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第2章 前世 シャルル視点

3 帝国で金色は神の色

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カシャーン カシャーン

剣を打ち合う音が夕暮れ時の空に響いていた。

「シャルル様、冷たいお茶を用意しました。そろそろ終わりの時間です」

マリアンが固く絞ったタオルをシャルルとイザークに渡した。
あれ以来、イザークは毎日夕方勤務上がりに顔をだしてくれる。

そのうち、シャルルに子供用の剣を渡し「少し練習しましょう」と、剣の初歩を教えてくれるようになった。毎日、夕食をマリアンととっているようだ。

休みの日、イザークは小さな花束とお菓子を持って訪れる。お菓子はシャルルに、花束はマリアンに。

シャルルは子供ながらに、勘づいていた。この二人はお互い好き同士なんだなと。
自分もアレクとそうなれればいいのに。シャルルは、アレクが恋しくてたまらなかった。
アレクはあれから10日に一度くらいの頻度で宮にやってきてくれる。

「勉強は進んでいるか?今、どんな本を読んでいるのだ?」

「アステリア神話だよ。とてもおもしろいんだ。アステリアの神様はアレクと同じ金色の目だって!」

「アステリア神話か。俺もよく読まされた。金色は神の色で、この国では最も高貴な色とされている。シャルルの髪の色も金色だ」

「アレクとおそろい!」

「そうだな。俺の目とシャルルの髪はおそろいだ」


アレクサンダーはシャルルの金色の頭をかき混ぜた。


「アレクとおそろい! アレクとおそろい!」


うれしくなって、シャルルはソファの上をお尻で跳ねた。この髪はマリアンに頼んで手入れをしてもらわねば、と決心するシャルルだった。


2年後、イザークとマリアンは結婚した。マリアンは3年後にフェラードに帰る予定だったが、もうフェラードには帰らないといった。
なぜなら、マリアンはアステリア人になったのだから。

マリアンがずっといてくれるのはうれしかったが、シャルルの周りからフェラードがすべて消えたのは寂しかった。シャルルの中に残るのは、優しかった父と母の思い出だけになった。
結婚式の日の夜、シャルルは1人で少し泣いた。
 

◇◇◇


シャルルが9歳になったとき、アレクサンダーが初陣に出ることになった。


鍛錬や戦略の勉強で多忙になったアレクサンダーは、シャルルに会いに来ることができなくなり、その代わりとして、2つ下の弟を引き合わせてくれた。


「2つ下の弟のレオナルドだ。シャルルの2つ上になるな。俺がいない間、シャルルを頼む。一緒に勉強をするといい」

「はい。兄上。あなたが、シャルル王子? よろしくね。レオと呼んで」

「僕はシャルル。レオだね。こちらこそよろしくね」

レオナルドはアレクと正反対で、線の細い勉強家といったタイプの少年だった。
焦げ茶色の髪に茶色の瞳で、容姿もおとなしい性格も王妃様に似ているらしい。シャルルは王妃様に会ったことがなかったので、本当のところはわからない。


出陣するアレクサンダーをシャルルは見送った。
鎧をつけて馬上の人となったアレクサンダーはかっこよくてドキドキした。


「アレク、無事で帰ってきてね」

「もちろんだ。お前に勝利を捧げよう」


アレクサンダーは「幸運のお守りにする」といって、シャルルの金色の髪を一房切って、ハンカチに包んだ。
「僕もアレクの髪をちょうだい」


アレクサンダーからもらった黒い髪は、シャルルの最も大切な宝物になった。


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