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10.嫌われている状態からは抜け出せない
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以前の男二人組に襲われかけたこととシドから放たれた言葉にショックを受けた僕はほとんど眠れないまま朝を迎えた。
明け方までぐすぐすと泣き続け、腫れぼったくなった重い目を擦りながらベッドから起き上がる。
襲われかけたことよりもずっとシドの言葉の方に心が痛む。
訓練を通してシドの雰囲気が随分と柔らかくなったような気がしていたのに、ここへ来て再度の拒絶を受けた。
白鷲騎士団へ行けと、もうここには留まって欲しくないと言った。
昨夜のことでかなり迷惑をかけてしまったらしい。
シドに嫌われている状態からはどうあっても、何をやっても改善できない。そのことを昨夜ハッキリと突き付けられたのだ。
体を起こしたことで肩から滑り落ちてしまったシドの外套を胸に抱え直す。すうっとミントの様な爽やかな香りがした。胸を焦がすほどの思いが募ってぽろんと落ちてきた涙がシドの外套に染み込んだ。
シドにはああ言われてしまったけれど、僕は黒狼騎士団を去るつもりなんてない。訓練の時間になったらシドと一度話し合ってみようと思う。もうここに留まるなって言われるのは分かっているけれど、どうしてここに残りたいのか自分の気持ちを伝えてみるのだ。最初のきっかけはシドを追いかけて来たなんて言えるはずもないから、もちろんその辺りの想いは隠して。
その日の仕事が終了した後、訓練所でシドを待った。
いつもの時間になってもシドはなかなか現れなくて、代わりに訓練所を訪れたのはラルだった。明らかに怒った様子のラルに「あの…シドは……?」とおどおどと問い掛ける。
「いい加減シドを解放してやれよ」
ラルは僕をギラギラとした目で睨みつけた。その剣幕にビクッと竦み上がる。
「お前のワガママでシドがどれほど迷惑を被っているのかまだ気付かないのか!? ただでさえ隊長の業務がキツイってのにお前の面倒まで見させられてあいつ、疲れ切ってるじゃないか。今日なんて一度ふらついて階段を踏み外しそうになっていたんだぞ。もう訓練は終わりだ、あいつは宿舎に帰す」
ラルの言葉に僕は息を呑む。シドの体調が悪かったなんてちっとも気付かなかった。どうしたら黒狼騎士団に残れるかって僕は今日一日自分のことばかりで頭がいっぱいだったからだ。
「シド……シドは、大丈夫なのか」
「は? 今更シドの心配? これまで散々シドに嫌がらせをしてきたお前が?」
ラルにも誤解されているようだ。昔から僕がシドに嫌がらせをしてきたのだと。
違う、違うのに。違うと否定しようとしたけれど、喉が詰まったみたいになって声が出てこない。
だって、知っているんだ。
いくら僕が違うと言ったところで、結局は信じてもらえない。シドに嫌われたままであるように、どうやったってこの状態から抜け出すことなんてできない。
「いい加減シドに嫌われているって分かれよ。これ以上あいつに付きまとうな!」
ピシャッと頬を叩かれたような気分だった。
「よせ、ラル!」
それはシドとミハイルが訓練所に駆け込んでくるのとほぼ同時の出来事だった。
ラルの言葉は友人のシドを思ってのものだ。僕のワガママで疲弊していくシドを見ていられなかったのだろう。
それに比べて僕の身勝手な想いはいつだってシドを困らせることしかできない。僕がもっと早く、シドへの想いを断ち切っていればこんなことにはならなかった。
迷惑をかけたかったはずじゃないのに。
涙でぼやける視界でシドを見上げた。ハッとシドが息を呑む気配が伝わってくる。
「ごめん、ごめん……シド、今まで迷惑かけて…ごめん……っ」
今すぐシドの前から消えてしまいたくて、訓練所から飛び出した。がむしゃらに街の中を駆けて行く。
大トカゲに襲われて左肩を怪我した僕は傷口に細菌が入ったことで発熱してしまい、二日ほど意識を失っていたらしい。
目を覚ました時「あの子は!? 僕を助けてくれた子に会わせて」とメイドに詰め寄った。熱がまだ引いていないせいもあって、僕はとても興奮していた。大トカゲの腹を斬って僕を助けてくれた子―シドと言っただろうか、あの子にお礼を伝えたいと思ったのだ。
あの子は僕の英雄だ!
