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笑顔
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4月から始めたバイトもあっという間に5月末。もうすぐ3ヶ月目に突入する。そして今日は俺が大樹の部屋に配達する4回目の日になった。俺はこの日を心待ちにしていた。最近なかなか大樹の注文と俺のシフトのタイミングが合わなかったようで行くことができなかったけれど、バイトに来る度に大樹から注文が入れば渡そうと思って持ってきていたものがあった。
あの日、大樹は俺の買ってきた食べ物を食べたので配達したピザが余ってしまった。冷蔵庫か冷凍庫に入れて元気になってから食べて貰おうとしたけれど、別にどうしても食べたかった訳じゃないから持って帰って食べろと押しつけられた。薬代も断ったのに多めに渡されたので何か返さなくてはという気持ちになった。調子が戻らなかったら連絡をしてねと連絡先を渡したが、当然と言えば当然だけど連絡はなかったのでその後の体調も気になっていたのだった。という訳でようやく行けるとほっとする。
「あんたか、もう辞めたのかと思っていた」
「いやいや辞めてませんよ。あれから暫く経ちましたけど元気になりました?」
「あんなものすぐ治る、問題ない」
「それはよかった。でも、あのとき冷蔵庫見たら碌な食材入ってませんでしたね。それに自分の店のことを言うのも何ですけど、ピザばっかりだと味も濃いし栄養も偏りますよ?」
「店の売り上げが減るようなことを言ってどうするんだ…」
あきれた顔になる。そして商品を受け取り早々にドアを閉めようとする大樹。
「ああ、待って下さい!この前ピザありがとうございました。家で家族で食べました」
そう言いながら俺はリュックから紙袋を取り出した。
「これ、よかったらピザのお返しですので貰って下さい」
いらないと押し返してくる大樹にいいから貰ってと返す俺。結局根負けして受け取った大樹は中身を見て一瞬はっとした顔をした。
「…栄養が偏って味が濃いと注意しながら渡す物がこれか」
「一応気にして野菜ジュースも入れたんですけど…」
そのお店の社長が鳥に扮したキャラがトレードマークのパッケージな濃い味付けの手羽先。しかも日持ちするように帰省の為のお土産用。
「でもどうせなら喜んで食べてくれるものをと思って…」
暫く黙ったままパッケージを眺めていた大樹は
「…せっかくだから貰っておくよ」
と苦笑いをした。
優しい目でちょっと困ったように箱を眺めながら笑う彼。
「俺」は初めて見た大樹の笑顔に視線を外すことが出来なかった。
あの日、大樹は俺の買ってきた食べ物を食べたので配達したピザが余ってしまった。冷蔵庫か冷凍庫に入れて元気になってから食べて貰おうとしたけれど、別にどうしても食べたかった訳じゃないから持って帰って食べろと押しつけられた。薬代も断ったのに多めに渡されたので何か返さなくてはという気持ちになった。調子が戻らなかったら連絡をしてねと連絡先を渡したが、当然と言えば当然だけど連絡はなかったのでその後の体調も気になっていたのだった。という訳でようやく行けるとほっとする。
「あんたか、もう辞めたのかと思っていた」
「いやいや辞めてませんよ。あれから暫く経ちましたけど元気になりました?」
「あんなものすぐ治る、問題ない」
「それはよかった。でも、あのとき冷蔵庫見たら碌な食材入ってませんでしたね。それに自分の店のことを言うのも何ですけど、ピザばっかりだと味も濃いし栄養も偏りますよ?」
「店の売り上げが減るようなことを言ってどうするんだ…」
あきれた顔になる。そして商品を受け取り早々にドアを閉めようとする大樹。
「ああ、待って下さい!この前ピザありがとうございました。家で家族で食べました」
そう言いながら俺はリュックから紙袋を取り出した。
「これ、よかったらピザのお返しですので貰って下さい」
いらないと押し返してくる大樹にいいから貰ってと返す俺。結局根負けして受け取った大樹は中身を見て一瞬はっとした顔をした。
「…栄養が偏って味が濃いと注意しながら渡す物がこれか」
「一応気にして野菜ジュースも入れたんですけど…」
そのお店の社長が鳥に扮したキャラがトレードマークのパッケージな濃い味付けの手羽先。しかも日持ちするように帰省の為のお土産用。
「でもどうせなら喜んで食べてくれるものをと思って…」
暫く黙ったままパッケージを眺めていた大樹は
「…せっかくだから貰っておくよ」
と苦笑いをした。
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