僕の転生した世界があまりにも生々しい件

灯水汲火

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第2章 トーキョー編 目指せ! モンスター・ゼロ!

第15話 きよたん一行の爆買い

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 卒業式を終えた僕たちは、早速センターの3階に赴き、冒険者として最初のクエストを受注することにした。
「上水流さん、センターの3階って来たことある?」
「無いわよ。あたしは、きよたんたちよりセンターでの暮らしは長いけど、3階は訓練生を終えた冒険者専用って話だから、あたしも3階に行くのは今回が初めてよ」
 未知の場所に若干の不安を感じながら、僕たちが階段を登って3階に行ってみると、間もなく『クエスト総合案内』という看板のある部屋が見つかった。
「あら? 見かけないお顔の方ですね~。ご新規さんですか? 訓練生希望の方なら、ここではなく1階の受付に行ってくださいね」
 部屋に入るなり、受付のお姉さんにそう声を掛けられた。
「すみません。僕はキヨタカ・ムラカミと言いまして、先ほど訓練生を卒業して、一人前の冒険者になったばかりなんですけど・・・・・・」
「ああ、あのきよたかさんですか!? わたしも、お話はタマキ所長から窺っておりますよ! わたし、センターの職員で、冒険者の皆さんにご依頼するクエストの管理を担当しております、アオヤマのアイラと申しまーす! 生まれはトーキョー・シティーのアオヤマで、根っからのトーキョーっ子でーす! まだ21歳ですが、お婿さん大募集中でーす!」
 勝手に、頼んでもいない自己アピールをしてくるアイラさん。まあ、美人と言えば美人と言えなくも無いけど、みなみちゃんほどではないので放置しておく。
「それでアイラさん、早速冒険者としてのクエストを、受注したいと思うんですけど」
「さっき卒業式が終わったばかりなのに、もうクエスト受注ですか!? きよたかさん、真面目ですね~。それとも、早くお金を稼ぎたいのかな?」
「別に、お金に困っているというほどではありませんけど、クエストを受注してモンスターを倒すのが、冒険者の仕事だと思いますので」
「わっかりましたー! では、クエスト初挑戦のパーティーということなので、タマキ所長から送られてきた皆さんのデータを拝見させて頂きますね~。・・・・・・えーと、何ごれ? 騎士のレベル7で、基本ステータスが全部3桁? しかも、LUKが実質728って、これバグじゃね? この子、下手すりゃタマキ所長より強えんちゃう?」
「・・・・・・」
「次は、何この子? モンクのレベル8にして、STRがもう173!? しかも、パンチのスキルレベルが50超え!? この子、もう人間じゃ無くてゴリラじゃね!?」
「・・・・・・アイラさんだっけ? このあたしに喧嘩を売る気なら、買ってやるわよ」
 アイラさんの、根っからのトーキョーっ子という割には、若干どこかの方言じみた率直すぎる感想に、堪忍袋の緒が切れそうになっている上水流さんが、おっかない怒気を含んだ声を掛けると、アイラさんは急に正気に戻ったような感じで、
「し、失礼いたしました~! さ、さすが、タマキ所長が絶賛されるだけのことはありますねー! リーダーで騎士のきよたかさんと、モンクのもえさんは言うに及ばず、基本職のみなみさんと瑞穂さんについても、訓練生を卒業したばかりの新人さんとは思えないほど、しっかり鍛えられていらっしゃいますねー!」
 早口でこうまくし立てた後、話を続けた。
「普通の新人冒険者さんであれば、最初は簡単なゴブリン退治なんかのクエストをやって頂くんですけど、ここまでお強いパーティーであれば、そんなの簡単すぎてつまらないでしょうねー! でも、レベル17とそこそこお強いとはいえ、基本職の方がまだお二人いらっしゃいますので、パーティー全員が上級職でないと難しい超難関クエストをご紹介するには、まだちょっと早いですねー! というわけで、皆さんのレベルに合うくらいのクエストを、今探してご紹介しますねー!」
「分かりました。その方向でお願いします」
「それでは、ググって検索っと。ありましたー! このクエストなんか、如何でしょう?」
「どんなクエストですか?」
「これは、トーキョー・シティーではなく、東にあるフナバシ・タウンからの救援依頼なんですけど、フナバシの周辺に大量のスライムが発生して退治に困っている、是非トーキョーから、応援の冒険者を派遣して欲しい、という依頼に応えるクエストですー!」
「そのスライムって、どういうモンスターなんですか?」
「ちょっときよたん、スライムなんてどうせ雑魚じゃないの。いちいち聞くまでもないと思うんだけど」
「偏見は良くないよ、上水流さん。ここは、日本や地球とは違う異世界なんだから、日本の常識が通用するとは限らないし。キャベツが空を飛んで襲ってくるような世界かも知れないし」
「きよたん、キャベツが空を飛んで襲ってくる世界が、一体どこにあるっていうのよ!? 頭おかしくなったんじゃないの!?」
「いや、実際日本で読んだライトノベルに、そういう感じの異世界出てきたし。しかも結構有名な作品で」
「あのー、すみません。そろそろよろしいでしょうか?」
 言い争いになりかけた僕と上水流さんに、アイラさんが恐る恐るといった感じで声を掛けてくる。
「ああ、すみませんアイラさん。スライムの件を含め、クエストの説明お願いします」
「はい。まずスライムについてですけどー、この世界に出てくるスライムは、動き自体は決して速くないんですが、ネバネバとしたゲル状のモンスターなので、物理攻撃がほぼ効かないという、非常に厄介なモンスターなんですよー」
「それだと、どうやって倒せばいいんですか?」
「まあ、魔法攻撃であれば、ホーリーカッターを含め、どの種類でもある程度の効果は期待できますが、一番お勧めなのは『フリーズ』などの氷系魔法攻撃ですねー。厄介なスライムも、凍らせて割っちゃえば、一番楽に倒せますからねー」
「なるほど。『フリーズ』は瑞穂だけじゃなくてみなみちゃんも使えるから、二人を鍛えるのには良さそうなクエストですね」
「はい! ただ、女の子はスライムに捕まると、服を溶かされた挙げ句、散々えっちなことをされて愛液を吸い取られてしまいますから、気をつけてくださいねー」
