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第1章 今世 アレクサンダー視点
4 あなたしかいらない ※微
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「ここはアレクの私室か。なるほど。他人によほど秘密を聞かれたくないのだな。大丈夫、あなたのことは誰にも言わない」
私室にシャルルを連れてくると、機嫌よさそうにそう言ってにっこりと笑った。その顔が忌々しくて、だがどこか可愛くて、顔をしかめる。
「イメージどおりの部屋だな。機能的でそっけない。ん? こちらは寝室か?」
興味津々と言った様子で隣の部屋まで勝手に見て回っている。軽やかに動き回るその腕をアレクサンダーは無遠慮につかんだ。
「先ほどの話ですが、疑問に答えてもらうことを私への報奨にします。
手始めに、なぜ私の名をご存じなのか、ご説明願えますか。
すでに知っているから、という答え以外でお願いします」
「そんな報奨は認めない。私からは教えないと決めたのだから。
それはアレクと私の間でとても個人的な問題だ。
報奨にするようなものではない。
だが、せっかくだから私の知っていることをもう一つ教えてあげよう」
シャルルはアレクサンダーの顔を至近距離で見つめてきた。
「瞳の色を変える目薬があると聞いたことがある。
人と会う時は、それを使っているのか?アレクの瞳は黒ではない。
本当の瞳の色は金色のはずだ。闇にも輝く黄金の目。
数百年前に実在した伝説のアステリア皇帝と同じ色だ」
瞬間、アレクサンダーはシャルルの胸倉を掴んで引き寄せた。
「さすがにそれは聞き捨てならん。
なぜ、俺のことをそんなに詳しく知っているのだ。
何度も聞いているが、なぜごまかす。
俺はそういう風にじらされるのが一番嫌いなのだ。
相手が王太子といえど、これ以上ごまかすのなら、力ずくでしゃべらせるぞ」
「そうだ。そうでなければな」
脅したつもりのアレクサンダーだったが、シャルルは花が開いたように顔を輝かせた。
そして、味わうようにうっとりと目を閉じた。
「一度でいいから、このようにアレクの殺気を浴びてみたかったんだ。あなたは敵にしか殺気を出さないから」
そういって、シャルルは黙り込んだ。そして、夢見る瞳を向ける。
「本音をいえば、こうしてあなたの殺気を浴びる敵がうらやましかった。
今日は、ひとつ夢がかなったな。想像以上に、素晴らしい。
あなたの殺気はぞくぞくする。危うく射精しそうだ」
「ちょっと待て。俺を誘惑しているのではないだろうな」
シャルルは答える代わりに赤い舌で自分の唇をなめ上げた。
伸びあがり、アレクサンダーの首に腕をまわすと強引にその唇を奪った。
深く舌を入れてくる情熱的な口づけだった。
アレクサンダーの中で何か熱い塊が込み上げてきた。それは、幼いころから感じていた渇望に似ていた。正体不明の渇望であり、今まで何をしても満たされることはなかった。
だが、なぜかこの男を抱けば、それが満たされる気がした。
抱きついてくる身体に腕をまわし、そのまま寝室へ運んで行く。寝台の上に放り投げた。
上にまたがり膝立ちになる。上着を脱ぎベッドサイドの椅子に放り投げた。
「女は抱いたことはあるが、男を抱くのは初めてだ。
だが、ここまで俺を挑発した責任はとってもらう。今更、ダメだと言わせないぞ」
覆いかぶさって口づけしようと顔を近づければ、シャルルは手のひらに力をこめて顔を押し戻した。その手首を掴んでシーツの上に押し付ける。そうすると、激しい目で睨みつけてきた。
「今、女といったな! その女とは、どういう間柄なのか?そんなに何人もの女と寝たのか?」
「突然なんだ?」
「私は男とか女とかそういう括りはしない。
私の基準は、アレクかそれ以外かだ。私はアレクしかいらない。
私は婚約者も持たず待っていた。誰かわからないその人をずっと待っていたのだ! それなのに、あなたは酷いぞ」
暴れながら叫んでいる。その身体を上から抑え込んだ。
「まさかと思うが、嫉妬しているのか?」
「そのまさかだ。私には嫉妬する権利がある」
「何を言っているのかわからんが、まるで暴れ馬だな。
無理やりというのは俺の趣味ではない。嫌ならやめる」
あきれて身体を離すと、思いつめた碧い目が見つめてきた。
「嫌じゃない」
「じゃあ… 」
「あなたが欲しい。でも、今は嫌だ。アレクは私のことを思い出していない。それでは嫌だ」
いうなり、すごい力で抱き着いてきた。
「好きだ。ずっとあなたが好きだった。再会した以上、もはや私から逃れられるとは思うな」
