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第一章 始まりの場所

バカとはさみ

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 「……というワケなんだよモッチー」

 僕達は今、宴の真っ只中。皆が騒ぎ立てている中、一人佇む青ジョリ。コイツはもう暫く放っておくとして、これまでの経緯をモッチーに話した。

 「では明日何か道具を作って見ましょう。僕としてもショーキュー達の学習能力の高さに舌を巻いていたんですよ。どうも言葉が分かるみたいで……まあ、おかげでモーを5匹も捕まえられたんですけどね」

 二人が話をしていると、モンキーンダのタパーツが近づいて来た。その手に不思議な液体を持って。

 「え、なに? これ飲めっていうの?」

 コクコクと首を縦に振るタパーツ。お前もう完全に僕の言葉理解してるだろ。
 
 {ゴキュ}

 恐る恐る飲んでみるも、どうやらお酒のよう。いや、どぶろくか? 決して美味しいとは言えないものの、酔うには十分なアルコール度数がありそう。なによりもこんな場所でお酒が飲めるとは思わなった! サイコー!

 『……相変わらずお酒が好きですねぁ。ここは異世界とはいえ旦那様はまだ未成年です。程々にしてください。それにほら、あれをご覧になって下さいな』

 保護者のヤキが過保護スキルを使用した。僕も素直に彼女の指さす方へ目を向けると……

 「!」

 『……あーやって作ってるみたいですよ。衛生的にどうなんですかねぇ?』

 「おげえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 全部吐いた。ちょっと酸っぱい感じがして珍しい舌ざわりだなと思いつつ嗜んでいると、目に飛び込んできたのは複数のモンキーンダがこのお酒を造っている姿。原住民族がよくやるトウモロコシなどを自分の口に入れ、クッチャクッチャと噛んでその唾液で発酵させるといった細菌満点の発酵酒。クサッ!

 「おっと三河君、それは少し失礼過ぎやしませんかね? 彼等もアナタが全部吐いたのを見て切ない顔をしてますよ?」

 痛い! そんな顔でこっち見ないで! 本当に心が痛いから! でも臭いし! 

 「ありがとうタパーツ。でも僕未成年だからお酒飲んじゃダメなんだよ。幾らここが僕達の世界と違うからって、やっぱ自分達のルールは守りたいしね」

 モッチーはじーっとこちらを見ている。まるで〝その言い訳はどうかな三河君?〟とでも言っているようにも。
 
 「あー、わかったよ! ジャンジャンお酒持って来て! 全部飲み干してやるから!」

 むかっ腹が立ったから飲むことにした。この場にあるやつ全部胃の中に納めてやるからかかってこいや!

 僕の記憶はここで途切れた。


 {チュンチュン……チチチ}

 「……さま、……人さま、起きて下ちゃいな」

 「……ん? うう……ん?」

 誰かに揺さぶられてゆっくりと目を開ける。柔らかい日差しと鳥たちの囀りをBGMにして幸せな日々を思い出しながら起き上がると……

 「お前!? な、なんで喋ってるの!?」

 そこにはリバーライダーのペットが僕の胸に乗って顔をぺちぺち叩く姿があった。

 「おはようごちゃいます。昨晩はよくお休みでちたね」

 久々に心の芯から驚いた。この世界へ飛ばされてもここまでの衝撃を受けなかったのに。ってか何で? 青ジョリもそうだったけど、言葉を覚えるの早くない?

 「おー、目が覚めましたか三河君? それにしてもここの動物達は飲み込みが早いですねー。それに学習能力の高さと言ったらないですよ? バカにハサミを与えるどころの騒ぎではないですね。それにしても、どうして文明がこんなにも進んでいないのかがまるで謎ですよ」

 モッチーは嬉しそうに語る。きっとなにかろくでもないことを彼等に教えたんだろうな。そもそもバカとハサミって、偉そうに! おまえこそバカの長だろうがこのド変態が!

 「あとですね、ブルーには謝ったほうがいいですよ? お気に入りだった食器なんかが全部パーになってるって落ち込んでましたし、どうせあれやったの三河君でしょ? だったら尚更ですね。彼、今外にいますから早く行ったほうがいいと思いますよ」

 忘れてた! それにしても青ジョリがまさかそこまでへこむとは! 僕は大至急青ジョリのもとへ! 勿論謝罪の為に!


