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第2章 前世 シャルル視点

4 寂しい人質王子

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アレクサンダーが戦場に行って半年が過ぎた。
シャルルを取り巻く状況も徐々に変化していった。


マリアンは子供ができたため侍女をやめた。代わりにソフィアという名の男爵令嬢がシャルルの侍女になった。
ソフィアは穏やかで優しい女性だったが、マリアンほどには懐けなかった。

レオナルドも王族の勉強が忙しくなって、徐々に会う回数が減ってきた。
今ではほとんど会うことはない。

次は家庭教師が来なくなった。
  

「自分がお教えできるのはここまでです。シャルル様の上達が早いので、あっという間に初級中級は終わってしまいましたね。上級ランクの家庭教師が来ますので、お待ちください」


そう言って、家庭教師は去っていったが、新しい家庭教師が来ることはなかった。

警備を担当する兵士たちも目に見えて質が低下した。昼の警備担当の兵士たちは真面目だったが、夜の警備担当の兵士たちは柄が悪く勤務態度も不真面目だった。

中にはシャルルを見て、舌なめずりをするような兵士さえいた。


「フェラードは、今の王太子が国王になったら、息子の王子のうち第2王子の方を次期王太子にするらしいな」

「え? 今の王太子の息子はここの王子1人だけだろう」

「それが、ここの王子を人質に差し出した後、すぐに次を作ったらしいぜ。今では王女と王子がいるらしい」

「ひゃー。それは薄情だな。第1王子を人質に差しだしたおかげで、自分たちは平和に暮らせてんのにな。第1王子を差し置いて、第2王子が次期王太子かよ」

「冷てえ親だな」

「まったくだ」


聞こえよがしに交わされる兵士たちの会話を聞いて、シャルルの胸がドクンとした。
自分の下に王子と王女が産まれていることを、シャルルは知らなかった。そんな話は聞いてない。

父上も母上も、僕のことはもう忘れたのかな。
いや、覚えてはいるだろうけど、もう僕は帰ってこなくていいんだろうな。

国を出るときに抱きしめ泣いてくれた、父と母の腕のぬくもりを思い出した。
しかし、その腕はもう弟妹を抱いているのだ。あの日はもう戻らない。
僕のために泣いてくれる日は来ないだろう。

マリアンも子供が産まれてシャルルの前からいなくなった。
マリアンに大切なものができたからだ。

父上も母上も、マリアンも僕より大切なものができたから、忘れられても仕方ないんだ。

シャルルの目が潤んで、やがて涙がぽとりと落ちた。

アレク! アレク! 早く、帰ってきて。僕は寂しい……

シャルルはアレクサンダーの黒い髪にほおずりして涙を流した。


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