上 下
30 / 43

おっさんと、邪龍ー4

しおりを挟む
◇信二視点。

 俺は加護を発動し、空を飛んだ。

 シルフィの背中へと乗り込む。

 ドンパさんは、ドワーフ達に合流し、共に戦闘を開始した。
一流のドワーフ達に負けず劣らずの動きを見せる人類最強の配信者。

 邪龍エンドは、怒りのままに暴れまわる。

 その標的はやはり俺のようで、空を飛び追いかけてくる。

「シルフィ……ちょっとだけ頑張れるか?」
『もちろん!』

 シルフィとエンドの命を賭けた追いかけっこ。
シルフィも相当な疲弊をしている、今にも倒れてしまいそうなのは理解できる。

 それでももう少し、頼らせてくれ。

『――黒閃!!』

『シルフィ! くるぞ、右だ!』
『了解!!』

 後ろから追いかけるエンドは、先ほどの黒閃と呼ばれる技を俺達に向けて放ち続ける。

 シルフィの高速移動でなければ避けられない破壊の光。

 俺は時計を見る。

 約束の時間まで、あと二分。

 もう少し。

 そのときだった。

『痛い!!』
「シルフィ!!」

 エンドの黒閃が、シルフィの翼にかすってしまう。
それでも痛みを我慢してシルフィは飛ぶが明らかに速度が落ちている。

 このままでは追いつかれるかもしれない。

 なによりシルフィをこれ以上危険に晒したくない。

 だから。

「あとは任せろ! シルフィ!」

 だから俺は風を纏ってシルフィの背から飛んだ。

『シンジ!?』

 俺はそのまま地面に向かって落ちていく。

 その過程でエンドに挑発するように叫ぶ。

『こっちだ、糞邪龍!! 俺を殺したいんだろう!!』

 怒り狂ったエンドはシルフィを無視して俺を追いかける。

 眼下にはドワーフ達とそしてエルフ達。
先ほどの開けた戦場へと俺は戻る。

 風を纏って地面付近でふわりと着地。
合わせてほぼ同時にエンドも俺の背後に着陸し、衝撃で周りが吹き飛んだ。

『虫けらがぁぁぁぁ!!!』

 ――時間まで残り一分。

『ガルディア!!!』
「詠唱はすんでいる!! いくぞ、みんな!! 第六階位魔法・黄金の鎖! 気を失ってでもここに繋ぎ続けろ!!」

 暴れ狂うエンドに黄金色に輝く鎖が、次々と巻き付き拘束する。

 暴れまわるが簡単には引きちぎれない、しかしエルフ達が次々と膝をついて顔を青ざめていく。

 彼らの魔力をもってしても、最古の龍は止まらない。

 でも一瞬だけなら止められる。

『全員翼を狙え!!』

 その隙をガゼット王が見逃すわけもなく、有効打を与えづらい硬い皮膚ではなく比較的柔らかい翼を狙う。

『がぁぁぁぁ!!』

 日本刀によって傷ついていく翼、それでもエンドは怯まない。

 しかし飛ぶ能力を弱めることには成功した。

『我をこの程度で倒せると思っているのかぁぁぁぁ!!!』

 今日一番の魔力の放流と黒の暴風。
黄金の鎖は砕け散り、ドワーフ達もエルフ達も吹き飛ばされた。

 唯一シルフィの加護が守ってくれている俺だけはその前に立つ。

 俺は逃げない。

 俺だけに出来る言葉の力であとほんの少しだけこいつを止めて見せる。

 ――あと10秒。

「エンド! 最後に一つだけ聞かせろ!!」

 俺は心からの声でエンドへと叫んだ。

 その言葉は荒れ狂うエンドの心に届き、一瞬の硬直。

 俺を見る。

 そして俺は最後の質問を行った。

「俺達を認め、共に生きる道は絶対にないのか! 彼らに謝ることはできないのか!」
 
 しかし帰ってくる答えは分かっていた。

『するわけないだろうがぁぁぁ!! 我は終焉の龍! 虫けら共は全員殺す!! それが我が生まれた意味よ!!』

 その叫びとともに、混沌龍カオスの大きく開いた口に黒き光が集まっていく。

 それを見れ俺は時計を見た、12時ジャスト。つまり。

「そうか、わかったよ。じゃあ、会話はこれで終わりだ………時間が来た」

 作戦は完了した。

『あぁ!? なにをいっている!! なんの時間がきたというのだ!』

 疑問を投げるエンド、俺は答えるようにその眼を見て言った。

 怒りの感情を込めて、ドワルさんとアンリちゃんの悲しみを乗せて。

 最後の言葉を、はっきりと。

「――俺達の勝ちだってことだ」

 その言葉とほぼ同時だった。

ヒューーードン!!!!!!


