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第1章 盗賊からの予告状
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結局、迷った末にレイピアはホットリープの自分の屋敷へ帰ることにした。
くだらない理由だったらすぐに出て行けばすむ。こんなスッキリとしない気持ちを抱えたまま次の冒険に出るよりは、ずっとましなはずだ。
ホットリープへの道のりはレイピアの泊まっている宿から馬車で3時間ほどかかった。
レイピアが乗っているのは乗合馬車で賃金が安い。代わりに幌がボロボロになっていて、木でできた座席のイスには座布団もなく座りごこちが悪かった。
けれど節約のためだ。仕方がない。
大陸の外れの方にあるホットリープは街の中心にたどり着くまで延々と畑ばかりが広がり、穏やかでのんびりとした印象がある。
畑はそろそろ始まる種まきのために次々と掘り起こされていた。田舎という言葉が似合うホットリープだったが、レイピアはこの光景が嫌いではない。
しかし同じような光景ばかりが続き飽きが出始め、朝が早かったことと春のやわらかい日差しも加わったおかげでうとうとと居眠りを始めてしまった。
ほどなくして御者に起こされた。門の前にさしかかった所で馬車から降りて別れを告げた。
2年ぶりに見る我が家は少しも変わっていなかった。
レイピアが屋敷を出た時期も今と同じような、温かく過ごしやすい季節だった。屋敷の建物はもちろんのこと、庭に咲く花々さえも全く同じ色取りだった。
レイピアの姿を見つけた庭師がハッと驚いた顔をするが、すぐに恭しく頭を下げてきた。その見知った顔の庭師の姿に安心感を覚える。
庭師の承諾を得ると、庭に咲いているフリージアの花の枝を手折り香水代わりに胸元に挿しいれた。そのフリージアは鮮やかな黄色で甘い香りを漂わせていた。
今のレイピアにできる精一杯のおしゃれだった。家を出てからは金銭的におしゃれなどする余裕もなく、先程乗った馬車だって乗合のボロボロ馬車だった。
家を出たときから覚悟はできていたけれど、やはり父親から蔑んだ目で見られるのは嫌だった。
長い廊下を真っ直ぐ進んだ先は父親の居る書斎。
途中レイピアを知っている何人かの使用人に声を掛け、父の手紙について話を聞こうとしたが、誰もが眉を寄せて「まずは旦那様にお会いください」と答えた。とりあえず父が病気だとか、そういった類の話ではないことに安堵を覚えた。
ためらいがちに扉をノックすると中から低いレイピアの父と思われる声が返ってきた。ふう、と深呼吸をした後で扉を開ける。
書斎の真ん中にある革張りの椅子に腰を掛けていた父親はレイピアの方をちらりと見た後、表情どころか眉1つ動かすこともなく、再び机の上にある紙に視線を落とした。
久々に会ったというのにその態度は何?
何の感動もないわけ?
もっともレイピアの方も久しぶりに会った父親に対して何の感動もなければ何の感情も湧いてこないが、あからさまにそういう態度を取られると腹が立つ。
口の端を怒りの形に歪めたが、きわめて冷静に努めようとした。
こんな男のことでいちいち腹を立てるなんてエネルギーが勿体無い、とそう思って。
「お久しぶりですね。一体用件は何なのです?」
何の感情もこもらない声で言った。
一刻も早くレイピアはこの部屋から、そして屋敷から出たいと思った。
やはり来るべきではなかったのだ。もう2度と顔も見たくない。
だから単刀直入に用件を聞く。
「この紙を見てくれ」
父親の方もレイピアと同じように何の感情もこもらない声でたった一言。それだけ言い放った。
2年という歳月を経てもお互いの溝は埋まってはいなかった。むしろますます深くなったのではないかとさえ感じる。
レイピアの父は黒髪を撫で付けて後ろへ流していて、スーツをきっちりと着こなしていた。お世辞にも愛想があるとは言えない男で、常に気難しい顔をしている。そしてその父は今、口を固く引き結んでいるためよりいっそう威圧感が感じられた。
父は何がしたいのだろう、と疑問に思いながらも素直にレイピアはその紙を受けとった。黒い紙に金色の文字で書かれた文面を見てレイピアはますます困惑した。
祝福の日にピンクダイヤモンドをいただきに参上します
――黒のピエロ団――
眉根を寄せて父親の方を見ると彼も険しい顔をしていた。
「なんです、これは」
まるで物語に出てくる怪盗がやるような予告状ではないか……。
「先週屋敷に送りつけられた。……予告状だ」
父の真面目な口調にレイピアは信じられない、と目を見張る。あまりにも衝撃を受けたので呆然として間抜けにもポカンと口を開けていたかもしれない。
真面目で石頭の父はこういった冗談をやるような人ではなかったから、おそらく本当に送りつけられたものなのだろう。
一体誰がこんな馬鹿らしいいたずらを?
