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第1章 訓練生編 『目指せ、アマツ世界を救う冒険者!』
第6話の2 スキルを選ぼう!(後編)
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第6話の2 スキルを選ぼう!(後編)
前回は、栗林さんと瑞穂が習得するスキルを決めたところで話を区切ったので、今回はその続きである。
「気を取り直して、次はきよたんの番ね」
タマキ先生はそう言って、僕のステータス画面を表示させた。
NAME:キヨタカ ムラカミ(村上 清隆)
SEX:MALE(男)
AGE:16
JOB:騎士
LV:1
HP:1300/1300
MP:650/650
STR:120
AGI:110
DEX:108
VIT:130
INT:138
LUK:140
残りスキルポイント:42
<習得済みスキル>
● 装備
・片手剣(レベル5)
・盾(レベル1)
・重装備(レベル1)
・槍(レベル1)
・両手剣(レベル1)
● 技
・かばう(レベル1)
・挑発(レベル1)
・カウンター(レベル1)
・はやぶさ斬り(レベル1)
● 能力上昇
・防御力上昇(レベル1)
● その他
・計算(レベル15)
・音楽(レベル12)
「なんか僕だけ、スキルポイントと習得済みスキルが異様に多いような気がするんですけど」
「きよたんは最初から騎士のレベル1だから、たぶん見習い冒険者段階で取れる10ポイント、戦士段階で取れる30ポイント、そして騎士へのクラスチェンジ段階で取れる2ポイントが獲得済みで、さらに戦士の全スキルと、騎士の初期スキル『はやぶさ斬り』が最初から習得済みになっているのよ。まさにチートだわ。ただ、私もきよたんみたいな訓練生の指導をしたことは無いし、きよたんは全ての基本能力値が100以上で、どのスキルを習得しても本職の人たち以上に上手く使いこなせるだろうから、逆にスキル選びが難しいのよ。初心者スキル全部と、5種類ある基本職のスキル全部と上級職の初期スキルが最初から習得可能だけど、42ポイントじゃさすがに全部取ることは出来ないし。うーん……」
そう言いながら悩むタマキ先生。先生まで判断に困るくらいなら、相当に難しい決断を迫られそうな気がする。
「きよたん。とりあえず、『性愛』は……」
「さっきの説明だと、『性愛』はお嫁さんスキルだから、男の僕が取る必要はないですよね?」
「逆よ。これだけは絶対に、真っ先に取っておきなさい!」
僕は思わず、心の中でずっこけそうになったが、力説するタマキ先生の表情は真剣そのものだった。どうやら、僕をからかっているわけではないらしい。
「……どうして、えっちで相手を気持ち良くさせるだけのスキルが、そんなに重要なんですか?」
「きよたん、アマツは性の問題に関してはすごく大らかな世界だけど、その分えっちの実力はシビアに評価されるのよ。特に男性の場合、男としての価値は、えっちのパワーとテクニックで決まると言っても過言ではないわ」
「はあ……」
「きよたん、いまいち実感が沸かないって顔してるわね。分かりやすいように、例を挙げて説明してあげるわよ。きよたんや瑞穂ちゃんがお世話になった、あの農家のダイゴロー・トードーさん。確か年齢は40代後半で、トーキョー近辺では特に裕福というわけではないけど、今年に入ってから5人目のお嫁さんをもらったそうよ。お相手は貧しい家の生まれだったけど、今年13歳になるという、結構可愛い娘だったわ」
「そんなことしていいんですか!?」
「アマツの風習では、女の子は生理が来たら結婚可能とみなされるから、日本と違って、法的にも倫理的にも全く問題はないわ。一方、私の亡き夫カイ・シブサワさんは、私と結婚した当時40歳過ぎで、トーキョーで銀行業をはじめとする様々な事業を経営しており、トードーさんとは比較にならないほどの資産家だったけど、奥さんに逃げられて、私と出会うまで再婚相手がなかなか見つかりませんでした」
「はあ……」
「はい、ここで問題です。結婚について、トードーさんとシブサワさんの明暗が分かれた原因は何でしょう?」
「そのシブサワさんが、性格的にすごく問題のある人だったんですか? 奥さんに暴力を振るうとか」
「不正解。シブサワさんは、性格的にはむしろ紳士的で、とても良い人でした。でも、シブサワさんは若い頃に勉強ばかりしていて、冒険者になったことも無かったから、若い頃もえっちは不得意で、回数もあまりこなせなかったらしいの。20代のとき、奥さんとの間に一人息子のコウ君が生まれたんだけど、その後はほとんどえっちをしなくなり、やがて奥さんから離婚を言い渡されてしまいました。ちなみにアマツの法律では、夫がお嫁さん以外の女性といくらえっちしても離婚原因にはならないけど、夫の性的不能や、正当な理由なく夫が1年以上えっちしてくれない場合には、お嫁さんは離婚を請求できるのよ」
「……要するに、夫が浮気をしたというだけでは離婚は認められないけど、夫がえっちできない場合は、それだけで離婚が認められるってことですか?」
