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第1章 今世 アレクサンダー視点
10 玉座の間 断罪1
しおりを挟むフェラード王国玉座の間。中央の国王をはさみ、右に第1王妃、左に第2王妃、三人並んで玉座に座っていた。
第1王妃は顔色悪く今にも倒れそうな風情だった。対する第2王妃は喜色満面であった。
中央に座る国王は、宰相の報告に耳を傾けている。報告が終わり国王は口を開いた。
「それで、宰相は先の戦闘で現れた援軍が、敵国の兵といいたいのだな」
「左様でございます。辺境伯軍の別動隊と思われていましたが、調査してみると辺境伯軍にそのような兵は存在しませんでした」
「敵国というが、どこの国の所属かわかっているのか?」
「それは調査中です。どこからやってきたのか、どこへ消えたのか、まるでわからないのです」
「調査中の段階で、敵国と断じるか」
「そこは問題ではないかと。王太子殿下が正体不明の軍隊と手を組んでいることが問題なのです」
「しかし、その軍隊は我が国の味方をしたと聞いたぞ」
煮え切らない国王に宰相は口を歪めた。
国王の左隣から、甲高い声が響いた。
「陛下! 我が国の味方をしたのではなく、単に王太子殿下個人の味方をしたのです!
王太子殿下は敵国と繋がっているのですわ! 正体不明の軍隊など敵ではなくてなんというのでしょう! 敵に違いありません! 王太子殿下が王位簒奪を目論んでいる証拠です! 」
「王位簒奪か。それは穏やかでないな」
国王が逡巡する様子を見せたので、第2王妃は勢いづいたように続ける。
「ベテランの騎士も驚くほどの強さだったと聞いています! その軍隊がこちらに牙を向けてからでは遅いのです!
反逆を企てている王太子殿下をすぐに処刑してください! 」
「いや、それはまだ……」
「その恐ろしい軍隊に陛下が殺されてしまいます! 私はそれが心配なのです!」
処刑と聞いて、貴族たちがざわめき始めた。
第2王妃派と思われる貴族たちが、
「殿下がいつも戦闘を指揮されるのは、軍を掌握しようとされていたのか?」
「なるほど。反逆を考えていたということか」
「なに? 城に攻め込む気なのか?」
「恐ろしいな」
聞こえよがしに会話している。
第2王妃は、口の端を持ち上げた。
「偉大なる陛下に何かあったらと思うと、わたくしは夜も眠れませんわ!
もう、一刻の猶予もないのです! 王太子殿下は国の番犬といわれる辺境伯も味方につけていらっしゃるのですから! ご決断を! 」
最前列で聞いていた騎士団長が表情に出さずに鼻で笑った。
(第2王妃もおもしろいことをいう。番犬なら悪人の方にかみつくのではないのか?
辺境伯が第2王妃を嫌っているというのは有名な話だ。いっそ、第2王妃をかみ殺してくれれば国のためになるのにな。さて、この事態をどうやって収束させたものか)
その時、靴音がして、緊張した様子の近衛兵が玉座の間に現れた。
騎士団長は自分の思考からいったん離れた。
「陛下。城門の衛兵からの報告です。アステリア帝国の皇太子が、陛下に目通りを希望されているとのことです」
「アステリア帝国の皇太子だと? そんな話は聞いていないぞ。
おおかた、痴れ者であろう。何か身分を証明するものを持っていたのか?」
鼻で笑うように国王がいって、居並ぶ貴族たちを見まわした。
彼らは皆一様に、うんざりした表情を浮かべていた。
なぜ、こんな重要な話の最中に邪魔を入れるのだ。この近衛騎士はなぜこんなにも気が利かないのか。
わざわざ陛下に取り次ぐ必要などないのだ。いつもものように追い返せばよいものを、と。
「持っていないそうなのですが……」
「そうであろう。頭のおかしい奴はどこにでもいる。捕まえて地下牢に入れておけ」
「ですが、アステリア皇室の伝説と同じ、金色の瞳を持つ男なのです」
「金色の瞳だと?ふんっ。どうせまた、茶色の瞳が角度によって金色に見える、というものであろう。
愚かにも、周りにおだてられてその気になったか」
「ええ、そうに違いありませんわ。私のような金色の瞳など、他で目にしたことはございませんもの」
第2王妃が扇で口元を隠してそういった。
誇らしげに小首を傾げ、わざとらしく目をぱちぱちとさせている。自分の目を金色と信じて疑わない。
第2王妃は皇帝アレクサンダーの生まれ変わりかもしれないと、第2王子派の間でまことしやかに囁かれているのだ。
廊下が騒がしくなった。争う声と数人の靴音が聞こえる。近衛兵を振り切り、自称アレクサンダー皇太子が乱入したようだ。国王は男に目を向けた。
「お前が国王か。初にお目にかかる。私はアステリア帝国の皇太子、アレクサンダーだ」
低い声が広間に響き、黒髪の男が大股で歩いてきた。
鍛え上げられた長身から放たれるのは、すごい覇気である。貴族たちは、その男の持つ迫力に気圧されて、唖然として男の歩みをただ見守っていた。
玉座の前までくると、その瞳が正面から国王を捕らえた。国王は息をのみ、のけぞった。
その瞳を見て、これが本物の金色の瞳なのだと、国王は瞬時に理解した。
それは、瞳の奥から光を放つがごとくに、爛々と輝やく黄金の瞳だった。
この瞳を一度でも見ると、もはや第2王妃自慢の瞳が薄茶色にしか見えなくなった。
帝国は大きな戦になると、金色の瞳の皇太子が指揮をとる、と聞いたことがある。相手が倍の軍勢であっても、ものともせずに勝利に導く男だという。
この男のことか。
国王は衝撃のあまり、何もいうことはできなかった。
まぎれもなくこの男は帝国のアレクサンダー皇太子である、とその場にいた誰もがそれを確信した。
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