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第1章 今世 アレクサンダー視点
11 玉座の間 断罪2
しおりを挟むアレクサンダーは玉座までたどり着くと、二人の王妃を見比べた。
国王から見て右側の王妃は、金髪の女性でシャルルによく似ている。左側は赤髪の女性で、斜め後ろには存在感の薄い王子が立っていた。
こちらが第2王妃だな、とアレクサンダーは赤髪の女性に顔を向けた。
「廊下まで金切り声が響いていたぞ。お前が第2王妃だな」
「さ、左様でございます。皇太子様」
第2王妃は立ち上がろうとしたが、足がふらついて立つことができない。立ち上がりかけて、ずどんと腰を下ろした。
「ああ、そのままでよい。時間が惜しい。挨拶も不要だ。あなたたちも同様に」
アレクサンダーは国王と第1王妃にちらりと目を向けた。2人は声もなく、ただ何度も頷いた。
アレクサンダーは第2王妃に視線を戻した。
「先の戦闘では、我がアステリア帝国軍がフェラード王国軍と共闘した。
お前のいうところの敵国の兵とは我が軍のことだな。我がアステリア帝国はフェラードにとって敵国なのか?
寡聞にして知らなかったな」
「それは……」
第2王妃は絶句して、口を閉ざすのも忘れている。アレクサンダーは国王に顔を向けた。
「国王に問う。アステリア帝国はフェラードの友好国である、という認識だったのだが、違うのか」
「友好国で間違いございませぬ」
青ざめた国王の返答を聞き、アレクサンダーは振り向き広間を見渡した。居並ぶ貴族たちも急いで頷く。
「宰相はいるか?」
「ここにおります」
一人離れた位置に立っていた、小太りの男が震える声で応えた。
「味方に裏切られ、兵力を半分に削がれたフェラードに、友好国として加勢したのだが、その結果、王太子が国家反逆の罪に問われた。さすがの私も驚いたな。宰相はこれをどう思うか?」
よくある国境沿いの小競り合いだと、軽く考えていたのが間違いだった。アレクサンダーはあの時の軽率な判断を何度も後悔していた。
面倒がらずに、我が軍の正体を明かしていれば、シャルルを危険な目にあわせることはなかったのだ。
問われた宰相はしきりに汗を拭いていた。目障りな王太子を失脚させることに成功したと喜んでいたのだろうが、完全に立場が逆転している。
「いえいえ。王太子殿下を国家反逆罪になど、わたくしどもは問うておりません。それは第2王妃様の世迷い事でございます」
「そうなのか? いっそ、帝国に向けて挙兵してもよいのだぞ? そうなると、シャルル王太子がいない今、そこのもやしが軍の指揮をするのかな」
いきなり話を振られた第2王子は息をのんだ。いまにも倒れそうである。
「ところで、アステリア帝国を公然と敵国呼ばわりした第2王妃に対し、国王はどのように責任を取らせる気なのだ?」
「それは……」
「処刑だな?」
「……」
「内政干渉はしたくないから黙っていたが、決断できぬようなので、ひとつ教えてやろう。第2王妃は裏でザハドと手を組んでいる。このことを国王はご存じか?」
国王が目を見張り、口をパクパクとさせた。貴族たちの間でざわめきが起こった。
第2王妃が奸計をめぐらせ、気に食わない者を失脚させているのは、貴族たちの間では有名な話だった。王太子を暗殺しようと目論んでいることも。
国王は気が弱く、第2王妃のいいなりだった。王太子以外の誰も第2王妃の悪行を諫めることはできなかった。その王太子は国王の命でいつも戦地に送られている。
だが、いくら好き勝手している第2王妃といえども、秘密裏に敵国と手を結ぶとは、誰も想像ができなかった。
その情報は衝撃を持ってその場にいた者たちを襲った。
第2王妃はザハドをフェラードに引き込んでいたのか。
ザハドは第2王妃を利用して、戦わずして国を手にする気だったのだな。
王太子殿下がご無事で良かった。
恐ろしい!なんて恐ろしい女なんだ!
危うく国を乗っ取られるところだったぞ!
疑惑ではなく事実だろうな、第2王妃ならやりかねん。
誰もが口々にいいあっている。
「それこそ、国家反逆罪だな。王太子を陥れ処刑しようとした罪もある。今、この場で、私が首を切り落としてやってもよいぞ」
一斉にアレクサンダーに視線が集まった。
この期に及ぶまで、騎士団長以外は気づいていなかった。近衛騎士以外、帯剣を許されぬ玉座の間であるのに、アレクサンダー皇太子の腰には剣が刺さっていたのだ。その剣に手がかかった。
「皇太子殿下! 発言の許可をいただきたく!」
大声と共に筋肉の塊のような大男が、貴族の列から前に出て宰相の隣に並んだ。
「お前は誰だ?」
「フェラード王国騎士団長、マクシミリアン・ユーベルです」
「それで、ユーベル騎士団長が何をいいたい」
「第2王妃様には他にもいろいろお聞きしたいことがございます。どうかこの場での処刑はお許しを」
「そうか。それなら諦めよう。余罪を全部吐かせてからの方がよいからな」
アレクサンダーは腰の剣から手を離した。
ほっとした表情を浮かべた騎士団長が目を向けると、視線の先では第2王妃が玉座に座ったまま気を失っていた。
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