そしてこんな物を父は信じているのだろうか?
「誰かのいたずらではないのですか?」
あまりにも馬鹿馬鹿しくてレイピアは額を押さえてため息をついた。
「お前は…冒険者のくせに黒のピエロ団を知らないのか?」
知らない。そんな話は一度だって聞いたことがない。
「何なのですか? その黒のピエロ団とは」
「今、全国各地を荒らしまわっている盗賊団のことだ。まさかこの領内に来るとはな……」
「その盗賊達はわざわざ予告状など出してから盗みに入るのですか?」
レイピアの問いに父親は頷く。
盗賊というよりこれでは怪盗ではないか…。
もう一度レイピアはその黒のピエロ団とやらが書いた予告状に目を向ける。
ピンクダイヤモンド―――。
その文字の部分で視線が止まる。
「あなたはピンクダイヤモンドを取られることを心配しているのですか。だから……私を?」
冒険者としていくらか名声の上がってきた自分にダイヤを守らせようとして、呼び寄せたというのか。
その意味を汲み取った父は、相変わらずむっつりと口を引き結んだまま頷いた。そこからは相変わらず何の感情も読み取ることはできない。
ピンクダイヤモンドは確かにレイピアの屋敷にあった。そしてそれは生前母親が1番大切にしていたもので、唯一の形見の品でもあった。
父は母の形見だから盗まれるのを恐れているのだろうか。それとも宝石として価値の高いピンクダイヤモンドだからだろうか。
どうしてもレイピアには後者の方に思えてならなかった。1度も母の命日に墓参りに行くことがなかった父だったから。
母が生きている頃ですら愛情を向けている姿を見たことがなかった。
そんな父のためにダイヤを守るのは腹立たしかった。けれどむざむざと盗賊風情に母の形見をくれてやる気にはならない。
レイピアにとってもそのダイヤは母の思い出の詰まっている大切なものなのだ。
「わかりました。私がピンクダイヤモンドを守ってみせます」
自分でも驚くほどすんなりとその言葉が出ていた。
これは父親の為ではなく、自分の為なのだ。
母親の思い出を守るための―――。
***
部屋に入ってからレイピアはごろん、とベッドの上に寝転んだ。
唯一、自分が心を落ち着けることのできる場所。2年ぶりの自分の部屋に自然と父と対面して緊張していた筋肉がリラックスしていった。
再び予告状に目をやる。
祝福の日とはおそらく明後日の父の誕生日のことだろう。誕生日を祝って夜会が行なわれる。その浮かれた雰囲気を狙って来るものと思われる。
「わざわざ予告状を出すとはねぇ」
よほどこの盗賊団は目立ちたがり屋か、自信過剰なのだろう。それか心底盗みという行為を楽しんでいるのかもしれない。そうでなければわざわざ捕まる危険を高くしてまでこんなことをするはずがないのだから。
いずれにしても盗賊の考えていることなど理解する気になれない。
すぐに屋敷の者に黒のピエロ団のことについて詳しく調べさせた。過去の犯行の手口などに目を通しておいた方がやりやすいと思ったからだ。
しかし、有名と言われている割にはその犯行について書かれている資料が少ないことにレイピアは顔をしかめた。ないよりはいくらかはましだろうだと思い、その資料に目を通す。
そこには黒のピエロ団のメンバーは複数いるらしいことや、狙われるのはいずれも金持ちの貴族だということが書かれてあった。
なるほど、どうりで資料が少ないはずだ。
たとえ被害にあったとしても体面を気にするあまり被害の届け出を出さない貴族が多いということか。
貴族の間で有名になっている盗賊団を現在は冒険者であるレイピアが知らないのも無理はなかった。
意外にもわくわくしている自分に気がついた。
形見を取られるかもしれないという不安はあるものの、それよりも自信過剰な盗賊を一目見てみたいと感じているのだ。