「すみません、女の子がスライムに愛液を吸い取られると、具体的にどうなっちゃうんですか? 死んじゃうんですか?」
「いえー、クタクタになるほどイカされてしまうだけで、命には別状のない場合がほとんどだって聞いていますけど、それでもモンスターにイカされちゃうのは嫌ですから、気をつけてくださいということですー」
「分かりました。他に、何か注意点はありますか?」
「実は、結構あるんですー。まず、トーキョー・シティーとフナバシは結構距離があって、しかもその間にあった町や村は、アラ川の洪水やモンスターの襲撃などに耐えきれず放棄されちゃってますから、朝早くに東門から出発しても、おそらく1泊くらいの野宿を余儀なくされると思いますー。それに、トーキョーの東部は、ゴブリンだけではなく他のモンスターや、人間の盗賊団なんかも出没する治安の悪いところで、商隊も上級職の冒険者を護衛に付けなければ怖くて通れないと言われているところですー」
「結構大変そうなところですね」
「はいー。しかも、フナバシ・タウンは貧しい町で、そんなに多くのクエスト報酬は出せないということもあって、実は半年くらい前に救援の依頼があったんですがー、誰も受注してくれる方がおられなくて、塩漬けになっちゃってるクエストなんですよー。出来れば、きよたかさんのパーティーに受けて頂けると、大変助かるんですが、如何でしょう?」
「クエストの達成報酬は、どのくらい出るんですか?」
「はいー、このクエストは、事前に難易度を把握しにくいので、報酬額は評価制になっていますー。具体的には、フナバシ・タウンの町長さんに、皆さんの働きぶりを評価して頂き、全く役に立たなかったという最低評価を受けてしまった場合でもー、最低限フナバシ・タウンまで行って帰って来れば、1万アマツ円の最低保障金額が報酬として出ますー。逆に、最高評価を付けて頂けるほどの活躍ぶりであれば、報酬額は10万アマツ円、活躍の度合いによってはトーキョー・シティ-からの援助でさらなる加算もあり得るというものになっていますー」
「・・・・・・特に悪い内容とは思えないんですけど、どうして引き受け手がいなかったんですか?」
「まず、上級職の冒険者がいるパーティー自体が少ない上に、そういうパーティーの多くは、商隊の護衛クエストなんかで引っ張りだこなんですねー。護衛クエストであれば、運が良ければあまり敵と戦わず、行って帰ってくるだけで5千アマツ円や1万アマツ円くらい出ますから、そういうクエストに比べると、確かにあまり割の良くないクエストになっちゃいますねー」
「ねえきよたん、商隊の護衛クエストなら、あたしも試しに参加させてもらったことがあるけど、あれつまんないわよ。せっかく敵が出てきても追い払うだけで、戦うより商隊の護衛が優先だって言われちゃうから」
「まあ、商隊の護衛クエストなら普通はそうなるだろうけど、強い上に戦いたくてウズウズしている上水流さんがいる僕たちのパーティーには、ある意味向いているかもね。それに、敵をガンガン倒しまくるクエストの方が、みなみちゃんや瑞穂のレベルも上げやすいだろうし」
 僕の言葉に、それまで僕たちの話を聞いていた瑞穂は、
「ふふふ、再び戦いか。よかろう、偉大なる魔眼の女王バロール様の実力を、とくと見せてやろう」
 まあ、いつも通りのこんな感じでやる気満々なのだが、みなみちゃんがちょっと不安気のようだった。
「きよたかさん、また昨日のように、皆殺しみたいな戦いをするんですか?」
「みなみちゃんは、そういう戦いは嫌?」
「いえその、モンスターは人類と相容れない存在だってことは、頭では分かっているんですけど、モンスターとみれば女子供まで皆殺しというのは、それが人類のためだとは言え、ちょっと気が引けるというか・・・・・・。それに、タマキ先生からもあまり無茶はするなと言われていますし・・・・・・」
「みなみちゃん、別に嫌だったらあんただけ置いていくわよ。あたしたち3人だけで、敵をやっつけてくるから」
「もえさん、別に嫌だとまでは言ってません! それに、私だけ置いて行かれるのはもっと嫌です! あまり気は進みませんけど、リーダーのきよたかさんが決められることなら、私はそれに従います」
「みなみちゃん。優しいのはみなみちゃんの良いところでもあるけど、優しいだけじゃ冒険者は務まらないからね。思い切ってモンスターを殺しまくらなければ、逆に人類が滅ぼされる世界なんだからね」
「・・・・・・分かりました。私からはもう、言うことはありません」
「というわけで、アイラさん。パーティー内の意見も何とかまとまったので、僕たちがそのクエストを受けます」
「ありがとうございます! では、リーダーのきよたかさんには、この書状をお渡しいたしますね。フナバシ・タウンに着いたら、そこの町長さんにこの書状を渡してください」
「良いですけど、何の書状ですか?」
「これまで、再三にわたる要請にもかかわらず、救援依頼に応えられなかったことへのお詫びの手紙と、きよたかさんのパーティーの働き具合に関する評価書が入っています。評価項目は、クエストの目的となるモンスターの討伐に対する貢献度、冒険者としての礼節や態度、総合評価に対するご意見、その他自由回答欄から成っています。頑張って、最高評価を勝ち取ってくださいね!」
「分かりました。書状、確かにお預かりします」
「よろしくお願いしますね! フナバシ・タウンへの救援依頼、きよたかさんのパーティーが受注、これで良し! ああそうでした、きよたかさんのご一行は、野宿の経験はございますか?」
「・・・・・・ございません」
「まあ、訓練生のメニューには、野宿の訓練は入っていないですから、おそらくそうでしょうねー。野宿が必要なクエストの場合、日帰りクエストと違って準備が色々必要になると思いますから、必要な物を買い揃えてから出発された方が良いと思いますよー! 先方には、派遣するパーティーは決まりましたが、到着まで一週間前後かかると伝えておきますから!」
「分かりました。ご配慮ありがとうございます。でも、野宿の準備となると、一体どの店で何を買ったら良いものか・・・・・・」
「そうですねー。あっ、今タマキ所長から連絡が入りました! 色々アドバイスしたいことや渡したいものがあるということなので、すみませんが2階の『教室』へ向かってください!」
「分かりました」
 こうして僕たち一行は、つい先ほど卒業式をやったばかりの、タマキ先生がいる『教室』に舞い戻ることになった。

