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第1章 訓練生編 『目指せ、アマツ世界を救う冒険者!』
第13話 救出作戦
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第13話 救出作戦
「実はね。ヨーイチ君のパーティーが、全滅しちゃったみたいなの」
タマキ先生の言葉に、僕たちは皆衝撃を受けた。
「ヨーイチ君たちのパーティーは、いつものようにこの北門方面で、ゴブリン退治のクエストをこなしていたんだけど、先ほどセンターの冒険者情報管理室から、リーダーで戦士のヨーイチ君と、僧侶のタマヨちゃんのロストが確認されたって知らせが届いたわ」
「先生、『ロスト』って何ですか?」
僕が尋ねると、タマキ先生はさらに悲しそうな顔をして答えた。
「完全に死亡、蘇生の余地も無しってこと。センターに登録されている冒険者は、冒険者カードを通じてそのステータス情報をセンターでもリアルタイムに把握できるんだけど、ヨーイチ君とタマヨちゃんのステータスが、『ロスト』になったっていう知らせが届いたのよ。ヨーイチ君のパーティーは4人編成だったけど、残りのエイルちゃんとフライヤちゃんも、まだ生きてはいるけど戦闘不能状態。つまり、ヨーイチ君のパーティーは、おそらくモンスターとの戦闘に負けて、全滅しちゃったのよ」
「そんな・・・・・・」
あの、モンスターなんてさざ波みたいなものだなんて言っていた、ヨーイチは嫌な奴だと思っていたけど、それでも顔見知りの冒険者パーティーが全滅したとなると、僕としてもショックを隠しきれない。
「そんな、せっかくの攻めキャラが、お亡くなりになってしまうなんて・・・・・・」
・・・・・・約1名、他と違う理由で悲しんでいる腐女子がいるが、無視しておこう。
「タマキ先生、ヨーイチとタマヨは『ロスト』だから仕方ないとしても、エイルとフライヤはまだ生きてるんでしょ!? 助けに行かないの?」
上水流さんが問うと、タマキ先生は意外そうな顔をして、
「もえちゃん、全滅したパーティーのメンバーなんて、いちいち助けに行ったりしないわよ。センターの冒険者情報管理室でも、冒険者たちの現在位置までは把握できないし、そもそも冒険者の死亡やパーティーの全滅なんてそんなに珍しいことじゃないから、他のパーティーが全滅したからって、その生き残りをいちいち助けに行ったりする物好きはいないわ。先生も、パーティーの全滅を経験したことがあるけど、誰も助けになんか来てくれなかったもの」
「・・・・・・」
「日本人のタマキちゃんがロストして、アマツ出身のエイルちゃんとフライヤちゃんが生きているということは、多分タマキちゃんは下手に抵抗して殺されちゃったけど、エイルちゃんとフライヤちゃんは、抵抗しても無駄だと分かって、大人しくモンスターの、このあたりだからおそらくゴブリンたちの慰み者にされているんでしょうね。アマツ出身の女の子は、子供の頃からもしモンスターに捕まったら、大人しくされるがままになりなさい、そうすれば運が良ければ生き延びられるからって教えられているから」
「・・・・・・そういうものなんですか?」
「きよたん、そういうものよ。地球でもそうだけど、暴力がはびこる世界で弱い女性が生き延びるには、力ずくで男の言うがままにされるのを耐えるしか無いのよ」
「そんな・・・・・・」
タマキ先生の言葉に、上水流さんがショックを受けている。ここは平和な日本のような世界ではなく、いつ殺されるか分からない弱肉強食の世界なのだ。
「そういうわけで、エイルちゃんとフライヤちゃんは、このアマツで生きる術を知っている子たちだから、運が良ければ警戒が緩んだ隙を見て自力で脱出するか、あるいはモンスターの方が飽きて解放してくれるかして、自力で帰って来る可能性もあるわ。もっとも、仮に生きて戻ってきたとしても、モンスターに陵辱されて帰ってきた女の子は、その経験がトラウマになって、そのまま冒険者を引退しちゃう例がほとんどだから、わざわざ他の冒険者パーティーに報酬を出して、救出隊を送るほどの価値はないのよ。先生も、以前モンスターに陵辱されて何とか生きて帰ってきた後は、その後半年くらい、再び冒険に出る気にはなれなかったわ」
「そんなの薄情過ぎるわよ! エイルもフライヤも先生の教え子でしょ!? 助けに行こうと思わないの!?」
「もえちゃん、そんなこと言ったって、救出に行ける冒険者パーティーなんていないわよ。先生の権限でも、報酬の出る救出クエストなんて出せないし」
「あたしたちがいるじゃない!」
え?
「あたしたちで、エイルとフライヤを助けに行きましょ! 今すぐ!!」
上水流さんが、僕たちに向かってそう呼びかけてきた。その表情は真剣そのものだ。
「もえちゃん、エイルちゃんやフライヤちゃんと、そんなに仲良かったっけ?」
タマキ先生がそう問うと、上水流さんは少し困ったような顔をして答えた。
「・・・・・・特別仲が良かったわけじゃないけど、結構長い間訓練生活を共にしてきたし、特にフライヤの方はおしゃべりだから、結構一緒に話したりもしたわ。そんな仲間を見殺しになんて出来ないわよ」
「きよたん、もえちゃんはこう言ってるけど、どうする? 仮パーティーのリーダーはきよたんだから、決めるのはきよたんよ」
タマキ先生に返答を促され、僕はしばし考えた後、意を決して答えた。
「分かった。上水流さんの言うとおり、エイルとフライヤの救出を試みることにする。ただし、今すぐはさすがに無理だ。みなみちゃんと瑞穂は、ほとんど体力の限界だし、僕もかなり疲れ切っている。上水流さんと違って、僕たちはマナポーションとかの補充も必要だし、一晩休んで体力を回復させた後、明日の10時にこの北門へ集合し、エイルとフライヤの救出に向かう」
「きよたん、何を悠長なこと言ってるのよ!? その間に、エイルとフライヤが死んじゃったらどうするのよ!?」
「上水流さん、今のタマキ先生の話だと、エイルとフライヤがすぐに殺される可能性は低そうだ。それに、時間もそろそろ夕方だし、疲れ切って準備も出来ていない状態で救出に向かうなんて、自殺行為だよ」
僕が、今すぐ救出に向かおうと駄々をこねる上水流さんの説得に手間取っていると、タマキ先生が助け舟を出してくれた。
「きよたんの言うとおりよ。それに、夜の城外は結構怖いわよ。幽霊とかアンデッドモンスターも出たりするし。特に今夜、森の中に深入りなんかしたら、死んだヨーイチ君の幽霊が出るかもしれないわ。『うーらーめーしーやー』って」
「いやあああああああああっ!!」
上水流さんが、いきなり悲鳴を上げてその場にうずくまり、必死になって両耳を塞いでいる。どうやら上水流さん、この手のホラー話が極端に苦手なようだ。
「ヨーイチさんが、魂になってもきよたかさんを攻め続ける。尊いです・・・・・・」
「ふ、ふっ。この偉大なる魔眼の女王バロール様に掛かれば、ゆ、幽霊など・・・・・・」
どうやら、みなみちゃんは全然平気だが、瑞穂は必死に強がっているものの、やはり怖いようだ。まあ、幽霊やアンデッドが出たら、撃退するのは『ホーリーライト』を持っているみなみちゃんの役目になるので、みなみちゃんが平気なら特に問題はないけど。
ともあれ、タマキ先生の説得(?)のおかげで、上水流さんも直ちに出発することは諦め、僕の提案どおり、翌日の午前10時に北門へ集合し、エイルとフライヤの救出作戦に出発することになった。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
「さあ、エイルとフライヤを助けに行くわよ!」
気勢を上げる上水流さんに、みなみちゃんが尋ねた。
「もえさん、やる気があるのは良いんですけど、エイルさんとフライヤさんの居所は掴めているんですか? 大体の場所すら特定できないまま探し回っても、意味が無いと思うんですけど・・・・・・」
それまでやる気満々だった上水流さんは、急に冷や汗を流し、
「え、えーと、そのくらいのことは・・・・・・。気合いで何とかなるわよ、たぶん」
どうやら、捜索方法については何も考えていなかったらしい。
「それじゃあ、とりあえず昨日、僕たちがキラータイガーを倒した場所まで行ってみようか」
「きよたん、そんな場所に行ってどうするのよ?」
「昨日、僕たちが倒したキラータイガー、見るからに人を食べたばっかりって様子だったでしょ? それに、キラータイガーと戦っている最中、人間の戦士用らしき兜が落ちているのを見かけたから、ヨーイチはひょっとしたら、あのキラータイガーに喰われたんじゃ無いかと思っていたんだ。それで、かわたさんにキラータイガーの死体を引き渡す際、解剖の際に人間を食べた形跡がないか、調べてもらうように頼んだんだ」
「それで、結果はどうだったのよ?」
「今朝知らせが届いたんだけど、大当たり。キラータイガーの胃から人間の死体が出てきて、その中からヨーイチの冒険者カードが発見されたから、100%ヨーイチの死体で間違いない」
「それで?」
「たぶん、あのキラータイガー、ゴブリンに飼われていたか、何らかの形でゴブリンに協力していたと思うんだよ。エイルさんとフライヤさんは、ヨーイチと同じパーティーで一緒に戦っていたにもかかわらず、キラータイガーに喰われず何とか生きているって事は、それ以外に説明が付かない。だから、あのキラータイガーと戦った場所の周辺に行けば、ゴブリンの足跡なんかを手掛かりに、エイルさんたちを捕らえているゴブリンたちのアジトを見つけられる可能性が高いってわけ」
「ふっ。誇り高き我が眷属の深謀遠慮は、脳筋ゴリラの比ではないわ」
中二病モードになった瑞穂が、まるで自分のことのように威張っている。昨晩のえっち当番は瑞穂だったので、瑞穂には今日の作戦について、あらかじめ話していたのだ。
「誰が脳筋ゴリラですって!?」
怒った上水流さんが、瑞穂に殴りかかろうとするのを、僕が制した。
「上水流さん。瑞穂を殴ったら、さすがに今度は許さないよ」
「もえさん。きよたかさんはきちんと作戦を考えていたのに、もえさんは言い出しっぺのくせに、昨日自室に戻ってからオナニーしてばかりじゃなかったですか。しかも、いつも以上に激しく」
「だ、だって・・・・・・。昨日のきよたんを見て、少し格好良いって思っちゃったんだもの・・・・・・」
みなみちゃんに恥ずかしい秘密を暴露され、うろたえる上水流さん。まあ、僕も昨晩は瑞穂とえっちして、寝る前に10回、今朝も3回射精しちゃったから、他人のことはとやかく言えないけど。
「やーいやーい、このオナニーゴリラー」
「瑞穂もいちいち煽らない!」
僕が一喝すると、上水流さんをからかっていた瑞穂も沈黙した。
「そういえばきよたかさん、昨日苦労して運んできたキラータイガーの死体って、どのくらいで売れたんですか?」
今度は、みなみちゃんが僕に質問してきた。
「12万アマツ円。日本円で、約1200万円相当」
「そんなに高く売れたんですか!?」
みなみちゃんだけでなく、上水流さんや瑞穂も、一様に驚きの声を上げる。
「まあ、死体の損傷が激しかったんでいくらか減額されちゃったんだけど、それでも最近はキラータイガーの入荷がほとんど無くて、価格が高騰しているんだって。僕としては、3万アマツ円くらいで売れれば良い方かと思っていたんだけど、僕の予想以上の高値で売れたよ」
「あたし、何だかあのキラータイガーが、金のなる木みたいに思えてきたんだけど・・・・・・」
「上水流さん。あのキラータイガーも、余裕で倒せるようになれば、まさしく金のなる木だよ。それと、ゴブリンのアジトにあった宝石類も、合計4万アマツ円で売れたから、現金2万5千アマツ円と合わせて、昨日の模擬クエストで得た収入は、合計18万5千アマツ円。冒険者になってから受けられる初級クエストで、ゴブリンを50匹倒すともらえる報酬は通常5千アマツ円くらいだから、ボロ儲けだったね」
「わーい! 瑞穂たち、大金持ちになっちゃった!」
「まあ、冒険者として旅立つにあたり、最高級の武器や防具を買い揃えようとしたら結構お金がかかるから、そんなに無駄遣い出来るわけじゃ無いけど、軍資金は多いに越したことはないからね。今回、エイルさんとフライヤさんの救出に僕が同意したのも、2人を救出して、ついでに2人を誘拐したゴブリンたちのアジトを潰せば、卒業の前にもう一稼ぎできて一石二鳥だって考えたのも大きな理由ではあるんだけど」