「そのとおり。その後シブサワさんは病弱だったこともあり、コウ君のためにも次の奧さんを探していましたが、えっちを人生最大の楽しみだと考えているアマツの女性たちは、いくら裕福でも、誰も性的不能のシブサワさんと結婚しようとはしませんでした。そして6年前、私はシブサワさんの家にコウ君の剣術師範として招かれ、その後シブサワさんに結婚を申し込まれました。その際、シブサワさんが亡くなったら遺産の半分が私のものになる、シブサワさんが生きている間でも、ちょうど思春期を迎えていたコウ君が相手ならえっちしても構わないという条件を出され、私は悩みながらもシブサワさんとの結婚に応じましたが、それでも周囲の女性たちからは、タマキさんって変わり者だねなどと色々言われました。このようにアマツでは、いくら頭が良くて資産家でも、えっちの出来ない男性はここまで立場が弱いのよ」
「……」
「一方、ダイゴロー・トードーさんは若い頃に冒険者をしており、職業は戦士だったそうです。13歳くらいのときに初体験を済ませて以来、今日までえっちしなかった日は一日も無いという絶倫さんで、『性愛』スキルも当然のように習得しています。今では冒険者を事実上引退し、『農業』のスキルを取って農園を経営されていますが、仕事でトーキョーに泊まるときには、大体知り合いか行きずりの女性とえっちして帰って行くけど、トードーさんは今でもえっちの名人として女性たちに人気なので、相手に不自由することはないみたいです」
「そうなんですか……。ところで、確かに『農業』っていう初心者スキルがありますけど、あれって冒険で何の役に立つんですか?」
「ああ、あれはね。冒険ではまず役に立たないけど、冒険者を引退した後のセカンドキャリアで役に立つスキルの一種よ。もちろん、農業自体はスキルを持っていなくても出来るけど、『農業』のスキルを取って熟練度を上げて行けば、農業の生産性は最大で10倍以上もの差を付けられるのよ。トードーさんはそのスキルを活かして、農場で高品質の美味しい野菜を作って生計を立てているわけ。他にも、主にセカンドキャリア向けっていう初心者スキルは沢山あるのよ」
「栗林さんが持っている『絵画』とか、僕が持っている『音楽』とかも、セカンドキャリア向けのスキルですか?」
「えーとね、『絵画』は明らかなセカンドキャリア向けのスキルだけど、『音楽』は一応冒険でも役に立つことがあるのよ」
「どんな風にですか?」
「アークウィザードの固有スキルに、『音楽』のスキルを持っていないと習得できない『音楽魔法』っていうのがあってね。そのスキルを持っている冒険者が音楽を奏でると、消費MP無しで様々な効果をもたらす音楽魔法を発動できるらしいわよ」
「どんな効果があるんですか?」
「私は、日本では音楽教師だったから『音楽』スキルはレベル25になっているけど、『音楽魔法』は習得していないから詳しいことは分からないけど、噂では曲によって味方を鼓舞したり癒したり、周囲の敵を一斉に眠らせたり、使い方によってはかなり役に立つものらしいわよ。ただし、例えば音楽魔法で『うらみ・ます』を歌ったら、とんでもないことになるらしいけど」
「ああ、それは確かに、とんでもないことが起こりそうな気がしますね……」
「あれ、きよたんは『うらみ・ます』を知ってるの? かなり古い歌なのに」
「知ってます。僕のお父さんがファンだったので」
「そうだったの。実は私も日本ではあの人のファンだったのよ。きよたんとは、意外なところで共通の趣味があったわね」
タマキ先生と僕は、そこまで話が進んだところで、栗林さんと瑞穂が「全然話について行けない」という感じの困り顔をしていることに気付いた。
「置いてけぼりにしちゃってごめんね。えーと、みなみちゃんと瑞穂ちゃんは、『うらみ・ます』って知ってる?」
「……すみません。全然聞いたことがないです」
「ふっ。我魔眼の邪神バロールは、世界の叡智をこの頭脳に宿す大賢者の身なれど、かような曲は我のアカシック・レコードにも入っておらぬ」
栗林さんはともかく、やたらと格好を付けた瑞穂の返答は突っ込みどころ満載だけど、面倒なので放置しておく。
「まあ、若い子だったらむしろそれが当然よね。それじゃあ、聴かせてあげましょうか」
こうして、タマキ先生が『教室』内にあったピアノで演奏を担当し、僕が歌を担当するという形で、二人に『うらみ・ます』を聴かせることになった。今まで気付かなかったけど、『教室』にはさりげなくピアノも置かれていたのだ。
…………。
「きよたん、なかなかの歌唱力だったわね。本来女性が歌う曲で、しかも結構難しいのに、上手く自分流にアレンジして、感情豊かに歌えていたわ」
タマキ先生は褒めてくれたが、『うらみ・ます』を聴いていた栗林さんと瑞穂は、曲が終わるころにはほとんどグロッキー状態で、机の上に突っ伏していた。
「な、なんという恐ろしい歌なのだ……。聴いているだけで呪われそうなのだ……」
瑞穂が、机に突っ伏しながらそんな呻き声を発している。栗林さんはブルブルと震えて、感想を喋る余裕すら無いようだ。
「うーん、やっぱり不評だったみたいね。ちなみに、もえちゃんにも『うらみ・ます』をソロで聴かせたことがあるけど、もえちゃんには『そんな呪いの歌、もう二度と聴きたくないわよ』って言われちゃったわ」
……タマキ先生、ひょっとして全ての訓練生に『うらみ・ます』を聴かせているんじゃないだろうな? 僕は慣れてるから平気だけど、耐性の無い人が聴いたらドン引きするぞ。