本当にすごかった。とても格好良かった。
彼に会って、友達になって欲しいと伝えるつもりだった。
どんなものが好きなのかとか、他愛ない話でいいんだ。もっとあの子と話がしたいと思った。
しかしメイドが連れて来たのはシドではなく母だった。
僕のとても興奮した様子に気付くなり母は顔付きを険しくさせた。
「そのように感情を顕わにして、みっともない。貴族にあるまじきことです。いいですか、あの子は下働きの者なのです。決して友人などにはなれません。貴族には貴族の、下働きには下働きの役割があってそこを超えることはできないのです」
「母様……。でも、僕は…あの子と話がしてみたいのです」
「なりません。あなたが貴族であることを弁えず振舞うつもりなら、シドはここに置いておけません。他所へやることにします。ああ、元にいた場所に捨ててくるという方法もありますね」
母の言葉に体が冷たくなる。母がそうすると言ったら本当に実行すると知っているからだ。
「止めてください! 弁えます、きちんとします。だからシドを連れて行かないでください!」
貴族らしく振舞うと母に誓った。それからの僕は感情を抑え込む努力をした。
数日後、ようやくシドと対面することが許された。
監視のためなのかメイドも同席していた。僕はシドに「あの時はご苦労だった」とそれだけを伝えた。あの時はありがとう、君はすごく強いんだな。どこかで剣術を習ったのか? 良かったら僕と友達になって欲しい。そう話しかけたい気持ちを抑え込んで。
僕の振る舞いは屋敷の中では筒抜けだから、両親の求める完璧を目指す。
シドがどこかへ連れて行かれてしまうなんて、引き離されてしまうなんて絶対に嫌だったから。そんなことになるぐらいだったら友達になれなくても、親しく会話を交わせなくても構わない。僕が我慢すればいいだけのことなんだから。
シドと唯一会話を交わせるのが、彼に命令をするその時だけ。それだけでも僕は十分過ぎるほど幸せだった。
あの時は嫌われているなんて知りもせず、本当に……愚かだった。
想うことすら迷惑になるのだから、もういい加減この気持ちに諦めをつける時だ。これ以上シドを煩わすことはできない。
家の中に駆け込んで、後ろ手で扉を閉めようとしてガン、と何かが扉の隙間に挟まった音が響いた。確認のため振り向いて、シドが隙間に足を挟んで閉まらないようにしている姿を目にしてヒッと息を呑む。
何故、どうしてシドが追いかけて来たんだ!?
「な…んで、シド……」
「ここを開けてくれ、お前と話がしたい」
同じように全速力でここまで走って来たらしいシドは荒く息を吐きながらも、扉を押さえる手を緩めようとしない。
シドは僕と話がしたいと言うが、僕は首を何度も横に振る。扉を開けさせまいと必死で押さえ込む。
「嫌だ……っ」
もうこれ以上黒狼騎士団を辞めろとか、シドの口から僕を嫌っている言葉を聞いたら今度こそこの心は粉々になってしまう。だからシドとの話し合いを拒絶した。
「僕にはもう黒狼騎士団しか無いんだ。ここに来て、初めて僕は自分が生きているって実感できた。だから、辞めろなんて言わないでくれ!」
僕から居場所を取り上げないで!