◇◇◇◇◇◇

「みんな、急に呼び出してごめんね。さすがに今日くらいはゆっくりするのかと思ったら、きよたんたちがいきなりクエスト受注、しかもフナバシ・タウンへの救援ですって? 気が早いにも程があるわよ。それに、新人パーティーにいきなりそんなクエストを受けさせるなんて、アイラも何考えてるのよ」
 これが、僕たちを迎えたタマキ先生の第一声だった。
「先生、僕たちの行動、そんなにまずかったですか?」
「いえ、冒険者としてやる気があるのは多いに結構なんだけど、野宿未経験のパーティーに、いきなり野宿前提のクエストをやらせるのはねって話よ。まあ、きよたんたちが卒業して少し手が空いたところだから、野宿についてのアドバイスは特別に先生からやってあげるわよ」
「わざわざありがとうございます、タマキ所長」
「きよたん、所長はやめて。今までどおり先生でいいわよ。この際だから、きよたんが持ってきたあの豪華なテント、ちょっと修理すれば野宿用に使えるから、これから訓練生たちに修理させるわよ。まあ、2、3日もあれば出来上がると思うから、出発はそれまで待って頂戴。それと、野宿となれば運ぶ荷物も多くなるだろうから、昨日貸してあげたチュニスちゃんとアルジェちゃん、きよたんたちにプレゼントとしてあげるわよ」
「あんな良い馬、もらっちゃっていいんですか?」
「いいわよ。センターの輸送馬は他にもいるし、もともと活躍しているパーティーにあげるつもりで育てていた馬だから。それと、トーキョー・シティーとしての意思決定にはまだ時間がかかるけど、野宿に必要なアイテム一式はセンターの経費で用意してあげるわ。きよたんたちはその間に、例の稼いだお金で装備一式を整えたり、遠征に絶対必要なわけじゃないけど、あれば便利そうなものを、ドンキあたりで探して買ってくるといいわ」
「分かりました。先生、色々とお世話になってすみません」
 ちなみに、タマキ先生の言う『ドンキ』とは、もちろん日本にある某ディスカウントストアのことでは無く、トーキョー・シティーの商業地域・ギンザ地区にある、冒険者向けの装備やアイテムのほか、一般人向けの衣類や食料品、日用品の類まで何でも揃っている、激安の殿堂『ドン・キオイデ』のことである。
「じゃあ、センターで用意する物品はこれとこれと・・・・・・。はいきよたん、このリストに書かれているものは買う必要無いから、それ以外で使えそうなものがあれば買っていらっしゃい。100万アマツ円もあれば、ミスリル製の最高級品以外は十分買い揃えられるはずよ」
「分かりました。じゃあみんな、買い物に行こうか」
 こうして、僕たち4人は、フナバシ・シティへのクエストに出発する前に、トーキョー・シティーへ買い物に出掛けることになった。


「それできよたん、今からどこへ行くの? 例のドンキ何とかってとこ?」
「そこへも後で行くけど、まずは馬の専門店、『ホース・オフ』に行ってみる」
「きよたかさん。輸送用の馬なら、チュニスちゃんとアルジェちゃんをもらえるということですから、それ以上の馬は必要ないと思うんですけど・・・・・・」
「いや、僕が欲しいのは輸送馬じゃなくて、馬に乗って戦うための軍馬だよ。一昨日や昨日の戦いをこなして、逃げる敵を追撃するとき、出来れば僕が乗って戦える軍馬があれば便利だと思ってたんだ」
「別に、あたしは軍馬なんて要らないわよ。あたしも一応『乗馬』のスキルは持ってるけど、モンクだと馬に乗って戦うのは難しいし、みなみちゃんとがきんちょはそもそも馬に乗れないし」
「まあ、僕だけでも馬に乗っていれば、ゴブリンたちの群れに逃げられても、すぐに追いついて殲滅できるから、戦略の幅が広がるし、騎士の馬上突撃は凄い威力が出るらしいから、一度試してみたかったんだ」
「ふっ。我が眷属が軍馬を試してみたいと欲すならば、馬の住まう闇の城へ訪れるのも悪くは無かろう」
「瑞穂、賛成してくれるのは嬉しいけど、別に『ホース・オフ』は闇の城じゃないからね。タマキ先生もお勧めの、馬の販売や買い取りを行っているちゃんとしたお店だから」