 ― 青ジョリ家屋外にて ―

 「へぇ、もういいでさぁね。それよりこれを見てもらえまっか? もう立派な一つの村でさぁ!」

 この時、青ジョリの目に涙が浮かんでいたのを僕は見逃さない。それにしても泣くほどのこと?

 「この地へ逃れて早数十年、一人ぼっちが当然となったアッシのもとへ三河様が現れ、友人が増えたどころかあれよあれよと村まで……。しかも全員アッシに偏見を持つどころかリスペクトするものまででる始末。こいつに涙を流さずして一体何に流せって言うんでっか? アッシにはそんなん難しすぎてよくわかりませんでさぁね」

 数十年て! そんなにも一人で生活してたんだ! てっきり2、3年ぐらいの出来事だと思ってた。そりゃ泣くわ! 寂しすぎだわ!

 それにしてもこの世界は凄いな。もし僕達と同レベルの文化水準を持っていたのならば、きっと彼等に敵わなかっただろう。それどころか奴隷となっていたかも。言葉もそうだけど、昨日言われた事を自発的に熟しているし。家だって既に15件以上あるぞ? しかも昨日より遥かに手際がいいではないか? 慣れたとかのレベルではないな。

 「あ、そうだ! だったら僕とモッチーの知識を出来るだけ彼等に与えてみよう」

 これが良いのか悪いのか今は分からない。実際、彼等の為と言うより、僕自身をよりこの環境で住みやすくするために試行錯誤しているだけなのだから。なんの因果か、或は神々の悪戯かも知れないけど、これもまたこの世界における進化の一つと言えるのではなかろうか。

 まあ、文明が向上したからといって他の村を襲ったりするワケでもないからいいかな。あ、いかんいかん、いつの間にか上から目線になっているし。虐げるのはモッチーだけで十分だ。これからは気を付けるとしよう。


 この後、僕とモッチーは様々な知識を彼等に伝授。とはいっても、専門的知識はなく、ある程度の常識からくるペラッペラなレベルだが。しかもそれ等は、ほぼ全てが己の経験ではなく、学業やネット、もしくは書籍でなんとなーく学んだ薄っぺらいもの。それでもこの世界に革命をもたらすぐらいには影響のある技術の数々であった。

 幸いにもこの場所は離れ島となっているらしく、単にこの村でのみで広まり発展しただけであって、今のところその兆候はない。もし郊外にその技術が流出すれば、文明開化どころではない凄まじい変化の過程を目の当たりにするであろう。

 
 ― 数日後 ―

 僕達がこの村へとやってきてどれだけ経つのだろうか。自分の世界へ戻るどころか気付けばこの村で村長的立ち位置に。動物達の成長も著しく、彼等は言葉どころか、道具作りや農業までこなすようになっていた。中でも河原の鉱石を刃物にする技術発展が目覚ましく、これによって料理どころか、木造建築までもが捗り、今では村にある家の半分が木造に。現時点で動物達の住む場所も完全に確保され、種族どうして一つの村を形成、それをリーダーが収める形にした。なるべく小さな面倒事は自分達で解決するようにとの意味を込めて。

 この頃になると、商売を始める動物も出現。当初物々交換だったが、タパーツに通貨システムをチラッと吹き込んだら、次の日から硬貨どころか貨幣までもが流通しているといった事態へ。これに慌てた僕とモッチーはニセ札防止の為、各種族長から信頼のおける動物を選出させ、その者のみに制作を許したのだった。

 因みにこの時代における印刷技術は無いに等しく、そのままだと見分ける方法も分からないから偽造し放題。今のところ、この村に住む動物達は素朴で正直者ばかりな為、犯罪にまで発展するような事は無かった。まあ、歴史が超浅いから当然だけど。

 ならばと予防策を施す意味も含め、決して真似のできないものを作り上げようと決意。試行錯誤しながらも特殊なインクを用いて版画、そして焼き入れを行うことで絶対剥がれることのない強固な印刷面の形成に成功。こうしてこの村独自の貨幣が出来上がったのだ。判別方法は水につければ一発で、偽物はすぐインクが滲んでしまうから簡単に見分けることが出来るのだった。

 あと、絵柄は僕の独断と偏見で全部リバーライダー。勿論ポーズは金額によって違うけれど……なにせカワイイから仕方ないじゃん!

 
 こうして僅か数日で立派な村が歌舞伎山の麓に誕生した。

 
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