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ある春の日の出逢い
一
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その日沙絵は、うららかな春の光のもと上野不忍池まで来ていた。
池の周りにある桜は花を満開にさせ、その薄紅色の桜花爛漫な様は江戸の人々を陽気にさせ、各々の目を楽しませる。
古来よりこの国に住む者達はこの時期咲く桜というの花が殊の外大好きで、大概のもの達は花見に興じる。
不忍池も例に漏れず、池の周りには屋台が並び大いに賑わっている。
陽気な顔した人々の中を沙絵も並んでる屋台を冷やかしながら、ゆっくりとした足取りで進む。沙絵の後ろには弟のように可愛がっている琥太郎が、はしゃいでいる姉を気遣うようについて行く。「琥太、帰りに雛屋で饅頭でも買って帰ろうか。」
「いいですね。きっと旦那様も喜ばれますよ。」
「あの人は甘党だからね。」
鼻歌でも唄いそうな程機嫌よく沙絵は道を歩いていく。
明るい春の日差しを感じながら満開の桜を見て歩く沙絵は、いきなり後ろからグッと手首を掴まれた。
「母上!」
驚いた沙絵が振り向くと、大きく肩で息をしている若い侍が沙絵の手首を掴んでいた。
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