「えーと、きよたんの質問で、話がまた脱線しちゃったわね。何の話をしていたんだっけ?」
「僕が『性愛』スキルを習得する必要性についての話です」
「そうだったわね。きよたん、『性愛』スキルは冒険上も、女性の冒険者と親睦を深めるのに不可欠だし、例えばきよたんが女性の冒険者を自分のパーティーにスカウトしようとするときには、まずその女性とえっちして、女性がきよたんのえっちに満足したら仲間に加わってくれるというのが一般的なのよ。同じパーティーのメンバーになれば、必然的に何度もえっちすることになるから、女性としては男性がえっちで自分を満足させてくれるかどうかは、この上なく重要な問題なのよ」
「……話の前提として、アマツでは同じパーティーのメンバーだったら、えっちするのが当然なんですか?」
「当然よ。アマツに限らず地球だって、実際に若い男女が一緒に旅を続けていたら、えっちせずにはいられないわよ。日本の有名なRPGにだって、『おはようございます。昨日はお楽しみでしたね』って有名なセリフがあるでしょ?」
「まあ、確かにそういう古いネタはありましたけど……」
ちなみに、僕がそんな古いネタを知っているのは、お父さんからそんな話を聞かされたことがあるからである。念のため。
「それに、きよたんが強くなってアマツの各地を旅するようになれば、竜族とか神族とか、通常の人類を大きく上回る種族と出会うこともあると思うけど、アマツ世界では、人間の男性冒険者はえっちが好きで上手だという評判が他の種族にも広まっているから、そうした人たちの協力を得ようとするとき、えっちで相手を満足させる必要があるなんて試練を課される可能性もあるわよ。分かったら、『性愛』のスキルを習得して、今夜からでもえっちに励みなさい!」
「もう分かりました! 『性愛』はちゃんと習得しますから、授業を進めてください!」
◇◇◇◇◇◇
「うん。ちゃんと『性愛』スキルは取ったわね。それできよたん、君の方針次第でお勧めスキルが変わって来るんだけど、いくつか先生の質問に答えてくれる?」
「どうぞ」
「ここにいるみなみちゃんと瑞穂ちゃんは、絶対に自分のパーティーに加えるつもり?」
「本人が嫌がらない限りは、そのつもりですけど」
「分かったわ。それなら、回復魔法や攻撃魔法なんかは必要最低限で済むし、『ライト』は瑞穂ちゃんが持ってるから要らないわね」
なるほど、そうやって必要なスキルを絞っていくわけですね。
「次に、ここにいないもえちゃんは、パーティーに加えるつもり?」
「上水流さんは、昨日睨まれたりしたのがちょっと気になりますけど、凄い戦力になってくれそうなので、本人が嫌でなければパーティーに加わってもらうつもりです」
「そう。武闘家のいないパーティーなら『棍棒』スキルも必要になるんだけど、もえちゃんが入るならそれも必要なさそうね。それときよたん、アマツ出身の訓練生たちをパーティーに誘ってみる気はない?」
「アマツ出身の訓練生?」
「そう。アマツ出身の訓練生たちは、見習い冒険者から基本職にクラスチェンジするための地道な鍛錬が必要とするけど、アマツの一般常識を教える授業は必要ないから日本人訓練生とは別メニューになってるんだけど、探検家や商人にクラスチェンジできる子も何人かいるわよ。ちなみに、全員が女の子で、しかも結構な美人揃いよ」
「その中に、何か能力的に優れた、お勧めの人とかはいるんですか?」
「うーん、残念ながら今いる訓練生の中には、そこまで優れた子はいないかな。基本能力値も高くて40台止まり。その代わり、『お嫁さんスキル』や最低限必要なスキルのレベルはしっかりと上げているから、パーティーの穴埋め要員は務まるはずよ。それに、探検家と商人の適性を持った女の子を2人ほどスカウトして仲間に加えれば、探検家と商人のスキルも必要最低限で済むわよ」
「……スカウトするには、どうすればいいんですか?」
「さっき説明したとおり、スカウトしたい女の子とえっちして、女の子からOKをもらえばパーティーに加えられるわよ。アマツ出身の女の子たちもきよたんには興味深々だから、えっち自体を断られる心配はしなくていいけど、童貞のままだと恥をかいちゃうから、先にタマキ先生の10日間特別講座でえっちのイロハを習得して……」
「結構です!」
「きよたん、なんで即答で断るのよ? 気持ちいいのに。それとも、先生はきよたんの好みじゃない? それなら、コハルさんでも構わないけど」
「そういう問題じゃありません! その、僕だって初めてのえっちは好きな子としたいから、そういう授業みたいな形で初体験をしてしまうのは嫌なんです!」
「面倒くさい子ね。じゃあ、初めてはもえちゃん、みなみちゃん、瑞穂ちゃんのうち誰がいいの? 今夜、ご指名の子と一緒に『えっちするまで出られない部屋』に閉じ込めてあげるわよ」
「乱暴過ぎですよ! しかもよりによって、栗林さんと瑞穂もいるところでそんな話をするなんて!」
「そんなことないわよ。それにみなみちゃんも瑞穂ちゃんも、未だに机に突っ伏したふりをして、しっかり聞き耳を立ててるわよ。もえちゃんも含めて、指名されたら断られる心配はまず無いわよ。それで、誰が良いの?」
「まだ決めてません! というか、3人ともこの世界で会ったばかりで、そのうち誰が好きかなんて急に決められません! それより、いい加減授業を先に進めてください!」