「きよたかさん、その件も兼ねて、チュニスちゃんとアルジェちゃんの紹介をさせて欲しいんですけど・・・・・・」
「チュニスとアルジェって、みなみちゃんが連れて来ているその巨大馬のこと?」
そう。今日はみなみちゃんが、異様に大きい馬を2頭連れてきているので、さっきから気になっていたのだ。いずれも、体高は軽く2メートルを越え、大きいだけでなく頑丈そうな身体をしている。なお、2頭の背中には鞍と、荷物を運ぶための紐や担架などが備え付けられている。
「はい。チュニスちゃんとアルジェちゃんは、センターで飼育している輸送用の馬で、私が『馬丁』スキルの練習をするため、毎日お世話をさせてもらっていたんです。今回、エイルさんとフライヤさんを救出するということで、特別に貸してもらいました。栗毛の方がチュニスちゃんで、鹿毛の方がアルジェちゃんです。2人とも大人しい子ですけど、とっても力持ちで、頭も良いんですよ。いちいち手綱をつけたりしなくても自分で付いてきてくれますし、モンスターとの戦闘になると、戦闘に巻き込まれないように、自分から安全な場所に隠れたりしてくれるんですよ。ちなみに、2人とも女の子です」
どうやら、みなみちゃんの頭の中では、2頭とも人間と同じ扱いになっているらしい。ちなみに、栗毛とは黄褐色、鹿毛とは茶褐色のことで、栗毛の方がやや明るい色である。
「それは、何とも便利な馬だね。チュニス、アルジェ、今日はよろしくお願いするね」
僕が話し掛けると、チュニスとアルジェは揃って「ヒヒーン!」と鳴き声を上げた。どうやら、「あたしたちに任せなさい」と言っているようだ。
「・・・・・・きよたん、馬と会話できるの?」
「僕は、『通訳』スキルを持っているから。アマツの馬は、地球の馬よりかなり頭が良くて品種改良も進んでいるらしく、馬との会話は、人類以外との会話としてはかなり簡単な方らしいよ」
「・・・・・・本当にきよたんは、わずか1ヶ月くらいの訓練で、どうやったらそんな知識を色々と覚えられるのよ? 頭の性能がチートなんじゃないの?」
「まあ、アテナイスさんがそういう仕様にしてくれたのかも知れないね」
実際、頭の良さを示す僕のINTは、転生当初でも138と、レベル1の中級職としては異様に高い数値だったのだが、レベルアップによる成長も速く、現在はレベル7で既に160を超えている。優秀なアークウィザードでも1レベルあたり4ポイントアップくらいが普通らしいから、1レベルあたり6ポイント、時には7ポイントもアップする僕のINTは、おそらく規格外の存在なのだろう。
もっとも、自分ではいまいち、天才というほどの実感は沸かない。冒険者として自立するときに備えて、日々勉強をしてきたというだけだし、勉強以外に戦闘訓練なんかもやっているし、夜はみなみちゃんや瑞穂とえっちなことをするのが当たり前になっているから、東京大学や司法試験の受験生並みの猛勉強をしてきたというわけでもないし。
ちなみに、その両方に合格した経験を持つお父さんの話だと、そういう人は1日12時間以上勉強を続けることも多く、恋愛なんかしている暇はないという。
「雑談はこのくらいにして、そろそろ出発しよう。今日は出発が遅めだから、早めに動かないと救出前に日が暮れちゃうから」
◇◇◇◇◇◇
昨日、キラータイガーとの死闘を繰り広げた場所から、ゴブリンたちの足跡を辿ることしばし。「索敵」で、ゴブリンとおぼしき敵の存在を探知した。
「昨日会ったゴブリンの一団よりは数が多い。40匹以上はいるね」
「きよたん、どうするの? 蹴散らしちゃう?」
「出来れば、木陰に隠れてやり過ごしたいところだけど、チュニスとアルジェがいる以上、完全に隠れるのは難しいか。かと言って、正面から掛かっても逃げられるおそれがあるので、みんなでこのあたりの木陰に隠れて、至近距離まで近づいたところで急襲を掛け、出来ればる全滅させる」
「分かったわ」
こうして、僕たち一行は木陰に隠れ、僕の合図と共にゴブリンの群れへ急襲を掛けたものの、ゴブリンたちは上水流さんの姿を見ただけで一目散に逃げ出してしまい、10匹ほど取り逃がしてしまった。
「きよたん、ゴブリンたちを追い掛ける? あたしに『ヘイスト』掛けてもらって追撃すれば、まだ追いつけるかもしれないわよ」
「いや、止めておこう。どうせ、ゴブリンの大群との正面決戦は避けられそうに無い。それなら、追撃で体力を消耗するよりも、ゴブリンたちの足跡を追って奴らのアジトまで普通に歩き、万全の状態で決戦に臨んだ方が良い」
「それもそうね」
「あと、さっきのゴブリンたちも、上水流さんのことは知っているみたい」
「今度は、何て言ってたのよ?」
「・・・・・・ご想像にお任せします」
「それじゃあ、ゴブリンたちが何を言ってたか、あたしたちには分からないじゃない」
「ふっ。この我、深遠なる叡智の主バロール様には、概ね察しが付いたぞ」
「何が分かったって言うのよ、このがきんちょ」
「我が眷属が、わざわざ言い淀むということは、おそらく昨日のゴブリン共と同じようなことをほざいていたのであろう。すなわち、『うわー、ゴリラが来たぞ、逃げろー!』などとな」
「なんであたしがゴリラなのよ!?」
「上水流さん、落ち着いて。僕たち人間とゴブリンはかなり形が違うから、僕たちにはゴブリンのオスとメスなんて、簡単には区別できないじゃない。勃起したおちん○んを剥き出しにしている下品なオスたちを除けば、大体、武器を取って向かってくるのはオスらしく、武器も持たずオロオロと逃げ回っているのがメスらしいって察しが付く程度で」
「まあ、確かにあたしにも分からないわよ。仮に、自ら武器を持って立ち向かってくる勇敢なメスがいたとしても、多分オスとの区別は付かないわね」
「それと同じ事で、ゴブリンたちも人間の男と女の区別は、おそらく服装くらいでしか判断出来ないんだと思うよ。僕みたいにズボンを穿いているのが男で、みなみちゃんや瑞穂みたいに、ひらひらしたスカートを穿いているのが女って感じで」
「その基準だと、あたしは男者のズボンを穿いているから、ゴブリンたちに男だと思われてるっていうこと!?」
「たぶん」
「むうう、ますます許せないわ! このあたしを男と勘違いするなんて! 全滅させてやるんだから!」
上水流さんが、僕の話を聞いてゴブリンたちに理不尽な怒りをぶちまける。内心では、「そんな感じだからゴリラ呼ばわりされるんだよ」と思ったが、とりあえず上水流さんの怒りを、僕や瑞穂から反らせることには何とか成功した。
「その前に、もえさんも女物の武闘家服を着るという選択肢は無いんでしょうか・・・・・・?」
「みなみちゃん。僕も町で見かけたことがあるけど、女物の武闘家服って、下半身がチャイナドレスみたいな感じになっていて、パンツも穿かないから、あんな服装で飛び跳ねたりしたら、たぶん女の子の大事なところが、しょっちゅう丸見えになっちゃうと思うよ。アマツの女性は、見られてもあまり気にしないみたいだけど、もえちゃんは日本人なんだから、年頃の女の子としての羞恥心も察してあげて」
「なるほど、そういうことなら仕方ありませんね・・・・・・」
こうして、僕は上水流さんの怒りを何とか上手く宥めながら、『捜索』スキルを使って逃走したゴブリンの足跡などを辿り、普通に歩きながらゴブリンのアジトを探した。
◇◇◇◇◇◇
ゴブリンたちのアジトは、街道からは離れた場所にあったが、昨日潰したアジトよりかなり大規模で、森に囲まれた平原の分かりやすい場所にあった。アジトを囲む柵も、昨日見たものよりはやや立派な作りになっている。
「昨日よりかなり数が多い。ゴブリンが千匹か、あるいは二千匹くらいいそうだな。取り囲まれると、少々厄介かも」
「大丈夫よ。昨日みたいに、あたしときよたんが連携して戦えば、ゴブリンの二千匹くらい、どうってことは無いわ」
「そうだね。今回は、エイルさんとフライヤさんの救出が第一目的なので、あまり力押しの戦い方はしたく無かったんだけど、他に良い方法も無い。みなみちゃんと瑞穂は、念のため自分に『シールドバリア』を張った後、僕の後ろに付いてきて、僕と上水流さんを『ヘイスト』と『エンチャント』で援護。余裕があるときは、魔法なりクロスボウなりで敵を攻撃して、少しでも経験値を稼いで」
「きよたかさん、了解しました」
「了解した。この偉大なる魔眼の女王、バロール様の力を再び見せてやろう」
「よし。絶対大丈夫、絶対に勝つ!! それでは行くぞ、突撃~!」
僕は、意識的に大声を上げて、突撃命令を発した。これは、単に味方の士気を上げるというだけでなく、僕がレベル4になったとき自動で習得した『鼓舞』スキルを使うことで、若干ではあるが味方全体の攻撃力や魔法力を高める効果があるためだ。
また、僕は昨日レベル7になったときに覚えた『重装備負担軽減』の効果で、重い鎖帷子の鎧を着けていても、以前より身軽に動けるようになっている。戦い続けてスキルレベルを上げれば、そのうち軽装の上水流さん並みに素早く動くことも可能になるだろう。
ちなみに、輸送馬のチュニスとアルジェは、僕に指示されるまでもなく、自分から目立たない森林の陰に隠れてくれた。あれだけ賢いなら、たぶん気にしなくても大丈夫か。
今回のゴブリンたちは、最初のうちは司令官らしきゴブリンリーダーの指揮下で、上水流さんに脅えながらも集団で立ち向かってきたが、先陣を切ったゴブリンたちは、密集陣形が徒となって瑞穂の『ファイア』でまとめ焼きにされ、瑞穂を喜ばせるだけの結果となった。
続いて、『ヘイスト』で素早さを上げた僕と上水流さんが、ゴブリンの群れに突撃する。出鼻をくじかれたゴブリンたちの士気は低く、ゴブリンリーダーが必死に「逃げずに戦え!」などと(ゴブリンの言葉で)叫び続けても、ゴブリンたちの大半は逃げ腰になっていた。
そして、僕が『ホーリーカッター』で指揮官らしきゴブリンリーダーを討ち取ると、ゴブリンたちの群れはもはや潰走状態となり、逃げようとするゴブリンと後方からやってくるゴブリンに押し潰されて死ぬゴブリンまでいる始末。混乱するゴブリンたちは、僕と上水流さんはおろか、みなみちゃんや瑞穂にとっても格好の獲物となり、みるみるうちに死体の山へと変わっていった。
ちなみに、昨日はクロスボウで戦っていたみなみちゃんも、大量のゴブリンをまとめて倒すには魔法の方が効率的だと理解したらしく、今日は『ファイア』などの攻撃魔法を積極的に使っている。
「こいつらは、昨日のゴブリンより数が多いだけじゃなくて、文明的にも若干進んだゴブリンみたいだね。弱っちいけど、魔法を使おうとするゴブリンシャーマンなんかもいたし」
「でも、昨日より若干時間が掛かっただけで、あたしたちの敵じゃ無いわよ。たぶん、あそこにいる偉そうな格好をしたゴブリンキングを倒せば、もうおしまいよ」
上水流さんがそう言いかけたところで、みなみちゃんが大声を上げた。
「きよたかさん、大変です! 後方から新手のゴブリンと、あのキラータイガーが来ています!」
僕が後方を振り返ると、どうやらアジトの異変を知らされて引き返してきたらしいゴブリンの大群と、どうやら猛獣使いの能力を持っているらしいゴブリンに連れられた、一匹のキラータイガーがやって来た。
「きよたん、どうするの? 昨日戦って勝ったとはいえ、あのすばしっこいキラータイガーが、ゴブリンたちと力を合わせて向かってきたら、厄介なことになるわよ」
「その心配は無い」
僕は、ゆっくり歩いているキラータイガーに向かって、全力で「ホーリーカッター」を放った。僕の放った光の刃は、狙い違わずキラータイガーの喉を直撃し、キラータイガーはその場にバタリと倒れ込んだ。
「きよたん、今何をやったの!?」
「説明している暇は無い。上水流さんは、みなみちゃんと一緒にゴブリンキングとその取り巻きを片付けて。僕と瑞穂で、キラータイガーと新手のゴブリンたちを片付ける!」
瑞穂から『ヘイスト』の援護を受けて僕がゴブリンの群れに突撃すると、おそらく頼みの綱としていたキラータイガーを倒されて動揺しているゴブリンたちはほとんど戦意を失って逃走を始め、僕の剣と瑞穂の攻撃魔法で、みるみるうちに倒されていった。
・・・・・・なお、僕と瑞穂、上水流さんとみなみちゃんという組み合わせにしたのは、今までの言動から、上水流さんと瑞穂を組ませると喧嘩になりそうな気がしたからである。