 『ホース・オフ』への行き方は、第10話でタマキ先生がトーキョー・シティーの案内をしてくれたときに教わっているので、僕たちは特に迷うこともなく、『ホース・オフ』へと向かった。
「ところで、きよたかさん。私、この世界について、いまいちよく分からないことがあるんですけど?」
「何? みなみちゃん」
「このアマツ世界って、アテナイス様から剣や魔法なんかで戦う異世界だって言われていたので、私としてはてっきり、ファンタジー作品によく出てくる中世ヨーロッパ風の世界を想像していたんですけど、このアマツ世界はどちらかというと、むしろ和風に近いような気がするんです。特に僧侶の衣装なんて、男性は神主さん、女性は巫女さんですし」
「ああ、それはあたしも、前から疑問に思ってたのよ」
 上水流さんも、話に加わってきた。
「戦士もタマキ先生みたいに、洋風の鎧を着ている人が主流かと思ったら、日本の侍みたいな甲冑を着ている人もいるし、寝間着はパジャマじゃ無くて浴衣だし、冒険者以外の人は、大体日本風の着物を着ているし、トーキョー・シティーの中心には、トーキョー城っていう、ちょっと変わっているけど明らかに和風の大きな城が建っていたりするし。
 でも、必ずしも和風で一貫しているわけでも無くて、明らかに日本風じゃ無い名前を名乗っている人も結構いるし。しかも、所々で現代の日本を真似ているようなところもあって、あたしたちが歩いている道路も、まるで日本の道路みたいに、歩行者用と馬車用に分けられて、横断歩道まであったりするし。さすがに信号機は無くて、人が多いところは警察や兵士の人が誘導しているみたいだけど。このアマツ世界って、一体どうなってるのよ」
「ああ、そういう話ね。それは、この世界の歴史と深い関係があるんだよ。もえちゃん、みなみちゃん、それから瑞穂も聞いておいてね」
 3人とも頷いたので、僕はそのまま話を続けた。
「このアマツ世界は、地球と違って人類の住める地域が狭くて、しかもモンスターなんかの脅威に晒され続けているから、結構昔から歴代の女神様によって、他の世界で有能ながら志半ばで無くなった人なんかが、転生させて助っ人として送り込まれてきたから、そうした転生者の影響で、いろんな文化が混じり合っているんだよ。
 もっとも、昔は日本に限らず、日本人以外の地球人が送り込まれてきたり、明らかに地球以外の世界から来たと思われる、地球の人間に似た知的生命体が送り込まれてきたりすることもあったらしいんだけど、当然ながら言語や文化もバラバラで、転生者同士の意思疎通も上手くいかないといった問題があったんで、今から400年前くらいを境に、アマツ世界へ送り込まれる転生者は、日本人だけになったらしいんだ。
 その影響で、アマツ世界の公用語とされたアマツ語は、日本語とほとんど変わらない言語になり、文化も日本風が主流になったわけ。もっとも、それ以前からアマツに定着していた転生者の末裔たちなんかもいるから、完全に和風一色で染まったわけでは無いし、そもそも戦国時代の日本はヨーロッパ文明の影響も受けているし、欧米化が進んだ明治時代以降の日本人も送り込まれているから、そうした日本人たちを通じて、近現代の日本文化も、少しずつアマツ世界に浸透しているんだよ」
「あたし、授業でそんな話聞いたこと無いんだけど」
「アマツの歴史については、僕だけの特別授業で習ったんだよ。他の3人については、どうせ授業で教えても理解できないだろうから、折を見て僕から教えてやってくれって、タマキ先生から頼まれているんだ。上水流さんはともかく、みなみちゃんや瑞穂は、成長してINTも順調に上がってきているから、そのうち理解できるようになるだろうってね」
「なんで、あたしだけ例外なのよ?」
「上水流さんは、INTがほとんど上がってないから。モンクとして必要なSTRやAGI、VITなんかの成長率は凄いのに、DEXはなかなか上がらない、INTとLUKに関してほぼ絶望的っていう、かなり極端なステータスの持ち主だから」
「まあ、確かにあたしは、さっききよたんが言っていたことの、半分も理解できなかったわよ。そもそもメイジ時代って何、オウベイ化って何って感じだし。でも、あたしだけ差別扱いされるのは、納得いかないんだけど」
「別に、差別扱いしているわけじゃなくて、上水流さんはモンクとして頑張ってくれればいいから、苦手な知的労働は僕たちに任せておいて、僕の話も理解できる範囲で聞いてくれれば十分だよ。それで、このトーキョー・シティーでは、日本の制度を手本にした道路交通法が5年前に制定されたばかりで、それと合わせて歩道と馬車道が明確に区別されるようになって、横断歩道も出来たんだよ」
「一体何のために、そんな法律が出来たのよ?」
「数年前までのトーキョー・シティーでは、歩行者用の道と馬車用の道が区分されておらず、馬車と歩行者との衝突事故なんかによる死傷者が後を絶たなかったらしいんだ。そこで、例のユーリコ知事が、12の『ゼロ』を掲げた公約の一つ、『馬車事故ゼロ』を実現するために、一連の改革を行ったわけ」
「・・・・・・きよたん、ユーリコ知事が掲げた『12のゼロ』って、他にはどんな公約があったのよ?」
「えーとね、確か『モンスター・ゼロ』『成人男子の童貞ゼロ』『女性の産褥死ゼロ』『空き家ゼロ』『失業者ゼロ』『餓死者ゼロ』『幼年学校へ通えない子供ゼロ』『馬車事故ゼロ』『公文書の黒塗りゼロ』『汚職ゼロ』『城壁内における野ションゼロ』『地区格差ゼロ』の12個だったかな」
「きよたん、野ションゼロって何よ?」
「以前のトーキョー・シティーでは、城壁内でも公衆トイレがあまり整備されていなくて、男性のみならず女性でも、野ションや野糞をするのが当たり前だったらしいんだ。当然ながら悪臭の問題や後始末の問題があり、疫病の原因になっているという指摘もあったんで、ユーリコ知事が頑張って公衆トイレの数を大幅に増やし、昨年からは城壁内における公共の場所で野ションや野糞には罰金も課せられるようになったので、そういうことをする人はほとんどいなくなったわけ。もっとも、馬の糞については規制のしようがないから定期的に清掃するしか無いし、城壁の外では、今でもトイレなんかまず無いけどね」
「それが、アマツ世界の嫌なところですよね・・・・・・。私、模擬クエストの最中にトイレに行きたくなったとき、タマキ先生に『トイレなんか無いから、その辺の林で適当に済ませてきなさい』って言われちゃって、仕方なくそうしましたけど、特に最初のときは、すごく恥ずかしかったです。きよたかさんに見られちゃったらどうしようって・・・・・・」
「みなみちゃん、僕はいちいち覗いたりなんかしないから、安心して。それと他の公約のうち、トーキョー・シティー内の地区による格差を無くす『地区格差ゼロ』はほとんど意味不明、『公文書の黒塗りゼロ』についても、特に魔軍が絡む文書についてはほとんど実現されていないなんて言われているけど、それ以外は結構意味のある改革で、特に出産医療をすべての女性に開放して、従来は結構多かったとされる、子供を出産するときに亡くなる女性、すなわち産褥死は本当にほぼゼロになって、ユーリコ知事の政策は、特に女性たちから高く評価されているんだよ」
「ふーん。ユーリコ知事って、単なるネタキャラだと思ってたけど、結構まともな事もやっているのねえ」
 僕の説明に、上水流さんが感想を漏らす。
「確かに、名前はなんかネタっぽいけど、ユーリコ知事はトーキョー・シティーの再建に取り組んでいる、有能な政治家だよ。単なる言葉だけの人じゃないよ」

◇◇◇◇◇◇

 そんな雑談をしているうち、僕たちは目的地の『ホース・オフ』に到着した。
「いらっしゃいませ! 私、馬の専門店『ホース・オフ』の店長、イタバシ村のジャウハルと申します。そのお姿からしますと、冒険者様のご一行でございますかね?」
「はい。本日冒険者登録したばかりの、キヨタカ・ムラカミと申します」
「承りました。失礼ですが、ちょっと確認を取らせて頂きます・・・・・・。はい、確認できました。お客様は正規の冒険者でいらっしゃいますので、ご購入の際には10%の冒険者割引を適用させて頂きます」
「そんな割引があるんですか?」
「はい。冒険者様の方々は、トーキョー・シティーの平和を守る、大事なお仕事をされている方々でございますから。それでお客様、本日はどのような役割の馬をご所望でございますか?」
「えーとですね、僕が乗って戦えるような、出来れば軍用の馬が欲しいんですけど」
「さようでございますか。当店では、軍用、輸送用、馬車用、競走用、伝令用、農耕用など様々な用途に使える馬を、イタバシ村で飼育しこちらで販売しておりますが、戦士様や騎士様が乗られる軍用で最高の馬となると、まずこちらのカーヒラ君が一押しでございますね」
 ジャウハルさんは、そう言って店内の厩舎から、一頭の非常に大きな馬を連れてきた。