「しょうがいないわねえ。じゃあ、当面探検家と商人はいないという前提で、冒険に必要なスキルはきよたんが取るしかないわね。それと、先生からの質問はあと1つ」
「何ですか?」
「その、アテナイス様からもらった剣って、普通の片手剣っていう扱いで良いの?」
先生からの質問に、僕ではなく話を聞いていたらしいアテナイス様が口を挟んできた。
「ふせいかーい! この女神アテナイス様が、腕によりを掛けて作った特製の『アテナイス・ソード』が、ただの片手剣なんてあり得ないわよ。よく聞きなさい! このアテナイス・ソードは、一振りで片手剣と、魔法の威力を高める杖の機能を兼ねられる、世界でたった一振りの業物なのよ!」
「……アテナイス様、確かに片手剣と杖の機能を兼ねられる武器は貴重な存在ですが、それだけでは『世界でたった一振り』とは言えないのんではないでしょうか? 例えばこのトーキョーでも、非常に高価ではありますが、ミスリルソードが片手剣と杖の機能を兼ねられる武器として時々売りに出されていますし……」
タマキ先生の突っ込みに、アテナイスさんは少し沈黙した後、
「そ、それだけなはずないじゃないの! 片手剣としても杖としても、その威力はミスリル・ソードなんかの比じゃないし、その気になれば槍にも両手剣にも棍棒にも鞭にも弓にも短剣にもナイフにも変化させられるわよ。上はガースー討伐から、下はリンゴの皮むきまで何でもこなせる万能の最強装備、それが『アテナイス・ソード』なんだから!」
……いや、さすがにリンゴの皮剥き機能は要らないだろ。内心そう思いつつ、
「それでアテナイスさん、具体的にはどうすれば、形態を変化させられるんですか?」
「あ、きよたん、それはね、えーと……」
「アテナイスさん、今『えーと』って言いませんでした?」
「言ってないわよ! そうだ、例えば槍に変化させたいのなら、アテナイス・ソードを持って『槍になーれ、槍になーれ』と唱えてごらんなさい。そうすれば槍に変化するわよ。他の形態も同じ要領でやればいいわ」
それって、絶対その場の思い付きで考えた後付けの設定だろうと内心思いつつ、実際に試してみたらそのとおりになったので、これ以上の突っ込みは止めにした。
「タマキ先生、女神様からのお答えは以上のとおりです」
「分かったわ。でも、槍はともかく、棍棒や鞭として使う機会はあまり無いだろうから、初期のスキル選びとしては『杖』を使えるようにしておけばいいわ。『料理』や『裁縫』は、みなみちゃんや瑞穂ちゃんに任せればそれでいいとして、他に取っておきたいのは、生存率を上げるための『回避』、敵の気配を察知できる『索敵』、日本語が通じない相手とコミュニケーションを取ることが出来る『通訳』、それと騎士なら馬に乗って戦うことも結構あるから、『馬術』のスキルも必要ね。『性愛』『杖』と合わせて6ポイントの消費になるから、初心者スキルはそのくらいでいいと思うわ。それ以外の初心者スキルは、後になって必要だと思ったら取る感じでも特に問題ないから」
「分かりました。ところで、僕には『防御』のスキルは要らないんですか? 習得済みスキルの一覧にも無いし、習得できる初心者スキルの一覧にも見当たらないんですけど」
「それは大丈夫よ。きよたんの持っている『防御力上昇』のスキルは、いわば『防御』の上位互換スキルで、『防御』の3倍の効果があるから、『防御力上昇』のスキルを習得すると『防御』は消えちゃって、その熟練度は『防御力上昇』に引き継がれるの。他に質問はある?」
「大丈夫です。今のところはありません」
「次に武闘家の固有スキルだけど、戦士系の職業でも『攻撃力上昇』『回避力上昇』『体術』は結構役に立つから、先生も取ってるし、他の冒険者も戦士系のベテランは大体取ってるわね。体術で2ポイント、他は3ポイント消費するから、これで8ポイント。『回避力上昇』は、『回避』の3倍の効力がある上位互換スキルで、習得すると『回避』は消えちゃうけど、先に『回避』を取らないと『回避力上昇』のスキルは取れない仕組みになっているから、『回避力上昇』を取るのに必要なスキルは実質4ポイントね。ただし、全体でスキルポイントが足りるかどうか計算する必要があるから、習得するのはちょっと待っててね」
「分かりました」
「次に、『アテナイス・ソード』が強力な杖の機能を兼ね備えているなら、その機能を活かすためにも、回復系と攻撃系の魔法も最低限取っておいた方がいいわね。僧侶の固有スキルから『ヒール』と『キュア』、いやごめんなさい、ヒールは初心者スキルだったわね。それと『アローズ』、他の攻撃系魔法より威力は若干落ちるけど物理属性と光属性を兼ね備えていてほとんどの敵に効く『ホーリーカッター』、『治療系魔法効果上昇』、そして魔導師スキルから『攻撃系魔法効果上昇』。『ヒール』が1ポイント、治療系と攻撃系の魔法効果上昇が各3ポイント、他は各2ポイントだから、合計13ポイントになるわね」
「『ヒール』と『キュア』の機能は、先程栗林さんへの説明で聞きましたけど、『アローズ』はどんな魔法なんですか?」
「『アローズ』には2種類の効果があってね、1つは、敵の攻撃なんかで眠っちゃったり、一時的に気絶しちゃったりした味方を一瞬で起こす効果があるの。もう1つは、眠っている性欲を目覚めさせる効果、つまり相手をえっちな気分にさせちゃう効果があるわ」
