4 / 9
第1章.地上界はスローライフで Ⅰ
第004話.スティル、若返る♡
しおりを挟む何とか、スティルをスヤスヤ寝かせてあげる事には成功したべりん。ベレンも、よくやった!と目を細めて頭ポンポンして褒めてくれました。
しかしべりんはこの時、女の子であるが故にひとつ大きな失念をしてしまっていたんです。夢魔であるリリスは、ただ夢の中でイタズラをするだけでは無いんです。
べりんは同性の女の子だから、夢では“味変”程度で済みましたが……リリスが異性である男性の夢に取り憑くと、夢の中でトンデモナイ事をするんです。
それは……大人の女性の妄想!
エキスだけの状態でも、その効能は変わりません。夢の中で見目麗しい綺麗な女の人達に囲まれたスティルは、そのご老体には余りに強過ぎる刺激に思わず……
ブフッ……!
蛹からイキナリ赤い血が噴出!
「うわ、じいちゃの鼻血、たいへーん!」
「今ならまだ蛹になったばかりだから、蛹の一部を割ればそこから手を突っ込んで止血出来るわい!」
しかし悲しいかな、花樹族は比較的非力な一族なので上から叩くくらいでは蛹の一部は割れません。中は柔らかく、外は硬いんです。
「だが、成体になった後ではキャタピラの時とは体躯付きがまるで変わるから、止血のしようが無いんじゃ!」
何とかしなくちゃ……じいちゃが……!
その時、べりんの右手がぽおっと光ったんです。これは、最初に『ナースリー』で吸い取ったゴブリンのマナ……
先程のリリスのマナも、今のゴブリンのマナもみんなキラキラと七色に光り、生命の躍動感に満ち溢れています。
マナの“七色の光”の方は、治癒系のスキル『メディス』の時にエキスとして使用したよね? じゃあ今度は、マナの“生命の躍動感”の方を使えって言うの……?
右手に光るマナから、ポンっと飛び出したのは……精霊化したゴブリンの魂です!
ちっともジッとしていられず、元気よくべりんちゃんの周りを走り回っているではありませんか!
精霊化ゴブリンはベレンの前も通り抜けますが、どうやらベレンには見えていないみたいです。そしてひと通り走り回った後、何やら蛹を指差してピョンピョン飛び跳ねています!
べりんは、精霊化ゴブリンが何を言いたいのかが何故かスッと頭の中に入って来たんです。
「ゴブリンしゃん、力を貸して! ……精霊魂!」
精霊化ゴブリンはコクコクと何度も頷いた後に、ビッと親指を立ててサムズアップします!
べりんは付加系のスキル『マナリス』で精霊化ゴブリンを身に纏い、腕をぐるんぐるんブン回しながら、蛹に向かってゴブリンパンチを放ったんです!
ドゴッ!!!
ピシ……ピシピシピシ……
蛹の、ゴブリンパンチで殴った場所は孔が穿ち、そこから放射線状に亀裂が入ります。ベレンは、すぐさまその孔の中に脱脂綿を放り込みます。
すると白かった脱脂綿が赤くなり……べちょ、と外へ。今度はべりんが赤く染まった脱脂綿を回収し、再び白い脱脂綿を放り込み……
このやり取りをベレンとべりんが交互にしばらくの間こなすと、最後には脱脂綿が白いまま返って来ました!
そして、その孔から小さい手がニョキッと伸びて亀裂の入った蛹の殻を1枚ずつ剥いで行きます。そして、大きくなったその孔から誰かが顔を出しました!
ひょこっと出したその顔は……純白の産毛に覆われた顔に、白い触角。そして、ニッと笑う口は歯が1本抜けた“すきっ歯”になっています。
何より、一番分かりやすい特徴は鼻からタラ……と垂れている、例の鼻血。うん、間違いないね……スティルじいちゃだよ。
っていうかまだ鼻血、完全には止まってないじゃん! でも、じいちゃっていうより……蛹から顔を出したのはアタシと同じ位のガキんちょなのよね。
成体になって、年齢がリセットされたのかなぁ? それとも……『メディス』のせい? 夢魔リリスのヘンな夢を見せちゃったから、コーフンして精神が若返っちゃった?
「おまたせ、スティルだぜぃっ!」
ズズッと鼻血を吸い上げて、喋り方まで若返ってます! もう“じいちゃ”じゃなくて、スティルくんでイイよね!
ベレンも、んまー!っと開いた口が塞がらない様です。しかし、どうやらスティルは蛹の殻の中で藻掻いているみたいです。
「見てないで、手を貸してよぉ……殻から、ボクを引っ張り出してよ!」
「あ、ハイハイ。」×2
ベレンとべりんの2人がかりでスティルを蛹の殻の中から引っ張り出しました。
その時、スティルがコガネアゲハである理由を再確認したんです。
スティルがう~んと伸びをして、その後に背中に力を込めるとシワシワでクシャクシャに丸め込まれていた2対の羽根が少しずつゆっくりと、大きく延ばされて行くではありませんか!
その羽根が黄金色に光り輝き、薄い膜の部分に至っては光が反射する度に虹色に七変化するんです。
「キレイでしゅ……」
べりんは、スティルの美しくも儚い黄金色の羽根に思わず見惚れてしまったのでした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる