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第1章 今世 アレクサンダー視点
2 シャルル王太子との再会
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一月後のこと。
アレクサンダーは先の戦闘に関する報告書を読んでいた。
執務室の扉が開いて、赤い頭の青年が顔をのぞかせた。アレクサンダーの弟分であるヨハンだ。
「主~。主にお客様ですよ。すごい美人さんです。お茶の用意をしますね~ 」
ヨハンはおちゃらけたように言うと、すぐに顔を引っ込めた。
フェラード王国の王太子が来たな、とアレクサンダーは思った。辺境伯から事前に連絡が入っている。
ヨハンと入れ代わりに、護衛騎士を連れた王太子が入ってきた。
アレクサンダーは読んでいた書類を机の上に戻した。青年は颯爽とした足取りで机の前に立った。
「失礼する。私はフェラード王国、王太子シャルルだ。先日は世話になった。あなたたちのおかげで、短時間で勝利することができた」
そういって、まっすぐに視線を向けてくる。王太子は感極まったように目を輝かせた。
これが噂のフェラードの大天使だな、とアレクサンダーは前に立つ青年を観察した。
黄金に輝く髪、澄んだ碧い瞳。しなやかな長身は生命力に輝いている。
巷では、美貌の王太子は人ではなく、大天使ではないか、という噂さえ流れている。
「ようこそ、王太子殿」
噂にたがわぬ美しさだなと、立ち上がる。
長身のアレクサンダーが立つと王太子の目線が少しだけ上に向いた。王太子も長身だがアレクサンダーほどではない。
「シャルルだ。名前で呼んでくれ」
「シャルル殿。またの名を〝戦場に舞い降りた黄金の大天使〟でしたか。
なかなかいい得て妙な二つ名ですね」
「その呼ばれ方は好きではない。男が天使といわれても、恥ずかしくなるだけだ」
形の良い眉がひそめられた。
大天使様はその呼び方がお嫌いらしい。まともな感性をしている証拠だ。
小さく笑って、アレクサンダーはシャルルに来客用のソファをすすめた。自分はテーブルをはさんで前に座る。
「今日はどういったご用件ですか」
「繰り返すが、先の戦闘では世話になった。まずは礼を。素晴らしい戦いぶりだった」
「恐縮です。失礼ながら、王太子殿の才覚は存じておりました。好む戦略もね。細部の打ち合わせをしなくても、連携を取れると思ったのです」
「私に興味を持ってくれていたのか。光栄だな」
途端にシャルルの顔が輝いた。
戦上手といわれるフェラードの王太子のことは興味を持っていた。
戦い方を調べてみたところ、想像以上に、理にかなって美しい戦い方だった。
一度戦場で会ってみたいとは思っていた。
そんな時、辺境伯から王太子が率いるフェラード軍を助けるよう、鷹を使った依頼がきた。
自身の軍が、土砂崩れに会い、身動きがとれなくなったという。
いい機会だと思った。役に立てたようで何よりだ。
「今日は報奨に何を望むか聞きに来た。ところで、あなたのことはなんと呼べばいい?」
「報奨は特に必要ありません。私のことは城主とでもお呼びください。たいていの者はそう呼びます」
資金は豊富にある。正体を明かさない以上、報奨などもらうと面倒ごとになりそうだ。
こういう話は断るに限る。
きっぱりと断ったアレクサンダーだが、自分を見るシャルルの切ない目が気になった。
なぜそんな目をする。その上、見つめてくる目が熱っぽい気がするが、気のせいか?
「そんな悲しいことをいうな。それでは私の気が済まない」
「その言葉だけで十分です」
気のせいではない。シャルルが熱っぽい視線を向けてくる。頬も赤い。
何か言いたいが言えないようなもどかしげな瞳。
込みあがる感情を押し殺しているようだが、なんだ?
フェラードの大天使は冷静沈着で、めったなことでは感情を表に出さないと聞いた。
それなのに、今なぜか興奮している様子だ。この会話のどこに興奮する要素があったのだ?
そうこうしているうちに、見つめてくる碧い瞳が潤んできた。
なんだ?泣き出すのか?情緒不安定にもほどがある。
そう言えば、うちで匿うことになった侯爵令嬢がいたな。
確か、フェラードの貴族で第2王子の婚約者だった。
まさか、彼女が王太子の思い人なのだろうか?
それで、こんなところにまで、追いかけてきたのか?
弟の婚約者だぞ?まさか秘密の恋だったのか?