「……眠っている味方を起こす魔法は必要だと思いますけど、もう1つの余計な効果を封じることは出来ないんですか?」
「出来ないわよ。味方に『アローズ』の魔法を使えば、眠っていてもすぐ起きると同時に、性欲を大きく高める効果があるわ。戦闘用だけじゃなくて、えっちを盛り上げる効果もあるわ。実際には、戦闘中に眠っている味方を起こす機会ってそんなに多く無いから、むしろメインで使われるのは後者ね。決して余計な効果なんかじゃないわよ」
「でも、仮に僕がその『アローズ』で、例えば栗林さんを起こして、それで栗林さんがえっちな気分になっちゃったら……」
「それはもちろん、きよたんの名槍清隆丸で気持ち良くしてあげなさい」
……また、そっち方面の話になってしまうのか。
「きよたん、どうしたの? 今度は突っ込まないの?」
「もう、突っ込んだら負けの世界だと悟りましたから、どうぞ先生、続きをお願いします」
「若干反応がつまらないけど、次に商人の固有スキルね。戦利品の商品価値や相手の強さなどが瞬時に分かる『鑑定』のスキルは冒険に必須で、『簿記』と『法律』も結構重要ね。それときよたんなら、熟練度に応じてLUKにプラスの補正がかかる『LUK上昇』も是非取っておきたいわね。どれも2ポイントのスキルだから、合計8ポイント」
「……すみません、他は何となく分かるんですけど、ただ運が良くなるだけのスキルがそんなに重要なんですか?」
「きよたんは、LUKの基本値が最初から140もあるから、『LUK上昇』の効果が大いに活きるのよ。他の上昇系スキルも同じなんだけど、このスキルがもたらすプラス補正の効果はね、元の能力値に足し算じゃなくて掛け算で補正が掛かって、LUK上昇は色んな行動をしているうちに自然と熟練度が上がって、熟練度レベル10で2倍、レベル20で3倍、レベル30で4倍って感じになるのよ。だから、基本能力値が高いほど凄い効果を発揮するわけね」
「はあ」
「だから、基本のLUKが壊滅的に低いもえちゃんあたりが取ってもあまり意味が無いけど、LUKが最初から140もあるきよたんがLUK上昇を取れば、騎士としてのレベルが上がるにつれてLUKの基本値が上がって、さらにLUK上昇の熟練度レベルも上がって、最終的には実質的なLUKが1000を超えるような、物凄い強運の持ち主になれるわよ。ガースー討伐なんて、この世界の人類にとっては夢物語みたいな偉業を成し遂げるには、実力だけじゃなくて運にも恵まれる必要があるから、LUKが高いに越したことはないわ」
「理屈としては分かりますけど、LUKって具体的にどんな効果があるんですか?」
「具体的には表現しにくいけど、LUKが低いほどつまらない事故なんかに遭いやすく、LUKが高いほど嬉しい出来事が起こりやすくなるわ。それに、私の経験上も、LUKの低い冒険者は途中で死んじゃう可能性が高いけど、LUKの高い冒険者は、他の能力が低くてもしぶとく生き残る傾向があるわね。ちなみに先生自身は、現時点でLUKが107あって、きよたんを除けばこのセンターで一番の強運の持ち主だから、何度か危ない目に遭ってもこうして生き残れただけでなく、シブサワさんの遺産をゲットして結構な資産家になることも出来たんだと思うわ」
「まあ、確かにそういう傾向があるなら、取っておいた方が無難そうですね」
「じゃあ最後に、探検家の固有スキルね。遠距離攻撃用にホーリーカッターを使う前提なら弓関係のスキルは要らないけど、わずかな手掛かりからモンスターのアジトや、お宝の眠るダンジョン、行方不明の人などを効率よく探すことのできる『捜索』、迷宮のようなダンジョンや建物に入っても道に迷わなくなる『迷宮探索』、様々な罠の発見、解除、設置が上手になる『罠』、対応する鍵を持っていなくても扉や宝箱をこじ開けられる『解錠』は、持っていると便利ね。『罠』は3ポイント、他は2ポイントのスキルだから、合計9ポイントになるわね。どう? 残り42ポイントで全部取れるかしら?」
「えーと、『ヒール』を含めて初心者7、武闘家8、僧侶9、魔導師3、商人8、探検家9ですから、合計44ポイントになると思います。全部習得するには、あと2ポイント足りません」
「うーん、2ポイント足りないなら、『解錠』は無理に取らなくていいわ」
「どうしてですか?」
「『解錠』のスキルは、使える場面が比較的限られている上に、本来なら鍵を手に入れなきゃいけないところを、無理やりこじ開けちゃうチートスキルだから。同じチートなら、例えば鍵が無くて開けられない宝箱なんて、いざとなったらもえちゃんに頼んで力づくでぶっ壊しちゃえばいいのよ」
「まあ、上水流さんなら大抵の扉や宝箱なんて、簡単に破壊できそうですね」
タマキ先生のぶっちゃけた発言に、僕は苦笑するしかなかった。
◇◇◇◇◇◇
そんなわけで、僕のスキル習得状況は、最終的に以下のようになった。
残りスキルポイント:0
● 装備
・片手剣(レベル5)
・盾(レベル1)
・重装備(レベル1)
・槍(レベル1)
・両手剣(レベル1)
・杖(レベル1)
● 特技
・かばう(レベル1)
・挑発(レベル1)
・カウンター(レベル1)
・はやぶさ斬り(レベル1)
