【朗報】おっさん、異世界配信者になる。~異世界でエルフや龍を助けたらいつの間にかNo1配信者になって、政府がスローライフを許してくれません~

KAZU

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おっさんと、邪龍ー3

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『虫けらがぁぁぁぁ!!!』

 混沌龍が再度、龍の咆哮を発動する。

 しかし、それに合わせてエルフ達の魔法が発動する。

『第四階位魔法・無音の世界』

 音を遮断するオーラが、龍を包み込み咆哮を無効化する。
それに怒り狂ったカオスが、黒炎のブレスをエルフに吐き出す。
しかしシルフィによってはじき返される。

 何もかもがうまくいかないカオスは、暴れまわるようにドワーフに怒りをぶつけるが、既に咆哮による硬直は解除されている。
 
 ガゼット王の指揮の元、統率された動きはただの力の塊を翻弄していた。

『なぜだ……なぜ我が……虫にいいようにされている?』

 カオスは怒りと冷静さが同居していた。

 ドワーフ共は、虫の癖に連携し、あまつさえ見たことのない武器でこの鱗にすら傷つける。

『なにが……我へと刃を届かせている』

 虫を焼き払う龍の息吹は、同じ龍種である今も我の周囲を飛び続けるあいつのせいで無効化される。

 さらには全員に風の鎧をつけているようで、多少かすった程度では致命傷にはなりえない。

 厄介な力だ、だが単体なら我があのような幼体の龍ごときに負けることなどはありえない。

『なぜお前達は手を結んでいる……』

 そして極めつけは他種族と一切交流しないエルフ共だ。

 奴らの魔法は、複雑怪奇。
長寿でありアルテミス神の加護を持つ魔法に長けた種族は少数ながらに高度で厄介な魔法を多用する。
それでも単独ならば相手にならない、だが今は違う。

 前衛のドワーフ、後衛のエルフ。そして我の攻撃を無効化してくる同じく古龍。

 なぜだ。

 なぜドワーフが、古龍が、エルフが……本来交わるはずのない異なる種族が。

 手を取り合って牙を剥く。

 カオスは、ダメージを受けながら考えていた。

 思考する。

 何かがある。

 何かがおかしい。

 何かこの世界に特異点が生まれている。

 バラバラだったこの世界を変えようとしているものがいる。

『…………ああ、そうか』

 そしてカオスは、思い出した。

『全てお前の仕業か……人間』

 自分とすら意思疎通したイレギュラーを。


――ぞわっ。


 離れた場所の丘の上で戦いを見つめていた信二、一瞬で死を感じるほどの悪寒がした。

 首元にナイフが突きつけられたような、圧倒的な殺意。

 そしてそれは間違っていなかった。

『ギャァァァァァァ!!』

 咆哮とともに、信二を見るカオス。
ドワーフに切られようが、エルフに魔法を打たれようが、シルフィが近くを飛んでいようが関係ない。

 今全ての殺意が信二に向かって向けられた。

 大きく口を開ける混沌龍エンド。

 黒い光が集まって、何物も通さない深淵へと落ちていく。

 それはカオスが持つ最大最強の威力の技。
 
 広範囲に攻撃するブレスを魔力によって一点集中させる技。
発動に時間がかかり、範囲も狭いため避けられる可能性は高いが、何人も存在を許さぬ黒の光。
殺傷能力はこの世界でも最強と呼ぶにふさわしい技、名を黒閃。

『シンジ!! 逃げてぇぇぇ!!!』

 シルフィは誰よりも速くそれに気づき、信二を守るように魔法を発動する。

 ガルディア含むエルフ達も気づき、先ほどと同じ結界魔法の詠唱に入った。

『……死ね、アテナ神の使徒が』

 そして、エンドの口からそれは放たれた。


 ――直後、世界は色を失う。


 まるで音と色が消えたかのような白と黒の世界へ。
耳がつぶれてしまいそうなほどの甲高い音が響き渡る。
ガラスを爪でひっかいたような不快感と共に、黒き光が世界を照らす。

