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第1章 今世 アレクサンダー視点
9 思い出した記憶の断片(アレクサンダーの記憶)
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それは、アレクサンダーが17歳の夏の日、戦争で勝利して、城へ帰還した日だった。
勝利の余韻で気分が高揚し、少なからず浮かれていた。
15歳で初陣を飾り、連戦連勝だった。アレクサンダー皇太子は軍神の生まれ変わりでは?という噂もまことしやかに広まりつつあった。
当時、シャルルはフェラードの人質王子として、離宮に軟禁されていた。その王子を放っておけなくて、ことあるごとに、アレクサンダーは気にかけていた。
そうだ、以前の名もシャルルだった。アレクサンダーは心の中で頷いた。
あの日、アレクサンダーは自分の部屋に戻る前に、無性にシャルルの顔を見たくなった。
陛下への勝利報告は、そんなに急ぐことでもない。
シャルルの顔を見るのも一年ぶりだと、弾む足取りで宮に行った。だが、そこにシャルルの姿は無かった。代わりに、侍女が部屋の片隅で泣き崩れていた。
「シャルルはどこにいる」
嫌な予感がして、アレクサンダーは侍女に向かって怒鳴った。
「皇太子殿下! 」
「泣いていてはわからん。シャルルはどうした?」
「シャルル様の母国が帝国に刃を向けたということで、先ほど連れていかれました」
それだけいって、侍女はまた泣き出した。
「そんな馬鹿な」
アレクサンダーは耳を疑った。フェラードが帝国に勝てる可能性など、万に一つもない。
そんなことは、子供でもわかることだ。なぜ、フェラードは勝算もない戦いなど、帝国に仕掛けたのだろうか。
「兵士たちのいうことには……フェラードへの報復のため、シャルル様の肩から両腕を切り落とし、奴隷商に売るそうです」
侍女は泣きはらした目でアレクサンダーを見上げた。
「でも! それはきっと嘘ですよね? だって、商品にするなら腕は切り落とさないはずですから! そんな酷いことはされませんよね? 」
侍女はアレクサンダーに否定して欲しくて、泣きながら叫んでいる。
だが、アレクサンダーの心は冷え込んでいた。するかもしれない、そう思ったからだ。
欠けた身体を好む、特殊性癖の貴族どもが一定数いると聞いたことがある。いわゆる変態貴族どもだ。そんな変態貴族向けの奴隷商が皇都のどこかにあるはずだ。
アレクサンダーはそう思ったが、もちろん、そんなことは侍女には黙っていた。
侍女が躊躇いながら口を開いた。
「首をはねて、フェラードに送る案も出ている、ともいっていました。兵士たちは、そんな残酷なことを笑いながらいうのです! あの人たちは、人間ではありませんっ」
アレクサンダーは吐きそうになるのをこらえた。侍女の泣き声が更に大きくなった。
「兵士たちはシャルルをどこへ連れていくといっていた?」
「玉座の間です。まだ、そんなに時間は経っていません!」
「今なら間に合うかもしれません!」
「皇太子殿下!シャルル様を助けてください!」
侍女は泣きながらアレクサンダーに詰め寄ってきた。
「安心しろ。シャルルは俺が必ず助ける」
言い捨てて、踵を返し全速力で走った。
(間に合ってくれ)
あの時も、そう思いながら宮殿の中を全速力で走ったな、とアレクサンダーは思った。
唐突に記憶が途切れた。思い出したのはそこまでだった。
(なるほど、それが俺の前世にあったことか)
「はははっ!」
思わす声が出た。
(俺はいつも後手に回っている。とんだ愚か者だ)
自嘲する自分の笑い声が聞こえ、アレクサンダーは完全に意識を今に取り戻した。
勝利の余韻で気分が高揚し、少なからず浮かれていた。
15歳で初陣を飾り、連戦連勝だった。アレクサンダー皇太子は軍神の生まれ変わりでは?という噂もまことしやかに広まりつつあった。
当時、シャルルはフェラードの人質王子として、離宮に軟禁されていた。その王子を放っておけなくて、ことあるごとに、アレクサンダーは気にかけていた。
そうだ、以前の名もシャルルだった。アレクサンダーは心の中で頷いた。
あの日、アレクサンダーは自分の部屋に戻る前に、無性にシャルルの顔を見たくなった。
陛下への勝利報告は、そんなに急ぐことでもない。
シャルルの顔を見るのも一年ぶりだと、弾む足取りで宮に行った。だが、そこにシャルルの姿は無かった。代わりに、侍女が部屋の片隅で泣き崩れていた。
「シャルルはどこにいる」
嫌な予感がして、アレクサンダーは侍女に向かって怒鳴った。
「皇太子殿下! 」
「泣いていてはわからん。シャルルはどうした?」
「シャルル様の母国が帝国に刃を向けたということで、先ほど連れていかれました」
それだけいって、侍女はまた泣き出した。
「そんな馬鹿な」
アレクサンダーは耳を疑った。フェラードが帝国に勝てる可能性など、万に一つもない。
そんなことは、子供でもわかることだ。なぜ、フェラードは勝算もない戦いなど、帝国に仕掛けたのだろうか。
「兵士たちのいうことには……フェラードへの報復のため、シャルル様の肩から両腕を切り落とし、奴隷商に売るそうです」
侍女は泣きはらした目でアレクサンダーを見上げた。
「でも! それはきっと嘘ですよね? だって、商品にするなら腕は切り落とさないはずですから! そんな酷いことはされませんよね? 」
侍女はアレクサンダーに否定して欲しくて、泣きながら叫んでいる。
だが、アレクサンダーの心は冷え込んでいた。するかもしれない、そう思ったからだ。
欠けた身体を好む、特殊性癖の貴族どもが一定数いると聞いたことがある。いわゆる変態貴族どもだ。そんな変態貴族向けの奴隷商が皇都のどこかにあるはずだ。
アレクサンダーはそう思ったが、もちろん、そんなことは侍女には黙っていた。
侍女が躊躇いながら口を開いた。
「首をはねて、フェラードに送る案も出ている、ともいっていました。兵士たちは、そんな残酷なことを笑いながらいうのです! あの人たちは、人間ではありませんっ」
アレクサンダーは吐きそうになるのをこらえた。侍女の泣き声が更に大きくなった。
「兵士たちはシャルルをどこへ連れていくといっていた?」
「玉座の間です。まだ、そんなに時間は経っていません!」
「今なら間に合うかもしれません!」
「皇太子殿下!シャルル様を助けてください!」
侍女は泣きながらアレクサンダーに詰め寄ってきた。
「安心しろ。シャルルは俺が必ず助ける」
言い捨てて、踵を返し全速力で走った。
(間に合ってくれ)
あの時も、そう思いながら宮殿の中を全速力で走ったな、とアレクサンダーは思った。
唐突に記憶が途切れた。思い出したのはそこまでだった。
(なるほど、それが俺の前世にあったことか)
「はははっ!」
思わす声が出た。
(俺はいつも後手に回っている。とんだ愚か者だ)
自嘲する自分の笑い声が聞こえ、アレクサンダーは完全に意識を今に取り戻した。
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