● 魔法
・ヒール(レベル1)
・キュア(レベル1)
・アローズ(レベル1)
・ホーリーカッター(レベル1)
● 能力上昇
・攻撃力上昇(レベル1)
・防御力上昇(レベル1)
・回避力上昇(レベル1)
・攻撃系魔法効果上昇(レベル1)
・回復系魔法効果上昇(レベル1)
・LUK上昇(レベル1)
● その他
・計算(レベル15)
・音楽(レベル12)
・通訳(レベル1)
・性愛(レベル1)
・索敵(レベル1)
・馬術(レベル1)
・鑑定(レベル1)
・簿記(レベル1)
・法律(レベル1)
・捜索(レベル1)
・迷宮探索(レベル1)
・罠(レベル1)
「うん、これできよたんは攻撃も防御も魔法も高いレベルでこなせる上に、探検家や商人にとって重要なスキルも押さえている、パーティーのリーダーとしてほぼ理想的なスキルの持ち主になれたわね。後は、各スキルの勉強や訓練をして、熟練度レベルを上げていけばいいと思うわ。大抵のスキルについては、頑張れば訓練の範囲内でレベル10くらいまで上げられるけど、『性愛』のスキルレベルについては、頑張って自分で上げてね」
「性愛のスキルですか……」
「いい加減にオナニーは卒業して、女の子たちと積極的にえっちしなさいってことよ。アマツの冒険者たちは、避妊ポーションのおかげで妊娠する心配もなく、性病なんて仮にあっても『キュア』で簡単に治せるから、えっちを我慢する理由なんて何一つ存在しないわよ。思う存分楽しみなさい」
「……分かりました」
心理的にはまだ違和感ありまくりだけど、これ以上タマキ先生に逆らっても仕方ないので、一応従っておくことにする。
「そして授業の最後に、もえちゃんのスキル習得状況を見せてあげるわね」
タマキ先生はそう言って、上水流さんのステータス画面を表示した。
NAME:モエ カミズル(上水流 萌音)
AGE:16
JOB:モンク
LV:3
HP:1420/1420
MP:50/50
STR:143
AGI:132
DEX: 41
VIT:138
INT: 17
LUK: 20
残りスキルポイント:7
● 装備
・ナックルダスター(レベル46)
・戦闘靴(レベル32)
・弓矢(レベル17)
・片手剣(レベル3)
・棍棒(レベル2)
・盾(レベル4)
・槍(レベル3)
・両手剣(レベル3)
・短剣(レベル6)
・鞭(レベル8)
● 特技
・パンチ(レベル55)
・キック(レベル38)
・体術(レベル36)
・連続パンチ(レベル42)
・かばう(レベル12)
・挑発(レベル15)
・ジャンピングキック(レベル27)
・カウンター(レベル16)
・旋風脚(レベル11)
・潜伏(レベル17)
・暗視(レベル16)
● 能力上昇
・攻撃力上昇(レベル44)
・回避力上昇(レベル38)
・防御力上昇(レベル27)
・速射(レベル11)
● その他
・弓矢製作(レベル4)
・馬術(レベル12)
・馬丁(レベル2)
・採掘(レベル26)
「ここでは、今までの授業で出てこなかった各スキルの説明は省略するけど、もえちゃんは武闘家・モンクとして必要なスキルを熱心に上げていて、トーキョーでは一番の腕利きと評されるエダマメさんのパーティーでも戦力として活躍できるほどの実力者です。基本能力値は概ね互角でも、今の状態のきよたんでは、もえちゃんには到底敵わないわね。特に『パンチ』は、日本で女子ボクシングの日本代表を目指していたというだけのことはあって、最初からスキルがレベル30もあったのよ。
その反面、スキルポイントの無駄遣いが非常に多くて、武闘家なら剣や棍棒なんてまず使う機会無いのに、あたしは武芸百般に秀でたいからなんて言って各武器のスキルだけ習得して、武器の練習はすぐに飽きて止めるっていったことを繰り返しているのよ。弓矢や馬術の練習はそれなりに好きみたいだけど、弓矢の製作や馬の世話なんかは性格的に苦手らしくて、これもすぐ飽きちゃったのよね。ただ、身体の鍛錬を兼ねて時々手伝いに行っている、トーキョーの近辺にある鉱山の仕事はもえちゃんに合っていたらしくて、男以上に力持ちで仕事をこなせると評判になっているわ。
そして、『お嫁さんスキル』と呼ばれる『性愛』『料理』『裁縫』のスキルについては、もえちゃんは『自分は魔王と戦うために来たのよ。えっちをするために来たんじゃないわ!』などと言って、スキルポイントは余っているのに、先生がいくら勧めても取ってくれません。冒険者としての服装も、もえちゃんが女性向けの武闘家服じゃなくて男性向けのズボンを選んだこともあって、トーキョーやその近辺では、もえちゃんを男性だと勘違いしている人も少なからずいるみたいなのよ」
「上水流さんって、ずいぶんと禁欲的な人なんですね」
僕が素直に感想を述べると、タマキ先生は若干顔をしかめながら、首を横に振った。
「実はそうでもないのよ。あの年齢で、しかもボクシング一筋の生活を送っていたにしては、日本ではえっちの経験自体はあったみたいなのよ。それもたぶん1回や2回くらいじゃなくて、結構しちゃってたみたい。なんか、他人には言いたくない事情があるみたいだから私も詳しいことは聞いてないんだけど、もえちゃんはVITがきよたん以上に高くてえっちも経験しちゃってるから、若くて健康な肉体を相当持て余しているみたいなのよ」
えっ……?
