僕の転生した世界があまりにも生々しい件

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第2章 トーキョー編 目指せ! モンスター・ゼロ!

第22話 カミズル流奥義、開眼(?)

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第22話 カミズル流奥義、開眼(?)


 遠征3日目。
 今日はいよいよ、北フナバシ採掘場跡に突入する日である。
 たぶん、夜中に僕を襲って性欲を発散できたのが原因だと思うが、今日のもえちゃんは元気一杯だった。
「今日こそは敵地に突入ね。ここで、あたしの新しい必殺技を披露してあげるわ!」
 朝一番、僕たちの前でそんなことを宣わったもえちゃんは、近くの木に向かって、何となく気合いを込めるような動作を始めた。これは、もしかして・・・・・・?
「かーめーはーめー、はーーー!!」
 もえちゃんが、どこかの漫画で見たような決めポーズと台詞を放つと、もえちゃんの掌から波動のようなものが放たれたが、その威力は弱く、波動が当たった木を倒すことも出来ていない。
「あれ? おかしいわね。こんな威力しか無いの?」
「もえちゃん、その技って、要するに『気功弾』のスキルを使ったんでしょ? ちゃんと、スキルのレベルは上げた?」
「上げてないわよ。使ってみたの今回が初めてだもの」
「どんなスキルでも、習得してからしばらく練習して、スキルレベルを最低10くらいに上げないと役に立たないよ。それに、技を繰り出すときの決め台詞とかも、いい加減に漫画のパクリは止めた方がいいよ」
「でも、決め台詞が無いと格好悪いじゃ無いの」
「それだったら、もえちゃんオリジナルの決め台詞を決めれば良いと思うけど」
「あたしのオリジナルって言われても、どんな名前を付ければいいのか見当が付かないわよ。それなら一緒に考えてよ」
 こうしたわけで、僕たちは戦いに出発する前に、もえちゃんオリジナルの技名や決め台詞を一緒に考えることになった。


「ふっ。我に策あり。この無限なる叡智の持ち主、魔眼の女王バロール様が、とっておきの名前を付けて進ぜよう」
 何か思い付いたらしい瑞穂が、勿体ぶった口調でそんなことを言ってきた。
「がきんちょの付ける名前じゃあ、どうせろくなもんじゃないでしょうけど、一応聞いてあげるわよ」
「では、聞かせて進ぜよう。もえ姉に相応しい必殺技と言えば、『必殺ゴリラアタック』に勝るものはあるまい」
「誰がゴリラよ!? いつまでそのネタを引きずる気よ!?」
「瑞穂、もえちゃんを煽るのは止めなさい! もえちゃんも、瑞穂の言うことににいちいち怒ってたらきりが無いよ」
 僕が、怒り狂うもえちゃんを適当に宥めた。なお、もえちゃんは顔立ちも綺麗で背もあまり高い方では無く、黙っていれば十分可愛い美少女で通るのだが、その恐ろしい戦いぶりは、まさしくゴリラそのものである。最近はこのフナバシ近辺でも、もえちゃんはゴリラ呼ばわりされ、敵味方から恐れられる存在になりつつある。
「むう、それがダメなら次善の案を出して進ぜよう。ずばり、『必殺×××アタック』はどうであろう」
「瑞穂、その三文字は決して使っちゃダメ! その三文字が入っていると投稿できないし、あの疫病に関する作品だと判断されたら、この世界そのものが強制終了になりかねないから!」
 とんでもないことを口走る瑞穂を、僕が慌てて止めた。
「・・・・・・? 我が眷属よ、×××とは、本来『王冠』という意味であって、我の考えた必殺技の名前に、あの疫病との関係は特に無いぞ?」
「それは分かってるけど、あの疫病に関する記事かどうかは結構機械的に判断されちゃうから、例えあの疫病に関するものじゃなくても、その三文字を使っただけでアウトになりかねないの!」
「むう、厄介な・・・・・・。それでは我が眷属よ、何か対案はあるのか?」
「そうだね・・・・・・。もえちゃんって、上水流(かみずる)っていう独特な響きのある名字だから、技の名前にもこれを使った方が良いかな。『上水流流(かみずるりゅう)、奥義』みたいな感じで」
「何となく格好良いですねー。『上水流流、奥義、雪月花』なんてどうでしょうか?」
「うーん、みなみちゃん、『雪月花』は何となく綺麗だけど、あたしのイメージじゃないわよ。とりあえず、『上水流流奥義、爆裂拳』で良いわ」
「まあ、当のもえちゃんがそれでいいなら、それで決まりじゃない?」
 こんな、どうでも良いような感じの議論を経て、もえちゃんの必殺技名は、とりあえず連続パンチが『上水流流奥義、爆裂拳』、気功弾の方は『上水流流奥義、波動砲』に決まった。そして、勝ったときの決め台詞は、「ふふん、これがあたしの実力よ」に決まった。もっとも、『上水流流奥義』って、読むと格好良いけど、漢字で書くと『流』が2つ続いて紛らわしいので、以後は『カミズル流奥義』と書くことにする。
 最初はしょぼ過ぎる威力だった波動砲も、何度か練習するとスキルの熟練度レベルが上がって、それなりの威力が出るようになった。もっとも、単なる練習で上がるのはレベル10くらいまでなので、後は実戦で鍛える必要がある。
 なお、もえちゃんはINTが低すぎるため魔法を使えず、遠距離攻撃の手段がないことが悩みの種になっており、これを補うため時々弓矢の練習をしていたものの、DEXが低いため命中率が低くあまり使い物にならなかった。波動砲(スキルの正式名称は気功弾)は、効果がDEXではなくVIT依存なので、スキルレベルを上げていけば、もえちゃんにとって有効な遠距離攻撃技として重宝することになるだろう。