有名な盗賊団らしいので、捕まえることができたらレイピアの冒険者としての名声もぐんと上がるだろう。今後の活動にも影響があるに違いない。
手の中でもてあそんでいた宝石のケースをベッドの上に置いた。
黒のピエロ団が狙っているダイヤだ。あの後すぐに父の手からレイピアの手に渡されたのだった。
蓋を開けて中のピンクダイヤを取り出す。母の胸で光っていた頃とまるで同じ輝きにしばらく魅入っていた。
ピンクダイヤを身に付けている母親は宝石と同じくらい、いやそれ以上に美しかった。やさしくて綺麗で心があたたかい母はいつだってレイピアの自慢だった。
母のことを思い出してしまい、少しだけ悲しくなった。
母が死んでからもう5年も経っているというのに、未だに思い出すだけで辛くなる。楽しかった思い出よりも母を亡くしたあの日のことの方が記憶の奥底に根付いてしまってなかなか離れてくれないのだ。
絶対に守ってみせるわ!
レイピアはピンクダイヤに軽く口づけると、いつ盗賊がやってきても大丈夫なように身につけた。
そしてベッドのすぐ近く、いつでも手を伸ばせる位置に剣を置く。
下手にしまいこんでいるよりも剣の腕がある自分自身が身につけている方が何倍も安全だと感じたからだ。
結局、迷った末にレイピアはホットリープの自分の屋敷へ帰ることにした。
くだらない理由だったらすぐに出て行けばすむ。こんなスッキリとしない気持ちを抱えたまま次の冒険に出るよりは、ずっとましなはずだ。
ホットリープへの道のりはレイピアの泊まっている宿から馬車で3時間ほどかかった。
レイピアが乗っているのは乗合馬車で賃金が安い。代わりに幌がボロボロになっていて、木でできた座席のイスには座布団もなく座りごこちが悪かった。
けれど節約のためだ。仕方がない。
大陸の外れの方にあるホットリープは街の中心にたどり着くまで延々と畑ばかりが広がり、穏やかでのんびりとした印象がある。
畑はそろそろ始まる種まきのために次々と掘り起こされていた。田舎という言葉が似合うホットリープだったが、レイピアはこの光景が嫌いではない。
しかし同じような光景ばかりが続き飽きが出始め、朝が早かったことと春のやわらかい日差しも加わったおかげでうとうとと居眠りを始めてしまった。
ほどなくして御者に起こされた。門の前にさしかかった所で馬車から降りて別れを告げた。
2年ぶりに見る我が家は少しも変わっていなかった。
レイピアが屋敷を出た時期も今と同じような、温かく過ごしやすい季節だった。屋敷の建物はもちろんのこと、庭に咲く花々さえも全く同じ色取りだった。
レイピアの姿を見つけた庭師がハッと驚いた顔をするが、すぐに恭しく頭を下げてきた。その見知った顔の庭師の姿に安心感を覚える。
庭師の承諾を得ると、庭に咲いているフリージアの花の枝を手折り香水代わりに胸元に挿しいれた。そのフリージアは鮮やかな黄色で甘い香りを漂わせていた。
今のレイピアにできる精一杯のおしゃれだった。家を出てからは金銭的におしゃれなどする余裕もなく、先程乗った馬車だって乗合のボロボロ馬車だった。
家を出たときから覚悟はできていたけれど、やはり父親から蔑んだ目で見られるのは嫌だった。
長い廊下を真っ直ぐ進んだ先は父親の居る書斎。
途中レイピアを知っている何人かの使用人に声を掛け、父の手紙について話を聞こうとしたが、誰もが眉を寄せて「まずは旦那様にお会いください」と答えた。とりあえず父が病気だとか、そういった類の話ではないことに安堵を覚えた。
ためらいがちに扉をノックすると中から低いレイピアの父と思われる声が返ってきた。ふう、と深呼吸をした後で扉を開ける。
書斎の真ん中にある革張りの椅子に腰を掛けていた父親はレイピアの方をちらりと見た後、表情どころか眉1つ動かすこともなく、再び机の上にある紙に視線を落とした。
久々に会ったというのにその態度は何?