そんな必死の訴えも虚しく、シドと僕の力の差は歴然で体が引っ張られてぐいっと大きく扉が開く。慌ててノブから手を離して後退する。
部屋の中へ入ってくる黒づくめのシドの姿はまるで死刑執行人だ。
僕の独り善がりな想いを断罪しに来たのだ。カタカタと身を震わせて奥へ、奥へ後退りする。
「あぁ…来ないで……」
腕を掴まれ、それを振り払おうとする僕と、押し止めようとするシドが揉み合いになる。
とうとう痺れを切らしたシドが力づくという強硬手段に出たのだ。僕はここから強制的に連れ出されて、屋敷へと戻されてしまうのかもしれない。
「や、嫌だ……っ!!」
ぼろぼろ涙が溢れ出てくる。カクンと膝が折れて後ろへと倒れ込みそうになったところでシドによって支えられる。
「君に嫌われてるのも分かってる! もう二度と迷惑掛けないから……っ、話しかけたりしないし、視界にも入らないようにする。だから、だから……あっ!」
言葉は最後まで続かなかった。きつく抱き締められたせいで。
拘束するためではないと僕にも分かる。何故なら後頭部に添えられたシドの手が震えていたからだ。
耳元にシドの声が落ちてくる。
「なあ、それ……自惚れてもいいの? お前が俺のこと好きだって言ってるように聞こえるんだけど」
肩口に埋められていたシドの顔が持ち上がって正面から視線が絡み合う。涙で滲む視界の中に映ったシドの表情が切なげに揺らめいていた。
ミハイルに以前「君はシドが好きだったんだね」と言われた時に抱いていたこの気持ちは憧れだと思っていた。英雄に対する憧れや尊敬。ずっと、ずっとそう思っていた。
だけど、この気持ちが憧れという言葉だけではとても表しきれないことを僕はもう知っている。
シドを想うと胸が切なくて、焦がれて……それでもやっぱり幸せで。
そんな気持ちを表す想いは一つしかない。
「好きだ……シドのことが、ずっと前から」
僕が抱いていた想いは、愛だった。
後頭部に手を添えられたまま、シドの唇が僕のそれに合わさる。
驚いてぽろんと涙が落っこちる。
唇を一旦離したシドは僕の目元を拭うと「俺もお前が好きだ」って囁いた。
明け方までぐすぐすと泣き続け、腫れぼったくなった重い目を擦りながらベッドから起き上がる。
襲われかけたことよりもずっとシドの言葉の方に心が痛む。
訓練を通してシドの雰囲気が随分と柔らかくなったような気がしていたのに、ここへ来て再度の拒絶を受けた。
白鷲騎士団へ行けと、もうここには留まって欲しくないと言った。
昨夜のことでかなり迷惑をかけてしまったらしい。
シドに嫌われている状態からはどうあっても、何をやっても改善できない。そのことを昨夜ハッキリと突き付けられたのだ。
体を起こしたことで肩から滑り落ちてしまったシドの外套を胸に抱え直す。すうっとミントの様な爽やかな香りがした。胸を焦がすほどの思いが募ってぽろんと落ちてきた涙がシドの外套に染み込んだ。
シドにはああ言われてしまったけれど、僕は黒狼騎士団を去るつもりなんてない。訓練の時間になったらシドと一度話し合ってみようと思う。もうここに留まるなって言われるのは分かっているけれど、どうしてここに残りたいのか自分の気持ちを伝えてみるのだ。最初のきっかけはシドを追いかけて来たなんて言えるはずもないから、もちろんその辺りの想いは隠して。
その日の仕事が終了した後、訓練所でシドを待った。
いつもの時間になってもシドはなかなか現れなくて、代わりに訓練所を訪れたのはラルだった。明らかに怒った様子のラルに「あの…シドは……?」とおどおどと問い掛ける。
「いい加減シドを解放してやれよ」
ラルは僕をギラギラとした目で睨みつけた。その剣幕にビクッと竦み上がる。
「お前のワガママでシドがどれほど迷惑を被っているのかまだ気付かないのか!? ただでさえ隊長の業務がキツイってのにお前の面倒まで見させられてあいつ、疲れ切ってるじゃないか。今日なんて一度ふらついて階段を踏み外しそうになっていたんだぞ。もう訓練は終わりだ、あいつは宿舎に帰す」
ラルの言葉に僕は息を呑む。シドの体調が悪かったなんてちっとも気付かなかった。どうしたら黒狼騎士団に残れるかって僕は今日一日自分のことばかりで頭がいっぱいだったからだ。
「シド……シドは、大丈夫なのか」