アレクサンダーは何が何だかわからなくなってきた。こんなに他人に振り回されるのは初めてだった。
「これでは大天使というより、小悪魔だな」
ため息交じりにつぶやいた。
私室にシャルルを連れてくると、機嫌よさそうにそう言ってにっこりと笑った。その顔が忌々しくて、だがどこか可愛くて、顔をしかめる。
「イメージどおりの部屋だな。機能的でそっけない。ん? こちらは寝室か?」
興味津々と言った様子で隣の部屋まで勝手に見て回っている。軽やかに動き回るその腕をアレクサンダーは無遠慮につかんだ。
「先ほどの話ですが、疑問に答えてもらうことを私への報奨にします。
手始めに、なぜ私の名をご存じなのか、ご説明願えますか。
すでに知っているから、という答え以外でお願いします」
「そんな報奨は認めない。私からは教えないと決めたのだから。
それはアレクと私の間でとても個人的な問題だ。
報奨にするようなものではない。
だが、せっかくだから私の知っていることをもう一つ教えてあげよう」
シャルルはアレクサンダーの顔を至近距離で見つめてきた。
「瞳の色を変える目薬があると聞いたことがある。
人と会う時は、それを使っているのか?アレクの瞳は黒ではない。
本当の瞳の色は金色のはずだ。闇にも輝く黄金の目。
数百年前に実在した伝説のアステリア皇帝と同じ色だ」
瞬間、アレクサンダーはシャルルの胸倉を掴んで引き寄せた。
「さすがにそれは聞き捨てならん。
なぜ、俺のことをそんなに詳しく知っているのだ。
何度も聞いているが、なぜごまかす。
俺はそういう風にじらされるのが一番嫌いなのだ。
相手が王太子といえど、これ以上ごまかすのなら、力ずくでしゃべらせるぞ」
「そうだ。そうでなければな」
脅したつもりのアレクサンダーだったが、シャルルは花が開いたように顔を輝かせた。
そして、味わうようにうっとりと目を閉じた。
「一度でいいから、このようにアレクの殺気を浴びてみたかったんだ。あなたは敵にしか殺気を出さないから」
そういって、シャルルは黙り込んだ。そして、夢見る瞳を向ける。
「本音をいえば、こうしてあなたの殺気を浴びる敵がうらやましかった。
今日は、ひとつ夢がかなったな。想像以上に、素晴らしい。
あなたの殺気はぞくぞくする。危うく射精しそうだ」
「ちょっと待て。俺を誘惑しているのではないだろうな」
シャルルは答える代わりに赤い舌で自分の唇をなめ上げた。
伸びあがり、アレクサンダーの首に腕をまわすと強引にその唇を奪った。
深く舌を入れてくる情熱的な口づけだった。
アレクサンダーの中で何か熱い塊が込み上げてきた。それは、幼いころから感じていた渇望に似ていた。正体不明の渇望であり、今まで何をしても満たされることはなかった。
だが、なぜかこの男を抱けば、それが満たされる気がした。
抱きついてくる身体に腕をまわし、そのまま寝室へ運んで行く。寝台の上に放り投げた。
上にまたがり膝立ちになる。上着を脱ぎベッドサイドの椅子に放り投げた。
「女は抱いたことはあるが、男を抱くのは初めてだ。
だが、ここまで俺を挑発した責任はとってもらう。今更、ダメだと言わせないぞ」
覆いかぶさって口づけしようと顔を近づければ、シャルルは手のひらに力をこめて顔を押し戻した。その手首を掴んでシーツの上に押し付ける。そうすると、激しい目で睨みつけてきた。
「今、女といったな! その女とは、どういう間柄なのか?そんなに何人もの女と寝たのか?」
「突然なんだ?」
「私は男とか女とかそういう括りはしない。
私の基準は、アレクかそれ以外かだ。私はアレクしかいらない。
私は婚約者も持たず待っていた。誰かわからないその人をずっと待っていたのだ! それなのに、あなたは酷いぞ」
暴れながら叫んでいる。その身体を上から抑え込んだ。
「まさかと思うが、嫉妬しているのか?」
「そのまさかだ。私には嫉妬する権利がある」
「何を言っているのかわからんが、まるで暴れ馬だな。
無理やりというのは俺の趣味ではない。嫌ならやめる」
あきれて身体を離すと、思いつめた碧い目が見つめてきた。
「嫌じゃない」
「じゃあ… 」
「あなたが欲しい。でも、今は嫌だ。アレクは私のことを思い出していない。それでは嫌だ」
いうなり、すごい力で抱き着いてきた。
「好きだ。ずっとあなたが好きだった。再会した以上、もはや私から逃れられるとは思うな」
アレクサンダーは何が何だかわからなくなってきた。こんなに他人に振り回されるのは初めてだった。
「これでは大天使というより、小悪魔だな」
ため息交じりにつぶやいた。
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