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おっさん、エルフを救いたいー2

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「き、君は……なんで」

『さっきは助けてくれてありがとうございます!』

 そういって俺にお辞儀をする少女。
なんて礼儀正しい子なんだろうか、エルフって全員見るなり殺すぞって感じだったのに。

 幼女というよりは、少し背伸びしだした小学生高学年ぐらい。

 だがさすがはエルフ、あまりに美少女すぎて同じ生き物には見えないな。俺なんてただのおっさんなんだが。

『それを使え。どうせ一週間後には生贄になる子だ。お前と一緒に見張っている』

 なるほど、そういうことか。
どうやら一週間たっても成果がなければこの子もまた生贄として同じことをされるんだろう。
なら絶対に救わなくては。

「なぁ、お前の名前を教えてくれないか。俺はさっき言ったが信二だ」

『……ガルディア』

「そうか、ガルディア……必ず救うからな」

『だまれ……。俺はお前を信用しない。人間はいつも嘘をつき、我らエルフを傷つける。俺は絶対に人間を信用しない』

「…………そうか」

 エルフと人間の間には何か確執があるのだろうか。
この世界にも人間はいると聞いたし、おそらくは種族間の問題。
確かにこれほど美しいエルフ達だ、攫われてもおかしくはないかもしれない。

『ぶーーん! ただいま到着!』

 すると空から飛んできて、扉を開けたのは銀髪幼女状態のシルフィだった。
 
『シルフィも手伝うよ! シンジ!』

 シルフィには俺が嵐雷龍の加護を持つことを裏付けるために来てもらった。
ただの人間の言葉ではまったくもって届かないと思ったからだ。
まぁ結局届いたのかどうかわからないが、シルフィのおかげでエルフは間違いなく俺のことをただの人間とは思っていないだろう。

『なんだ、その女は』

「シルフィ……お前らのいう風神様だよ」

『なぁ!? ……確かに龍種は人化できると聞くが……お前一体何者だ? 我らと会話し、風神様とも親し気で』

「ただのおっさんだよ」

『……そうか。ん? おい、さっそく黒の呪いを受けたものが発見された。運ぶぞ』

「了解だ」

 すると一人の男性が運ばれてくる。
呻きながら苦しそう、症状は随分と進んでいるようだった。

 俺は配信を再開する。

==================
名無しのモブ1:再開まってました!!
名無しのモブ2:超絶気になるところで終わったけど、どうなった?
名無しのモブ3:今儀式止めて、一週間時間もらえたとこ
名無しのモブ4:発症者の治療、一人でやるって無茶すぎん?
名無しのモブ5:仕方ない、エルフの森に人間が入るのは許されないから。
名無しのモブ6:理解とシルフィちゃんの加護があるからこそできることだな
==================

 おそらく今から行うことはエルフのみんなにも配信されることだろう。

「よし……まずはその前に」

 俺は作戦の開始を電話で信一郎に伝えた。

「そうか、作戦は成功か! 電波が届くかだけが懸念だったが届いてよかった。抗生物質は足りるか?」

「いや、正直このペースで運ばれるなら足らないだろう。シルフィに取りに行ってもらうから追加で渡してくれるか? 今日の分は何とかなりそうだが」

 そうこう話している間にもう一人発症者が連れてこられた。

 このペースだと100人近くは行くだろう。

「了解した。すぐに準備させよう。しかし配信は今お祭り騒ぎだぞ。お前の必死な叫びがな。お人好しにもほどがある。だが……よくやった」

「はは、届いたならそれは加護のおかげだろうな」

「あぁ、それがいいだろう。では一週間頑張ってくれ。こちらもエルディアは必ず回復させて連れていく」

「頼む、じゃないと殺されちまう」

「任せておけ」

 そして俺は電話を切りすぐさま、発症者へと抗生物質の投与を開始した。
医師免許は持たないが、まぁ注射ぐらい異世界だし許してくれ。

『あの……私はなにをすれば』

「ソフィアは……じゃあ水と食料の準備をしてくれるか? 水分補給はこまめにさせてあげたい」

『わかりました! 頑張ります!』

『シルフィは! シルフィは!』

「よし、じゃあ二人を運んでくれるか? 並べていかないとスペースが足りないかもしれない。あと消毒も一緒にしていこう! シルフィには何度か日本町と往復してもらうが、ごめんな」

『任せて!! シルフィできる子!』

 それから俺達の一週間に及ぶ戦いは始まった。

 だが俺は治療というものを舐めていたのかもしれない。

 どんどん運び込まれる発症者。

 抗生物質を投与したとしてもすぐに良くなるわけではない。

……その数は三日目にして100を超えた。

「……はぁはぁ……ソフィア。休んでいいからな」

『いえ! 頑張ります!』
『シルフィ……ちょっと寝る……もうだめ……』

 丸二日俺は寝ていなかった。

 生理現象の対応や、水分補給、栄養補給。
ソフィアも頑張ってくれているが、すでに患者は100人近い。
たった三人、しかも幼女二人では回すのが精一杯だ

 一週間と大見え切ったが、正直体が持つかの方が心配だった。

 でも。

「助ける……みんな帰りを願う家族がいるんだろ。だから絶対助けてやる」

 なんとか助けたい。

 死んだらもう二度と帰ってこないのだから。





 それを同じく寝ずに見張っていた男、ガルディア。

 リーフ族というエルフ最大派閥の族長として、エルフ族を仕切る実質的リーダー。
発言力では長老と呼ばれる最古参のエルフには勝てないが、それでもエルフ達からの信頼は厚い。

 そして生贄に選ばれたソフィアと、エルディアの父だった。

 ガルディアはずっと配信を見ていた。

 必死になって寝ないで看病しているその男と娘を。

『なぜ……そこまで我らを……お前は一体なんなんだ……』

 ここまでくれば人間嫌いのガルディアといえど、わかる。

 本当に彼はエルフのために治療してくれているのだと。

 何かを注射しているようだが、少し改善しているようにすら見えた。

 ガルディアは昔を思い出していた。

 自分の妻を殺した人間、エルフは高く売れるからと奴隷商人に連れていかれそうな娘達を庇ってだ。

 そのおかげで二人の娘は助かったが、妻は死んだ。

 許せなかった。

 それだけじゃない、今までもずっと人間はエルフを狩り続けた。
だが連れていかれた先は最強軍事力を持つ帝国、勝てるわけもない。

 我らはこの森の中でしか帝国とは戦えない。

 だから人間は絶対に許してはいけない。

 人間をこの森に入れてはいけない。

 いつだって優しそうな顔で近づいて奴らは簡単に裏切ってくるのだから。

 だから心に決めていた、

 人間が何を言おうとも絶対に信用しないと。

 それが掟、それが歴史、それがエルフの総意。

 なのに。

「はぁはぁ……よし、投与を始めるぞ! くそ! 目がかすんできた……はぁはぁ。大丈夫、大丈夫だからな!」

 なぜお前の言葉はここまでこの胸に届くのだ。
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