「は? 今更シドの心配? これまで散々シドに嫌がらせをしてきたお前が?」
ラルにも誤解されているようだ。昔から僕がシドに嫌がらせをしてきたのだと。
違う、違うのに。違うと否定しようとしたけれど、喉が詰まったみたいになって声が出てこない。
だって、知っているんだ。
いくら僕が違うと言ったところで、結局は信じてもらえない。シドに嫌われたままであるように、どうやったってこの状態から抜け出すことなんてできない。
「いい加減シドに嫌われているって分かれよ。これ以上あいつに付きまとうな!」
ピシャッと頬を叩かれたような気分だった。
「よせ、ラル!」
それはシドとミハイルが訓練所に駆け込んでくるのとほぼ同時の出来事だった。
ラルの言葉は友人のシドを思ってのものだ。僕のワガママで疲弊していくシドを見ていられなかったのだろう。
それに比べて僕の身勝手な想いはいつだってシドを困らせることしかできない。僕がもっと早く、シドへの想いを断ち切っていればこんなことにはならなかった。
迷惑をかけたかったはずじゃないのに。
涙でぼやける視界でシドを見上げた。ハッとシドが息を呑む気配が伝わってくる。
「ごめん、ごめん……シド、今まで迷惑かけて…ごめん……っ」
今すぐシドの前から消えてしまいたくて、訓練所から飛び出した。がむしゃらに街の中を駆けて行く。
大トカゲに襲われて左肩を怪我した僕は傷口に細菌が入ったことで発熱してしまい、二日ほど意識を失っていたらしい。
目を覚ました時「あの子は!? 僕を助けてくれた子に会わせて」とメイドに詰め寄った。熱がまだ引いていないせいもあって、僕はとても興奮していた。大トカゲの腹を斬って僕を助けてくれた子―シドと言っただろうか、あの子にお礼を伝えたいと思ったのだ。
あの子は僕の英雄だ!
本当にすごかった。とても格好良かった。
彼に会って、友達になって欲しいと伝えるつもりだった。
どんなものが好きなのかとか、他愛ない話でいいんだ。もっとあの子と話がしたいと思った。
しかしメイドが連れて来たのはシドではなく母だった。
僕のとても興奮した様子に気付くなり母は顔付きを険しくさせた。
「そのように感情を顕わにして、みっともない。貴族にあるまじきことです。いいですか、あの子は下働きの者なのです。決して友人などにはなれません。貴族には貴族の、下働きには下働きの役割があってそこを超えることはできないのです」
「母様……。でも、僕は…あの子と話がしてみたいのです」
「なりません。あなたが貴族であることを弁えず振舞うつもりなら、シドはここに置いておけません。他所へやることにします。ああ、元にいた場所に捨ててくるという方法もありますね」
母の言葉に体が冷たくなる。母がそうすると言ったら本当に実行すると知っているからだ。
「止めてください! 弁えます、きちんとします。だからシドを連れて行かないでください!」
貴族らしく振舞うと母に誓った。それからの僕は感情を抑え込む努力をした。
数日後、ようやくシドと対面することが許された。
監視のためなのかメイドも同席していた。僕はシドに「あの時はご苦労だった」とそれだけを伝えた。あの時はありがとう、君はすごく強いんだな。どこかで剣術を習ったのか? 良かったら僕と友達になって欲しい。そう話しかけたい気持ちを抑え込んで。
僕の振る舞いは屋敷の中では筒抜けだから、両親の求める完璧を目指す。
シドがどこかへ連れて行かれてしまうなんて、引き離されてしまうなんて絶対に嫌だったから。そんなことになるぐらいだったら友達になれなくても、親しく会話を交わせなくても構わない。僕が我慢すればいいだけのことなんだから。
シドと唯一会話を交わせるのが、彼に命令をするその時だけ。それだけでも僕は十分過ぎるほど幸せだった。
あの時は嫌われているなんて知りもせず、本当に……愚かだった。
想うことすら迷惑になるのだから、もういい加減この気持ちに諦めをつける時だ。これ以上シドを煩わすことはできない。
家の中に駆け込んで、後ろ手で扉を閉めようとしてガン、と何かが扉の隙間に挟まった音が響いた。確認のため振り向いて、シドが隙間に足を挟んで閉まらないようにしている姿を目にしてヒッと息を呑む。
何故、どうしてシドが追いかけて来たんだ!?