それはともかく、ゴブリンたちの掃討は順調に進み、もはや生きているゴブリンが見あたらくなった頃、僕が倒れているキラータイガーに近づいてみたところ、キラータイガーは出血多量で瀕死状態になっていたものの、まだ微かに息があった。僕は、キラータイガーの喉笛をかき切ってとどめを刺し、森の中に隠れていたチュニスとアルジェを呼んで、キラータイガーの死体をアルジェの背中に乗せた。
「こちらの方は片付いた。上水流さんの側はどう?」
「あたしの方も、ちょうど片付いたところよ。見たところ、ゴブリンの生き残りはもういないと思うわ。ところできよたん、さっきあのキラータイガーに何をやったのか、そろそろ説明してもらおうかしら」
「ああそれね。昨日、かわたさんにキラータイガーの死体を引き取ってもらったとき、結構死体の損傷が激しいってことで、買取額が減額されちゃってね。それでかわたさんに、高く買い取ってもらうにはどういう倒し方をするのが良いか尋ねてみたところ、可能であれば、急所であるキラータイガーの喉笛をかき切って倒すのが良いって教わったんだ」
「それで?」
「そして今日、都合良く再びキラータイガーが現れたんで、奴が本格的な戦闘モードに入る前に、先制攻撃で『ホーリーカッター』を放ち、キラータイガーの首を狙ったんだ。さすがに、瞬殺とまでは行かなかったけど、急所の首に大ダメージを受けたキラータイガーは、出血多量で倒れてそのまま動けなくなり、その後僕が取り巻きのゴブリンたちを一掃した後、剣でキラータイガーにとどめを刺して、戦利品としてアルジェの背中に乗っけてきたわけ」
「・・・・・・きよたん、それってあからさまな不意打ちじゃないの?」
「上水流さん。これは、人類とモンスターとの戦争なんだよ。スポーツと違って、戦争には卑怯も不意打ちもへったくれも無い。どんな手段を使おうとも、勝った者がすべてを手に入れ、負けた者はすべてを失うんだ。昨日、キラータイガーに喰われたヨーイチみたいにね」
僕の言葉に、上水流さんは呆れたような顔をした。
「もう分かったわよ。それで、エイルとフライヤをどうやって探すの? このアジト、ゴブリンの住処っぽいテントがやたら一杯あるんだけど」
「時間はかかるけど、しらみ潰しに探して回るしか無いよ。重要なものがありそうなテントや倉庫を先に調べて、それでも見つからなかったら、僕と瑞穂、上水流さんとみなみちゃんの二手に分かれて、他のテントも探してみよう。ひょっとしたら、生き残りのゴブリンが隠れている可能性もあるから、中を調べるときは慎重に。もし生きているゴブリンがいたら残らず殺して、調査済みのテントは全部壊しちゃって」
「了解。じゃあ、まずあのボスのテントから行くわね」
◇◇◇◇◇◇
僕たちは、まずゴブリンキングの住処と思われる大きなテントに入ってみたが、エイルとフライヤはいなかった。その代わり、テントは様々な宝石や装飾品で飾られており、金貨や銀貨なども結構あったほか、テント自体もかなり上質の布地で作られていた。
「さすがに、これらを捨てるのは勿体ないね。後でテントを解体して、金目の物は持てる分だけ持って帰ろうか」
「きよたん、あんた本当に、発想ががめついわね」
「がめついくらいでなきゃ、冒険者という職業は務まらないよ。訓練生を卒業したら、冒険者としての収入で食べて行くだけでなく、より強いモンスターを戦うには、高価な武器や防具なんかを買い揃えて行く必要があるんだから。次は、あの食料倉庫みたいなところを探してみようか」
僕たちは、ボスのテントの近くにあった、食料倉庫とおぼしき掘っ立て小屋を調べてみることにした。
「お兄ちゃん、扉に鍵が掛かってるみたい。引っ張っても押しても開かないよ」
真っ先に倉庫に駆け寄って行った瑞穂が、そう報告してきた。
「参ったな。あいにく『解錠』スキルは持っていないし、正しい鍵を探している時間的余裕はないし・・・・・・」
「なら、あたしが扉ごとぶっ壊してあげるわよ」
上水流さんは、そう言うや否や、扉に向かって強烈なジャンピングキックを放った。
ガラガラガラガラ・・・・・
扉自体は壊れたものの、ジャンピングキックの威力が強すぎて、その勢いで建物自体が壊れてしまった。
「ふん、あたしの手にかかればこんなもんよ」
「やばい、もしあの中にエイルさんとフライヤさんがいたら、生き埋めになっちゃってるよ!」
勝ち誇っていた上水流さんも、僕の言葉で事態に気づき、慌てて僕と一緒に、崩れた建物の跡を掘り起こした。
「どうやら、中に人はいないようですね」
事の推移を見守っていたみなみちゃんが、そう呟いた。
「ある意味、逆に助かったね。後は、二手に分かれて残りのテントを探して回るか」
もっとも、これが最大の難作業だった。何しろ、ゴブリンたちのテントは千個以上もあり、一つ一つ丁寧に探していたら、その間に日が暮れてしまう。
僕は次第に面倒になり、テントの布をいきなりひっぺがして、中に何も無かったらそれで終わり、ゴブリンのメスや子供が隠れていたらその場で殺し、といった単純作業を繰り返した。ゴブリンの慰み者にされていたらしい人間の女性たちも3人ほど見付かったが、残念ながらエイルとフライヤのことは知らないと言う。
僕は、『ヒール』と『キュア』でその女性たちを治療し、捜索作業を手伝ってもらった。
「きよたーん! エイルとフライヤは見つかった?」
「まだ見つからないよー!」
そのうちに日も暮れ始め、残ったテントも数個だけになった。ひょっとしたら、このアジトは外れだったかなと思いつつ、あるテントの布をひっぺがしたとき・・・・・・
・・・・・・。
とても綺麗な、全裸の女の子が倒れていた。
女の子は、エルフのように尖った耳をしており、顔は美しいが生気が無く、ダランと口を開けていた。背丈は低い方だが、胸はかなり大きく膨らんでおり、お椀型に整った胸の美しさも申し分ない。胸の大きさとは対照的に腰は細く、くびれが出来ている。まさに、神の手で作られたとしか思えないほど、芸術的なまでに美しくえっちなわがままボディ。そんな女の子の全裸姿が、しかもお股を広げて大事なところが丸見えになった状態で、僕の眼前に晒されている。
そして、女の子の全身は、ゴブリンの精液と思われる白く臭い液体でドロドロになっており、大事なところはピクピクと震えていて、精液らしきもので汚れていた。どうやら、相当な数のゴブリンから、慰み者にされていたらしい。
しかし、僕はそんな女の子を労る余裕も無く、あまりにもエロ過ぎるその姿を見た途端、僕の股間には早くも、強烈な射精衝動がこみ上げてきてしまった。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「瑞穂、それらしき女の子が見つかった! 僕は、ちょっと用を足してくるから、女の子を助けてあげて」
心配そうな顔をする瑞穂をよそに、僕は必死に股間を押さえながら、慌てて近くの林に入り、鎧の股間部分を外し、ズボンとパンツを脱いでオナニーを始めたが、いくら擦っても射精には至らず、むしろ股間は痛く苦しくなるばかりだった。
・・・・・・そうだった。僕はオナニー防止ポーションを飲まされているから、こういう非常時でもオナニーでは射精できないんだった。
後ろを見やれば、瑞穂が呼んだのか、上水流さんとみなみちゃんも来ていて、エイルとフライヤとおぼしき女の子を懸命に保護している。こんな中で、僕の射精を手伝ってとはとても言いにくいし、恥ずかしい。
しかし、股間の疼きは、もはや限界を超えている。背に腹は代えられない。
僕は股間を押さえたまま、女の子たちがいる方向に向かって悲鳴を上げた。
「瑞穂、苦しい! 助けてー!」
◇◇◇◇◇◇
「まったく、このエロたんは。ようやくエイルとフライヤを見つけたと思ったら、フライヤの裸を見て催しちゃって、オナニーしようとしたけど出来なくて、あのがきんちょに射精を手伝わせるなんて。しかも2回も。この大事なときに何を考えてるのよ」
「・・・・・・面目次第もございません」
何とか性処理を済ませた後、僕は上水流さんに説教されていた。なお、あの芸術的な美しさとエロさを誇るロリ巨乳少女は、妹のフライヤだったらしい。姉のエイルもかなりの美人だが、体型はフライヤと異なり、背はやや高めで胸は小さいタイプらしかった。
「お兄ちゃんは悪くないよ! 瑞穂は、お兄ちゃんの右手の代わりになってあげるって約束したのに、お兄ちゃんが射精したがっているのに気づいてあげられなくて・・・・・・」
瑞穂が、懸命に僕を弁護してくれる。普段の言動はアレだが、こういうときの瑞穂は本当の天使だ。
「きよたかさん、男性が催してしまうのは仕方ないと思うんですが、エイルさんとフライヤさんは瀕死の状態で、早く連れ帰ってあげないと途中でお亡くなりになってしまうかも・・・・・・」
「みなみちゃん。『キュア』は試した?」
「え?」
僕の問いに、みなみちゃんがキョトンとした顔をしているので、僕はアテナイス・ソードを手に取り、エイルとフライヤに『キュア』の魔法を掛けた。すると、ほとんど気を失ってグッタリとしていた二人が目を覚まし、顔色に生気が戻ってきた。
「何だ、『キュア』効くじゃない」
「あああああ! 私としたことが、またとんだドジを~!」
みなみちゃんが叫び出した。どうやら、自分が僧侶で回復魔法が使えることを忘れていたらしい。みなみちゃんが、慌てると時々こういうドジをやらかすということは、瑞穂から聞いていたものの、実際に見るのはこれが初めてだった。
「後悔するのは後にして、みなみちゃんも二人の治療手伝って!」
「はい! でも、あと二人、救出した一般の女性がいるんですが、その二人も治療しないと・・・・・・」
要するに、その二人の女性についても、治療魔法を使うのを忘れて、瀕死状態のまま放置していたのか。
「じゃあ、みなみちゃんは今すぐ、その女性たちの治療に当たって。エイルとフライヤの治療は、僕と瑞穂でやるから」
結局、エイルとフライヤのほか、僕と瑞穂が発見した一般女性が4人、上水流さんとみなみちゃんが発見した一般女性が2人。全員、その場しのぎで、適当な衣類や毛布などを身に纏ってもらい、何とか使える靴も見つかった。僕たちが護衛すれば、自力で歩いてトーキョー・シティーに戻ることは、それほど問題なく可能のようだった。
「何か食べるもの無い? フライヤ、お腹空いたよ~!」
「すみません。喉が渇いているので、できればお水を・・・・・・」
「ああ、食べ物なら粗末なやつだけど、壊れた食料倉庫に穀物なんかが残っているから、それを食べて。水は、みなみちゃんの『ウォータ』で用意してあげて」
「は、はい! 今度こそ、汚名を挽回して見せます!」
「・・・・・・みなみちゃん、それを言うなら『名誉挽回』か『汚名返上』だから。汚名を挽回したら、嫌な汚名が戻ってきちゃうよ」
「わ、私ったら、またとんだドジを・・・・・・」
「もうその話はいいから、早く準備してあげて」
もっとも、助けた女性たちだけで無く、僕たちも昼飯抜きで戦いと捜索活動を続けていたので、みなみちゃんが『ウォータ』の魔法で生成した水で喉を潤し、みなみちゃんと瑞穂が作った雑炊をみんなで食べた。大した食べ物では無いけど、空腹時に食べるものは何でも美味しく感じるものだ。
「さて、全員歩いて帰れるのであれば、ボスのテントにあった金目の物は、チュニスとアルジェに積ませれば大体持って帰れるかな」
「きよたん、この期に及んでも、お金のことしか考えてないのね」
「でも、もえさん。冷静に考えてみたら、今日の救出作戦で一番活躍したの、きよたかさんじゃないですか。きよたかさんは、昨日から冷静に作戦を考えてくれていたのに、もえさんはオナニーしていただけで」
「み、みなみちゃん、そんなことをみんなの前で言わないでよ!」
上水流さんとみなみちゃんのやりとりに、その場にいる女性たちの全員がクスクス笑っていた。
◇◇◇◇◇◇
ともあれ、救出に成功したエイルとフライヤ、他6名の女性たちも手伝ってくれて、結構な量の戦利品をチュニスとアルジェの背中に積み込み、僕たちはようやく、トーキョー・シティーへの帰途に就いた。既に夜になっていたため、今は瑞穂が『ライト』の魔法で、周囲を明るく照らしている。
モンスターが出現する様子も無く、このままトーキョー・シティーの北門に辿り着けば作戦終了かと思っていた矢先、みなみちゃんが僕に話し掛けてきた。
「きよたかさん。一つ、お訊ねしたいことがあるんですけど」
「何?」
