【完結】君に、生きる力を~公爵令嬢に裏切られ追放された王子は、巻き返しを図る

ノエル

文字の大きさ
7 / 12

7 レオン軍の勝利の裏で、クラリスとリリアの戦い

しおりを挟む
風がそっと木々を揺らす静かな庭。
レオンは一人、ベンチに腰を下ろしていた。遠くで馬車が去っていく音が微かに響いている。クラリスが帰ったのだ。

「これでよかったのだ」

自分に言い聞かせるように呟くレオンの隣に、いつの間にかリリアが立っていた。

「……リリアか」

「うん。屋敷の人が、怒った顔のクラリスさんが出ていくのを見たって。だから、心配で来ちゃった」

レオンは小さく笑った。皮肉気な、でも少しだけ安心したような笑みだった。

「……昔の僕なら、クラリスの戯言に騙されて、屋敷に匿っていただろう。でも……今日は、彼女の言葉に、まるで心が動かされなかったんだ」

リリアは静かに、レオンの隣に腰を下ろした。

「でも、……傷ついてないわけじゃないわよね?」

「……もちろん、傷ついたよ。怒りも、悔しさもある。以前は本当に好きだった人だからね。
でもそれより、情けなかった自分に、やっと決別できた嬉しさの方が、大きかった」

リリアはその横顔をじっと見つめ、ふと目を伏せた。

「レオン様は、本当に強くなったのね」

「強くなろうとしてるだけさ。でも、今なら思うんだ。クラリスに愛されなかった僕は、きっと彼女の中では、最初から“選ぶ価値のない王子”だったんだって。そして、その判断は正しい。僕は本当に価値のない王子だった」

「そんなこと……!」

「いいんだ、リリア。君が否定してくれるのはうれしい。でも、僕はもうこれからは、自分の価値は自分で決める。胸を張って生きていけるようにね」


少しの沈黙のあと、リリアはそっとレオンの手を握った。

「じゃあ、これからは私ができることはないわね。でも、そばで応援させてね。あなたは私の生きる希望なの」

レオンは驚いたように目を見開き、そして、ほっと力が抜けたように微笑んだ。

「ありがとう、リリア」

優しい風が2人の間を吹き抜けていった。





数日後。レオン率いる辺境伯軍は、ガルナス軍と戦うべく出発した。

セレヴラン侯爵領、前線の野営地。
焚き火の煙が夜空に立ち上る。
レオンは鎧に身を包み、辺境伯軍の兵士たちを前に立っていた。


「我々はこれから、3倍の数の敵と戦う。だが、恐れる必要はない」


兵たちはざわつく。だが、レオンの瞳は一切の迷いなく、まっすぐ彼らを見ていた。


「僕は、辺境の地で生きる意味を見つけた。
僕は命を懸けてでも、この土地を、領民を、仲間である君たちを守る!」


兵たちの表情が変わっていく。恐れから、静かな決意へと。
レオンは大声を張り上げた。


「3倍の敵など楽勝だっ! 
1人が3人倒せばいい! 
我々なら、きっとできる! 
自信のない者は僕に言え! 
僕がその分、多くの敵を倒してやるっ!」


レオンが剣を掲げると、兵たちもそれに続いた。


「「おおおおおっ!!!」」


副将が叫んだ。


「自信のない奴は俺に言ってもいいぞ! 俺も、お前らの敵を倒してやる!」

「俺もだ!」


次々と兵士たちが名乗りを上げた。



夜が明けた。
地響きとともに、敵軍が迫る中、レオンは最前列で馬を駆る。剣を握る手には迷いはなかった。


「この道は、僕が切り開く! ついてこいッ!」


戦場の真ん中、レオンの剣が閃く。
一人、また一人と敵を薙ぎ倒し、まさに「一人で三人以上を相手にしている」ような戦いぶりだ。味方の士気は最高潮に達していった。


「すごいな! あれが本当に、かつて弱腰と言われた王子なのか……!」

「レオン殿下、なんてお方だ……!」


味方は勢いを取り戻した。数では劣っていたはずのレオン軍が徐々に押し返し始める。

その姿は、かつて誰かの影に隠れていた王子ではなかった。
今や、剣を握り、未来を切り拓く戦士そのものだった。

そこに、セレヴラン侯爵軍が合流した。

敵軍の撤退は、まるで濃霧が晴れるかのようだった。
戦場に残ったのは、勝利の余韻と、傷つきながらも誇り高く立ち尽くすレオンの姿。


「……退いた! あのガルナス軍が退いたぞ!」

「やった! 勝ったんだ!!」


兵たちの歓声が、夜空に響く。
辺境の大勝利
それは、国境を守る民たちにとって、どんな援軍よりも力強い光だった。
そう、結局、国王は援軍を送ってくれなかったのだ。


「王家は見捨てたが、レオン殿下だけが来てくれた……」

「彼こそが、我らの王子だ!」


この後、レオン軍とセレヴラン侯爵軍は、度重なるガルナス軍との戦いに全勝し、ガルナス軍を完全に撤退させることに成功した。

そうしてレオンの名は、辺境から徐々に広まり始める。
その勇姿は、噂話となって村を超え、町を渡り、やがて貴族たちの耳にも届いていく。



レオンが戦っている頃。
王家の古い別荘に、一人の女がずかずかと入ってきた。

「ねえ、この部屋、私の寝室にするわ。ここが一番景色がいいんだもの」

そう言って、勝手にレオンの私室の扉を開けるクラリス。

別荘の使用人に、あれこれと指図しながら、まるで自分がこの館の主であるかのように振る舞っていた。

そこへ、怒りをたたえたリリアが現れた。
あれだけレオン様を傷つけておいて、なんという図々しい女なのだろう。
リリアにはこの女の存在自体が信じられなかった。

「ここは、レオン様の住まいです。勝手な真似はしないでください」

怒りを滲ませるリリアに、クラリスはふっと鼻で笑った。

「あなた、だれ? この地で雇われた使用人? ああ、それとも……慰め役かしら?」

リリアの表情がわずかに曇る。
クラリスはくるりとリリアに背を向け、ベッドの上に腰を下ろした。

「知らないだろうから教えてあげる。
私は彼の婚約者なのよ。私は、レオン様のことを愛してるわ。ほんのちょっと、気の迷いがあって疎遠にしていたけどね。
でも彼なら許してくれるわ。だって彼も私のことを愛しているんだもの」