「な…んで、シド……」
「ここを開けてくれ、お前と話がしたい」
同じように全速力でここまで走って来たらしいシドは荒く息を吐きながらも、扉を押さえる手を緩めようとしない。
シドは僕と話がしたいと言うが、僕は首を何度も横に振る。扉を開けさせまいと必死で押さえ込む。
「嫌だ……っ」
もうこれ以上黒狼騎士団を辞めろとか、シドの口から僕を嫌っている言葉を聞いたら今度こそこの心は粉々になってしまう。だからシドとの話し合いを拒絶した。
「僕にはもう黒狼騎士団しか無いんだ。ここに来て、初めて僕は自分が生きているって実感できた。だから、辞めろなんて言わないでくれ!」
僕から居場所を取り上げないで!
そんな必死の訴えも虚しく、シドと僕の力の差は歴然で体が引っ張られてぐいっと大きく扉が開く。慌ててノブから手を離して後退する。
部屋の中へ入ってくる黒づくめのシドの姿はまるで死刑執行人だ。
僕の独り善がりな想いを断罪しに来たのだ。カタカタと身を震わせて奥へ、奥へ後退りする。
「あぁ…来ないで……」
腕を掴まれ、それを振り払おうとする僕と、押し止めようとするシドが揉み合いになる。
とうとう痺れを切らしたシドが力づくという強硬手段に出たのだ。僕はここから強制的に連れ出されて、屋敷へと戻されてしまうのかもしれない。
「や、嫌だ……っ!!」
ぼろぼろ涙が溢れ出てくる。カクンと膝が折れて後ろへと倒れ込みそうになったところでシドによって支えられる。
「君に嫌われてるのも分かってる! もう二度と迷惑掛けないから……っ、話しかけたりしないし、視界にも入らないようにする。だから、だから……あっ!」
言葉は最後まで続かなかった。きつく抱き締められたせいで。
拘束するためではないと僕にも分かる。何故なら後頭部に添えられたシドの手が震えていたからだ。
耳元にシドの声が落ちてくる。
「なあ、それ……自惚れてもいいの? お前が俺のこと好きだって言ってるように聞こえるんだけど」
肩口に埋められていたシドの顔が持ち上がって正面から視線が絡み合う。涙で滲む視界の中に映ったシドの表情が切なげに揺らめいていた。
ミハイルに以前「君はシドが好きだったんだね」と言われた時に抱いていたこの気持ちは憧れだと思っていた。英雄に対する憧れや尊敬。ずっと、ずっとそう思っていた。
だけど、この気持ちが憧れという言葉だけではとても表しきれないことを僕はもう知っている。
シドを想うと胸が切なくて、焦がれて……それでもやっぱり幸せで。
そんな気持ちを表す想いは一つしかない。
「好きだ……シドのことが、ずっと前から」
僕が抱いていた想いは、愛だった。
後頭部に手を添えられたまま、シドの唇が僕のそれに合わさる。
驚いてぽろんと涙が落っこちる。
唇を一旦離したシドは僕の目元を拭うと「俺もお前が好きだ」って囁いた。
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