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今の俺

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ああ、またあの夢、夢を見た。一番心に刻まれた記憶だからかな。しっかり寝たはずなのにこの夢を見た朝は眠りが浅く疲れが取れない気がする。

俺、神谷要かみやかなめが前世を思い出したのは小学校に上がる前だった。最初は夢の中で俺が主人公になったドラマを見ているような気持ちだった。夢の中の俺の外見は今と違っているのに何故かそれは自分だと認識していた。夢は場面がころころ変わり、それを見る度に母親に話してたが、うんうんと聞いてくれてた話も時折渋い顔をされるようになった。今思えば俺がオトナな夢を見た話をしたときだ。何故戸惑った顔をされるのかはわからなかったが、子どもながらにこれは話してはいけないことだと感じそれからは話さないようにした。


その間にも夢はどんどん進み、いつしか夢と現実の境が曖昧になり、俺の中で夢は「過去」になった。だからといって俺が夢の中の「瀬名雪人」かというと厳密には違うと思うけれど。6歳までの俺は「神谷要」でしかなかった上に育った環境も違うし、育ててくれている今の両親の影響も当然受けるから。


高学年になって家のPCを使わせてもらえるようになったとき一番最初にしたことは、自分の記憶が本当に正しいかを確かめることだった。実は凄く想像力の豊かな子どもなだけかもしれないし。

「瀬名雪人 事故」と入力してみた。すると当時のニュース記事が出てきた。

『東明大学前で車暴走 大学生撥ねられ死亡  同大学2年瀬名雪人さん(20)が跳ねられ搬送先の病院で死亡した。近くにいた大学生らは軽傷』



あった。あの当時の感覚が蘇り怖くなって自分の体をぎゅっと抱きしめたけど、夢が妄想でなかったことにちょっと感動したし安堵した。

近くにいた大学生って大樹のことだよね。でも軽傷って…。俺が思いっきり突き飛ばしたから怪我したのかな。そうだとしたら咄嗟のことだったので許して欲しい。

俺が当時10歳だったから死んだ後すぐに転生したようだった。30歳の大樹を想う。どんな大人になってるんだろう。あのときの女の子ともしかしたら結婚してるかもしれない。会社を継いでるかもしれない。ツキンと胸が痛くなった。でもこれはもういなくなってしまった雪人の感傷でしかない。だって「神谷要」は大樹に会ったこともないんだ。それに俺はセフレの延長でしかなかったのかもしれないし。今更会いに行ったって迷惑でしかないよね。だから会いたい気持ちに蓋をした。大樹にとっても俺にとってもあれは遠い過去でお互い違う道…どころか俺は違う人間として人生を歩んでる。雪人の両親にだけは会いたいな…と思いながらPCを閉じた。



月日は流れそんな俺もこの春大学生になった。前世が20歳で死んで今18歳。もう少ししたらこの体で生きた年月の方が長くなる。身長はそこそこだけどさらさらの黒髪にまつげの長い二重の目、鼻筋も通っているしスタイルもいいと思う。前世も悪くはなかったけど今と比べると地味で平凡だった。今の俺みたいだったら大樹の隣を堂々と歩けたのかな。ふっと考えて、ああと思い出す。春は出会いと別れの季節。なんだか感傷に浸ってしまった。

俺は地元の大学の教育学部に入学することになった。教師である今の両親の影響だ。それにしても前世も生まれも育ちもこの地方都市だった。魂がこの土地に固定でもされてるんだろうか。まあ好きだけど、味噌カツとか。今世では大学は家から通える範囲なので下宿していた前世よりはお金はかからないけど、お小遣いくらいは自分で稼がないといけない。取りあえず近くのピザ屋でアルバイトをすることにした。



その時はそれが今後の人生を大きく変えることになるとは思っていなかった。
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