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第1章 今世 アレクサンダー視点
12 看護室で
しおりを挟む「王太子は混乱が収まるまで我が城で預かる。すぐに王太子をここへ連れてこい」
アレクサンダーの言葉に、騎士団長は逡巡するそぶりを見せ、やがて意を決したように口を開いた。
「王太子殿下は地下牢で尋問を受け、衰弱されています。この場にお連れするのはいかがなものかと。傷の処置もありますので、いったん看護室にお連れしたく思います」
「そうか。では、それでよい。騎士団長、その看護室とやらに私を案内しろ」
「はっ!」
騎士団長は、近くにいる近衛騎士に何事か指令を出すと、近衛騎士は足早に姿を消した。
アレクサンダーは振り返り国王を見た。
「では、私はこれで失礼する。退位して責任逃れしようと思うなよ」
アレクサンダーの姿が消えた後、何人かの貴族が茫然と膝をついたのだった。
◇◇◇
「おい。歩きながらでよい。答えろ」
先を行く騎士団長に、アレクサンダーは厳しい声をかけた。
騎士団長はいわれた通り、歩きながら振り向いた。
「はっ」
「傷といったな。まさか、王太子に拷問などしていないだろうな。衰弱するとは、お前たちは王太子にどれほどのことをしたのか?」
「お会いすればわかるかと」
この男、涼しい顔で答えているが、場合によってはただではおかん、とアレクサンダーは、ちっと舌打ちをして顔を歪めた。
看護室というのは、騎士団本部の中にあった。
部屋に入ると、シャルルはベッドの上で背中を向けて横になっていたが、こちらに気づくと途端に顔を輝かせた。アレクサンダーはベッド脇に立ち、観察した。
見たところ、憔悴しているようにも、怪我をしているようにも見えない。
とても元気に見えた。目をきらきらさせて、アレクサンダーを見ている。
「黄金の瞳だ! 黄金色の瞳に戻したのだな!」
「ああ。この目は身分を証明するのに便利なのだ」
「そうか、そうだな! 帝国皇室の目だからな! アレク! 助けに来てくれると信じていた! アレクなら絶対に来てくれると信じていたんだ」
シャルルはベッドから飛び出しアレクサンダーに抱き着いた。
「これは…。すこぶる元気ではないか。騎士団長、説明してくれ」
「近衛が王太子殿下を害するわけがございません。殿下を拷問した振りをしていました」
「騎士団長にいわれて、私も怪我を負った振りをしていた。よろよろ歩いたり咳き込んだりだ」
「傷の手当という名目で、ほとんどこちらで過ごしていただきました。面会がある日のみ、地下牢に移動していただきました。たまに宰相が面会に来られましたので」
「地下牢というのに、食事はいいものが出ていたぞ。掃除も行き届いて清潔だった」
「せめてものお詫びです」
「ユーベル騎士団長、少し王太子を甘やかしすぎではないのか?」
騎士団長は、厳つい顔を崩してフッと笑った。
「それが、第2王妃と宰相の奸計だとわかっていても、国王陛下の命令には逆らえません。無実とわかっている王太子殿下を捕縛することに、内心、忸怩たるものがございました」
「そういうことか」
「王太子殿下が、『待っていれば、助けが来る』といわれるので、その言葉を信じて待っておりました。まさか帝国の皇太子殿下が助けにきてくださるとは思いませんでしたが」
「シャルルの手の平で転がされた気分だな」
アレクサンダーが、やれやれといった顔になったのを見て、騎士団長は、
「王太子殿下の着替えを持ってまいります」と扉の外に消えた。
入れ替わりに、第1王妃が飛び込んできた。
「シャルル!」
「母上」
「無事で良かった」
シャルルを抱きしめたまま、第1王妃は顔だけ振り向いてアレクサンダーに頭を下げた。
「アレクサンダー皇太子殿下。シャルルを助けくださりありがとうございました。シャルルを失ったら、私は生きていけませんでした。なんとお礼を申し上げればよいのか……」
「シャルル殿は私にとっても大切な存在です。私が助けたかっただけなので、お礼の言葉は不要です」
「母上、ご心配をおかけしました。母上もご無事でなりよりです。第2王妃に何かされませんでしたか?」
「え? ええ、それは大丈夫なのだけど」
第1王妃は言いよどんで目を泳がせた
「第2王妃は先ほど皇太子殿下のお力で失脚しました。宰相も時間の問題です」
三人が扉に目を向けると、騎士団長がシャルルの着替えを抱え、入ってきたところだった。
「しかし、いきなり第2王妃の首を刎ねようとした皇太子殿下には肝をつぶされました」
「あれは脅しただけだ。本気ではない。そんな楽に死なせるものか。
いいタイミングで止めてくれたな、ユーベル騎士団長」
澄ましていうアレクサンダーに騎士団長が苦笑した。
シャルルが手を伸ばし、騎士団長から着替えを受け取った。続き部屋が更衣室になっているらしい。
「アレクが王宮の大掃除をしてくれたのだな。あとでゆっくり話を聞こう」
シャルルが更衣室に消え、残る三人はそれぞれに安堵の表情を浮かべた。
「我々にとって、第2王妃の存在は悪夢でしたが、やっと悪夢が終わります」
「ほんとうに」
騎士団長の言葉に第1王妃は目を潤ませた。
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