「・・・・・・どうして、私じゃないんですか?」
「何が?」
「だから、その、きよたかさんが我慢できなくなったとき、どうしていつも私じゃ無くて、瑞穂ちゃんを呼ぶんですか? 年齢的なことを考えても、きよたかさんの下半身のお世話をするのは、瑞穂ちゃんより私の方が適任だと思うんですけど」
若干モジモジしながら、答えにくいことを聞いてくるみなみちゃん。
「それは、コハルさんからやり方を教わって、僕に初めて緊急時の処理をしてくれたのが瑞穂で、それ以来我慢できなくなっちゃったときには瑞穂にお願いするっていう習慣ができちゃって・・・・・・」
「でも、私だってきよたかさんと、結構えっちなことしていますよね? 回数的には、瑞穂ちゃんとあまり変わらないと思うんですけど」
「それはそうなんだけど、瑞穂は最初から僕を『お兄ちゃん』って呼んで素直に甘えてきて、瑞穂は本当に僕の妹みたいな関係になっているんだ。えっちもするけど、例えば瑞穂が最初の頃使っていた『聖なる邪神バロール』って名乗りは明らかにおかしいから、二人で話し合った結果、今の『偉大なる魔眼の女王』に落ち着いたりとか・・・・・・」
「きよたん、あのがきんちょと、そんなくだらないことやってるの?」
上水流さんが会話に割り込んできた。
「やってるよ。『魔眼』スキルを育てるという目的もあるけど、基本的には兄妹同士のコミュニケーション。そういう関係だから、瑞穂相手なら恥ずかしいことも頼みやすいんだけど、みなみちゃんは僕にとって、まだ付き合い始めたばかりの彼女みたいな感じで、あんまり恥ずかしいことは、まだ頼みにくいというか・・・・・・」
それ以外に、瑞穂はコハルさんからフェラチオを教わっており、緊急時の性処理も何度かやってもらっているので、手コキやフェラチオが上手くなっているのに対し、みなみちゃんとえっちするときの射精はほとんど素股で、みなみちゃんにフェラチオをしてもらったことは無いという理由もあったけど、それは言わないでおく。
「きよたかさん。そもそも、兄と妹はえっちする関係じゃないと思うんですけど・・・・・・」
みなみちゃんがそう言いかけたところで、今度はフライヤが話に割り込んできた。
「みなみちゃーん! 日本ではどうだか知らないけど、アマツでは兄と妹がえっちするのは、そんなに珍しいことじゃないよ!」
「・・・・・・そうなんですか?」
「そうだよー! フライヤは、初めての相手がお父さんで、二人いるお兄ちゃんともえっちしたことあるけど、きょうだいでも母親が違えば結婚することはできるから、実際に妹をお嫁さんにする男の人は結構いるし、そうで無くても、年頃の男の子と女の子が一つ屋根の下に住んでいれば、きょうだい同士でもえっちしちゃうのが当たり前だよ!」
「ええっ!?」
みなみちゃんが、思わず驚きの声を上げる。
「それにねー、よその家から嫁いでくるお嫁さんは、生活習慣の違いなんかもあって新しい生活に馴染むのが大変だけど、実の妹は生まれたときから一緒に暮らしていて気も合うから、お嫁さんを何人ももらっている男の人でも、最愛の女性はお嫁さんじゃ無くて妹さんってこともよくあるんだよ! あと、お嫁さんたちには頼めないヘンなプレイでも、気心の知れた妹になら頼めるって人も結構いるし!」
「・・・・・・アマツの人は、性の問題に関しておおらかだとは聞いていたけど、そこまで何でもありの世界なの?」
僕が尋ねると、フライヤに代わって姉のエイルが答えてくれた。
「キヨタカ様。フライヤの言っていることは、間違いというわけではないんですが、フライヤはアマツ人の中でも、性に関してはちょっとおおらか過ぎる子なんです。フライヤは、父との初体験がすごく気持ち良かったらしくて、その後えっちにのめり込んでしまって、兄二人だけではなく、ワラビ村の男性全員とえっちしてしまい、将来の結婚相手を探すため私と一緒にトーキョー・シティーへ旅立った後も、男の人と出会えばほとんど挨拶代わりにえっちしてしまうような子なので・・・・・・」
「だって、お父さんからは、二回目以降のえっちは自分で相手を探しなさいって言われちゃったしー、いくら探しても、なかなかお父さんを超える理想のおちん○んの持ち主は見つからなくって」
「まあ、こんな子ですから、フライヤの言うことは、あまり真に受けない方が良いと思います。あと私は、フライヤと同様に初めての相手は父でしたが、兄たちとのえっちはしていません」
「そうですか・・・・・・。それとエイルさん、僕のことは様付けなんかしなくて、普通に『きよたかさん』とでも呼んでもらって構わないですよ」
「そんな、命の大恩人に向かって、『きよたかさん』なんてぞんざいな呼び方は、とても出来ません」
若干照れながら、あくまでも低姿勢のエイルに対し、フライヤの態度は対照的だった。
「それじゃあ、あたしはこれから、『きよちゃん』って呼んでいい?」
「別に構わないけど」
まあ、少なくとも上水流さんやタマキ先生が使う「きよたん」よりは若干マシだ。
「それじゃあきよちゃん、帰ったらあたしとえっちしない? 助けてもらったお礼ってことで!」
「・・・・・・遠慮しておきます。今夜はみなみちゃんとえっちする日なんで」
「ええー!? せっかくだから、フライヤとも1回くらいえっちしようよー! フライヤのおっぱいと、キツキツでトロトロのおま○こを味わってみない? きよちゃんのおちん○ん、かなり大きくて元気そうだから、フライヤも味わってみたいんだけどなー」
「悪いけど、みなみちゃんがちょっと機嫌を悪くしちゃってるんで、えっちの話はそのくらいに・・・・・・、あ、そろそろトーキョー・シティーの北門が見えてきたよ」
僕は、半ば強引にフライヤとの話を打ち切った。フライヤ相手なら、おそらく簡単に挿入まで行ってしまうだろうが、記念すべき初体験の相手は、時間がかかってもみなみちゃんにするという方針で、僕の心はほぼ固まっている。フライヤは、見た目こそ申し分ないけど、ほぼ初対面の子だし、しかもかなりのビッチみたいだから、少なくとも初体験の相手としては遠慮しておきたい。
「きよたん、お帰りなさい。それにしてもずいぶん遅かったわね」
タマキ先生が、北門で僕たちを出迎えてくれた。
「ちょっと、エイルとフライヤを探すのに時間がかかっちゃって。でも、何とか2人を発見できて、魔法で治療したから今は見てのとおり、二人とも元気です。あと、ゴブリンたちに捕まっていた女性6人を見つけたので、保護して連れ帰りました」
「了解よ。その子たちのことは、先生に任せなさい。それと、チュニスやアルジェの背中に積まれているのは、戦利品?」
「はい。昨日のゴブリンたちより、大規模な群れで戦利品もたくさんありました。あと、ゴブリンたちの中にはシャーマンやモンスター使いもいて、キラータイガーはゴブリンに使われていたみたいです」
「そうだったの。なんか、最近のゴブリンは頭も良くなっているみたいね。情報はセンターに流しておくわ。戦利品のうち、キラータイガーはかわたさんに引き取ってもらう必要があるけど、それ以外の処分は明日になってからでも十分でしょ。みんな、今日はセンターに帰って、ゆっくり休みなさい。明日は、パーティーの結成と卒業式をやるだけだから、朝10時くらいからで構わないわよ」
「そうさせて頂きます」
僕たちは、後始末をタマキ先生に任せ、そのままセンターに帰還した。エイルやフライヤたちも、ひとまずはセンターで一晩を過ごすことになった。
「みなさん、お帰りなさい。遅かったですね~。早速、夕ご飯をご用意しましょうか?」
センターでは、コハルさんが出迎えてくれた。
「えーと、お腹も空いているんですけど、夕飯より先に、みなみちゃんとえっち、じゃなかった、一緒にお風呂に入りたいんですけど」
「きよたかさん、もういつものことですから、隠さなくて大丈夫ですよ~。でも、今夜はもえちゃんや瑞穂ちゃん、それから救出された女の子たちもお風呂に入りたいでしょうから、お風呂でのえっちは早めに切り上げて、その後はきよたかさんのお部屋でお楽しみくだいね~。お二人の分の食事は、後できよたかさんのお部屋に運んでおきますから」
「コハルさん、ありがとうございます」
こうして、ようやくセンターに帰還した僕は、いつもどおりみなみちゃんと一夜を共にした。みなみちゃん自身も、夕食より僕とのえっちを楽しみにしていたらしく、えっちではいつも以上に喜んでくれた。
あと、僕とのえっちに満足したのか、話が揉める発端となった、どうして緊急時に僕がみなみちゃんではなく瑞穂を指名するのかという話題については、眠る頃には当のみなみちゃん自身がすっかり忘れていた。
◇◇◇◇◇◇
後日判明した、今回の戦果まとめ。
作戦の目的だったエイルとフライヤの救出は、色々あったけど無事成功。それでも、ゴブリンたちに陵辱され心の傷を負っているということで、二人は当面の間、冒険者人材育成センターでリハビリを受けることになった。
エイルやフライヤと共に救出した6人の女性たちについては、翌日にはそれぞれの家族の元へ帰っていった。もっとも、彼女たちは既に死亡者として扱われており、家族たちは彼女たちの生還を喜ぶより、まず驚いたという。トーキョー・シティーの政庁でも、死亡者扱いになっていた彼女たちの住民登録を訂正するなどの作業に追われたらしい。
そして、今回の作戦で僕たちが倒したゴブリンなどのモンスターは、僕の予想を大きく上回り、センターの記録によると合計5391匹もの多数にのぼっていた。結構な数のゴブリンたちを倒したみなみちゃんと瑞穂の冒険者レベルは、いずれも16から17に上がった。もっとも、僕と上水流さんについては、倒したモンスターの数こそ多かったものの、あまり苦戦しなかったためか、各種スキルのレベルは若干上がったものの、冒険者レベルは上がらず、僕はレベル7、上水流さんはレベル8のままだった。
そして戦利品。僕が仕留めたキラータイガーは、かわたさんが前回を大きく上回る、25万アマツ円の高値で買い取ってくれた。死体を査定したかわたさんによれば、首以外には死体の損傷が無く、高級食材としても毛皮の材料としても最高の出来だったという。
そして、何に使うつもりだったのかは知らないが、ゴブリンたちが貯め込んでいた金貨、銀貨の類は、合計29万4000アマツ円。その中には、僕も初めて見ることになった、貴重な1万円金貨5枚も含まれていた。
ゴブリンキングが使っていたテントについては、人類から奪った高級品であり、中古品として売ってもさほどの価値にはならないが、同じ物を新たに購入したら10万アマツ円くらいかかるということだったので、売却はせず補修して、僕たちの野営用テントとして活用することにした。それ以外の宝石、装飾品の類についてはすべて売却し、合計38万6000アマツ円で売れた。
昨日の最終模擬クエストによる収入が18万5千アマツ円、今日の作戦による収入が93万アマツ円、合計で111万5千アマツ円。タマキ先生の「1アマツ円=日本円で100円くらい」という感覚に従えば、2日間合計で、約1億1150万円もの収入を得られたことになる。
アマツの法律では、冒険者がモンスターから奪った財貨は、すべて冒険者の正当な収入として認められ、元の所有者に返還する必要はない。もっとも、元の所有者が明らかである財物については、元の所有者およびその遺族は、時価相当額の補償金と引き換えにその返還を請求できるものとされているが、今回獲得した財物は、いずれもゴブリンたちが人類から奪った物であることは明らかであるものの、元の所有者を特定することは不可能なものばかりだったので、返還を請求されるおそれもない。
そして、冒険者がモンスターと戦う仕事は公益事業とみなされており、クエスト達成報酬や、冒険者がモンスターから奪った財貨などの収入から税金等が差し引かれることは無いため、この収入は全額、僕たちが冒険者として活動するための軍資金や生活費に使うことができる。
・・・・・・なお、そうして冒険者がアマツの法律上そこまで優遇されているのか、僕が特別講師の法律士さんや会計士さんに尋ねたところ、冒険者は死の危険を伴う大変な職業なので、実際にはそのくらい優遇しても、なかなかなり手がいないんだそうです。
それはともかく、こうした結果だけを見れば、今日の作戦はもの凄い大成功だったのだが、僕がそれに気づいたのは翌日になってからのことで、この日眠りに就こうとした僕は、肉体的にも精神的にもひたすら疲れた、こんな作戦は二度とやりたくない、ということしか頭になかった。