「見るからに凄い馬ですね・・・・・・。チュニスやアルジェよりも大きいし、パワーもありそうだし」
「アマツには、こんなに大きな馬がいるのね。あたし、てっきり馬のモンスターかと思っちゃったわ」
「おお、この馬が放つ禍々しい闇の瘴気に、我が魔眼が反応しておる」
「みてください、あの馬のおちん○ん、きよたかさんのより大きいですよ。あの大きなおちん○んできよたかさんを攻める光景を想像しただけで・・・・・・」
 ・・・・・・とりあえず、単にカーヒラ君という馬が黒毛というだけで闇の馬と決めつけて興奮している瑞穂と、馬のおちん○んを凝視してとんでもない事を勝手に想像しているみなみちゃんは、放置しておくことにしよう。
「このカーヒラ君は、当店が取り扱っている軍馬の中でも最高級の雄馬でございまして、全身に馬鎧を装備させて重装備の騎士様を乗せても、余裕で全力疾走できるスタミナを備えており、さらに足も競走馬並みに速いという、あらゆる点で優れた身体機能を誇っており、頭もそれなりに良いという理想的な馬でございまして、種牡馬としても最適でございます。ただし、その分お値段については非常に値が張りまして、冒険者割引を適用して最大限お勉強させて頂いても、1万8000円以下ではお譲りできません。さすがに、新人冒険者のキヨタカ様に出せる金額ではございませんでしょうから、ご予算の範囲内で別の馬を・・・・・・」
「じゃあ、このカーヒラ君をお願いします。1万8000円ですね」
 僕はそう言って、袋から1万円金貨2枚を取り出して見せた。
「へ? お、お客様、これはまたずいぶんと、お金持ちでいらっしゃいますね」
「まあ、お金持ちというほどでは無いですけど、一昨日と昨日の戦いで合計100万円くらい稼げたので、良馬に1万8000円くらいなら、むしろ安い買い物ですよ」

「わずか2日で100万円!? ・・・・・・お客様、ひょっとしてお客様は、あの『ジェノサイド・キヨタカ』様でいらっしゃいますか?」
「何ですか、それ?」
 耳慣れない単語に、僕は思わず聞き返した。
「お客様、ご存じないのですか!? 昨日、キヨタカという名の訓練生率いるパーティーが、たった4人で5千匹以上ものゴブリンを殺し尽くし、あの恐ろしいキラータイガーをも一撃で仕留め、そのパーティーのおかげで既に死んだと思われていた女性たちが解放されて戻ってきたと。今のトーキョー・シティーは、そのジェノサイド・キヨタカという訓練生の噂でもちきりでございますよ!」
「・・・・・・噂のことは初めて聞きましたけど、たぶんそれ、僕のことです。ほとんど、逃げるゴブリンたちを一方的に殺し尽くしただけですけど、確かに僕たち4人で5千匹以上のゴブリンたちを殺しましたし、昨日確かに、僕が先制の『ホーリーカッター』でキラータイガーを戦闘不能に追い込みましたし。さすがに、一撃で仕留めたというのは、若干誇張だと思いますけど」
「なんと、そんなに凄いお方が当店にお越しとは! 大変失礼致しました! キヨタカ様の乗馬としてカーヒラ君をお買い上げ頂けるということは、当店にとっても大変名誉なことでございます。通常であれば、カーヒラ君のみで1万8000円、カーヒラ君専用の馬鎧と鞍など一式込みで、合計3万円を頂くところでございますが、特別に合計2万5000円でご奉仕させて頂きます! その代わり、当店でのお買い上げのお印に、是非キヨタカ様のサインを頂ければと・・・・・・」
「サインですか?」
「はい。この色紙に、是非お願いします」
 ・・・・・・どうしよう。プロ野球選手じゃあるまいし、サインなんて今まで書いたこと無い。
 僕は、暫し考えた挙げ句、色紙に『ホース・オフなら絶対大丈夫!! キヨタカ・ムラカミ』と書いてみた。
「・・・・・・こんなもんでいいですか?」
「素晴らしい! 何という力強い文字! しかも、うちの店名まで入れて頂けるなんて! 末代までの家宝として、当店に飾らせて頂きます!」
 適当に書いてみたけど、どうやらジャウハル店長には、ご満足頂けたようだ。
「ねえ、なんかきよたんばかり有名になってるみたいだけど、店長、あたしのことはご存じないの?」
 上水流さんが、若干不服そうな様子で、店長に尋ねた。
「もちろん、モエ様のことは以前から存じておりますよ。以前から、女なのに男のような格好をして、鉱山でつるはしを持たせれば、男以上のものすごい勢いで掘り進めていくゴリラ、モンスターと見れば見境無く突っ込んでいこうとするイノシシ、一人でトーキョーの町に出るとしょっちゅう迷子になる『トーキョー迷子』として、もえ様は有名なお方でございましたが、そのモエ様がキヨタカ様のパーティーに加わって、キヨタカ様共々凄まじい戦果を上げられたという噂は、この私も当然耳にして・・・・・・」
「・・・・・・あんた、このあたしに喧嘩を売ってるの!?」
 上水流さんが、全身からもの凄い殺気を放って、ジャウハル店長を睨みつけた。
「上水流さん、落ち着いて! 一般人の店員さんを殴っちゃったら、間違いなく一撃で死んじゃうから、それだけは止めて! それに、トーキョー・シティーの法律では、冒険者が正当な理由も無く一般人を殺しちゃったら、たとえ蘇生できたとしても、一発で死刑になっちゃうよ!」
 僕の死刑という言葉を聞いて、さすがの上水流さんも一瞬たじろいだ。
「きよたん、それ本当なの?」
「本当。冒険者は優遇されている分、犯罪行為に対する罰則は一般人以上に厳しくて、お店の万引きだけでも死刑になるから。それでなくても、アマツの法律には死刑がやたらと多いんだけど」
「い、いえ、私としたことが、とんだ粗相を致しました! 申し訳ございません! もちろん、モエ様のご勇名も、日頃から耳にしているところでございます!」
 僕が上水流さんを宥めている間に、死の危険を感じたジャウハル店長も土下座して必死に謝ったため、ようやく上水流さんは落ち着きを取り戻した。
「上水流さん、僕たちと違って結構長い訓練生活の間に、たぶん色々失敗もやらかしたでしょう? そのせいで、上水流さんはちょっと悪い意味で有名になっちゃってるみたいだから、もうこの町で自分の評判を聞くのは止めた方がいいと思うよ」
「・・・・・・そうしておくわ」
 ジャウハル店長は、上水流さんを怒らせたお詫びとして、さらに1000円分おまけしてくれて、僕は結局2万4千アマツ円で、カーヒラ君と専用装備一式を購入することになった。