 シルフィの最大出力の風の壁を何事もなかったかのように突き破った。

 エルフの第五階位の結界三枚をあざ笑うかのように突き破る。

 その黒の光はまっすぐに信二へと放たれた。

 衝突、直後爆発。

 砂煙が舞い上がり、信二が配信していた丘の上が跡形もなく消し飛んだ。
それは人類の持つ最大火力には及ばないとはいえ、生物が発生させることができる力ではこの世界で最上級のものだった。

==================
名無しのモブ1:おい! 大丈夫か!!
名無しのモブ2:直撃した? 今のなに!?
名無しのモブ3:わかんねぇ、おい誰か教えてくれ!
名無しのモブ4:頼む、ここで死んでリタイヤなんて許さねぇぞ!
名無しのモブ5:配信はまだ続いているみたいだけど、何も見えねぇ。ドローンは無事ってことか?
==================
 
 日本中、いや、世界中がその映像を見つめて信二の無事を祈る。

 だが、同じ場所にいたものは全員が今の一撃で助かるわけがないと絶望した。

 信二は嵐雷龍テンペストの加護を持っているとはいえ、戦いは素人。

 今の一撃を前に危険を察知してすぐさま回避行動をとれたとは思えない。

 信二の周りには戦える者は誰もいなかった。

 まさか混沌龍が戦力になっていない遠く離れた信二を一点集中するとは誰も考えなかった。

『信二!!!』『シンジ!!』

 だがその効果は想像以上だった。
ガルディア含むエルフ達は信二の無事を祈りながら丘に向かって走る。
シルフィも真っ青な顔で、砂煙に向かって飛んでいく。

 信二という精神的な支柱は、この場を支えていた二つの力を崩させた。

 狙い通りだと笑うカオスは眼前のドワーフ達を見下ろす。

 均衡は崩れた、これで勝利は目前、あとは虫けらを潰すだけ。

 勝利は我に。

 そう思ったのに。

「――スタンバっててよかったぜ」

 何だお前は。

 突然現れた男は、信二を片手で抱き抱えて、もう片方の手でドローンを掴む。

 煙草を口にくわえたナイスミドルのナイスガイ。
筋骨隆々で、まるで傭兵のような見た目をした男、鋭い目つきは鷹のよう。
無精ひげを生やしながらも、頼れる兄貴のようなその見た目で煙草を吹かす。

「……え? なに?」

 信二は何が起きたか理解できなかった。
突然黒い光が飛んできたと思ったら、抱きかかえられて今ここにいる。
自分を抱きかかえているのは一体だれか。

「よぉ、新人配信者。会うのは初めましてだな、天道龍之介だ。あ、でもこの名前じゃわからねぇよな」

 天道龍之介、それは日本で一番有名で、一番強い配信者。
たった一人で次々と異世界を探索し、多くの未開拓地を開拓した最強の傭兵とも呼ばれていた。

 それは信二も知っている。

 だがなぜそんな人がここにいる?

 しかし、次にその男が口にした名前は。

「ドンパだ。新人は絶対に潰させねぇドンパ、お前の最初のリスナーだ」

 よく知っているいつもコメントをくれるリスナーの名前だった。

「ドンパさん!?」

==================
名無しのドンパファンボーイ:ドンパさんきたぁぁぁ!!!
名無しのドンパファンガール:さすが人類最強こと、ドンパさん!
名無しのドンパファンオカマ:きゃぁぁぁ!! 抱いてぇぇぇ!!
名無しのモブ1:さすがドンパさん! 俺達にできないことを平然とやってのける!
名無しのモブ2:そこに痺れる!
名無しのモブ3:憧れるぅぅぅ!!
==================

「俺の出る幕はないと思ったけど、お前が死んだら作戦が成功してもファンとしては失敗だしな。水差させてもらう。立てるな」
「まさか、ドンパさんがこんなに有名な人だとは。ありがとうございます、助けてくれて」

「別に隠してはねぇけどな。それに敬語はいらねぇ、同い年のおっさんだ」
「まじか、貫禄が違いすぎるんだが?」

 そういってドンパは信二を降ろす。
 
 おっさん二人は、にやっと笑って前を向く。

 二人が見据えるは、混沌龍こと、邪龍エンド。

「作戦もいよいよ大詰め。あと何分だ? 信二」
「あと五分!!」
「了解!」

 画面ごしで同じものを見てきた二人。

 今は肩を並べて同じ方向を共に見る。
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