「……」

「それに、あの人が活躍すればするほど、あの人に“ふさわしい妃”が誰かって、きっと皆、思い出すわよ。
レオン様は私の支えが必要なのよ。だって私は公爵家の娘なんだから」

クラリスが目を細くして笑う。

きっと、この女には何を言っても通じない。リリアは何も言わずクラリスから離れた。
けれど、その背には、怒りと、決意が宿っていた。

館の裏手で、王都からついてきた護衛騎士をみつけた。

「あの女は公爵令嬢のクラリスよ。レオン様を振ってガルナスの王子と婚約したの。あなたも知っているでしょう?」

騎士は「もちろん知っています」と頷いた。

「あの女はガルナスのスパイです。レオン様の留守中にあんな人を館に住まわせれば、あなたもスパイの一味だと疑われますよ? それが嫌なら、さっさとあの女を追い出して」

「確かに……っ! そうします!」

騎士は顔色を変えて踵を返した。
しばらくして、別荘の入り口辺りで女性の悲鳴が聞こえた。どうやら、クラリスは使用人たちの手で追い出されたようだった。

「よかった。あの人のせいで、レオン様に悪評が立ったら困るもの」

やっと安心してリリアはその場を去った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件

水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。 「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。

「平民とでも結婚すれば?」と捨てられた令嬢、隣国の王太子に溺愛されてますが?

ゆっこ
恋愛
「……君との婚約は、ここで破棄させてもらう」  その言葉を、私は静かに受け止めた。  今から一時間前。私、セレナ・エヴァレットは、婚約者である王国第一王子リカルド・アルヴェイン殿下に、唐突に婚約破棄を言い渡された。 「急すぎますわね。何か私が問題を起こしましたか?」 「いや、そういうわけではない。ただ、君のような冷たい女性ではなく、もっと人の心を思いやれる優しい女性と生涯を共にしたいと考えただけだ」  そう言って、彼は隣に立つ金髪碧眼の令嬢に視線をやった。

飽きて捨てられた私でも未来の侯爵様には愛されているらしい。

希猫 ゆうみ
恋愛
王立学園の卒業を控えた伯爵令嬢エレノアには婚約者がいる。 同学年で幼馴染の伯爵令息ジュリアンだ。 二人はベストカップル賞を受賞するほど完璧で、卒業後すぐ結婚する予定だった。 しかしジュリアンは新入生の男爵令嬢ティナに心を奪われてエレノアを捨てた。 「もう飽きたよ。お前との婚約は破棄する」 失意の底に沈むエレノアの視界には、校内で仲睦まじく過ごすジュリアンとティナの姿が。 「ねえ、ジュリアン。あの人またこっち見てるわ」 ティナはエレノアを敵視し、陰で嘲笑うようになっていた。 そんな時、エレノアを癒してくれたのはミステリアスなマクダウェル侯爵令息ルークだった。 エレノアの深く傷つき鎖された心は次第にルークに傾いていく。 しかしティナはそれさえ気に食わないようで…… やがてティナの本性に気づいたジュリアンはエレノアに復縁を申し込んでくる。 「君はエレノアに相応しくないだろう」 「黙れ、ルーク。エレノアは俺の女だ」 エレノアは決断する……!

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

月乙女の伯爵令嬢が婚約破棄させられるそうです。

克全
恋愛
「溺愛」「保護愛」多め。「悪役令嬢」「ざまぁ」中くらい。「婚約破棄」エッセンス。 アリスは自分の婚約者が王女と不義密通しているのを見てしまった。 アリスは自分の婚約者と王女が、自分に冤罪を着せて婚約破棄しようとしているのを聞いてしまった。 このままでは自分も家もただでは済まない。 追い込まれたアリスだったが、アリスは月乙女だった。 月乙女のアリスには二人の守護者がいたのだ。

【2/23-23:30完結】「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた

波依 沙枝
恋愛
毎日更新 侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者。 冷たくされても「愛されている」と信じてきた――けれど、ある夜すべてが壊れる。 「お前みたいな女を愛する者などいない」 絶望の底で手を差し伸べたのは、“本当の王子”だった。 これは、捨てられた令嬢が見出され、溺愛され、 嘲笑った婚約者がすべてを失って後悔するまでの物語。 今さら縋りついても、もう遅い。 彼女はもう、“選ぶ側”なのだから。

落ちこぼれで婚約破棄されて周りから醜いと言われる令嬢は学園で王子に溺愛される

つちのこうや
恋愛
貴族の中で身分が低く、落ちこぼれで婚約破棄されて周りから醜いと言われる令嬢の私。 そんな私の趣味は裁縫だった。そんな私が、ある日、宮殿の中の学園でぬいぐるみを拾った。 どうやら、近くの国から留学に来ているイケメン王子のもののようだけど…

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

処理中です...