「カーヒラ、これからよろしくね」
 僕が話し掛けると、カーヒラは任せろと言わんばかりに、大きな声で鳴いた。どうやら、カーヒラも店内で飼われるより、活躍する機会を待ちわびていたらしい。
「それできよたん、カーヒラの世話はどうするの?」
「まあ、この4人の中では、『馬丁』スキルのレベルが一番高いのはみなみちゃんだけど、さすがにみなみちゃん1人で、チュニスやアルジェを含め3頭の面倒を見るのは、ちょっと大変かもね」
「・・・・・・まあ、出来ないというわけではありませんが、私は料理なんかもやりますから、出来ればもう1人くらい、お手伝いをしてくれる人がいると有り難いんですけど」
「うーん、瑞穂は残りスキルポイントが5ポイントあるから取れなくはないけど、レベル30になってアークウィザードにクラスチェンジすると、有用なスキルが一気に増えるから、瑞穂のスキルポイントはなるべく温存しておきたいんだよね」
「それに、瑞穂ちゃんにはお料理なんかの手伝いもしてもらいますから、瑞穂ちゃんが馬の世話で抜けてしまうと、あまり意味が無いんですが・・・・・・」
「じゃあ、きよたんがやれば? 自分の馬なんだから、世話くらい自分でやりなさいよ」
「僕の場合、一応現段階でスキルポイントは9ポイント残っているけど、レベル9で習得できる4ポイントスキルの『テレポート』、レベル10で習得できる5ポイントスキルの『リザレクション』、レベル12で習得できる5ポイントスキルの『エヴァキュエイト』は最優先で取っておきたいし、それ以外にも早めに取っておきたいスキルが山ほどあるから、『馬丁』スキルまでは手が回らないよ。まあ、『通訳』スキルでカーヒラとはある程度話が通じるから、スキルが無くても最低限の世話くらいは出来ると思うけど」
「きよたん、その聞いたこと無い名前のスキル、一体何に使うのよ?」
「スキルの効果に関する授業で、訓練生は全員習っているはずだよ。『テレポート』はアークウィザードの固有スキルで、一度行った町や村などであれば、どこにでも一瞬で移動できる魔法。『リザレクション』はアークプリーストの固有スキルで、手遅れにならなければ死んだ人を生き返らせることが出来る治療系魔法。そして『エヴァキュエイト』はアークウィザードの固有スキルで、ダンジョンや建物内などから、一瞬で安全な場所に移動できる魔法。どの魔法も、特にピンチになったときには非常に役立つから、習得できる人がいれば最優先で取った方がいいって教わったはずだけど」
「・・・・・・きよたん、授業でタマキ先生が喋っていたそんな難しいことを、あたしがいちいち覚えていると思う?」
「私も、スキルの効果に関する授業は、聴いていても全然理解できなくて、きよたかさんが理解できているならいいかと思って、途中から寝ちゃってましたけど」
「ふっ。無限なる叡智の持ち主、魔眼の女王バロール様の力をもってしても、解読不可能な古代フェニキア語で行われた講義の内容を理解することは、さすがに不可能であるな」
「3人揃って開き直らないで! それと瑞穂、講義はちゃんと日本語でやってたから!」
 まあ、それ以前に解読不可能なのに何で古代フェニキア語って分かるんだ、そもそもフェニキアの意味を知っているのかなど、瑞穂の台詞は突っ込みどころは満載なのだが、きりがないのでその辺は流しておく。

「そういえば、もえさんって確か、『馬丁』のスキル持ってませんでした?」
 みなみちゃんが、ふと話題を切り替えた。
「そういえば持ってたね。スキルレベルはまだ2だったけど」
「ちょ、ちょっと! このあたしに、馬の世話をやらせるつもり!?」
 上水流さんが、なぜか慌てた様子になった。
「そりゃあまあ、せっかく上水流さんが『馬丁』スキル持ってるんなら、使わない手はないよね?」
「もえさんは、『料理』や『裁縫』のスキルを取っていませんから、私の手が足りないとき馬の世話をしてもらうには、むしろ最適ですね」
「ふっ。世界の真理を見通す我が魔眼も、もえ姉が最適であるとの解を示しておるぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! たしか、『馬丁』のスキルってDEX依存でしょ!? あたしはDEX低いから、馬の世話は苦手なのよ!」
「上水流さん、DEXが低いといっても、今は46あるでしょ? 『馬丁』は初心者スキルだから、それだけあれば十分だよ。何も、一流のブリーダーになってもらいたいと言っているわけじゃないし、3日間あれば『馬丁』のスキルレベルを10に上げるくらい、上水流さんなら余裕で出来るはずだよ」
「いやああああ! あたし、馬の世話は苦手なのー! 以前、『乗馬』のスキルを覚えたとき、ついでに『馬丁』のスキルを取って馬の世話をしてみたら、いきなり馬に思いっきり手を噛まれちゃって、今でもトラウマになってるの~!」
「そうですか? 私は最初の頃から、チュニスちゃんやアルジェちゃんのお世話をしてましたけど、全然そんなことはありませんでしたよ?」
「まあ、みなみちゃんは優しい性格だし、DEXも最初から62、今では110あるから、元々馬の世話に向いているんだろうね」
「ほら、あたしはみなみちゃんと違って、性格的にも馬の世話は向かないから!」
 上水流さんは必死に逃げようとするが、こんな美味しいネタを、みなみちゃんと瑞穂が見逃すはずがない。
「大丈夫ですよ。私は野営の準備以外、この3日間で特に新しく覚えるべきスキルとかはありませんから、私がみっちりもえさんを指導してあげますよ」
「ふっ。我は、習得したばかりの『ホーリーカッター』を、実戦で使えるレベルに引き上げねばならぬ故、もえ姉の『馬丁』とどちらが早くレベル10に到達できるかの勝負となるな」
「き、きよたん、助けてよう・・・・・・」
 もはや泣き顔になった上水流さんが、僕に助けを求める。
「上水流さん、僕の指示には何でも従うって言ったよね?」
「え?」
「上水流さん、馬に噛まれたのって、たぶんかなり昔の話でしょ? 出発するまでの3日間で、頑張って苦手を克服して。これは、リーダーとしての僕の命令です」
 後日談になるが、僕の言葉で観念した上水流さんは、この日の買い物を終えた後、逃げられないよう僕やタマキ先生による監視の許、泣きながら馬の世話が得意なエイルさんの指導を受け、何とか『馬丁』のスキルレベルを10まで上げることに成功した。
 それでも、特に気が荒いカーヒラ君のお世話は、上水流さんの手には負えないらしく、結局カーヒラ君のお世話は、『馬丁』スキルを取っていない僕がやったほうがマシという結果になってしまったけど。