「もえちゃんは結構な頻度で、自分の部屋で激しいオナニーをしてるみたいなの。ベッドのシーツがびしょびしょになるくらい。特にきよたんが来てからの、昨日や一昨日は凄かったわ。普段のもえちゃんとは別人みたいに、『きよたん、きよたん……』って切なそうな喘ぎ声を上げながら、壁の向こう側からもエッチな水音が聞こえるくらい、激しいオナニーを続けていたわよ」
「そ、そんな馬鹿な、タマキ先生、何かの冗談ですよね……?」
「きよたかさん、タマキ先生の言っていることは本当です。私も昨晩、きよたかさんが来ないなら、女の子同士で親睦を深めようと思ってもえさんの部屋にお邪魔しようとしたら、もえさんはきよたかさんの名前を呼びながら明らかにお取込み中って感じだったので、邪魔しちゃいけないと思って戻ったんです。それから、やっぱりもえさんは女の子なんだなあ、きよたかさんとの関係ではわたしのライバルなんだなあって思うようになって、もえさんを男に見立てることが出来なくなっちゃったんです」
栗林さんも、狼狽する僕に追い討ちを掛けるような証言をしてきた。あと、栗林さん今、僕との関係では上水流さんを自分のライバルだって言わなかった……?
「……タマキ先生、たぶん上水流さんにとっては絶対知られたくない秘密を、どうして僕に話すんですか? 何と言うか、もう少しデリカシーというものがあってもいいと思うんですけど……」
「それはね、可哀そうなもえちゃんを救えるのがきよたんしかいないからよ。それに、今夜お風呂に入った後にでも、もえちゃんの部屋の方へちょっと足を向けてみれば、誰にでも分かることだから。訓練生の中で知らなかったのは、きよたんと瑞穂ちゃんくらいじゃないかしら?」
「ふっふっふ、笑止! あのメスゴリラが、我が眷属との交尾を欲して連日連夜発情しておることなど、この聖なる邪神バロール様の魔眼にかかれば、容易に見破れるわ! 夜は言うに及ばず、昨日の訓練中も、時々名槍清隆丸を物欲しそうに眺めながら、お股をもじもじさせてズボンをちょっと濡らしておったぞ」
「要するに、瑞穂ちゃんも知ってたのね。そうすると、気付いていなかったのはきよたんだけ。秘密でもなんでもないわ。それに、昨日もえちゃんの機嫌が悪かったのは、一昨日勇気を出してきよたんをえっちに誘ったのに、きよたんが自分の部屋に来てくれなかったから拗ねてたのよ」
「……僕、上水流さんにそんな誘い受けましたっけ?」
「ほら、一昨日先生がもえちゃんに質問したとき、きよたんがどうしてもしたいっていうならしてもいいわよ、みたいなこと言ってたでしょ? もえちゃんは、ああ見えて結構恥ずかしがり屋さんだからストレートには言わないけど、もえちゃんの『えっちしてもいいわよ』っていうのは『えっちして』っていう意味なのよ」
「そんなこと言われたって、僕にどうしろと言うんですか……?」
「簡単な事よ。どうせ同じパーティーになれば繰り返しえっちする仲になるんだから、遅くとも訓練生を卒業するまでには、もえちゃん、みなみちゃん、瑞穂ちゃんの全員とえっちして、冒険を始めた後で揉めないように、えっちの順番やルールもきちんと決めておきなさい。初めては好きな人としたいって言うんなら順番はきよたんに任せるけど、もえちゃんはもう、きよたんとのえっちを待ちきれない状態になっちゃってるから、なるべく早く、できれば今日か明日くらいにはしてあげてね」
「……」
「ちょうどお昼の時間になったので、これで午前の授業はお終い。お昼休みの後、午後はみんなが今日習得したスキルの基礎訓練をやるわよ」
タマキ先生はそれだけ言って、さっさと教室を立ち去ってしまった。
◇◇◇◇◇◇
みんなで昼食を済ませた後の休み時間。僕は、栗林さんと一緒に一足早く教室に戻り、2人でちょっと話をすることになった。昼食中に栗林さんの方から誘ってきたのだ。
「きよたかさん。今日の授業、なんだかすごい内容でしたね……」
栗林さんが、若干顔を赤らめながら、そう話を切り出してきた。
「そうだね。先生の言いたいことは分からなくもないけど、あまりに話すことが露骨過ぎるというか、生々し過ぎるというか……」
「きよたかさん、先生の授業理解できるんですか!?」
「まあ、大体は」
「……きよたかさんって、頭がいいんですね。私なんか、半分も理解できなかったです……」
「まあ、今日の授業は本筋とはあまり関係ない脱線も多かったし、別に知らなくてもいいマニアックな話もあったから」
「でも、何とか理解できたことがあります。私、きよたかさんのパーティーに入ったら、きよたかさんのお嫁さんみたいな立場になるんですね。それで、きよたかさんとも、その・・・・・えっちなことをする関係になるんですね」
「うん、僕もまだ実感は湧かないけど、そういう関係になっちゃうみたいだね」
「それに関して、きよたかさんにお聞きしたいことがあったんです」
「何?」
「きよたかさんは、私のことをどんな風に思っていますか?」
そう尋ねてくる栗林さんの表情は、いつになく真剣そのものだった。
「どんな風にって言うのは?」
