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小箱
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「もう潮時だな」
「…はい、そうかもしれません。良くしてくれた店長や他のバイトの人には申し訳ないけど、あの人の行動がエスカレートしてるんで…。離れた方がいいのかなと思って今日店長に電話したんです」
次の日大樹の家に行った俺は、いつもと様子が違うと大樹に見抜かれバイト先であったことを話すことになった。俺と大樹はベッドを背もたれにして少し離れて隣に座る。もう定位置になった場所だ。ローテーブルに飲み終わったコップを置く。
「シフトが組めないって言われたんで、7月末までは入ることにしたんですけど」
「危なくないか?」
「テスト期間でもあるので元々あんまりシフト入れてなかったから多分そこまであの人とは被らないとは思います」
「末までか、そいつとシフトが被るのはいつが最後だ?」
「最後のアルバイトの日で、31日です」
「じゃあ、31日バイトに迎えに行ってやる」
「え、大丈夫ですよ、女の子じゃないんだから」
「子どもが遠慮するんじゃない」
「また子どもって言う!!」
心配してくれるのは嬉しいのにな。恋愛的な好意が混ざって欲しい。
結局大樹は先日のキスを全然覚えていないみたいで話題にも上がらなかった。そうだろうとは思っていたけど1%くらい覚えていないかななんて期待もしていた。俺の様子がおかしかったのはバイトの件だけじゃなかったんだよ。恨みがましく大樹を睨む。
「まあ今後これに懲りて必要以上に愛想を振りまかないことだな」
「別に振りまいてなんかないですよ」
俺は普通に反応しただけなのに。
気持ちが萎んでしまった俺をじっと見ていた大樹が次に発した言葉、それは信じられないことだった。
「…前に気になる食い物の店があると言っていたな。次の休みに連れて行ってやる」
「え?お取り寄せしてくれるんじゃなくて?」
「あれは出来たてがおいしいんだと言っていなかったか?」
「はいそれはそうなんですよ。出来たてはカステラと思えない程ぷるぷる震えていてまるでプリンみたいで!…動画で見ただけなんですけど。でもいいんですかあのカステラ屋さん染谷さんの部屋の外にあるんですよ?」
「神谷お前、俺を弄るとはいい度胸だな」
「わーごめんなさい!!嬉しくってつい。本当に連れて行ってくれるんですか??ありがとうございます!本当に嬉しい!」
大樹とデート出来る。大樹はデートなんて思ってないだろうけど、彼の気遣いを嬉しく感じた。
「絶対ですよ!!」
詳細を早く決めなくちゃと張り切っていると大樹のスマホが震えた。タイミングが悪いなあ。
仕事の電話だったらしく待っていろと手でジェスチャーして大樹は電話をしながら廊下に出て行った。なんとなく長くなりそうだな。それならとローテーブルの上を片付けておこうとコップを手に取り立ち上がった。すると大樹の仕事用デスクにもコーヒーを飲んでいただろうコップが置いたままになっていた。これもついでに片付けてあげよう。
コップを手に取ろうとしたとき机の壁際の端にあるものが気になった。
何か小さいものに白い布がふわっとかけられている。少し布を捲ってみると紫の星のような形のかわいい花が遇われた黒い漆器のような小箱が顔を覗かせた。明らかにこの部屋に不似合いな見るからに高級なもの。きっと大樹の大切なものだ。触っちゃいけない。心ではそう思っているのに抗えない何かが俺に蓋を開けさせようとしている。
怖い。
怖いのに気がつくと蓋を開けていた。中には綿が入っていて、その中心には白い小さい石のようなものがあった。
石?どこかで拾ったのかな。それともパワーストーン?
でも良く見ると違う。もっと軽くて壊れそうなもの。
骨だ。
何の?いや、誰の・・?
俺は廊下の大樹の声を聞きながらしばらくそこに立ち尽くしていた。
「…はい、そうかもしれません。良くしてくれた店長や他のバイトの人には申し訳ないけど、あの人の行動がエスカレートしてるんで…。離れた方がいいのかなと思って今日店長に電話したんです」
次の日大樹の家に行った俺は、いつもと様子が違うと大樹に見抜かれバイト先であったことを話すことになった。俺と大樹はベッドを背もたれにして少し離れて隣に座る。もう定位置になった場所だ。ローテーブルに飲み終わったコップを置く。
「シフトが組めないって言われたんで、7月末までは入ることにしたんですけど」
「危なくないか?」
「テスト期間でもあるので元々あんまりシフト入れてなかったから多分そこまであの人とは被らないとは思います」
「末までか、そいつとシフトが被るのはいつが最後だ?」
「最後のアルバイトの日で、31日です」
「じゃあ、31日バイトに迎えに行ってやる」
「え、大丈夫ですよ、女の子じゃないんだから」
「子どもが遠慮するんじゃない」
「また子どもって言う!!」
心配してくれるのは嬉しいのにな。恋愛的な好意が混ざって欲しい。
結局大樹は先日のキスを全然覚えていないみたいで話題にも上がらなかった。そうだろうとは思っていたけど1%くらい覚えていないかななんて期待もしていた。俺の様子がおかしかったのはバイトの件だけじゃなかったんだよ。恨みがましく大樹を睨む。
「まあ今後これに懲りて必要以上に愛想を振りまかないことだな」
「別に振りまいてなんかないですよ」
俺は普通に反応しただけなのに。
気持ちが萎んでしまった俺をじっと見ていた大樹が次に発した言葉、それは信じられないことだった。
「…前に気になる食い物の店があると言っていたな。次の休みに連れて行ってやる」
「え?お取り寄せしてくれるんじゃなくて?」
「あれは出来たてがおいしいんだと言っていなかったか?」
「はいそれはそうなんですよ。出来たてはカステラと思えない程ぷるぷる震えていてまるでプリンみたいで!…動画で見ただけなんですけど。でもいいんですかあのカステラ屋さん染谷さんの部屋の外にあるんですよ?」
「神谷お前、俺を弄るとはいい度胸だな」
「わーごめんなさい!!嬉しくってつい。本当に連れて行ってくれるんですか??ありがとうございます!本当に嬉しい!」
大樹とデート出来る。大樹はデートなんて思ってないだろうけど、彼の気遣いを嬉しく感じた。
「絶対ですよ!!」
詳細を早く決めなくちゃと張り切っていると大樹のスマホが震えた。タイミングが悪いなあ。
仕事の電話だったらしく待っていろと手でジェスチャーして大樹は電話をしながら廊下に出て行った。なんとなく長くなりそうだな。それならとローテーブルの上を片付けておこうとコップを手に取り立ち上がった。すると大樹の仕事用デスクにもコーヒーを飲んでいただろうコップが置いたままになっていた。これもついでに片付けてあげよう。
コップを手に取ろうとしたとき机の壁際の端にあるものが気になった。
何か小さいものに白い布がふわっとかけられている。少し布を捲ってみると紫の星のような形のかわいい花が遇われた黒い漆器のような小箱が顔を覗かせた。明らかにこの部屋に不似合いな見るからに高級なもの。きっと大樹の大切なものだ。触っちゃいけない。心ではそう思っているのに抗えない何かが俺に蓋を開けさせようとしている。
怖い。
怖いのに気がつくと蓋を開けていた。中には綿が入っていて、その中心には白い小さい石のようなものがあった。
石?どこかで拾ったのかな。それともパワーストーン?
でも良く見ると違う。もっと軽くて壊れそうなもの。
骨だ。
何の?いや、誰の・・?
俺は廊下の大樹の声を聞きながらしばらくそこに立ち尽くしていた。
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