ソファの背にもたれかかり、アレクサンダーは少し考えを巡らせた。シャルルの方をちらりと見た。
潤んだ瞳がじっとこちらを見つめてくる。弟の婚約者に横恋慕する男には見えない。
違うようだな、アレクサンダーは腕を組んだ。
「先ほどから、何を考えているのだ?」
シャルルがこちらを見つめたまま首をかしげた。
「いえ、たいしたことではありません」
「そうか?何か考え込んでいるように見えたが。
ところで辺境伯には、あなたたちのことを〝辺境伯軍の別動隊〟と国に報告するよういわれたが、それでいいかな?」
問われて少し考えてみた。
よくある、国境を挟んでもめる小国同士の小競り合いだろう。辺境伯がそれでいいというなら、特に問題はないな。
「辺境伯がそういうのでしたら、最善なのでしょう。それで結構です」
深く考えずに、アレクサンダーは同意した。
アレクサンダーは先の戦闘に関する報告書を読んでいた。
執務室の扉が開いて、赤い頭の青年が顔をのぞかせた。アレクサンダーの弟分であるヨハンだ。
「主~。主にお客様ですよ。すごい美人さんです。お茶の用意をしますね~ 」
ヨハンはおちゃらけたように言うと、すぐに顔を引っ込めた。
フェラード王国の王太子が来たな、とアレクサンダーは思った。辺境伯から事前に連絡が入っている。
ヨハンと入れ代わりに、護衛騎士を連れた王太子が入ってきた。
アレクサンダーは読んでいた書類を机の上に戻した。青年は颯爽とした足取りで机の前に立った。
「失礼する。私はフェラード王国、王太子シャルルだ。先日は世話になった。あなたたちのおかげで、短時間で勝利することができた」
そういって、まっすぐに視線を向けてくる。王太子は感極まったように目を輝かせた。
これが噂のフェラードの大天使だな、とアレクサンダーは前に立つ青年を観察した。
黄金に輝く髪、澄んだ碧い瞳。しなやかな長身は生命力に輝いている。
巷では、美貌の王太子は人ではなく、大天使ではないか、という噂さえ流れている。
「ようこそ、王太子殿」
噂にたがわぬ美しさだなと、立ち上がる。
長身のアレクサンダーが立つと王太子の目線が少しだけ上に向いた。王太子も長身だがアレクサンダーほどではない。
「シャルルだ。名前で呼んでくれ」
「シャルル殿。またの名を〝戦場に舞い降りた黄金の大天使〟でしたか。
なかなかいい得て妙な二つ名ですね」
「その呼ばれ方は好きではない。男が天使といわれても、恥ずかしくなるだけだ」
形の良い眉がひそめられた。
大天使様はその呼び方がお嫌いらしい。まともな感性をしている証拠だ。
小さく笑って、アレクサンダーはシャルルに来客用のソファをすすめた。自分はテーブルをはさんで前に座る。
「今日はどういったご用件ですか」
「繰り返すが、先の戦闘では世話になった。まずは礼を。素晴らしい戦いぶりだった」
「恐縮です。失礼ながら、王太子殿の才覚は存じておりました。好む戦略もね。細部の打ち合わせをしなくても、連携を取れると思ったのです」
「私に興味を持ってくれていたのか。光栄だな」
途端にシャルルの顔が輝いた。
戦上手といわれるフェラードの王太子のことは興味を持っていた。
戦い方を調べてみたところ、想像以上に、理にかなって美しい戦い方だった。
一度戦場で会ってみたいとは思っていた。
そんな時、辺境伯から王太子が率いるフェラード軍を助けるよう、鷹を使った依頼がきた。
自身の軍が、土砂崩れに会い、身動きがとれなくなったという。
いい機会だと思った。役に立てたようで何よりだ。
「今日は報奨に何を望むか聞きに来た。ところで、あなたのことはなんと呼べばいい?」
「報奨は特に必要ありません。私のことは城主とでもお呼びください。たいていの者はそう呼びます」
資金は豊富にある。正体を明かさない以上、報奨などもらうと面倒ごとになりそうだ。
こういう話は断るに限る。
きっぱりと断ったアレクサンダーだが、自分を見るシャルルの切ない目が気になった。
なぜそんな目をする。その上、見つめてくる目が熱っぽい気がするが、気のせいか?
「そんな悲しいことをいうな。それでは私の気が済まない」
「その言葉だけで十分です」
気のせいではない。シャルルが熱っぽい視線を向けてくる。頬も赤い。
何か言いたいが言えないようなもどかしげな瞳。
込みあがる感情を押し殺しているようだが、なんだ?
フェラードの大天使は冷静沈着で、めったなことでは感情を表に出さないと聞いた。
それなのに、今なぜか興奮している様子だ。この会話のどこに興奮する要素があったのだ?
そうこうしているうちに、見つめてくる碧い瞳が潤んできた。
なんだ?泣き出すのか?情緒不安定にもほどがある。
そう言えば、うちで匿うことになった侯爵令嬢がいたな。
確か、フェラードの貴族で第2王子の婚約者だった。
まさか、彼女が王太子の思い人なのだろうか?
それで、こんなところにまで、追いかけてきたのか?
弟の婚約者だぞ?まさか秘密の恋だったのか?
ソファの背にもたれかかり、アレクサンダーは少し考えを巡らせた。シャルルの方をちらりと見た。
潤んだ瞳がじっとこちらを見つめてくる。弟の婚約者に横恋慕する男には見えない。
違うようだな、アレクサンダーは腕を組んだ。
「先ほどから、何を考えているのだ?」
シャルルがこちらを見つめたまま首をかしげた。
「いえ、たいしたことではありません」
「そうか?何か考え込んでいるように見えたが。
ところで辺境伯には、あなたたちのことを〝辺境伯軍の別動隊〟と国に報告するよういわれたが、それでいいかな?」
問われて少し考えてみた。
よくある、国境を挟んでもめる小国同士の小競り合いだろう。辺境伯がそれでいいというなら、特に問題はないな。
「辺境伯がそういうのでしたら、最善なのでしょう。それで結構です」
深く考えずに、アレクサンダーは同意した。
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