(第14話に続く)
「実はね。ヨーイチ君のパーティーが、全滅しちゃったみたいなの」
タマキ先生の言葉に、僕たちは皆衝撃を受けた。
「ヨーイチ君たちのパーティーは、いつものようにこの北門方面で、ゴブリン退治のクエストをこなしていたんだけど、先ほどセンターの冒険者情報管理室から、リーダーで戦士のヨーイチ君と、僧侶のタマヨちゃんのロストが確認されたって知らせが届いたわ」
「先生、『ロスト』って何ですか?」
僕が尋ねると、タマキ先生はさらに悲しそうな顔をして答えた。
「完全に死亡、蘇生の余地も無しってこと。センターに登録されている冒険者は、冒険者カードを通じてそのステータス情報をセンターでもリアルタイムに把握できるんだけど、ヨーイチ君とタマヨちゃんのステータスが、『ロスト』になったっていう知らせが届いたのよ。ヨーイチ君のパーティーは4人編成だったけど、残りのエイルちゃんとフライヤちゃんも、まだ生きてはいるけど戦闘不能状態。つまり、ヨーイチ君のパーティーは、おそらくモンスターとの戦闘に負けて、全滅しちゃったのよ」
「そんな・・・・・・」
あの、モンスターなんてさざ波みたいなものだなんて言っていた、ヨーイチは嫌な奴だと思っていたけど、それでも顔見知りの冒険者パーティーが全滅したとなると、僕としてもショックを隠しきれない。
「そんな、せっかくの攻めキャラが、お亡くなりになってしまうなんて・・・・・・」
・・・・・・約1名、他と違う理由で悲しんでいる腐女子がいるが、無視しておこう。
「タマキ先生、ヨーイチとタマヨは『ロスト』だから仕方ないとしても、エイルとフライヤはまだ生きてるんでしょ!? 助けに行かないの?」
上水流さんが問うと、タマキ先生は意外そうな顔をして、
「もえちゃん、全滅したパーティーのメンバーなんて、いちいち助けに行ったりしないわよ。センターの冒険者情報管理室でも、冒険者たちの現在位置までは把握できないし、そもそも冒険者の死亡やパーティーの全滅なんてそんなに珍しいことじゃないから、他のパーティーが全滅したからって、その生き残りをいちいち助けに行ったりする物好きはいないわ。先生も、パーティーの全滅を経験したことがあるけど、誰も助けになんか来てくれなかったもの」
「・・・・・・」
「日本人のタマキちゃんがロストして、アマツ出身のエイルちゃんとフライヤちゃんが生きているということは、多分タマキちゃんは下手に抵抗して殺されちゃったけど、エイルちゃんとフライヤちゃんは、抵抗しても無駄だと分かって、大人しくモンスターの、このあたりだからおそらくゴブリンたちの慰み者にされているんでしょうね。アマツ出身の女の子は、子供の頃からもしモンスターに捕まったら、大人しくされるがままになりなさい、そうすれば運が良ければ生き延びられるからって教えられているから」
「・・・・・・そういうものなんですか?」
「きよたん、そういうものよ。地球でもそうだけど、暴力がはびこる世界で弱い女性が生き延びるには、力ずくで男の言うがままにされるのを耐えるしか無いのよ」
「そんな・・・・・・」
タマキ先生の言葉に、上水流さんがショックを受けている。ここは平和な日本のような世界ではなく、いつ殺されるか分からない弱肉強食の世界なのだ。
「そういうわけで、エイルちゃんとフライヤちゃんは、このアマツで生きる術を知っている子たちだから、運が良ければ警戒が緩んだ隙を見て自力で脱出するか、あるいはモンスターの方が飽きて解放してくれるかして、自力で帰って来る可能性もあるわ。もっとも、仮に生きて戻ってきたとしても、モンスターに陵辱されて帰ってきた女の子は、その経験がトラウマになって、そのまま冒険者を引退しちゃう例がほとんどだから、わざわざ他の冒険者パーティーに報酬を出して、救出隊を送るほどの価値はないのよ。先生も、以前モンスターに陵辱されて何とか生きて帰ってきた後は、その後半年くらい、再び冒険に出る気にはなれなかったわ」
「そんなの薄情過ぎるわよ! エイルもフライヤも先生の教え子でしょ!? 助けに行こうと思わないの!?」
「もえちゃん、そんなこと言ったって、救出に行ける冒険者パーティーなんていないわよ。先生の権限でも、報酬の出る救出クエストなんて出せないし」
「あたしたちがいるじゃない!」
え?
「あたしたちで、エイルとフライヤを助けに行きましょ! 今すぐ!!」
上水流さんが、僕たちに向かってそう呼びかけてきた。その表情は真剣そのものだ。
「もえちゃん、エイルちゃんやフライヤちゃんと、そんなに仲良かったっけ?」
タマキ先生がそう問うと、上水流さんは少し困ったような顔をして答えた。
「・・・・・・特別仲が良かったわけじゃないけど、結構長い間訓練生活を共にしてきたし、特にフライヤの方はおしゃべりだから、結構一緒に話したりもしたわ。そんな仲間を見殺しになんて出来ないわよ」
「きよたん、もえちゃんはこう言ってるけど、どうする? 仮パーティーのリーダーはきよたんだから、決めるのはきよたんよ」
タマキ先生に返答を促され、僕はしばし考えた後、意を決して答えた。
「分かった。上水流さんの言うとおり、エイルとフライヤの救出を試みることにする。ただし、今すぐはさすがに無理だ。みなみちゃんと瑞穂は、ほとんど体力の限界だし、僕もかなり疲れ切っている。上水流さんと違って、僕たちはマナポーションとかの補充も必要だし、一晩休んで体力を回復させた後、明日の10時にこの北門へ集合し、エイルとフライヤの救出に向かう」
「きよたん、何を悠長なこと言ってるのよ!? その間に、エイルとフライヤが死んじゃったらどうするのよ!?」
「上水流さん、今のタマキ先生の話だと、エイルとフライヤがすぐに殺される可能性は低そうだ。それに、時間もそろそろ夕方だし、疲れ切って準備も出来ていない状態で救出に向かうなんて、自殺行為だよ」
僕が、今すぐ救出に向かおうと駄々をこねる上水流さんの説得に手間取っていると、タマキ先生が助け舟を出してくれた。
「きよたんの言うとおりよ。それに、夜の城外は結構怖いわよ。幽霊とかアンデッドモンスターも出たりするし。特に今夜、森の中に深入りなんかしたら、死んだヨーイチ君の幽霊が出るかもしれないわ。『うーらーめーしーやー』って」
「いやあああああああああっ!!」
上水流さんが、いきなり悲鳴を上げてその場にうずくまり、必死になって両耳を塞いでいる。どうやら上水流さん、この手のホラー話が極端に苦手なようだ。
「ヨーイチさんが、魂になってもきよたかさんを攻め続ける。尊いです・・・・・・」
「ふ、ふっ。この偉大なる魔眼の女王バロール様に掛かれば、ゆ、幽霊など・・・・・・」
どうやら、みなみちゃんは全然平気だが、瑞穂は必死に強がっているものの、やはり怖いようだ。まあ、幽霊やアンデッドが出たら、撃退するのは『ホーリーライト』を持っているみなみちゃんの役目になるので、みなみちゃんが平気なら特に問題はないけど。
ともあれ、タマキ先生の説得(?)のおかげで、上水流さんも直ちに出発することは諦め、僕の提案どおり、翌日の午前10時に北門へ集合し、エイルとフライヤの救出作戦に出発することになった。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
「さあ、エイルとフライヤを助けに行くわよ!」
気勢を上げる上水流さんに、みなみちゃんが尋ねた。
「もえさん、やる気があるのは良いんですけど、エイルさんとフライヤさんの居所は掴めているんですか? 大体の場所すら特定できないまま探し回っても、意味が無いと思うんですけど・・・・・・」
それまでやる気満々だった上水流さんは、急に冷や汗を流し、
「え、えーと、そのくらいのことは・・・・・・。気合いで何とかなるわよ、たぶん」
どうやら、捜索方法については何も考えていなかったらしい。
「それじゃあ、とりあえず昨日、僕たちがキラータイガーを倒した場所まで行ってみようか」
「きよたん、そんな場所に行ってどうするのよ?」
「昨日、僕たちが倒したキラータイガー、見るからに人を食べたばっかりって様子だったでしょ? それに、キラータイガーと戦っている最中、人間の戦士用らしき兜が落ちているのを見かけたから、ヨーイチはひょっとしたら、あのキラータイガーに喰われたんじゃ無いかと思っていたんだ。それで、かわたさんにキラータイガーの死体を引き渡す際、解剖の際に人間を食べた形跡がないか、調べてもらうように頼んだんだ」
「それで、結果はどうだったのよ?」
「今朝知らせが届いたんだけど、大当たり。キラータイガーの胃から人間の死体が出てきて、その中からヨーイチの冒険者カードが発見されたから、100%ヨーイチの死体で間違いない」
「それで?」
「たぶん、あのキラータイガー、ゴブリンに飼われていたか、何らかの形でゴブリンに協力していたと思うんだよ。エイルさんとフライヤさんは、ヨーイチと同じパーティーで一緒に戦っていたにもかかわらず、キラータイガーに喰われず何とか生きているって事は、それ以外に説明が付かない。だから、あのキラータイガーと戦った場所の周辺に行けば、ゴブリンの足跡なんかを手掛かりに、エイルさんたちを捕らえているゴブリンたちのアジトを見つけられる可能性が高いってわけ」
「ふっ。誇り高き我が眷属の深謀遠慮は、脳筋ゴリラの比ではないわ」
中二病モードになった瑞穂が、まるで自分のことのように威張っている。昨晩のえっち当番は瑞穂だったので、瑞穂には今日の作戦について、あらかじめ話していたのだ。
「誰が脳筋ゴリラですって!?」
怒った上水流さんが、瑞穂に殴りかかろうとするのを、僕が制した。
「上水流さん。瑞穂を殴ったら、さすがに今度は許さないよ」
「もえさん。きよたかさんはきちんと作戦を考えていたのに、もえさんは言い出しっぺのくせに、昨日自室に戻ってからオナニーしてばかりじゃなかったですか。しかも、いつも以上に激しく」
「だ、だって・・・・・・。昨日のきよたんを見て、少し格好良いって思っちゃったんだもの・・・・・・」
みなみちゃんに恥ずかしい秘密を暴露され、うろたえる上水流さん。まあ、僕も昨晩は瑞穂とえっちして、寝る前に10回、今朝も3回射精しちゃったから、他人のことはとやかく言えないけど。
「やーいやーい、このオナニーゴリラー」
「瑞穂もいちいち煽らない!」
僕が一喝すると、上水流さんをからかっていた瑞穂も沈黙した。
「そういえばきよたかさん、昨日苦労して運んできたキラータイガーの死体って、どのくらいで売れたんですか?」
今度は、みなみちゃんが僕に質問してきた。
「12万アマツ円。日本円で、約1200万円相当」
「そんなに高く売れたんですか!?」
みなみちゃんだけでなく、上水流さんや瑞穂も、一様に驚きの声を上げる。
「まあ、死体の損傷が激しかったんでいくらか減額されちゃったんだけど、それでも最近はキラータイガーの入荷がほとんど無くて、価格が高騰しているんだって。僕としては、3万アマツ円くらいで売れれば良い方かと思っていたんだけど、僕の予想以上の高値で売れたよ」
「あたし、何だかあのキラータイガーが、金のなる木みたいに思えてきたんだけど・・・・・・」
「上水流さん。あのキラータイガーも、余裕で倒せるようになれば、まさしく金のなる木だよ。それと、ゴブリンのアジトにあった宝石類も、合計4万アマツ円で売れたから、現金2万5千アマツ円と合わせて、昨日の模擬クエストで得た収入は、合計18万5千アマツ円。冒険者になってから受けられる初級クエストで、ゴブリンを50匹倒すともらえる報酬は通常5千アマツ円くらいだから、ボロ儲けだったね」
「わーい! 瑞穂たち、大金持ちになっちゃった!」
「まあ、冒険者として旅立つにあたり、最高級の武器や防具を買い揃えようとしたら結構お金がかかるから、そんなに無駄遣い出来るわけじゃ無いけど、軍資金は多いに越したことはないからね。今回、エイルさんとフライヤさんの救出に僕が同意したのも、2人を救出して、ついでに2人を誘拐したゴブリンたちのアジトを潰せば、卒業の前にもう一稼ぎできて一石二鳥だって考えたのも大きな理由ではあるんだけど」
「きよたかさん、その件も兼ねて、チュニスちゃんとアルジェちゃんの紹介をさせて欲しいんですけど・・・・・・」
「チュニスとアルジェって、みなみちゃんが連れて来ているその巨大馬のこと?」