何の感動もないわけ?
もっともレイピアの方も久しぶりに会った父親に対して何の感動もなければ何の感情も湧いてこないが、あからさまにそういう態度を取られると腹が立つ。
口の端を怒りの形に歪めたが、きわめて冷静に努めようとした。
こんな男のことでいちいち腹を立てるなんてエネルギーが勿体無い、とそう思って。
「お久しぶりですね。一体用件は何なのです?」
何の感情もこもらない声で言った。
一刻も早くレイピアはこの部屋から、そして屋敷から出たいと思った。
やはり来るべきではなかったのだ。もう2度と顔も見たくない。
だから単刀直入に用件を聞く。
「この紙を見てくれ」
父親の方もレイピアと同じように何の感情もこもらない声でたった一言。それだけ言い放った。
2年という歳月を経てもお互いの溝は埋まってはいなかった。むしろますます深くなったのではないかとさえ感じる。
レイピアの父は黒髪を撫で付けて後ろへ流していて、スーツをきっちりと着こなしていた。お世辞にも愛想があるとは言えない男で、常に気難しい顔をしている。そしてその父は今、口を固く引き結んでいるためよりいっそう威圧感が感じられた。
父は何がしたいのだろう、と疑問に思いながらも素直にレイピアはその紙を受けとった。黒い紙に金色の文字で書かれた文面を見てレイピアはますます困惑した。
祝福の日にピンクダイヤモンドをいただきに参上します
――黒のピエロ団――
眉根を寄せて父親の方を見ると彼も険しい顔をしていた。
「なんです、これは」
まるで物語に出てくる怪盗がやるような予告状ではないか……。
「先週屋敷に送りつけられた。……予告状だ」
父の真面目な口調にレイピアは信じられない、と目を見張る。あまりにも衝撃を受けたので呆然として間抜けにもポカンと口を開けていたかもしれない。
真面目で石頭の父はこういった冗談をやるような人ではなかったから、おそらく本当に送りつけられたものなのだろう。
一体誰がこんな馬鹿らしいいたずらを?
そしてこんな物を父は信じているのだろうか?