 ――突然の大爆発。

 エンドの顔面が爆ぜた。
正確には横から飛んできたミサイルによって、爆撃された。

 俺はその爆風で吹き飛ばされた。
シルフィの加護があるから怪我はないが、離れていても火傷しそうなほどの想像以上の熱が俺を襲う。

 それを合図にドワーフとエルフ達全員がその場からすぐに退避した。

 残されたのは、エンドだけ。
真っ赤な爆発と衝撃でエンドが、倒される。
それでもすぐに起き上がる化け物は何が起きたと痛みと共に目を白黒させる。

 鋼のような鱗が多少なりと剥がされて、確かに傷ができていた。

 何が起きたか理解できないまま、エンドは見た。

『なにが……ガハッ!?』

 次々と自分に向かってくる見たことのない速さで飛んでくる光の矢、鉄の塊。

 鋼鉄の鎧を次々と吹き飛ばし、エンドの巨体に命中する。

 真っ赤な爆炎という名の閃光が暗い曇り空の大地を照らし出す。

 人類の英知の光がこの世界の闇を貫こうとしていた。


◇一時間前。日本、防衛省。

 日本国総理大臣をはじめ、防衛大臣、自衛隊幹部など。
日本の防衛、軍事力を仕切る重役たちが一同に会していた。

 彼らが見つめる先は一つの液晶画面。

 映るのは一人の日本人、大石信二が混沌龍の住処で言葉を引き出した時。

「…………許可する。今より、混沌龍カオスは日本国並びに同盟国べオルグリム国の敵とみなし、自衛隊による討伐作戦を許可する」

 総理大臣は許可を出した。
国民の民意も後押しして、たった一匹の生命体に国家軍事力の派遣を決定する。

 国民達に異論はない。

 それは信二が配信を通して日本中に混沌龍カオスの言葉を届けたから。

 憂いの無くなった政治家が、決断するのは早かった。
むしろ、決断しないほうが、これでは国民に対して評判が悪くなるという打算すらもあった。

 そして自衛隊の攻撃を許可する権利を持つ日本最大の権力者は、力の行使の許可を出す。

 その言葉をずっと待っていた大泉信一郎はすぐに電話する。

 現地で指揮を執っている陸上自衛隊代表の陸神へと。

「了解した! 今より、移動を開始する! 全ての準備が整い次第、一時間後、12:00を持って陸自による全火力を持って対象への総攻撃を開始する!」

 そして海を隔てて待機していた自衛隊が次々と出航し、空を飛ぶ。

 これが信二と信一郎、二人の作戦。

「……ふぅ。こちらはやりとげた。あとは任せるぞ、信二」

 丸二日寝ずに働いた信一郎、関係各省と連携し、この作戦を遂行した。

 ドワーフとの一時的な軍事同盟が最も大変だったが、大臣を説得し現地へ、さらに信二と共にガゼット王を説得し、両国の押印と握手を持って同盟は締結した。

 異例の速度で締結された同盟、これにより自衛隊の行動は軍事介入ではなく、人道的支援へと移り変わる。

 これが作戦のフェーズ1。

 そしてフェーズ2。

 信二の配信によって、世界中に混沌龍カオスが悪であり、歩み寄れない脅威であることを認識させる。
でなければ自衛隊を派遣することはできなかったし、政治家達の固い首を縦に振らせられない。
明確な民意がなければ、彼らは動かないことを信一郎は知っていた。

 だから、信二にすら攻撃し、友好的なドワーフを殺戮した混沌龍カオスという構図が映像でとれたことは大きかった。

 あれにより、民意は全て混沌龍カオスの討伐へと傾いた。

 そしてフェーズ3。

 総理の許可から目的地まで約一時間。
その間、混沌龍カオスを砲撃が届く開けた場所へと拘束する。

 それは原住民にしかできないことだった。

 だから信二は頭を下げた。

 ドワーフだけでは大量の死人がでるし、不測の事態に対応できない。
だから危険だとわかっていてもエルフの族長達の魔法が必要だった。
それを快諾したガルディア達。

 そして異例のエルフとドワーフと嵐雷龍ことシルフィの働きで一時間時間を稼いだ。

 最後の作戦だけはどうしても綱渡りだった。

 だが、すべてをやり遂げることに成功した。

 そして。

◇今。

「第一射、命中!! 効果あり!! 大石さん含むドワーフとエルフ全員の避難も確認しましたぁぁ!!」

「よぉぉぉぉし!!! 嵐雷龍の時は見せられなかったが、陸自の全力を見せてやれ!!」

「イエッサァァァ!!!」

 その言葉とともに、雨のような砲弾が、混沌龍カオスに向かって放たれる。
鋼のような鱗でも、自走榴弾砲からの大口径の砲撃を連続でぶつけられたなら、龍の鎧は砕けていく。

『ガァァァ!!』

 血だらけになっていく混沌龍カオス、それでも倒れない最古の龍。

 しかし次々と目の前に現れる戦闘機による対戦車ミサイルをこれまた雨のように浴びせらえる。

 翼は砕け散り、腕は吹き飛び、牙は折れる。
さらには戦闘ヘリによる機関銃、戦車による機関銃、誘導弾から爆撃まで。
ありとあらゆる兵装が、剥がれた鎧の奥の肉を削っていく。

 それを遠くで避難し見ていたガゼット王はつぶやくように口を開く。

『なんだ……これは……なんという攻撃力か……』

 最古の龍、その頑強さはガゼット自身が一番知っている。
だがそれすらも関係ないという暴力の嵐、抵抗することなど許さない光の弓と炎の槍。

 ガゼットとドワーフ達、そしてガルディア含むエルフ達は信じられないものを見るように、口を開けてその光景を見つめた。

 先ほどまではまだ抵抗していたように見える混沌龍カオス

 しかしその姿にはもう元気はなく、間違いなく死にかけだった。

『なぜ……我が……まけ……』

 そして最後には。

「だんちゃーーーーく!! 今ぁぁぁ!!!」

 見たこともないほどの激しい爆発が龍を包み。

 最古の龍、混沌龍カオスはついに、討伐された。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

異世界の物流は俺に任せろ

北きつね
ファンタジー
 俺は、大木靖(おおきやすし)。  趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。  隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。  職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。  道?と思われる場所も走った事がある。  今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。  え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?  そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。  日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。  え?”日本”じゃないのかって?  拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。  え?バッケスホーフ王国なんて知らない?  そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。  え?地球じゃないのかって?  言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。  俺は、異世界のトラック運転手だ!  なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!  故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。  俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。  ご都合主義てんこ盛りの世界だ。  そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。  俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。  レールテの物流は俺に任せろ! 注)作者が楽しむ為に書いています。   作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。   誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。   アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...