そう。今日はみなみちゃんが、異様に大きい馬を2頭連れてきているので、さっきから気になっていたのだ。いずれも、体高は軽く2メートルを越え、大きいだけでなく頑丈そうな身体をしている。なお、2頭の背中には鞍と、荷物を運ぶための紐や担架などが備え付けられている。
「はい。チュニスちゃんとアルジェちゃんは、センターで飼育している輸送用の馬で、私が『馬丁』スキルの練習をするため、毎日お世話をさせてもらっていたんです。今回、エイルさんとフライヤさんを救出するということで、特別に貸してもらいました。栗毛の方がチュニスちゃんで、鹿毛の方がアルジェちゃんです。2人とも大人しい子ですけど、とっても力持ちで、頭も良いんですよ。いちいち手綱をつけたりしなくても自分で付いてきてくれますし、モンスターとの戦闘になると、戦闘に巻き込まれないように、自分から安全な場所に隠れたりしてくれるんですよ。ちなみに、2人とも女の子です」
どうやら、みなみちゃんの頭の中では、2頭とも人間と同じ扱いになっているらしい。ちなみに、栗毛とは黄褐色、鹿毛とは茶褐色のことで、栗毛の方がやや明るい色である。
「それは、何とも便利な馬だね。チュニス、アルジェ、今日はよろしくお願いするね」
僕が話し掛けると、チュニスとアルジェは揃って「ヒヒーン!」と鳴き声を上げた。どうやら、「あたしたちに任せなさい」と言っているようだ。
「・・・・・・きよたん、馬と会話できるの?」
「僕は、『通訳』スキルを持っているから。アマツの馬は、地球の馬よりかなり頭が良くて品種改良も進んでいるらしく、馬との会話は、人類以外との会話としてはかなり簡単な方らしいよ」
「・・・・・・本当にきよたんは、わずか1ヶ月くらいの訓練で、どうやったらそんな知識を色々と覚えられるのよ? 頭の性能がチートなんじゃないの?」
「まあ、アテナイスさんがそういう仕様にしてくれたのかも知れないね」
実際、頭の良さを示す僕のINTは、転生当初でも138と、レベル1の中級職としては異様に高い数値だったのだが、レベルアップによる成長も速く、現在はレベル7で既に160を超えている。優秀なアークウィザードでも1レベルあたり4ポイントアップくらいが普通らしいから、1レベルあたり6ポイント、時には7ポイントもアップする僕のINTは、おそらく規格外の存在なのだろう。
もっとも、自分ではいまいち、天才というほどの実感は沸かない。冒険者として自立するときに備えて、日々勉強をしてきたというだけだし、勉強以外に戦闘訓練なんかもやっているし、夜はみなみちゃんや瑞穂とえっちなことをするのが当たり前になっているから、東京大学や司法試験の受験生並みの猛勉強をしてきたというわけでもないし。
ちなみに、その両方に合格した経験を持つお父さんの話だと、そういう人は1日12時間以上勉強を続けることも多く、恋愛なんかしている暇はないという。
「雑談はこのくらいにして、そろそろ出発しよう。今日は出発が遅めだから、早めに動かないと救出前に日が暮れちゃうから」
◇◇◇◇◇◇
昨日、キラータイガーとの死闘を繰り広げた場所から、ゴブリンたちの足跡を辿ることしばし。「索敵」で、ゴブリンとおぼしき敵の存在を探知した。
「昨日会ったゴブリンの一団よりは数が多い。40匹以上はいるね」
「きよたん、どうするの? 蹴散らしちゃう?」
「出来れば、木陰に隠れてやり過ごしたいところだけど、チュニスとアルジェがいる以上、完全に隠れるのは難しいか。かと言って、正面から掛かっても逃げられるおそれがあるので、みんなでこのあたりの木陰に隠れて、至近距離まで近づいたところで急襲を掛け、出来ればる全滅させる」
「分かったわ」
こうして、僕たち一行は木陰に隠れ、僕の合図と共にゴブリンの群れへ急襲を掛けたものの、ゴブリンたちは上水流さんの姿を見ただけで一目散に逃げ出してしまい、10匹ほど取り逃がしてしまった。
「きよたん、ゴブリンたちを追い掛ける? あたしに『ヘイスト』掛けてもらって追撃すれば、まだ追いつけるかもしれないわよ」
「いや、止めておこう。どうせ、ゴブリンの大群との正面決戦は避けられそうに無い。それなら、追撃で体力を消耗するよりも、ゴブリンたちの足跡を追って奴らのアジトまで普通に歩き、万全の状態で決戦に臨んだ方が良い」
「それもそうね」
「あと、さっきのゴブリンたちも、上水流さんのことは知っているみたい」
「今度は、何て言ってたのよ?」
「・・・・・・ご想像にお任せします」
「それじゃあ、ゴブリンたちが何を言ってたか、あたしたちには分からないじゃない」
「ふっ。この我、深遠なる叡智の主バロール様には、概ね察しが付いたぞ」
「何が分かったって言うのよ、このがきんちょ」
「我が眷属が、わざわざ言い淀むということは、おそらく昨日のゴブリン共と同じようなことをほざいていたのであろう。すなわち、『うわー、ゴリラが来たぞ、逃げろー!』などとな」
「なんであたしがゴリラなのよ!?」
「上水流さん、落ち着いて。僕たち人間とゴブリンはかなり形が違うから、僕たちにはゴブリンのオスとメスなんて、簡単には区別できないじゃない。勃起したおちん○んを剥き出しにしている下品なオスたちを除けば、大体、武器を取って向かってくるのはオスらしく、武器も持たずオロオロと逃げ回っているのがメスらしいって察しが付く程度で」
「まあ、確かにあたしにも分からないわよ。仮に、自ら武器を持って立ち向かってくる勇敢なメスがいたとしても、多分オスとの区別は付かないわね」
「それと同じ事で、ゴブリンたちも人間の男と女の区別は、おそらく服装くらいでしか判断出来ないんだと思うよ。僕みたいにズボンを穿いているのが男で、みなみちゃんや瑞穂みたいに、ひらひらしたスカートを穿いているのが女って感じで」
「その基準だと、あたしは男者のズボンを穿いているから、ゴブリンたちに男だと思われてるっていうこと!?」
「たぶん」
「むうう、ますます許せないわ! このあたしを男と勘違いするなんて! 全滅させてやるんだから!」
上水流さんが、僕の話を聞いてゴブリンたちに理不尽な怒りをぶちまける。内心では、「そんな感じだからゴリラ呼ばわりされるんだよ」と思ったが、とりあえず上水流さんの怒りを、僕や瑞穂から反らせることには何とか成功した。
「その前に、もえさんも女物の武闘家服を着るという選択肢は無いんでしょうか・・・・・・?」
「みなみちゃん。僕も町で見かけたことがあるけど、女物の武闘家服って、下半身がチャイナドレスみたいな感じになっていて、パンツも穿かないから、あんな服装で飛び跳ねたりしたら、たぶん女の子の大事なところが、しょっちゅう丸見えになっちゃうと思うよ。アマツの女性は、見られてもあまり気にしないみたいだけど、もえちゃんは日本人なんだから、年頃の女の子としての羞恥心も察してあげて」
「なるほど、そういうことなら仕方ありませんね・・・・・・」
こうして、僕は上水流さんの怒りを何とか上手く宥めながら、『捜索』スキルを使って逃走したゴブリンの足跡などを辿り、普通に歩きながらゴブリンのアジトを探した。
◇◇◇◇◇◇
ゴブリンたちのアジトは、街道からは離れた場所にあったが、昨日潰したアジトよりかなり大規模で、森に囲まれた平原の分かりやすい場所にあった。アジトを囲む柵も、昨日見たものよりはやや立派な作りになっている。
「昨日よりかなり数が多い。ゴブリンが千匹か、あるいは二千匹くらいいそうだな。取り囲まれると、少々厄介かも」
「大丈夫よ。昨日みたいに、あたしときよたんが連携して戦えば、ゴブリンの二千匹くらい、どうってことは無いわ」
「そうだね。今回は、エイルさんとフライヤさんの救出が第一目的なので、あまり力押しの戦い方はしたく無かったんだけど、他に良い方法も無い。みなみちゃんと瑞穂は、念のため自分に『シールドバリア』を張った後、僕の後ろに付いてきて、僕と上水流さんを『ヘイスト』と『エンチャント』で援護。余裕があるときは、魔法なりクロスボウなりで敵を攻撃して、少しでも経験値を稼いで」
「きよたかさん、了解しました」
「了解した。この偉大なる魔眼の女王、バロール様の力を再び見せてやろう」
「よし。絶対大丈夫、絶対に勝つ!! それでは行くぞ、突撃~!」
僕は、意識的に大声を上げて、突撃命令を発した。これは、単に味方の士気を上げるというだけでなく、僕がレベル4になったとき自動で習得した『鼓舞』スキルを使うことで、若干ではあるが味方全体の攻撃力や魔法力を高める効果があるためだ。
また、僕は昨日レベル7になったときに覚えた『重装備負担軽減』の効果で、重い鎖帷子の鎧を着けていても、以前より身軽に動けるようになっている。戦い続けてスキルレベルを上げれば、そのうち軽装の上水流さん並みに素早く動くことも可能になるだろう。
ちなみに、輸送馬のチュニスとアルジェは、僕に指示されるまでもなく、自分から目立たない森林の陰に隠れてくれた。あれだけ賢いなら、たぶん気にしなくても大丈夫か。
今回のゴブリンたちは、最初のうちは司令官らしきゴブリンリーダーの指揮下で、上水流さんに脅えながらも集団で立ち向かってきたが、先陣を切ったゴブリンたちは、密集陣形が徒となって瑞穂の『ファイア』でまとめ焼きにされ、瑞穂を喜ばせるだけの結果となった。
続いて、『ヘイスト』で素早さを上げた僕と上水流さんが、ゴブリンの群れに突撃する。出鼻をくじかれたゴブリンたちの士気は低く、ゴブリンリーダーが必死に「逃げずに戦え!」などと(ゴブリンの言葉で)叫び続けても、ゴブリンたちの大半は逃げ腰になっていた。
そして、僕が『ホーリーカッター』で指揮官らしきゴブリンリーダーを討ち取ると、ゴブリンたちの群れはもはや潰走状態となり、逃げようとするゴブリンと後方からやってくるゴブリンに押し潰されて死ぬゴブリンまでいる始末。混乱するゴブリンたちは、僕と上水流さんはおろか、みなみちゃんや瑞穂にとっても格好の獲物となり、みるみるうちに死体の山へと変わっていった。
ちなみに、昨日はクロスボウで戦っていたみなみちゃんも、大量のゴブリンをまとめて倒すには魔法の方が効率的だと理解したらしく、今日は『ファイア』などの攻撃魔法を積極的に使っている。
「こいつらは、昨日のゴブリンより数が多いだけじゃなくて、文明的にも若干進んだゴブリンみたいだね。弱っちいけど、魔法を使おうとするゴブリンシャーマンなんかもいたし」
「でも、昨日より若干時間が掛かっただけで、あたしたちの敵じゃ無いわよ。たぶん、あそこにいる偉そうな格好をしたゴブリンキングを倒せば、もうおしまいよ」
上水流さんがそう言いかけたところで、みなみちゃんが大声を上げた。
「きよたかさん、大変です! 後方から新手のゴブリンと、あのキラータイガーが来ています!」
僕が後方を振り返ると、どうやらアジトの異変を知らされて引き返してきたらしいゴブリンの大群と、どうやら猛獣使いの能力を持っているらしいゴブリンに連れられた、一匹のキラータイガーがやって来た。
「きよたん、どうするの? 昨日戦って勝ったとはいえ、あのすばしっこいキラータイガーが、ゴブリンたちと力を合わせて向かってきたら、厄介なことになるわよ」
「その心配は無い」
僕は、ゆっくり歩いているキラータイガーに向かって、全力で「ホーリーカッター」を放った。僕の放った光の刃は、狙い違わずキラータイガーの喉を直撃し、キラータイガーはその場にバタリと倒れ込んだ。
「きよたん、今何をやったの!?」
「説明している暇は無い。上水流さんは、みなみちゃんと一緒にゴブリンキングとその取り巻きを片付けて。僕と瑞穂で、キラータイガーと新手のゴブリンたちを片付ける!」
瑞穂から『ヘイスト』の援護を受けて僕がゴブリンの群れに突撃すると、おそらく頼みの綱としていたキラータイガーを倒されて動揺しているゴブリンたちはほとんど戦意を失って逃走を始め、僕の剣と瑞穂の攻撃魔法で、みるみるうちに倒されていった。
・・・・・・なお、僕と瑞穂、上水流さんとみなみちゃんという組み合わせにしたのは、今までの言動から、上水流さんと瑞穂を組ませると喧嘩になりそうな気がしたからである。
それはともかく、ゴブリンたちの掃討は順調に進み、もはや生きているゴブリンが見あたらくなった頃、僕が倒れているキラータイガーに近づいてみたところ、キラータイガーは出血多量で瀕死状態になっていたものの、まだ微かに息があった。僕は、キラータイガーの喉笛をかき切ってとどめを刺し、森の中に隠れていたチュニスとアルジェを呼んで、キラータイガーの死体をアルジェの背中に乗せた。