◇◇◇◇◇◇

 もえちゃんの技名問題が解決した後、僕たちはいよいよ採掘場跡に向けて出発したが、僕たちが討伐にやってくるのを分かっていたためか、盗賊たちはかなり厳重に守りを固めていた。
「うーん、これはちょっと厄介ね。敵の数は盗賊とゴブリンたちを合わせて5千以上、しかも柵で守りを固めているわ」
「しかも、ちょうど森を抜けた場所に、半円形の陣形で守りを固めているから、正面から行くと、三方向から弓矢の一斉射撃を受けることになる。いくら僕たちでも、この陣形に正面から突っ込んでいくのは無謀過ぎるね」
 今まで、フナバシ方面の各地にアジトを構えていた盗賊たちを数え切れないほど倒してきた僕たちだが、こういう作戦を取ってきた敵は今回が初めてである。もはや、盗賊というより、ちょっとした軍隊に近い。
「きよたかさん、どうするんですか? 正面から攻めるのは無謀だというのは分かりますが、迂回路などは特に無いみたいですよ?」
「みなみちゃん。無いものは作ればいいんだよ」
 僕はそう言って、方天画戟モードにしたアテナイス・ソードで、森の木々を次々と切り倒して行った。足場は悪いが、邪魔な木々を次々と切り倒していけば、森の中でも進めないことは無い。
「みなみちゃん、、瑞穂。僕たちに『ヘイスト』掛けて。このまま進んで、敵の右翼に突撃を掛ける」
「は、はい! 分かりました!」
「・・・・・・きよたんって、時々無茶なことやるのね。あたしもその発想は無かったわ」
「戦いに勝つには、敢えて無茶なことをやるのも、時には必要なんだよ」
 一例を挙げれば、第二次世界大戦でヒトラーのフランス侵攻作戦が成功したのは、戦車での進軍が困難とされるアルデンヌの森林地帯を敢えて戦車中心の装甲師団に突破させ、これが英仏連合軍にとって奇襲となったのが要因とされている。そして目の前の敵陣も、正面からの攻撃に対しては万全の備えをしているが、それ以外の方向から攻撃を受けることを全く想定していない。これなら勝てる!
「このまま森を突っ切り、敵の右翼に向かって突撃する! みんなで力を合わせれば、絶対大丈夫!」
 愛馬カーヒラ君に騎乗した僕は、後方にいるみなみちゃんや瑞穂に『ヘイスト』で速度を上げてもらい、ホーリーカッターやアテナイス・ソードで邪魔な木々を切り倒し、強引に森を突っ切った勢いで、そのまま敵の右翼に突撃した。
 カーヒラ君は、道の良い場所なら全身武装状態でも時速40kmくらい、『ヘイスト』を掛けてもらうと時速80kmくらい出せる名馬なのだが、強引に森を切り開いた悪路だと、速度は全力疾走のもえちゃんとあまり変わらない。
 そして、僕より一足先に敵陣へ突っ込んだもえちゃんは、先ほど名前が決まったばかりの必殺技を繰り出した。
「喰らいなさい! カミズル流奥義、ばくれつけーん!!」
 もえちゃんお得意の爆裂拳、要するに連続パンチ攻撃は、密集している敵なら十数人くらい一撃で吹っ飛ばしてしまうほどの威力がある。しかも敵の盗賊たちは、僕たちが正面の街道から攻めてくることしか想定しておらず、武装は弓矢が中心で、全く意図していなかったらしい僕たちの側面攻撃に慌てふためいている。これでは、いくら人数の差があっても、僕やもえちゃんに対抗できるはずは無かった。
 僕ともえちゃんが、逃げ惑う敵を次々となぎ倒しながら、敵の右翼に続いて中央部を壊滅させると、残る左翼に陣取っていた盗賊たちは、戦わずに白旗を上げて降伏することを選び、戦闘は決着が付いた。

