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第二章 その町の名はアオジョリーナ・ジョリ―村

竜とドラゴン

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 最近ここアオジョリーナ・ジョリ―村ではペットを飼うのが流行っている。こちらへ来て一番最初に接触したあの生き物。そう、羽の生えたカナヘビである。名前もその通りカーナと呼ばれている。色とりどりで非常に良く懐き、その上小型だから場所も取らないときている。あと、やはり言語を理解しているようなのだ。

 「お、なにヤンキー? お前ペットショップ経営してるの?」

 カットウルフの長であるヤンキー。彼はこの村のペットショップチェーン〝ミニバン〟のトップでもある。なんとも皮肉な名前だなオイ? 狙ってつけたのだろうか。そんな彼に偶然家の前で出会った。

 「そうだワン。丁度いいところだワン。こいつは今朝入荷したばかりのカーナだワン。希少種なのか、普通のヤツと違って二回りほど大きいワン。珍しいから三河さんにあげるワン」

 「マジで? 貰っていいの? 今流行ってて結構値が張るんと違う?」

 「大丈夫だワン。村人からガッツリ稼がせて貰ってるからワン」

 思いのほか商売上手なのね。見掛けはバリ武闘派なのに。

 『……なんだか蛇みたいで気持ち悪いですね?』

 「そう? 慣れると結構可愛いよ?」

 不思議とこのカナヘビモドキはドブネズミ程の大きさがあった。普通万年筆ぐらいの大きさまでしか育たないはずなんだけどなぁ?

 「そうだ! コイツに名前を付けよう! なにが良いヤキ?」

 『……そうですねぇ。でもやっぱりそれは旦那様が決めることでは?』

 「うーん、どうしよっかなー? ニャゴリューってのはどう?」

 『……またニャゴローですか? 以前旦那様に乗り移った時に知ったんですけど……猫を飼うたびにつけていた名前じゃありませんこと? それをこのトカゲにもつけるんですか?」

 「いや、だからニャゴリューだって。ニャゴローじゃないよ」

 『……んもう、一緒じゃないですか!? ちょっとニャゴロ―に嫉妬です』

 こうして僕も流行りに乗ってペットを飼うことになった。意外とミーハーだな。


 ― 二日後 ―

 「いやいやいやいや! これはどう考えても羽付きカナヘビと違うだろう?」

 そう、その得体のしれないカナヘビモドキはたった二日で僕より大きくなったのだ! ってか、これもうドラゴンじゃんか! いや、ドラゴンで間違いないだろう?

 {ガチャンパリーン}

 「ど、どうしたことですかこれは!?」

 偶然僕の家を訪ねてきたモッチー。手土産なのか、薄くこじゃれたお皿を数枚持っていたのだが……全部割れちゃった。

 「折角技術の向上で超薄い陶器が作れるようになったから見せてあげようと思ったらこの有様ですか? なんか恨みでもあるんですかね!?」

 「なんか偉そうだなモッチー。まさかとは思うけど、その皿を理由にしてその手に握ってるカナヘビ改を見せつけようとしたんじゃないの? なんだか七色に輝いて相当珍しそうな個体だし」

 「…………」

 モッチーは黙った。どうやら名探偵安成君の適当推理はドンピシャリだったと見える。一切口を開かなくなったのがその証拠だ!

 「かくかくじかじかでヤンキーから貰ったんだけどさ、どうしようこれ?」

 「いや、どうしようと言われても……なにか害があるんですか? 異常なほど食費が掛かるとか?」

 モッチーはその隙に持っていたカナヘビをサッとポケットへ隠した。もしかして自慢だけに持って来たものの、それ以上のものを目の当たりにしてしまい、恥かしさから隠したのか? コイツならあり得るな。それといつかどこかでリベンジしようとするだろうな。結構な負けず嫌いだし。

 「いや、食べ物は僕達と変わんないよ。少し量が多いぐらい?」

 「おっけー分かりました三河君。研究材料として50円で買い取りましょう」

 「お前フザケンナよ? この村では使えない通貨じゃないかよ?」

 「ハァ? 希少価値が凄すぎてこの世界では買えないものが無いぐらい貴重な物なんですけどー!?」

 あ、この野郎開き直りやがったな? お仕置きが必要か?

 「だったらニャゴリュー売ったそのお金でモッチーの生涯を買うけどいいの? ドーラが」

 「参りました。舎弟として生涯を尽くします」

 速攻土下座したモッチー。その媚び諂う姿には最早清々しさすら覚える。コイツは何処の世界でもモッチーのままだな。

 「しかしこれは面妖ですね? ちょっと拝借をば……」

 モッチーがニャゴリューに手を掛けようとしたその瞬間!
 
 「ウギャァァァァ!」

 {ジョボボボッ}

 水を吐いた。鳴き声と同時に沸騰するぐらいの猛烈熱い水を吐いた。ってか熱湯?

 「ウギャアァァァァァッ!」

 これにはモッチーも堪らず悲鳴を……あれ?