「こちらの方は片付いた。上水流さんの側はどう?」
「あたしの方も、ちょうど片付いたところよ。見たところ、ゴブリンの生き残りはもういないと思うわ。ところできよたん、さっきあのキラータイガーに何をやったのか、そろそろ説明してもらおうかしら」
「ああそれね。昨日、かわたさんにキラータイガーの死体を引き取ってもらったとき、結構死体の損傷が激しいってことで、買取額が減額されちゃってね。それでかわたさんに、高く買い取ってもらうにはどういう倒し方をするのが良いか尋ねてみたところ、可能であれば、急所であるキラータイガーの喉笛をかき切って倒すのが良いって教わったんだ」
「それで?」
「そして今日、都合良く再びキラータイガーが現れたんで、奴が本格的な戦闘モードに入る前に、先制攻撃で『ホーリーカッター』を放ち、キラータイガーの首を狙ったんだ。さすがに、瞬殺とまでは行かなかったけど、急所の首に大ダメージを受けたキラータイガーは、出血多量で倒れてそのまま動けなくなり、その後僕が取り巻きのゴブリンたちを一掃した後、剣でキラータイガーにとどめを刺して、戦利品としてアルジェの背中に乗っけてきたわけ」
「・・・・・・きよたん、それってあからさまな不意打ちじゃないの?」
「上水流さん。これは、人類とモンスターとの戦争なんだよ。スポーツと違って、戦争には卑怯も不意打ちもへったくれも無い。どんな手段を使おうとも、勝った者がすべてを手に入れ、負けた者はすべてを失うんだ。昨日、キラータイガーに喰われたヨーイチみたいにね」
僕の言葉に、上水流さんは呆れたような顔をした。
「もう分かったわよ。それで、エイルとフライヤをどうやって探すの? このアジト、ゴブリンの住処っぽいテントがやたら一杯あるんだけど」
「時間はかかるけど、しらみ潰しに探して回るしか無いよ。重要なものがありそうなテントや倉庫を先に調べて、それでも見つからなかったら、僕と瑞穂、上水流さんとみなみちゃんの二手に分かれて、他のテントも探してみよう。ひょっとしたら、生き残りのゴブリンが隠れている可能性もあるから、中を調べるときは慎重に。もし生きているゴブリンがいたら残らず殺して、調査済みのテントは全部壊しちゃって」
「了解。じゃあ、まずあのボスのテントから行くわね」
◇◇◇◇◇◇
僕たちは、まずゴブリンキングの住処と思われる大きなテントに入ってみたが、エイルとフライヤはいなかった。その代わり、テントは様々な宝石や装飾品で飾られており、金貨や銀貨なども結構あったほか、テント自体もかなり上質の布地で作られていた。
「さすがに、これらを捨てるのは勿体ないね。後でテントを解体して、金目の物は持てる分だけ持って帰ろうか」
「きよたん、あんた本当に、発想ががめついわね」
「がめついくらいでなきゃ、冒険者という職業は務まらないよ。訓練生を卒業したら、冒険者としての収入で食べて行くだけでなく、より強いモンスターを戦うには、高価な武器や防具なんかを買い揃えて行く必要があるんだから。次は、あの食料倉庫みたいなところを探してみようか」
僕たちは、ボスのテントの近くにあった、食料倉庫とおぼしき掘っ立て小屋を調べてみることにした。
「お兄ちゃん、扉に鍵が掛かってるみたい。引っ張っても押しても開かないよ」
真っ先に倉庫に駆け寄って行った瑞穂が、そう報告してきた。
「参ったな。あいにく『解錠』スキルは持っていないし、正しい鍵を探している時間的余裕はないし・・・・・・」
「なら、あたしが扉ごとぶっ壊してあげるわよ」
上水流さんは、そう言うや否や、扉に向かって強烈なジャンピングキックを放った。
ガラガラガラガラ・・・・・
扉自体は壊れたものの、ジャンピングキックの威力が強すぎて、その勢いで建物自体が壊れてしまった。
「ふん、あたしの手にかかればこんなもんよ」
「やばい、もしあの中にエイルさんとフライヤさんがいたら、生き埋めになっちゃってるよ!」
勝ち誇っていた上水流さんも、僕の言葉で事態に気づき、慌てて僕と一緒に、崩れた建物の跡を掘り起こした。
「どうやら、中に人はいないようですね」
事の推移を見守っていたみなみちゃんが、そう呟いた。
「ある意味、逆に助かったね。後は、二手に分かれて残りのテントを探して回るか」
もっとも、これが最大の難作業だった。何しろ、ゴブリンたちのテントは千個以上もあり、一つ一つ丁寧に探していたら、その間に日が暮れてしまう。
僕は次第に面倒になり、テントの布をいきなりひっぺがして、中に何も無かったらそれで終わり、ゴブリンのメスや子供が隠れていたらその場で殺し、といった単純作業を繰り返した。ゴブリンの慰み者にされていたらしい人間の女性たちも3人ほど見付かったが、残念ながらエイルとフライヤのことは知らないと言う。
僕は、『ヒール』と『キュア』でその女性たちを治療し、捜索作業を手伝ってもらった。
「きよたーん! エイルとフライヤは見つかった?」
「まだ見つからないよー!」
そのうちに日も暮れ始め、残ったテントも数個だけになった。ひょっとしたら、このアジトは外れだったかなと思いつつ、あるテントの布をひっぺがしたとき・・・・・・
・・・・・・。
とても綺麗な、全裸の女の子が倒れていた。
女の子は、エルフのように尖った耳をしており、顔は美しいが生気が無く、ダランと口を開けていた。背丈は低い方だが、胸はかなり大きく膨らんでおり、お椀型に整った胸の美しさも申し分ない。胸の大きさとは対照的に腰は細く、くびれが出来ている。まさに、神の手で作られたとしか思えないほど、芸術的なまでに美しくえっちなわがままボディ。そんな女の子の全裸姿が、しかもお股を広げて大事なところが丸見えになった状態で、僕の眼前に晒されている。
そして、女の子の全身は、ゴブリンの精液と思われる白く臭い液体でドロドロになっており、大事なところはピクピクと震えていて、精液らしきもので汚れていた。どうやら、相当な数のゴブリンから、慰み者にされていたらしい。
しかし、僕はそんな女の子を労る余裕も無く、あまりにもエロ過ぎるその姿を見た途端、僕の股間には早くも、強烈な射精衝動がこみ上げてきてしまった。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「瑞穂、それらしき女の子が見つかった! 僕は、ちょっと用を足してくるから、女の子を助けてあげて」
心配そうな顔をする瑞穂をよそに、僕は必死に股間を押さえながら、慌てて近くの林に入り、鎧の股間部分を外し、ズボンとパンツを脱いでオナニーを始めたが、いくら擦っても射精には至らず、むしろ股間は痛く苦しくなるばかりだった。
・・・・・・そうだった。僕はオナニー防止ポーションを飲まされているから、こういう非常時でもオナニーでは射精できないんだった。
後ろを見やれば、瑞穂が呼んだのか、上水流さんとみなみちゃんも来ていて、エイルとフライヤとおぼしき女の子を懸命に保護している。こんな中で、僕の射精を手伝ってとはとても言いにくいし、恥ずかしい。
しかし、股間の疼きは、もはや限界を超えている。背に腹は代えられない。
僕は股間を押さえたまま、女の子たちがいる方向に向かって悲鳴を上げた。
「瑞穂、苦しい! 助けてー!」
◇◇◇◇◇◇
「まったく、このエロたんは。ようやくエイルとフライヤを見つけたと思ったら、フライヤの裸を見て催しちゃって、オナニーしようとしたけど出来なくて、あのがきんちょに射精を手伝わせるなんて。しかも2回も。この大事なときに何を考えてるのよ」
「・・・・・・面目次第もございません」
何とか性処理を済ませた後、僕は上水流さんに説教されていた。なお、あの芸術的な美しさとエロさを誇るロリ巨乳少女は、妹のフライヤだったらしい。姉のエイルもかなりの美人だが、体型はフライヤと異なり、背はやや高めで胸は小さいタイプらしかった。
「お兄ちゃんは悪くないよ! 瑞穂は、お兄ちゃんの右手の代わりになってあげるって約束したのに、お兄ちゃんが射精したがっているのに気づいてあげられなくて・・・・・・」
瑞穂が、懸命に僕を弁護してくれる。普段の言動はアレだが、こういうときの瑞穂は本当の天使だ。
「きよたかさん、男性が催してしまうのは仕方ないと思うんですが、エイルさんとフライヤさんは瀕死の状態で、早く連れ帰ってあげないと途中でお亡くなりになってしまうかも・・・・・・」
「みなみちゃん。『キュア』は試した?」
「え?」
僕の問いに、みなみちゃんがキョトンとした顔をしているので、僕はアテナイス・ソードを手に取り、エイルとフライヤに『キュア』の魔法を掛けた。すると、ほとんど気を失ってグッタリとしていた二人が目を覚まし、顔色に生気が戻ってきた。
「何だ、『キュア』効くじゃない」
「あああああ! 私としたことが、またとんだドジを~!」
みなみちゃんが叫び出した。どうやら、自分が僧侶で回復魔法が使えることを忘れていたらしい。みなみちゃんが、慌てると時々こういうドジをやらかすということは、瑞穂から聞いていたものの、実際に見るのはこれが初めてだった。
「後悔するのは後にして、みなみちゃんも二人の治療手伝って!」
「はい! でも、あと二人、救出した一般の女性がいるんですが、その二人も治療しないと・・・・・・」
要するに、その二人の女性についても、治療魔法を使うのを忘れて、瀕死状態のまま放置していたのか。
「じゃあ、みなみちゃんは今すぐ、その女性たちの治療に当たって。エイルとフライヤの治療は、僕と瑞穂でやるから」
結局、エイルとフライヤのほか、僕と瑞穂が発見した一般女性が4人、上水流さんとみなみちゃんが発見した一般女性が2人。全員、その場しのぎで、適当な衣類や毛布などを身に纏ってもらい、何とか使える靴も見つかった。僕たちが護衛すれば、自力で歩いてトーキョー・シティーに戻ることは、それほど問題なく可能のようだった。
「何か食べるもの無い? フライヤ、お腹空いたよ~!」
「すみません。喉が渇いているので、できればお水を・・・・・・」
「ああ、食べ物なら粗末なやつだけど、壊れた食料倉庫に穀物なんかが残っているから、それを食べて。水は、みなみちゃんの『ウォータ』で用意してあげて」
「は、はい! 今度こそ、汚名を挽回して見せます!」
「・・・・・・みなみちゃん、それを言うなら『名誉挽回』か『汚名返上』だから。汚名を挽回したら、嫌な汚名が戻ってきちゃうよ」
「わ、私ったら、またとんだドジを・・・・・・」
「もうその話はいいから、早く準備してあげて」
もっとも、助けた女性たちだけで無く、僕たちも昼飯抜きで戦いと捜索活動を続けていたので、みなみちゃんが『ウォータ』の魔法で生成した水で喉を潤し、みなみちゃんと瑞穂が作った雑炊をみんなで食べた。大した食べ物では無いけど、空腹時に食べるものは何でも美味しく感じるものだ。
「さて、全員歩いて帰れるのであれば、ボスのテントにあった金目の物は、チュニスとアルジェに積ませれば大体持って帰れるかな」
「きよたん、この期に及んでも、お金のことしか考えてないのね」
「でも、もえさん。冷静に考えてみたら、今日の救出作戦で一番活躍したの、きよたかさんじゃないですか。きよたかさんは、昨日から冷静に作戦を考えてくれていたのに、もえさんはオナニーしていただけで」
「み、みなみちゃん、そんなことをみんなの前で言わないでよ!」
上水流さんとみなみちゃんのやりとりに、その場にいる女性たちの全員がクスクス笑っていた。
◇◇◇◇◇◇
ともあれ、救出に成功したエイルとフライヤ、他6名の女性たちも手伝ってくれて、結構な量の戦利品をチュニスとアルジェの背中に積み込み、僕たちはようやく、トーキョー・シティーへの帰途に就いた。既に夜になっていたため、今は瑞穂が『ライト』の魔法で、周囲を明るく照らしている。
モンスターが出現する様子も無く、このままトーキョー・シティーの北門に辿り着けば作戦終了かと思っていた矢先、みなみちゃんが僕に話し掛けてきた。
「きよたかさん。一つ、お訊ねしたいことがあるんですけど」
「何?」
「・・・・・・どうして、私じゃないんですか?」
「何が?」
「だから、その、きよたかさんが我慢できなくなったとき、どうしていつも私じゃ無くて、瑞穂ちゃんを呼ぶんですか? 年齢的なことを考えても、きよたかさんの下半身のお世話をするのは、瑞穂ちゃんより私の方が適任だと思うんですけど」