「何よ、ずいぶんあっけなかったわね」
 もえちゃんが若干不満そうに愚痴をこぼしているとおり、終わってみれば今回の戦いは楽勝だった。むしろ、一昨日や昨日戦った盗賊団やモンスターたちの方が、よほど骨のある連中だったような気がする。
 もっとも、僕やもえちゃんだけで数千もの敵を片付けられるのは、みなみちゃんや瑞穂の使う『ヘイスト』の効果も大きい。一般的なRPGの世界で素早さを上げる魔法は、ターン制のバトルだと行動の順番が早くなる程度であまり効果は無いが、リアルタイムバトルになると、時間あたりの行動回数が増えるので大きな効果を発揮する。そして、本物のバトルでは、攻撃の命中確率や回避成功率も大きく上がるので、さらに絶大な効果を発揮する。
 みなみちゃんや瑞穂が習得した『ヘイスト』は、最初の頃は素早さを若干上げてくれる程度の効果しか無かったが、事あるたびに使いまくっているので熟練度レベルがどんどん上がっており、今では素早さを通常の2倍くらいに上げてくれる。そして、素早さが通常の2倍になれば、他の要素が同レベル以下の敵相手なら圧勝できるし、多少格上の相手にも対抗できる。訓練生時代、タマキ先生は『ヘイスト』は使い込めば最強のスキルになると力説していたが、今ではその効果をはっきりと実感できる。
 しかも、僕やもえちゃんのAGI(素早さ)は、二人とも既に150を超えている。基本職の冒険者はおろか、僕たちと同レベル程度の上級職冒険者でもAGIが100を超えている者は珍しいという世界の中、『ヘイスト』で実質的なAGIを300以上にまで高めた僕たちが相手では、いくら数が多くても容易には対抗できない。予期していない方向からの奇襲となれば尚更である。

◇◇◇◇◇◇

「キヨタカ様、あらかじめご指示のあったとおり、キヨタカ様と戦う意思のない者たちは、武器を捨てて降伏するよう取り計らいました」
「ご苦労。確か、エフィと言ったかな?」
「はい、シライ村のエフィです。一昨日は、命を助けて頂いてありがとうございました」
 このエフィは、一昨日に壊滅させた盗賊団の砦で指揮を執っていた女性で、盗賊たちの幹部にしては珍しく、勝ち目がないと分かると、ろくに戦おうともせずあっさり降伏してきた。そこで、命を助ける代わりに、自分たちのボスのところへ帰らせ、盗賊団のうち僕たちと戦う意思のない者は、僕たちが攻めてきたら武器を捨てて降伏するよう密かに説得工作をするよう命じたのだが、どうやら上手くいったらしい。見た感じだと、降伏してきた盗賊たちの数はかなり多く、おそらく1000人前後にのぼるようだ。
 フナバシ・タウンは人口不足にも苦しめられており、また盗賊団に捕まってやむを得ず盗賊団の一員になった者も少なく無いため、盗賊たちでも降伏してきた者は許す方針になっていることは、フナバシ・タウンのノダ町長とも打ち合わせ済みである。
「きよたん、そいつたち、盗賊団の裏切り者なの?」
「もえちゃん、極秘事項だから今まで説明しなかったけど、盗賊たちの中には、盗賊団の捕虜になったりして、やむを得ず盗賊団の一員になっていた人たちもいるんだよ。このエフィは、一昨日僕たちに降伏してきた幹部の一人で、そういう人たちに降伏するよう説いて回らせていたんだよ」
「ああ、そう言えばその女の子、一昨日にもちょっと見た顔ね。単に、見た目がちょっと可愛いからきよたんが見逃してやったのかと思ってたけど」
「もえちゃん、僕を何だと思ってるんだよ! そんな理由だけで、敵をあっさり見逃したりはしないよ!」
 僕は即座に否定した。もっとも、みなみちゃんや瑞穂ほどでは無いにせよ、エフィは見た目が可愛い娘なので、殺すには惜しいと思ったことまでは否定できないけど。

