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信じて…

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その後俺たちは店長に連絡を取り引き返してきてもらい事の経緯を説明した。自分では判断出来ないので明日本部に指示を仰ぐそうだ。
鍵の無断複製に不法侵入。今後杉山さんがどうなるかはわからないけれど俺にはもう関係のない話だ。
暴行に関しては大樹は訴えろと言うけれど、未遂だし、大樹が過剰な程報復してくれたし、何より杉山さんは身なりを整えた大樹に毒気を抜かれてしまったようだったからもういいかなという気持ちだ。そう伝えると大樹は不満そうだったけど…。杉山さんは自分の方がイケメンで優れているのに、だらしない格好で引きこもっている大樹に好意を示す俺に理不尽さを感じていたらしい。局部が痛むのか弱々しい声でそう言った。


大樹とふたりで夜道を歩く。あの後、大樹が俺に自分の部屋に来て欲しいと言った。何を言われるんだろと少し怖かったけど、二度と会わないと告げた大樹が来てもいいと言ってくれているんだからそれだけでも嬉しい。

部屋に着くと大樹は帰りに買った湿布を貼ってくれた。痛みで少し顔を顰めた俺に大樹は慌てている。


「わ、悪い」


「大丈夫ですよ染谷さん、そこまで痛くないしこんなのすぐに治りますよ」


壊れ物に触るように頬に触れる大樹の手の上に俺の手を重ねる。


「ねえ、どうして迎えに来てくれたんですか?もう会わないって言ってたのに」


大樹の大きい手の温かさが頬と俺の手に伝わった。
大樹はふう、と一呼吸置いて口を開く。


「神谷、俺は吉岡に連絡を取ったんだ。確かめたいことがあってな」


「確かめたいこと?」


「ああ、お前が何を指示されて、どこまでが演技なのかを知りたかった。お前がバイト先の奴に執着されているのが嘘でないのなら、最終日に会いはしないが遠くから見守ろうと思ってな。だから吉岡に「神谷に何を言った?」と聞いたんだ」


あんなに怒っていたのに、大樹は俺を守ろうとしてくれていた。大樹はこんなときまで優しいんだ。


「そうしたら、吉岡は『神谷さんはあなたの足枷になりますのでお別れになるようご忠告いたしました』とだけ返した。それだけかと聞くとそれだけだと…。そして俺には会社が大切な時期だからお前と別れろと迫ってきた。…吉岡とお前は繋がっていない。
なあ、神谷、俺はお前を信じたい。お前の言葉が真実だと。お前から雪人を感じるのはお前が雪人の生まれ変わりだからだと。信じられない話だ。だが俺の知っているお前はそんな嘘をつくような奴じゃない。俺は俺の。頼む、信じていいと言ってくれ…」


懇願するように、縋るように俺を見る大樹。


「嘘じゃない、嘘じゃないよ大樹。信じて俺を」


俺は泣きそうになるのを必死で堪え、震える声を振り絞る。


長い沈黙の後




「雪人…」


そう呟いた大樹の黒い瞳からは一筋の涙が流れた。





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