若干モジモジしながら、答えにくいことを聞いてくるみなみちゃん。
「それは、コハルさんからやり方を教わって、僕に初めて緊急時の処理をしてくれたのが瑞穂で、それ以来我慢できなくなっちゃったときには瑞穂にお願いするっていう習慣ができちゃって・・・・・・」
「でも、私だってきよたかさんと、結構えっちなことしていますよね? 回数的には、瑞穂ちゃんとあまり変わらないと思うんですけど」
「それはそうなんだけど、瑞穂は最初から僕を『お兄ちゃん』って呼んで素直に甘えてきて、瑞穂は本当に僕の妹みたいな関係になっているんだ。えっちもするけど、例えば瑞穂が最初の頃使っていた『聖なる邪神バロール』って名乗りは明らかにおかしいから、二人で話し合った結果、今の『偉大なる魔眼の女王』に落ち着いたりとか・・・・・・」
「きよたん、あのがきんちょと、そんなくだらないことやってるの?」
上水流さんが会話に割り込んできた。
「やってるよ。『魔眼』スキルを育てるという目的もあるけど、基本的には兄妹同士のコミュニケーション。そういう関係だから、瑞穂相手なら恥ずかしいことも頼みやすいんだけど、みなみちゃんは僕にとって、まだ付き合い始めたばかりの彼女みたいな感じで、あんまり恥ずかしいことは、まだ頼みにくいというか・・・・・・」
それ以外に、瑞穂はコハルさんからフェラチオを教わっており、緊急時の性処理も何度かやってもらっているので、手コキやフェラチオが上手くなっているのに対し、みなみちゃんとえっちするときの射精はほとんど素股で、みなみちゃんにフェラチオをしてもらったことは無いという理由もあったけど、それは言わないでおく。
「きよたかさん。そもそも、兄と妹はえっちする関係じゃないと思うんですけど・・・・・・」
みなみちゃんがそう言いかけたところで、今度はフライヤが話に割り込んできた。
「みなみちゃーん! 日本ではどうだか知らないけど、アマツでは兄と妹がえっちするのは、そんなに珍しいことじゃないよ!」
「・・・・・・そうなんですか?」
「そうだよー! フライヤは、初めての相手がお父さんで、二人いるお兄ちゃんともえっちしたことあるけど、きょうだいでも母親が違えば結婚することはできるから、実際に妹をお嫁さんにする男の人は結構いるし、そうで無くても、年頃の男の子と女の子が一つ屋根の下に住んでいれば、きょうだい同士でもえっちしちゃうのが当たり前だよ!」
「ええっ!?」
みなみちゃんが、思わず驚きの声を上げる。
「それにねー、よその家から嫁いでくるお嫁さんは、生活習慣の違いなんかもあって新しい生活に馴染むのが大変だけど、実の妹は生まれたときから一緒に暮らしていて気も合うから、お嫁さんを何人ももらっている男の人でも、最愛の女性はお嫁さんじゃ無くて妹さんってこともよくあるんだよ! あと、お嫁さんたちには頼めないヘンなプレイでも、気心の知れた妹になら頼めるって人も結構いるし!」
「・・・・・・アマツの人は、性の問題に関しておおらかだとは聞いていたけど、そこまで何でもありの世界なの?」
僕が尋ねると、フライヤに代わって姉のエイルが答えてくれた。
「キヨタカ様。フライヤの言っていることは、間違いというわけではないんですが、フライヤはアマツ人の中でも、性に関してはちょっとおおらか過ぎる子なんです。フライヤは、父との初体験がすごく気持ち良かったらしくて、その後えっちにのめり込んでしまって、兄二人だけではなく、ワラビ村の男性全員とえっちしてしまい、将来の結婚相手を探すため私と一緒にトーキョー・シティーへ旅立った後も、男の人と出会えばほとんど挨拶代わりにえっちしてしまうような子なので・・・・・・」
「だって、お父さんからは、二回目以降のえっちは自分で相手を探しなさいって言われちゃったしー、いくら探しても、なかなかお父さんを超える理想のおちん○んの持ち主は見つからなくって」
「まあ、こんな子ですから、フライヤの言うことは、あまり真に受けない方が良いと思います。あと私は、フライヤと同様に初めての相手は父でしたが、兄たちとのえっちはしていません」
「そうですか・・・・・・。それとエイルさん、僕のことは様付けなんかしなくて、普通に『きよたかさん』とでも呼んでもらって構わないですよ」
「そんな、命の大恩人に向かって、『きよたかさん』なんてぞんざいな呼び方は、とても出来ません」
若干照れながら、あくまでも低姿勢のエイルに対し、フライヤの態度は対照的だった。
「それじゃあ、あたしはこれから、『きよちゃん』って呼んでいい?」
「別に構わないけど」
まあ、少なくとも上水流さんやタマキ先生が使う「きよたん」よりは若干マシだ。
「それじゃあきよちゃん、帰ったらあたしとえっちしない? 助けてもらったお礼ってことで!」
「・・・・・・遠慮しておきます。今夜はみなみちゃんとえっちする日なんで」
「ええー!? せっかくだから、フライヤとも1回くらいえっちしようよー! フライヤのおっぱいと、キツキツでトロトロのおま○こを味わってみない? きよちゃんのおちん○ん、かなり大きくて元気そうだから、フライヤも味わってみたいんだけどなー」
「悪いけど、みなみちゃんがちょっと機嫌を悪くしちゃってるんで、えっちの話はそのくらいに・・・・・・、あ、そろそろトーキョー・シティーの北門が見えてきたよ」
僕は、半ば強引にフライヤとの話を打ち切った。フライヤ相手なら、おそらく簡単に挿入まで行ってしまうだろうが、記念すべき初体験の相手は、時間がかかってもみなみちゃんにするという方針で、僕の心はほぼ固まっている。フライヤは、見た目こそ申し分ないけど、ほぼ初対面の子だし、しかもかなりのビッチみたいだから、少なくとも初体験の相手としては遠慮しておきたい。
「きよたん、お帰りなさい。それにしてもずいぶん遅かったわね」
タマキ先生が、北門で僕たちを出迎えてくれた。
「ちょっと、エイルとフライヤを探すのに時間がかかっちゃって。でも、何とか2人を発見できて、魔法で治療したから今は見てのとおり、二人とも元気です。あと、ゴブリンたちに捕まっていた女性6人を見つけたので、保護して連れ帰りました」
「了解よ。その子たちのことは、先生に任せなさい。それと、チュニスやアルジェの背中に積まれているのは、戦利品?」
「はい。昨日のゴブリンたちより、大規模な群れで戦利品もたくさんありました。あと、ゴブリンたちの中にはシャーマンやモンスター使いもいて、キラータイガーはゴブリンに使われていたみたいです」
「そうだったの。なんか、最近のゴブリンは頭も良くなっているみたいね。情報はセンターに流しておくわ。戦利品のうち、キラータイガーはかわたさんに引き取ってもらう必要があるけど、それ以外の処分は明日になってからでも十分でしょ。みんな、今日はセンターに帰って、ゆっくり休みなさい。明日は、パーティーの結成と卒業式をやるだけだから、朝10時くらいからで構わないわよ」
「そうさせて頂きます」
僕たちは、後始末をタマキ先生に任せ、そのままセンターに帰還した。エイルやフライヤたちも、ひとまずはセンターで一晩を過ごすことになった。
「みなさん、お帰りなさい。遅かったですね~。早速、夕ご飯をご用意しましょうか?」
センターでは、コハルさんが出迎えてくれた。
「えーと、お腹も空いているんですけど、夕飯より先に、みなみちゃんとえっち、じゃなかった、一緒にお風呂に入りたいんですけど」
「きよたかさん、もういつものことですから、隠さなくて大丈夫ですよ~。でも、今夜はもえちゃんや瑞穂ちゃん、それから救出された女の子たちもお風呂に入りたいでしょうから、お風呂でのえっちは早めに切り上げて、その後はきよたかさんのお部屋でお楽しみくだいね~。お二人の分の食事は、後できよたかさんのお部屋に運んでおきますから」
「コハルさん、ありがとうございます」
こうして、ようやくセンターに帰還した僕は、いつもどおりみなみちゃんと一夜を共にした。みなみちゃん自身も、夕食より僕とのえっちを楽しみにしていたらしく、えっちではいつも以上に喜んでくれた。
あと、僕とのえっちに満足したのか、話が揉める発端となった、どうして緊急時に僕がみなみちゃんではなく瑞穂を指名するのかという話題については、眠る頃には当のみなみちゃん自身がすっかり忘れていた。
◇◇◇◇◇◇
後日判明した、今回の戦果まとめ。
作戦の目的だったエイルとフライヤの救出は、色々あったけど無事成功。それでも、ゴブリンたちに陵辱され心の傷を負っているということで、二人は当面の間、冒険者人材育成センターでリハビリを受けることになった。
エイルやフライヤと共に救出した6人の女性たちについては、翌日にはそれぞれの家族の元へ帰っていった。もっとも、彼女たちは既に死亡者として扱われており、家族たちは彼女たちの生還を喜ぶより、まず驚いたという。トーキョー・シティーの政庁でも、死亡者扱いになっていた彼女たちの住民登録を訂正するなどの作業に追われたらしい。
そして、今回の作戦で僕たちが倒したゴブリンなどのモンスターは、僕の予想を大きく上回り、センターの記録によると合計5391匹もの多数にのぼっていた。結構な数のゴブリンたちを倒したみなみちゃんと瑞穂の冒険者レベルは、いずれも16から17に上がった。もっとも、僕と上水流さんについては、倒したモンスターの数こそ多かったものの、あまり苦戦しなかったためか、各種スキルのレベルは若干上がったものの、冒険者レベルは上がらず、僕はレベル7、上水流さんはレベル8のままだった。
そして戦利品。僕が仕留めたキラータイガーは、かわたさんが前回を大きく上回る、25万アマツ円の高値で買い取ってくれた。死体を査定したかわたさんによれば、首以外には死体の損傷が無く、高級食材としても毛皮の材料としても最高の出来だったという。
そして、何に使うつもりだったのかは知らないが、ゴブリンたちが貯め込んでいた金貨、銀貨の類は、合計29万4000アマツ円。その中には、僕も初めて見ることになった、貴重な1万円金貨5枚も含まれていた。
ゴブリンキングが使っていたテントについては、人類から奪った高級品であり、中古品として売ってもさほどの価値にはならないが、同じ物を新たに購入したら10万アマツ円くらいかかるということだったので、売却はせず補修して、僕たちの野営用テントとして活用することにした。それ以外の宝石、装飾品の類についてはすべて売却し、合計38万6000アマツ円で売れた。
昨日の最終模擬クエストによる収入が18万5千アマツ円、今日の作戦による収入が93万アマツ円、合計で111万5千アマツ円。タマキ先生の「1アマツ円=日本円で100円くらい」という感覚に従えば、2日間合計で、約1億1150万円もの収入を得られたことになる。
アマツの法律では、冒険者がモンスターから奪った財貨は、すべて冒険者の正当な収入として認められ、元の所有者に返還する必要はない。もっとも、元の所有者が明らかである財物については、元の所有者およびその遺族は、時価相当額の補償金と引き換えにその返還を請求できるものとされているが、今回獲得した財物は、いずれもゴブリンたちが人類から奪った物であることは明らかであるものの、元の所有者を特定することは不可能なものばかりだったので、返還を請求されるおそれもない。
そして、冒険者がモンスターと戦う仕事は公益事業とみなされており、クエスト達成報酬や、冒険者がモンスターから奪った財貨などの収入から税金等が差し引かれることは無いため、この収入は全額、僕たちが冒険者として活動するための軍資金や生活費に使うことができる。
・・・・・・なお、そうして冒険者がアマツの法律上そこまで優遇されているのか、僕が特別講師の法律士さんや会計士さんに尋ねたところ、冒険者は死の危険を伴う大変な職業なので、実際にはそのくらい優遇しても、なかなかなり手がいないんだそうです。
それはともかく、こうした結果だけを見れば、今日の作戦はもの凄い大成功だったのだが、僕がそれに気づいたのは翌日になってからのことで、この日眠りに就こうとした僕は、肉体的にも精神的にもひたすら疲れた、こんな作戦は二度とやりたくない、ということしか頭になかった。
(第14話に続く)
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