「それでエフィ、お前たちのボスはどこにいる?」
「は、はい。ビッグボスの部屋は、この洞窟の一番奥にありますので、おそらく今もそこにおられると思います」
「ビッグボス?」
「はい。普段から、俺のことは『ビッグボス』と呼べ、と仰っている方なので、皆そのように呼んでいます。たしか、元はトレジャーハンターの冒険者で、ここを拠点に付近の盗賊団を束ねる存在になっていたのですが、最近は新興のユッキーナ組との勢力争いになり、敵に攻められたときに備え、この洞窟の中に様々な罠を仕掛け守りを固めておられるのです」
「この、半円形の陣形で僕たちを迎え撃つよう支持したのも、そのビッグボスか?」
「はい、そのとおりです」
「なによそれ? ビッグボスと言う割には、ずいぶん臆病な奴みたいね」
「臆病というか、慎重と言いますか・・・・・・。ビッグボスは、自ら先頭に立って敵と戦うタイプでは無く、用意周到に罠を仕掛けて敵を迎え撃つのを得意とするお方ですね。とても用心深くて、ビッグボスの部屋の鍵は本人しか持っていなくて、女たちが入るときにも、凶器などを持っていないか毎回身体を点検されるんですよ」
「女たちって、そのビッグボスって奴、自分のハーレムでも作ってるの?」
「ええ、まあ・・・・・・。結構女好きな方ですので・・・・・・」
 もえちゃんの問いに、エフィは少し顔を赤らめながら答えた。その表情から察するに、エフィ自身もハーレムの一員か、少なくともビッグボスに抱かれたことのある女のようだった。今となっては、僕も他人様のことをとやかく言える立場では無いけど。
「ともあれ、そいつを倒し、スライムの発生源を突き止めるのが僕たちの仕事だ。準備が整い次第突入するぞ」
「あ、あの、キヨタカ様・・・・・・? 私の話を聞いていらっしゃいました? 洞窟の中には、おそらくビッグボスの仕掛けた罠がたくさんございますから、安易に突入したら危険だと思いますけど・・・・・・?」
「エフィ。罠の発見や解除なら、これまでの戦いでも結構やってきた。そんなものを恐れていたら、冒険者なんてやってられないよ。それに、こんな穴だらけの作戦を立てるあたり、罠に関しては本職のトレジャーハンターと言っても、おそらく大した知力の持ち主じゃない。恐れる必要は無い。絶対大丈夫!」
 こうして、僕はアテナイス・ソードを片手剣モードに戻し、後方に待機させていたチュニスとアルジェの荷馬車を呼び寄せて装備を調え、フナバシ・タウンの伝令兵たちに降伏者たちの処理を任せ、ビッグボスとやらが待ち受けている採掘場跡の洞窟に突入することになった。