◇◇◇◇◇◇

 カーヒラ君のお世話に関する話はひとまず措いて、次に僕たちは『ドン・キオイデ』へ向かった。冒険に必要な薬草やポーションの類は、センターで用意してくれるということなので、後はこのドンキで冒険者用の装備と、役に立ちそうなアイテムを買うだけだ。
「上水流さん、みなみちゃん、瑞穂。僕たちの装備は、僕の『アテナイス・ソード』以外、センターで支給された安物ばかりだから、ここでしっかりした装備を揃えよう。予算はたっぷりあるから、1人あたり15万アマツ円以内であれば、自由に好きな装備を選んでいいよ」
 こうして、まずみなみちゃんは、マグナタイトという高い魔力を秘めた宝石が付いており、訓練生用の杖より圧倒的に魔法威力の上昇効果が高く、「治療魔法効果UP」の機能も付いた『僧侶の杖』を1万5千アマツ円で購入。オプションで6千アマツ円を支払って、「支援魔法効果UP」「攻撃魔法効果UP」の効果も付けてもらった。
 防具については、高級繊維で通常の衣類より防御力と魔法抵抗力を高めたローブを、みなみちゃんの体型と好みに合わせた巫女服タイプで3着注文。これが1着あたり1万アマツ円。それと念のため、弓矢攻撃や弱い魔法攻撃などを防げる高性能の小型バックラーを2個購入。1個あたり5千アマツ円なので、2個で1万アマツ円。
 瑞穂は、『司祭の杖』と同様にマグナタイトで魔力を高め、「攻撃魔法効果UP」の効果が付いた『魔道士の杖』を、「支援魔法効果UP」「治療魔法効果UP」のオプション付きで、合計2万1千アマツ円で購入。どちらの杖も、オプションを付けたことで実質的な効果は同じになるが、もともと高価な杖であるため、最初からオプション付きで買う冒険者はほとんどおらず、冒険などで地道にお金を貯めてから、徐々にオプションを追加していくのが一般的らしい。
 防具についても、みなみちゃんと同じ高級繊維製のローブを、瑞穂の体型と好みに合わせたドレスで3着注文、高性能バックラーも2個購入。二人とも、合計で6万1千アマツ円しか使っていないが、自分の好みに合った衣装を注文できて、とても満足そうだった。
 オーダーメイドとなる二人の衣装については、2日後にセンターへ届けてくれるということなので、3日後に予定している出発には十分間に合いそうだ。
 ・・・・・・ただし、瑞穂は例によって、服を注文する際、店員さんに向かって意味不明な中二病用語を連発し、店員さんが困惑していたので、僕が瑞穂の言いたいことを通訳する破目になったけど。

 僕自身については、『アテナイス・ソード』があるので剣などの武器は不要だけど、騎士用の重装備なのでお金がかかる。騎士用の頑丈な『鋼鉄の盾』を、壊れた際の予備を含めて2個購入。1個1万5千アマツ円、2個で3万アマツ円。
 全身装備については、頭から足まで全身を防護してくれる、和風の『当世具足』を2着注文。定価は1着5万アマツ円で、しかも注文から完成まで2週間くらいかかるということであり今回のクエストには間に合わないので、買おうかどうか迷ったものの、特別に1着あたり4万アマツ円に値下げ、しかも完成までの繋ぎとして、オーダーメイドでは無い鉄製の装備一式をプレゼントしてくれるということなので、結局購入を決めた。
 僕としては、先ほどの『ホース・オフ』で変に目立ってしまったので、このドンキではなるべく平穏に買い物を済ませたかったのだが、通常の駆け出し冒険者であれば、支度金の1人あたり2千アマツ円だけで初期の装備を揃えるのが通常であるところ、こんな感じで高額装備の爆買いを続けていれば、嫌でも目立ってしまう。
 結局、僕はドンキでも、噂の『ジェノサイド・キヨタカ』は自分のことであると認めざるを得なくなり、そのおかげで『当世具足』については破格の値引きやサービスをしてもらえたものの、店員さんにサインをお願いされたり、僕の周りには僕を一目見ようとお客さんの人集りができてしまい、さらには僕のことを『ノブナガ公の再来』などと言って、僕に向かって手を合わせてお祈りをする人まで出る始末で、『ホース・オフ』以上の騒ぎになってしまった。