 「おい、これ以上おいたするのならこの羽へし折るぞ? 三河君にチヤホヤされてるからって調子に乗るなよ?」

 「ウギャアアアッ!」

 悲鳴を上げていたのは、なんとニャゴリューのほう! 熱湯を吐く瞬間を見きり、すかさず背後へ回ると羽に腕を回しての関節固め。どうしてこの不思議な生物にそんな事が出来るの? 関節可動範囲を熟知していないとそんなん無理なのでは? ニャゴリューの生態よりも余程不気味なモッチーであった。

 「二度と僕に逆らうなよ? 返事は!」

 「ウギャ」

 こうしてニャゴリューはモッチーのありえない格闘技術によって完全制圧されたのだった。いや、ホントにお前何者なん?

 「あれ? どうしたのドーラ? それにミラカーも」

 「い、いや……別に」

 只のキモイだけの男と思っていたモッチーのフィジカルを目の当たりにした二人。あれが自分だとしても同じように関節を決められたと思うと、見方を変えなければとでも考えていそう。でも大丈夫だよ。モッチーは女性に暴力を振るわないから。寧ろ振るってほしいとさえ……いや、これ以上は彼の名誉の為にも黙っておくとしよう。

 
 「ふぅー、こんなもんかなー?」

 「そうですねー。ほぼ三河君が考えてたのと同じ原理ですねー」

 僕とモッチーはニャゴリューが熱湯を吐く構造を探っていた。どうやら人間でいうところの唾を、舌と頬の筋肉を使っての圧縮を繰り返し、摩擦熱によって高温になるところで吐き出しているようである。それにしては完全に熱湯だったけどなー? ニャゴリュー自体は火傷とか大丈夫なのだろうか? あと汚いし。マジばっちいし。

 「それにしても従順ですね? さっきはなんで僕を攻撃したんでしょうかね?」

 「……さぁ?」

 言えない! いくら僕でも、本人に向かって真正面から〝そんなんキモイからじゃん〟なんて言えない!

 『……お前がキモいからだろ?』

 あ、言っちゃった。

 「チッ! ヤキさんは正直ですね。そりゃ三河君が寝静まった後……」

 『……!』

 「えっ! なになに? ヤキ僕が寝た後なんかしてんの?」

 「えぇ。三河君の実家や今住んでる場所でね、みんなに頼まれて盗撮用の……」

 そうなのだ。元の世界ではモッチーの仕掛けたカメラや盗聴器によって僕の生活は四六時中監視状態の丸裸。他の住人達が依頼主だからこればっかりは逆らえない。つまり、あっちで僕はプライベートなどといった言葉には無縁といっても過言ではない。となれば、こっちの世界ではなく、向こうでの出来事を言っているのか。

 『……お前黙れやっ!』

 「ウガガッ!」

 トチ狂ったヤキはニャゴリューの体の中へ! その巨体を使ってこれでもかと大暴れ! 

 「なんですか? やろうっていうのですかヤキさん? 今のアナタは女性とは縁遠い姿ですんで一切手加減はしませんよ?」

 『……上等だオラアァァァァァァァッ!』
 「ウガアアアァァァァァァッ!」

 モッチーから煽られて大興奮のニャゴリュー(ヤキ)! 誰彼構わず熱湯を噴射し、背中の羽をばたつかせるその姿は、古い怪獣映画に出てきた金色三つ首竜のキングほにゃらら! 

 「やめてー! 僕のおうちがあぁぁぁぁっ!」

 どうやら調子に乗って罰を受けたのは僕らしい。神様助けて! ……あ、この町での神は僕だっけ?

 「おい主人よ! とりあえず表へ出るぞ! ミラカー手伝え!」

 「わかった!」

 泣きじゃくる僕をドーラとミラカーの二人がかりで担ぎ上げると、暴れるニャゴリュー(ヤキ)の隙を見て表へ避難! 外には既に野次馬が集まっての祭り状態に! いやあぁぁぁぁぁっ!

 {スガガガガガガ}

 僕の頭の中を走馬灯が駆け巡る。この世界へと導かれたあの日。青ジョリや他の生物たちとの遭遇。発展していく町。その他諸々。

 「あわわわわ……」

 ニャゴリューが我が家に来て僅か2日。モッチーとヤキの共同作業も相俟って、ものの数分で僕の家は解体されてしまった。

 「み、三河さん、これは一体どうしたことでっか……?」

 野次馬の中から青ジョリが僕に声を掛けてきた。そんなん見ればわかるじゃん!

 「いや、家はまた皆で力を合わせればすぐ元通りにできるから大丈夫でさぁ。それよりアッシの家へ来てくれまっか? 少々困ったことに……」


 青ジョリの顔は真剣そのもの。この状況よりも困った事ってなんだろう? 僕は泣くのをやめて。後始末をドーラとミラカーに頼むと、急いで青ジョリの家へと向かうのであった。
 

 

 

 
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