◇◇◇◇◇◇

 洞窟内には、確かにエフィの言うとおり数多くの罠が仕掛けられていたが、罠と怪しきところは僕の『ホーリーカッター』で片端からぶち壊して行ったため、僕たちが罠に引っかかることは一度も無かった。洞窟内で待ち構えていた盗賊たちも、僕たちが松明もライトも使わず、全員が『暗視』スキルを使って進んでくるとは考えていなかったらしく、僕たちの先制攻撃によってあっさり倒れていった。
「ここまでは順調ね。所詮、あたしたちの敵じゃ無いわ」
「確かに順調ですけど、きよたかさん、あちこちに仕掛けられている罠を、よく簡単に見破ることができますね。まるで、最初からどこに罠があるか知っているみたいです」
「みなみちゃん。僕は、訓練生時代から『罠』のスキルを取り、実践でも鍛えているからね。この程度の敵が仕掛けている罠を見破ることなんて、造作も無いことだよ」
「ふっ。我が眷属の叡智、盗賊ごときでは足許にも及ぶまい」
 しかし、洞窟内を進んでいるうちに、僕たちは難所へとぶつかった。急な下り坂になり、道幅も狭くなっている。そして、その先に敵の罠が待ち構えていることはまず間違いない。
「ここはちょっと厄介だな・・・・・・。何もせずにこの狭い場所を降りたら、まず確実に敵の罠に引っかかるだろうし、この曲がりくねった道では『ホーリーカッター』も先まで届かないから、事前に罠を破壊することも出来ないし」
「きよたん、こんなところでギブアップ? 情けないわねえ」
「もえちゃん、ギブアップとまでは行ってないけど、ずいぶん自信たっぷりだね。何か策でもあるの?」
「簡単よ。越えらんない壁はぶっ壊して、先に進めばいいのよ!」
 もえちゃんは、そう高らかに言い放つと、持参していたつるはしを手に取って、もの凄い勢いで坑道を掘り始めた。行き止まりになっていた場所が、みるみるうちに開けていく。
「その発想は無かった・・・・・・」
「もえさんは、採掘の仕事が得意だとは聞いていましたけど、まさかこれほどとは・・・・・・」
「おお、つるはしで、強引に道を切り開いてダンジョンを突破するとは、何というゴリラ的発想・・・・・・」
 僕たちが、半ば呆れ返りながら見守っているうちに、尋常では無い速度で坑道を切り開いていたもえちゃんの手が、あるところでふと止まった。
「どうしたの?」
「このへん、岩がずいぶん固いのよ。何かの鉱石かしら?」
 僕が、もえちゃんの近くに寄って、『鑑定』スキルを使ってみる。
「これは、たぶんマグナタイトの鉱脈だね。質もかなり高そう」
「マグナタイトって何よ?」
「大量の魔力を持っている宝石だよ。みなみちゃんや瑞穂が持っている杖にも使われているやつ。掘り返して持って帰ればかなりの高値で売れるだろうけど、今回はそんなことやってる暇なんて無いから、この鉱脈は迂回して」
「分かったわ」
 もえちゃんは頷くと、再び凄い勢いで坑道を掘り始める。みなみちゃんと瑞穂が交互に『ヘイスト』を掛けて援護しているとはいえ、信じられない速度だ。パワーだけでなく、穴掘りの手際も凄い。残土は主に僕が、狭い急な下り坂になっていた道の方に捨てていき、そちらのルートは残土でほぼ埋まった。やがて、洞窟の続きとおぼしき開けた場所が見つかり、例の難所は無事にスキップすることが出来た。
「見なさい! これぞ、カミズル流奥義・・・・・・」
 成功に気を良くしたもえちゃんが、そこまで言い掛けたところで、急に口ごもった。
「奥義・・・・・・」
「どうしたの? もえちゃん」
「どうしよう!? 必殺技の名前が思いつかないわ!」
 もえちゃんの発言に、聞いていた僕たち3人は一斉にずっこけた。
「・・・・・・もえさん、それはあまりに格好悪いと思いますけど」
「だってえ! 敵を倒す必殺技なら漫画やアニメとかで色々見たことあるけど、つるはしでダンジョンを掘り進める必殺技なんて見たことないもの!」
 みなみちゃんのツッコミに、もえちゃんが泣き叫びながら答える。必殺技とかいう問題以前に、ダンジョンを探検するときにつるはしで穴を掘って強引に道を切り開こうとする人なんて、たぶんまともな冒険物語には出てこないと思うけど。
「・・・・・・じゃあ、普通に『坑道驀進』とかでいいんじゃない?」
「それでいいわ。見なさい! これが、カミズル流奥義、コウドウバクシンよ!」
「はいはい」
「何よ! きよたん、あたしの必殺技に文句でもあるの!?」
「やること自体は結果オーライで上手く行ったけど、技名を決める過程が格好悪すぎ」
「だってえ! あたし国語苦手だったから、新しい必殺技の名前なんて簡単に思いつかないのよ!」
「・・・・・・もえさんの苦手だった科目って、国語だけじゃなくて、おそらく体育以外の全部じゃありません?」
「みなみちゃん、なんで分かったのよ?」
「・・・・・・そのくらい、誰だって概ね察しは付くと思うよ」