 そして、僕のパーティーが誇る最強モンクにして、最悪のトラブルメーカーである上水流さんは、このドンキでもやらかしてくれた。
 上水流さんの装備のうち、戦闘中両腕に付けるナックルダスターについては、1セット1万5千アマツ円の『鋼鉄の爪』を2セット購入し、戦闘靴については、攻撃に使う爪先などを鋼鉄で補強し、キックなどの攻撃力と機動性、耐久力を両立させた、一足1万3千アマツ円の『武闘家の靴』を、上水流さんの足に合わせて2足分注文し、翌日にセンターへ届けてもらうことになった。
 そこまでは、比較的すんなり決まったのだが、問題は上水流さんの服だった。
「なんで、あたし向けのズボンがないのよ!?」
「モエ様、少なくともこのアマツでは、ズボンは男性が穿くものでございまして、女性用のズボンを購入される方はおられませんので、ズボンをお求めということであれば、男性用のものしかご提供できません」
「あたし、男物のズボンを穿くと、股間の布地が不自然に余っちゃうのよ! そもそも、なんでこんな作りになってるのよ!?」
「・・・・・・それは、男性の股間には、通常おちん○んが付いておりますので、ズボンにもこれを収納するスペースを設けておかないと、穿けなくなってしまいますので」
「あたしは女だから、そんなスペースは必要無いの! 股間の切れ目とかも必要無いから! どうして、そういうズボンが無いのかって聞いてるのよ!」
「ですから、これまでそういうズボンを注文されたお客様が、誰もおられなかったからでございまして・・・・・・」
 上水流さんが、くだらないことでギャアギャアと喚き、対応する店員さんが苦慮しているのに気づいた僕は、周囲の人たちになんとか下がってもらい、二人の仲介に入った。
「上水流さん、店員さんと何を揉めてるの?」
「だって、この馬鹿店員、あたし向けのズボンが無いって言うのよ!」
「いや、このアマツでは、女性はノーパンで、下半身はギリギリ隠すだけっていうのが当たり前になっちゃってるから、無いのは仕方ないよ。上水流さんは、何を注文しようとしたの?」
「『武闘家の服』上下一式、着替え用を含めて合計3着よ」
「店員さん、お値段はどのくらいになりますか?」
「高級繊維入りの高級品ですので、当店で用意しているものを購入されますと、一式で1着あたり6千円、合計1万8千円になります。ただ、上着についてはモエ様のサイズに合うものがございますが、ズボンについてはそもそも女性用のものがございませんので」
「それじゃあ、ズボンだけ、上水流さん専用のオーダーメイドで作ってもらうわけには行きませんか?」
「出来ないことはありませんが、ズボンだけオーダーメイドということになりますと、1着あたり8千円、合計2万4千円になってしまう上に、ズボンのお届けが2日後になってしまいますが、それでもよろしいですか?」
「いいですよ、そのくらい。みなみちゃんと瑞穂は、1着あたり1万円の衣装を、オーダーメイドで3着も買ってるんですから」
「きよたん、あたしは衣装へのこだわりなんて特に無いのに、どうしてあたし向けのズボンが無いっていうだけで、そんなに余計な料金払わなきゃいけないのよ!?」
「上水流さん、別に僕たちは、お金に困っているわけじゃないんだから、グチグチ言わないで! じゃあ店員さん、ズボンだけ上水流さん向けのオーダーメイドということで、よろしくお願いします」
 その後、上水流さんはズボンを作るための測定時にもブツブツ文句を言っていたが、何とか測定と代金の支払いを済ませ、最後に冒険の役に立ちそうな商品が無いか、軽く見て回ることにし、いくつか目についたものを購入した。
「キヨタカ様、こちらの商品はいかがでございますか?」
 そんな僕に向かって、ドンキの女性店員が声を掛けてきた。その店員さんが持ってきたのは、空気ポンプらしきものと、大容量の水筒らしきものと、湯桶らしきもの。
「何に使うものなんですか?」
「若い男性の冒険者様が野宿をされる際、女性とのおま○こは適当な草地などで行われるのが普通でございますが、時にはそれに適した場所がない場合もございます。そんなとき、このマジックポンプを使えば、男女二人が寝られる大きさの柔らかいマットが出来上がります。このマットと平らな場所さえあれば、どこでもおま○こをお楽しみ頂けます。マットは、マジックポンプを外せば簡単に小さくなりますので持ち運びにも便利ですし、どんなに汚れても洗濯は水洗いだけで済みます」
「・・・・・・要するに、えっちなことをするためのマットですね」
「はい。ただし、マジックポンプにホースを付ければ、水汲みなどの作業にも使えますので、他にも色々使い道はあるかと存じます。これと合わせてお勧めさせて頂きたいのは、この水筒に入っている海藻ローションですね。おま○こをされる際に、このローションを暖めてお湯で溶かし、身体に塗って頂きますと、男性も女性も至上の快感を得ることができます。これは当店の新商品でございまして、魔法を含めた最新技術を使用しております関係で、少々お値段が張ってしまいますので、キヨタカ様のような富裕層の方だけにお勧めしているのですが」
「おいくらですか?」
「マジックポンプとマット、最大5メートルまで伸びるホース、海藻ローション入りの水筒、ローションを溶かすための湯桶、合計で2万円となります。ただし、キヨタカ様ご一行には、当店で大口のお買い物をたくさんして頂きましたので、本日に限り、合計1万円の特別価格でご提供させて頂きます。なお、破損した商品の修理や交換、海藻ローションの補充につきましては、商品を当店にお持ち頂ければ、今後すべて無料で承ります」
 店員さんの話を聞いて、僕は少し考えた。
 ・・・・・・本日持参してきたお金は、一昨日の最終模擬クエストと、昨日の救出作戦による収入が、合わせて72万9千アマツ円。これに支度金8千円を加えて、73万7千アマツ円になる。昨日獲得した宝石等については、数が多いため正式な査定額はまだ出ていないが、おそらく30万円以上になる見込みだ(なお、第13話で言及した38万6千円という売却額は、この翌日に査定が終わり受け取ったものである)。
 そして、今日の買い物に使ったお金は、軍馬のカーヒラ君が付属の馬鎧や鞍など込みで2万4千円、僕用の装備が11万円、上水流さん用の装備が8万円、みなみちゃんと瑞穂の装備が各6万1千円、これらを差し引くと、残りの所持金は39万3000円。
 もっとも、他に途中で軽食を楽しんだり、ちょっとした雑貨を購入したりなどでお金を使ったものの、僕の財布袋を確認したところ、所持金はまだ39万円ちょっとある。
 ただのえっち用品に1万アマツ円、日本円換算で100万円と考えると、とんでもない無駄遣いのような気もするけど、今後この世界で生きて行くには、みなみちゃんや瑞穂と毎晩のえっちは欠かせないし、野外でえっちする場所が見つからず、泥まみれになりながらえっちするのは嫌だし、海藻ローションを使ったプレイにも興味がある。
 何より、現在の所持金が約39万アマツ円もあり、しかもそのほとんどは、たった2日間の戦いで稼いだ金額である。1万アマツ円くらいのことで、ケチケチするほどのこともないか。
「分かりました。その商品、買わせて頂きます」
「ありがとうございまーす! 本日は、大変多くのお買い物をして頂きましたので、お買い上げの商品につきましては、当店の輸送馬でセンターまでお送りさせて頂きますね!」


 こうして、今日は予想以上にいろんなことがあったけど、冒険者登録と訓練生の卒業式、初クエスト受注と、出発のために必要な買物を済ませ、3日後の出発に必要な準備の目処も立った。
 あと、トーキョー・シティーのお店では、冒険者カードをリンクした冒険者共通ポイントというものがあり、購入額の1%がポイントとして貯まり、購入後1年以内であれば、次回の買い物に使うことが出来る。ステータス画面で確認してみたところ、僕には合計3480ポイントが貯まっていた。次回の買い物で有効に使うことにしよう。
 ・・・・・・それにしても、こういう発想は本当に、現代の日本と大して変わらないな。おそらく、僕たちより先に転生してきた日本人たちから入れ知恵されたんだろうけど。

(第16話に続く)
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