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第1章 今世 アレクサンダー視点
プロローグ(シャルル視点)
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女神様
どうか、私を憐れんでください。
来世でも必ずアレクサンダーと出会えますように。
女神様の考える最高のタイミングで過去の記憶を取り戻せますように。
会えばすぐに気づけるように、姿と名を変えないでください。
来世で私たちは結ばれますように。
シャルルの必死の祈りに応え、女神がほほ笑んでくれた気がした。
シャルルはようやく安心して生涯を終えることができた。
◇◇◇
抜けるような青空の下、フェラード王国とザハド王国、両陣営が距離を置き睨み合っている。どこかで名も知らぬ鳥の鳴き声が聞こえてくる。時折吹く風がフェラード王国の軍旗をはためかせていた。突風が、最前列中央から3馬身前にいる王太子シャルルの黄金の髪を捲き上げた。
美しい男だった。
日の光をまとうような黄金の髪に、どこまでも澄んだ碧い瞳、伸びやかな肢体と白い肌は、天から舞い降りた天使ではないか、と巷では噂されている。
彼をその目で見たものは皆、この美しい王太子と同じ時代に生を受けたことを神に感謝するほどだった。
シャルルは目を細めると、敵国ザハドの陣営を眺めた。ざっと見積もっても、兵の数が我が軍の倍以上だ。第2王妃に嵌められたな、と自身が持つ疑惑の正しさを確信した。
突然のザハドからの宣戦布告であった。もともと敵対していた国ではあったが、最近では戦闘することもなく小康状態が続いていた。
そんな隣国の出兵に、城内は驚きを隠せなかった。
王の命を受け、シャルルは急ぎ兵を集め国境まで出向いた。だが、合流予定であった辺境伯軍が土砂災害に会い立往生しているらしい。
それでは開戦時、圧倒的に兵力が足りない。
実のところ、兵の数より、予想外の出来事で軍の士気が下がったことが問題だった。
シャルルは暗澹たる思いでザハド軍を眺めた。なんとか援軍が到着するまでもちこたえなければ。シャルルが手を振り上げ、突撃の合図をしようとした、そのときだった。百騎程度と思われる数の、黒い鎧を装着した騎馬兵の集団が現れた。
先頭の黒髪の男が、
「味方だ。辺境伯の依頼できた」と叫んだ。
黒い騎馬隊はあっという間に最前列に広がっていく。黒髪の男が、シャルルの左横に馬をつけた。髪と同じ黒い目がシャルルを射抜いた。
シャルルはこの男と目が合った瞬間、すべてを思い出した。
自身が女神に捧げた祈りも、前世でなにがあったかも、この男が誰なのかも。
シャルルの全身を衝撃が駆け抜けた。
黒髪の男はいった。
「俺たちが先陣を切って、囮になる。あちらの精鋭部隊は我らが惹きつけるから、あなたは総大将の首を狙え」
「了解」男の声を聴き、シャルルは頷いた。胸の内が熱くなった。
それは、かつてシャルルがこの男と一緒に、何度も実行した戦術だったのだから。そして、この男としかできない難しい戦術だったのだから。
やっと出会えた。潤み始めたシャルルの目から、ついに涙がこぼれた。人生で欠けていた最も大切な部分が、戦場で見つかった。これが女神様の考えた最高のタイミングなのだ。
女神様、感謝します。
シャルルは勝利を確信した
一方で、フェラードの兵たちは頭をひねっていた。
この見知らぬ男たちは一体何者だ?
辺境伯が頼んだと言っていたぞ。
動きを見ると精鋭部隊だな。
本当に味方と信じていいのか?
突然現れた男たちの装備には、王家の紋章も辺境伯家の家紋も見当たらない。
どこからともなく現れた黒い軍団だった。大将格と見られる黒髪の男のまとう覇気が半端なく大きく強い。気を緩めたら意識まで持っていかれそうだ。
相乗効果だろうか。隣にいる王太子の覇気があがったのが傍目にもわかった。二人の強い覇気が混ざり合い膨らみ、陣営全体を覆っていった。
これは勝てる、誰かがつぶやいた。皆同じ思いを胸に抱いた。
強いものに惹かれるのが軍人の性である。
騎士たちはしびれるような高揚感に包まれ、先ほどから渦巻いていた不安感がすっかり吹き飛んでいった。
怒号とともに黒髪の男が先陣を切った。すかさず、黒い集団が後に続いた。その様子を見定めて、シャルルはいったん上げた腕を下した。
「突撃!」
王太子の掛け声に全軍が飛び出した。
黒髪の男がザハドの精鋭部隊をなぎ倒し突撃していく様子は鬼神のようで、敵も味方も息をのんだ。その隙をついて、シャルルは敵将めがけて切り込んでいった。
追い詰められたザハド軍の総大将は身の危険を感じ、一目散に逃走した。
その後ろをザハド軍が続いた。
戦いは決した。
辺境伯軍が到着するころには、敵軍は全員敗走していた。
黒い集団もいつの間にか消えている。
あっけない勝利だった。
どうか、私を憐れんでください。
来世でも必ずアレクサンダーと出会えますように。
女神様の考える最高のタイミングで過去の記憶を取り戻せますように。
会えばすぐに気づけるように、姿と名を変えないでください。
来世で私たちは結ばれますように。
シャルルの必死の祈りに応え、女神がほほ笑んでくれた気がした。
シャルルはようやく安心して生涯を終えることができた。
◇◇◇
抜けるような青空の下、フェラード王国とザハド王国、両陣営が距離を置き睨み合っている。どこかで名も知らぬ鳥の鳴き声が聞こえてくる。時折吹く風がフェラード王国の軍旗をはためかせていた。突風が、最前列中央から3馬身前にいる王太子シャルルの黄金の髪を捲き上げた。
美しい男だった。
日の光をまとうような黄金の髪に、どこまでも澄んだ碧い瞳、伸びやかな肢体と白い肌は、天から舞い降りた天使ではないか、と巷では噂されている。
彼をその目で見たものは皆、この美しい王太子と同じ時代に生を受けたことを神に感謝するほどだった。
シャルルは目を細めると、敵国ザハドの陣営を眺めた。ざっと見積もっても、兵の数が我が軍の倍以上だ。第2王妃に嵌められたな、と自身が持つ疑惑の正しさを確信した。
突然のザハドからの宣戦布告であった。もともと敵対していた国ではあったが、最近では戦闘することもなく小康状態が続いていた。
そんな隣国の出兵に、城内は驚きを隠せなかった。
王の命を受け、シャルルは急ぎ兵を集め国境まで出向いた。だが、合流予定であった辺境伯軍が土砂災害に会い立往生しているらしい。
それでは開戦時、圧倒的に兵力が足りない。
実のところ、兵の数より、予想外の出来事で軍の士気が下がったことが問題だった。
シャルルは暗澹たる思いでザハド軍を眺めた。なんとか援軍が到着するまでもちこたえなければ。シャルルが手を振り上げ、突撃の合図をしようとした、そのときだった。百騎程度と思われる数の、黒い鎧を装着した騎馬兵の集団が現れた。
先頭の黒髪の男が、
「味方だ。辺境伯の依頼できた」と叫んだ。
黒い騎馬隊はあっという間に最前列に広がっていく。黒髪の男が、シャルルの左横に馬をつけた。髪と同じ黒い目がシャルルを射抜いた。
シャルルはこの男と目が合った瞬間、すべてを思い出した。
自身が女神に捧げた祈りも、前世でなにがあったかも、この男が誰なのかも。
シャルルの全身を衝撃が駆け抜けた。
黒髪の男はいった。
「俺たちが先陣を切って、囮になる。あちらの精鋭部隊は我らが惹きつけるから、あなたは総大将の首を狙え」
「了解」男の声を聴き、シャルルは頷いた。胸の内が熱くなった。
それは、かつてシャルルがこの男と一緒に、何度も実行した戦術だったのだから。そして、この男としかできない難しい戦術だったのだから。
やっと出会えた。潤み始めたシャルルの目から、ついに涙がこぼれた。人生で欠けていた最も大切な部分が、戦場で見つかった。これが女神様の考えた最高のタイミングなのだ。
女神様、感謝します。
シャルルは勝利を確信した
一方で、フェラードの兵たちは頭をひねっていた。
この見知らぬ男たちは一体何者だ?
辺境伯が頼んだと言っていたぞ。
動きを見ると精鋭部隊だな。
本当に味方と信じていいのか?
突然現れた男たちの装備には、王家の紋章も辺境伯家の家紋も見当たらない。
どこからともなく現れた黒い軍団だった。大将格と見られる黒髪の男のまとう覇気が半端なく大きく強い。気を緩めたら意識まで持っていかれそうだ。
相乗効果だろうか。隣にいる王太子の覇気があがったのが傍目にもわかった。二人の強い覇気が混ざり合い膨らみ、陣営全体を覆っていった。
これは勝てる、誰かがつぶやいた。皆同じ思いを胸に抱いた。
強いものに惹かれるのが軍人の性である。
騎士たちはしびれるような高揚感に包まれ、先ほどから渦巻いていた不安感がすっかり吹き飛んでいった。
怒号とともに黒髪の男が先陣を切った。すかさず、黒い集団が後に続いた。その様子を見定めて、シャルルはいったん上げた腕を下した。
「突撃!」
王太子の掛け声に全軍が飛び出した。
黒髪の男がザハドの精鋭部隊をなぎ倒し突撃していく様子は鬼神のようで、敵も味方も息をのんだ。その隙をついて、シャルルは敵将めがけて切り込んでいった。
追い詰められたザハド軍の総大将は身の危険を感じ、一目散に逃走した。
その後ろをザハド軍が続いた。
戦いは決した。
辺境伯軍が到着するころには、敵軍は全員敗走していた。
黒い集団もいつの間にか消えている。
あっけない勝利だった。
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