◇◇◇◇◇◇

 僕たちがさらに先へ進むと、突き当たりに頑丈そうな鉄の扉があった。どうやら、この先にビッグボスとやらが待ち構えているらしい。
「みなみちゃん、『解錠』お願い」
「は、はい! やってみます」
 エフィの話によると、扉の鍵はビッグボス本人しか持っていないということなので、みなみちゃんの『解錠』スキルに頼ることにした。もっとも、みなみちゃんが『解錠』スキルを実践で使うのは今回が初めてであり、鍵をこじ開けるにはどうしても時間がかかる。
「まだ時間かかるの? こんな扉、あたしが力づくでぶっ壊した方が早いんじゃない?」
「もえちゃん、その方法だと何が起こるか分からないから、ここは時間が掛かってもみなみちゃんに任せよう。それに、僕たちがこの扉をこじ開けようとしているのは、おそらく敵も気付いているはずなのに、これまで何の反応もないということは、扉を開けた瞬間にクロスボウの矢でも飛んでくるような罠でも仕掛けているんだろう。開けるときも用心する必要がある」
「・・・・・・面倒くさいわねえ」
 短気なもえちゃんを何とか宥めつつ、みなみちゃんは僕の体感時間で30分くらい、鍵をこじ開けるための悪戦苦闘を続けた。
「あ、やっと鍵の構造が分かってきました! たぶん、ここをこうすれば・・・・・・。きよたかさん、やりました! 何とか、鍵を開けられました!」
「良くやった、みなみちゃん! 全員、扉の前から待避して! 扉を開けた瞬間、敵の罠が来るぞ!」
 僕の予想どおり、僕が用心深く扉を開けた瞬間、扉の奥から10本を超える数の矢が飛んできた。たぶん、これで僕たちを仕留めるつもりだったのだろう。
「ノウウウウウウウ!? このビッグボスが仕掛けた罠をあっさり見破るとは、あなたたち何者デスカ!?」
 扉の奥では、金のネックレスなど派手な服装に身を包んだボスらしき男が、甲高い声を上げていた。もっとも、ビッグボスという割には、体格はやや小柄だ。
「僕は、トーキョー・シティーの冒険者、キヨタカ・ムラカミだ。この地に平和を取り戻すため、お前には死んでもらう」
「オウ! このビッグボスも、舐められたものですねえ!」
「何がビッグボスよ、あんたなんか、スモールボスで十分よ」
「そうです! あなたのものなんか、名槍清隆丸の足許にも及ばないじゃないですか!」
「ふっ。その程度のモノでビッグボスを名乗るなど、片腹痛い」
 もえちゃん、みなみちゃん、瑞穂が相次いでそう言い放ったが、3人とも僕の股間とビッグボスの股間を見比べているあたり、どうやら体格ではなく男根の大きさを問題にしているらしい。
「オウ、何という侮辱! こうなったら、あのキラータイガーとも互角に渡り合える、私の敏捷性を見せてあげマスヨ! このビッグボスこと、マサヒロ・ヒガシ・・・・・・」
「るさい」
 台詞を言い終わらないうちに、僕が放ったアテナイス・ソードの一閃で、ビッグボスとやらの首は宙に舞った。
「きよたん、悪役の台詞くらい、せめて最後まで言わせてあげたらどう?」
「もえちゃん、これはアニメやドラマの世界じゃ無いよ。僕が、わざわざ殺しに来たと言っているのに、ろくな戦闘準備もせず無駄な口上を並べ立てている奴が悪い」
「・・・・・・きよたかさん、敵はまだいるみたいですよ」
 みなみちゃんの言葉で、部屋の最奥部に、これまで見たことの無い大型のスライムが発生していることに気付いた。どうやら、こいつと戦わなければいけないらしい。

◇◇◇◇◇◇

「スライムビッグボス、推奨レベル中級職レベル20、物理攻撃無効、氷に弱い」
 僕が、『鑑定』の結果を読み上げる。
「こいつもビッグボスって名前なの? 確かに、今までのスライムとは比べものにならないくらいのデカブツだけど」
「とりあえず、こいつには近づかないで。今までのスライムたちと同様、女の子が近づくと粘液で服を溶かされるおそれがあるから、距離を置いてみなみちゃんと瑞穂の『フリーズ』で攻撃する。敵からの攻撃は僕が防ぐ」
「分かりました。頑張ります!」
「ふっ。この偉大なる魔眼の女王、バロール様の腕の見せ所であるな」
 みなみちゃんと瑞穂が、それぞれ僕の指示に答えた。
 なお、これまで細かい描写はしてこなかったが、僕たちはこの洞窟から発生したとおぼしきスライムたちとの戦いは何度も経験している。もっとも、最初に遭遇してもえちゃんをあられもない姿にしたスライムと異なり、その後に遭遇したスライムたちは動きも鈍重で、対処法さえ分かれば簡単に倒せる相手だったのだが。

「ねえ、そのデカスライム、本当に倒せるの? さっきから、ほとんどダメージを与えられてないと思うんだけど」
 物理攻撃が効かない相手なのでやることの無いもえちゃんが、戦いの行方に不満を漏らした。スライムビッグボスの攻撃は、時々粘液を飛ばしてくる程度で大したものでは無かったものの、まだ基本職に過ぎないみなみちゃんと瑞穂の『フリーズ』だけでは、あまり大きなダメージを与えられない。僕の『ホーリーカッター』も、敵の攻撃を防ぐには有効だが、弱点の氷属性ではないためか、スライムの本体にぶつけてもあまりダメージを与えられないようだ。
「もえちゃん、やることが無いなら例の『波動砲』で攻撃してみたら? エンチャントで氷属性付けてもらえば、有効な攻撃になるかも知れないし」
「それもそうね。やってみるわ」
 僕の予想どおり、もえちゃんの波動砲も、瑞穂の『エンチャント』で氷属性を付与すれば有効な攻撃になったが、覚えたばかりのカミズル流奥義・波動砲、正式名称『気功弾』はスキルレベルがまだ低く、与えられるダメージはみなみちゃんや瑞穂の『フリーズ』と大して変わらない。

 それでも、辛抱強く戦いを続けた結果、スライムビッグボスの巨体も次第に凍り付いていき、生き残っている部分が少なくなってきたのだが、これまでその存在に気付かなかった黒い箱状の物体から、新たなスライムが次々と生産され、それがスライムビッグボスの身体にくっついていることが分かった。
「きよたん、あれ何よ!?」
「僕にもよく分からないけど、スライムの発生装置じゃない?」
「あれを何とかして止めないと、いくら戦っても無限に沸いてくるわよ!」
「分かった。僕が何とかしてみるけど、その間に攻撃が来たら気をつけて」
 僕が、その装置に近づいてみると、手頃なところに『ON』『OFF』と書かれたスイッチらしきものがあり、スイッチが『ON』になっていた。試しに、スイッチを『OFF』にしてみると動きが止まり、新たなスライムは発生しなくなった。その間、なぜかスライムビッグボスによる妨害も無かった。
「よく分からないけど、何とかなったみたい。あとは、残りの身体を凍らせて、スライムの核を破壊できれば倒せると思う」
「あと少しね」
 その後間もなく、凍り付いたスライムビッグボスの核を僕がアテナイス・ソードの一撃で破壊して、戦いはようやく決着が付いた。戦闘開始から、実に2時間くらいにわたる激戦だった。
「はああ・・・・・・。疲れる相手でした・・・・・・」
「まあ、推奨レベルが中級職レベル20とされている強敵だったから、何とか勝てただけでもマシだよ。それに、この戦いで僕ともえちゃんが上級職レベル10から12へ、みなみちゃんと瑞穂は基本職レベル21から24にレベルアップし、もえちゃんの波動砲も、スキルレベルがだいぶ上がって強くなったし」
「確かに訓練にはなったけど、こんなウザい戦いは二度と御免だわ・・・・・・」
 MPを回復させるために何度も特濃マナポーションを飲みまくったみなみちゃんや瑞穂はもとより、もえちゃんもかなり疲れた様子を見せていた。波動砲は、魔法と違ってMPの消費は無いけど、あまりに使い続けると自身のHPが減り、疲れも溜まるらしい。HPのは魔法で回復させることが出来るけど、疲労を一瞬で回復させるような魔法は無い。そのため、どんな屈強の冒険者でも、二十四時間不眠不休で戦い続けるようなことは出来ないのだ。
「これが、スライムの発生装置か。念のため、持って帰ろうか」
 僕は、先程までスライムビッグボスの身体を再生させていた、黒い箱状の物体を手に取った。このスライム発生装置がどのような仕組みになっているのか、盗賊たちがどこからどうやってこの装置を手に入れたのかは不明だが、この装置を持ち帰り調査をしてもらえば、謎も解明できるだろう。とりあえず、これでクエストの目的は達成だ。あと、人間の方の自称ビッグボスが持っていた貨幣や高価な装飾品なども抜け目なく入手し、僕たちは帰途に就いた。

