自分の最も大切なものを文字通り土足で踏みつけたのだ。
その夜、シャルルは洗ったアレクサンダーの髪の毛を握りしめて眠りについた。



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