「誰かのいたずらではないのですか?」
あまりにも馬鹿馬鹿しくてレイピアは額を押さえてため息をついた。
「お前は…冒険者のくせに黒のピエロ団を知らないのか?」
知らない。そんな話は一度だって聞いたことがない。
「何なのですか? その黒のピエロ団とは」
「今、全国各地を荒らしまわっている盗賊団のことだ。まさかこの領内に来るとはな……」
「その盗賊達はわざわざ予告状など出してから盗みに入るのですか?」
レイピアの問いに父親は頷く。
盗賊というよりこれでは怪盗ではないか…。
もう一度レイピアはその黒のピエロ団とやらが書いた予告状に目を向ける。
ピンクダイヤモンド―――。
その文字の部分で視線が止まる。
「あなたはピンクダイヤモンドを取られることを心配しているのですか。だから……私を?」
冒険者としていくらか名声の上がってきた自分にダイヤを守らせようとして、呼び寄せたというのか。
その意味を汲み取った父は、相変わらずむっつりと口を引き結んだまま頷いた。そこからは相変わらず何の感情も読み取ることはできない。
ピンクダイヤモンドは確かにレイピアの屋敷にあった。そしてそれは生前母親が1番大切にしていたもので、唯一の形見の品でもあった。
父は母の形見だから盗まれるのを恐れているのだろうか。それとも宝石として価値の高いピンクダイヤモンドだからだろうか。
どうしてもレイピアには後者の方に思えてならなかった。1度も母の命日に墓参りに行くことがなかった父だったから。
母が生きている頃ですら愛情を向けている姿を見たことがなかった。
そんな父のためにダイヤを守るのは腹立たしかった。けれどむざむざと盗賊風情に母の形見をくれてやる気にはならない。
レイピアにとってもそのダイヤは母の思い出の詰まっている大切なものなのだ。
「わかりました。私がピンクダイヤモンドを守ってみせます」
自分でも驚くほどすんなりとその言葉が出ていた。
これは父親の為ではなく、自分の為なのだ。
母親の思い出を守るための―――。
***
部屋に入ってからレイピアはごろん、とベッドの上に寝転んだ。
唯一、自分が心を落ち着けることのできる場所。2年ぶりの自分の部屋に自然と父と対面して緊張していた筋肉がリラックスしていった。
再び予告状に目をやる。
祝福の日とはおそらく明後日の父の誕生日のことだろう。誕生日を祝って夜会が行なわれる。その浮かれた雰囲気を狙って来るものと思われる。
「わざわざ予告状を出すとはねぇ」
よほどこの盗賊団は目立ちたがり屋か、自信過剰なのだろう。それか心底盗みという行為を楽しんでいるのかもしれない。そうでなければわざわざ捕まる危険を高くしてまでこんなことをするはずがないのだから。
いずれにしても盗賊の考えていることなど理解する気になれない。
すぐに屋敷の者に黒のピエロ団のことについて詳しく調べさせた。過去の犯行の手口などに目を通しておいた方がやりやすいと思ったからだ。
しかし、有名と言われている割にはその犯行について書かれている資料が少ないことにレイピアは顔をしかめた。ないよりはいくらかはましだろうだと思い、その資料に目を通す。
そこには黒のピエロ団のメンバーは複数いるらしいことや、狙われるのはいずれも金持ちの貴族だということが書かれてあった。
なるほど、どうりで資料が少ないはずだ。
たとえ被害にあったとしても体面を気にするあまり被害の届け出を出さない貴族が多いということか。
貴族の間で有名になっている盗賊団を現在は冒険者であるレイピアが知らないのも無理はなかった。
意外にもわくわくしている自分に気がついた。
形見を取られるかもしれないという不安はあるものの、それよりも自信過剰な盗賊を一目見てみたいと感じているのだ。
有名な盗賊団らしいので、捕まえることができたらレイピアの冒険者としての名声もぐんと上がるだろう。今後の活動にも影響があるに違いない。
手の中でもてあそんでいた宝石のケースをベッドの上に置いた。
黒のピエロ団が狙っているダイヤだ。あの後すぐに父の手からレイピアの手に渡されたのだった。
蓋を開けて中のピンクダイヤを取り出す。母の胸で光っていた頃とまるで同じ輝きにしばらく魅入っていた。
ピンクダイヤを身に付けている母親は宝石と同じくらい、いやそれ以上に美しかった。やさしくて綺麗で心があたたかい母はいつだってレイピアの自慢だった。
母のことを思い出してしまい、少しだけ悲しくなった。
母が死んでからもう5年も経っているというのに、未だに思い出すだけで辛くなる。楽しかった思い出よりも母を亡くしたあの日のことの方が記憶の奥底に根付いてしまってなかなか離れてくれないのだ。
絶対に守ってみせるわ!
レイピアはピンクダイヤに軽く口づけると、いつ盗賊がやってきても大丈夫なように身につけた。
そしてベッドのすぐ近く、いつでも手を伸ばせる位置に剣を置く。
下手にしまいこんでいるよりも剣の腕がある自分自身が身につけている方が何倍も安全だと感じたからだ。
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