◇◇◇◇◇◇

 そして、僕たちが暗い洞窟から外に出てきたとき。
「うわあ、太陽がまぶしいです・・・・・・」
「今まで、ずっと暗い場所で『暗視』スキルを使って戦ってきたからね。目が慣れるのに時間がかかるかも」
「それはともかく、さあきよたん、鍛錬の時間よ」
「鍛錬? 何の?」
 僕が聞き返すと、もえちゃんはいきなり自分のズボンとパンツを脱ぎ、下半身裸の状態になった。今までずっと我慢していたのか、もえちゃんの股間とパンツはびしょびしょに濡れており、そのあまりにもエロい姿に思わず見入ってしまう。
「見てないで、あんたもさっさと脱ぎなさいよ!」
「うわああ!!」
 僕は、抵抗する余裕も無く、もえちゃんにズボンとパンツを脱がされ、その場で押し倒されて騎乗位でえっちすることになった。
「ううん、気持ちいい、生き返るような気分だわ~」
「も、もえちゃん、僕もいずれする気ではあったけど、そんなにがっつかなくても・・・・・・」
「きよたん、女の子は疲れると性欲も溜まるのよ。覚えときなさい」
「女の子といっても、自分からそんなはしたない真似をするのは、たぶんもえさんくらいじゃないかと思いますよ」
「ふっ。これぞ、カミズル流奥義・押し倒しと言ったところであろうか。もえ姉は、えっちのやり方までゴリラそのものであるな」
 もともと性欲の強いもえちゃんは、本音では僕と毎日えっちしたかったようで、2日間もお預けにされて性欲を相当に溜め込んでいたらしい。僕のモノが、なぜか何回射精しても小さくならないのを良いことに、僕がもう出せるものがないからえっちは終わりにして欲しいと何度懇願してももえちゃんは許してくれず、結局僕は夜中になるまで、もえちゃんとのえっちで精を絞り尽くされることになった。

(第23話に続く)
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 鶴の妖である千鶴は、ある日釣り糸に絡まっていたところを少年に助けられた。「少年に嫁げ。恩を返さなければ、天罰で死ぬ」と長老達は言う。しかし少年はトラックに轢かれて死んでしまった。絶望する千鶴。だが彼は異世界に転生していることが分かり、彼女は渋々異世界に行く。少年はケンという名の美形の農夫に生まれ変わっていた。一目惚れした千鶴は妻にしてくれと頼んだが、あっさり断られてしまった。結局、押しかけ女房となる。ケンの下には、なぜか次々と妖がやって来る。江戸時代の狐やモンゴルの白馬と千鶴は徐々に家族となっていく。ある日、ケンに召集令状が届く。千鶴に横恋慕した王子の陰謀だった。心配性で甘えん坊の鶴がチートな妖術で奮闘するお話。全30話。

丘の上の嘆き岩

森羅秋
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とある街のとある孤児院の裏の丘の上に突然現れた大きな岩。 毎日深夜になると嘆き声を響かせる岩に恐れ、次々と家族が去ってしまう。 家族はきっと戻ってくる、と孤児院で待ち続けるフェール。 そんなある日、嘆き岩の様子を見に行った帰り道で、フェールは奇妙な魚と出会うことになる。 ***************** 中編小説くらいの長さです。 こちらの作品はpixivに載せているものを加筆&修正したものです。 *****************

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
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 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
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 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

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