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第1章 今世 アレクサンダー視点
1 黒髪の男
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黒髪の男はアレクサンダーという名であった。
彼が産まれたアステリア帝国は、領土も武力も富も、すべてにおいて大陸一の強国である。
彼が10歳の時、アステリア帝国で皇位簒奪を目論む内乱が勃発した。
秘密裏に諸侯に根回しした皇弟が、大軍を率い王城に突撃した。それを迎え撃つ皇帝軍も全兵力をもって応戦したのである。
反乱に加わらなかった他の有力貴族家の援軍もあり、半年後には皇帝派が勝利した。
だが、戦争の混乱に乗じて、見目のいい貴族の子女がさらわれる事件が起こった。
その時、アレクサンダーは一緒にさらわれたということになっているが、本当のところはわからない。
子供のころから知略にたけていたアレクサンダーは子供たちを引き連れて、逃亡に成功した。
閉じ込められていた建物が森に近かった。そのため、追手が諦めるまで森の洞窟に逃げ込んで様子をうかがった。
その大森林に正式な名はない。
森は広く深い。うかつに人間が入り込めば化け物が取りつき、二度と生きて出ることはできないと恐れられている森である。
そのため、国外追放の刑に処せられた貴族たちを追い出す先として、各国の体のいい流刑地になっていた。
処刑するには罪が足りない、幽閉するには金がかかる。こういう場合、大森林に追放し死んでもらうのである。
内乱終結後、子供たちの半数は親元に帰った。親たちは涙を流し、子供たちを抱きしめた。お礼を言ってアレクサンダーに金貨を渡し、豪華な馬車で帰っていった。
残る半数の子供は引き取り手がなかった。
アレクサンダー自身は両親の元に帰れないわけではなかったが、両親の承諾の下、自らその場にとどまった。今では家族のようになった仲間たちを残して立ち去り難かったのだ。
いわゆる、情が移ったというやつだ。
それに、親元に帰るより、ここに残った方がおもしろい人生になりそうだ、と彼は考えた。彼のそうした予感は往々にして当たる。
アレクサンダーは仲間たちを引き連れ、森の古城に移り住んだ。
それは、教会の地下でみつけた古い地図に記載されていた古城だった。
最初は5年で戻ると親に言っていたが、そうしているうちに、9年が経っていた。
彼が産まれたアステリア帝国は、領土も武力も富も、すべてにおいて大陸一の強国である。
彼が10歳の時、アステリア帝国で皇位簒奪を目論む内乱が勃発した。
秘密裏に諸侯に根回しした皇弟が、大軍を率い王城に突撃した。それを迎え撃つ皇帝軍も全兵力をもって応戦したのである。
反乱に加わらなかった他の有力貴族家の援軍もあり、半年後には皇帝派が勝利した。
だが、戦争の混乱に乗じて、見目のいい貴族の子女がさらわれる事件が起こった。
その時、アレクサンダーは一緒にさらわれたということになっているが、本当のところはわからない。
子供のころから知略にたけていたアレクサンダーは子供たちを引き連れて、逃亡に成功した。
閉じ込められていた建物が森に近かった。そのため、追手が諦めるまで森の洞窟に逃げ込んで様子をうかがった。
その大森林に正式な名はない。
森は広く深い。うかつに人間が入り込めば化け物が取りつき、二度と生きて出ることはできないと恐れられている森である。
そのため、国外追放の刑に処せられた貴族たちを追い出す先として、各国の体のいい流刑地になっていた。
処刑するには罪が足りない、幽閉するには金がかかる。こういう場合、大森林に追放し死んでもらうのである。
内乱終結後、子供たちの半数は親元に帰った。親たちは涙を流し、子供たちを抱きしめた。お礼を言ってアレクサンダーに金貨を渡し、豪華な馬車で帰っていった。
残る半数の子供は引き取り手がなかった。
アレクサンダー自身は両親の元に帰れないわけではなかったが、両親の承諾の下、自らその場にとどまった。今では家族のようになった仲間たちを残して立ち去り難かったのだ。
いわゆる、情が移ったというやつだ。
それに、親元に帰るより、ここに残った方がおもしろい人生になりそうだ、と彼は考えた。彼のそうした予感は往々にして当たる。
アレクサンダーは仲間たちを引き連れ、森の古城に移り住んだ。
それは、教会の地下でみつけた古い地図に記載されていた古城だった。
最初は5年で戻ると親に言っていたが、そうしているうちに、9年が経っていた。
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