「私に、女の子としての魅力を感じるかどうかっていうことです。私は、日本では病気ばかりして、同年代の男の子と話す機会なんて無かったんで、私が女の子として、どのくらい魅力があるか分からないんです。胸もそんなにないですし、一昨日も昨日も待ってたのに、きよたかさんは私の部屋に来てくれませんでしたし、私には女の子としての魅力が無いんでしょうか……」
「そんなことは無いよ! 栗林さんはむしろ、女の子としては物凄く可愛いよ! まあ、正直に言えば時々男同士の同性愛みたいな話をするのがちょっと気持ち悪いけど、それ以外は完璧なくらい僕の好みだから!」
「も、物凄く可愛い、ですか?」
栗林さんが、驚いたような顔をして再度尋ねてきた。どうやら本当に、自分は可愛くないと誤解していたらしい。
「うん、嘘は一切言ってない。栗林さんは、めちゃくちゃ可愛いと思う。これは100%僕の本音だから、信用していいよ」
「それじゃあ、きよたかさん。きよたかさんは私を見て、えっちしたいと思いますか?」
再び、真剣な表情で尋ねてくる栗林さん。僕としては答えにくい質問だけど、逃げるのは難しそうだ。
「……栗林さん、正直に答えていい?」
「正直に、きよたかさんの本音を聞かせてほしいです」
「それじゃあ言うね。男の子としての本音を言えば、栗林さんとは・・・・・・ものすごくえっちがしたいです」
「も、ものすごく、……ですか!?」
僕の返事を聞いて、先程以上に驚く栗林さん。2人きりの機会だから、この際全部ぶっちゃけちゃおう。
「栗林さんはすごく可愛くて、しかも最初に会ったときから、いきなりの事故で栗林さんの大事なところを見ちゃって、それ以来、その可愛らしい巫女服を着ている栗林さんを見ただけで、えっちしたい気分になっちゃうんだ。でも、僕がこれまで栗林さんの部屋へ行かなかったのは、栗林さんに魅力がないからでも、えっちしたくないわけでも無くて、むしろ僕が今と違って、ズボンもパンツも穿いていない状態で、夜に浴衣姿の栗林さんと2人きりになったら、それだけで僕の理性が崩壊して、栗林さんに乱暴なことをしてしまいそうで、それが怖かったんだ。
でも、夜になると僕の性欲はもう我慢できないくらいになっちゃうから、たぶん誰にも分からない秘密の場所でこっそりと処理して、それも1回や2回じゃ収まらないから何度もしちゃって、しかもそのとき栗林さんとの事故をどうしても思い出しちゃうから、次の日にはもっと栗林さんとえっちしたくなっちゃって、こうして今栗林さんと教室で話しているだけでも、栗林さんへのえっちな欲望を、理性で何とか抑えている、っていうのが正直なところです」
僕の正直な気持ちを聞いて、栗林さんは頬を真っ赤に染めた。
「え、ええと、私としてはですね……、きよたかさんとえっちする覚悟は一応出来ていますし、きよたかさんなら初めての相手として不満とかはないんですけど、やっぱり女の子の方からえっちを誘うのは恥ずかしいし、はしたないような気がするので、できればきよたかさんの方から誘って欲しいんですけど……」
「いや、だから僕も恥ずかしいのをこらえて、今栗林さんに正直な想いを全部話したんだけど。栗林さんさえ嫌でなければ、今夜にでも僕とえっちしてほしい」
「あ、もう私、きよたかさんにえっちを誘われちゃってるんですね。今度は私が答えなきゃいけないんですよね。えーと、どうしよう、私ものすごく可愛いって言われちゃった、ものすごくえっちしたいって言われちゃった、どうしよう……?」
栗林さんは、僕の率直な申し出にかなり慌てふためいている様子だったが、僕としては今のところ、初えっちの第一希望は栗林さんである。タマキ先生にも早くしろとせがまれているから、この際今日決着を付けちゃおう。そう思っていたのだが……。
「そういえばきよたかさん、一昨日来たヨーイチさんと一緒にパーティー組みませんか?」
顔を真っ赤にしてあたふたしていた栗林さんが、例のおかしな目付きになって、突然そんなことを言い出した。
「はあ!?」
「攻めタイプのヨーイチさんと、受けタイプのきよたかさんが愛し合っている姿、想像するだけで尊いです……。もし、お二人が一緒にパーティーを組まれるのなら、私はどこまでも付いていきます!!」
「あ、あの、栗林さん? 僕たちが今まで話していたのは、そういう話題ではなくて……」
僕がそう言い掛けたところで、午後の訓練開始を告げる予鈴が鳴ってしまった。さすがに、いつ他の人が入って来るか分からない状況では、こんな話は出来ない。
「失敗か……」
訓練の準備をしながら、僕はそう独りで呟いた。
栗林さんの真意はよく分からないが、あの場面で唐突に話題を変えたということは、要するに今夜はお断りということなんだろう。
午前中の授業でタマキ先生の生々しいえっちな話を散々聞かされて、僕も若干頭がおかしくなって、本来は慎重に隠すべきことを正直に言い過ぎたのがまずかったのか。
結局この日、僕と栗林さんとの関係には、それ以上の進展は無かった。
(第7話に続く)
前回は、栗林さんと瑞穂が習得するスキルを決めたところで話を区切ったので、今回はその続きである。
「気を取り直して、次はきよたんの番ね」
タマキ先生はそう言って、僕のステータス画面を表示させた。
NAME:キヨタカ ムラカミ(村上 清隆)
SEX:MALE(男)
AGE:16
JOB:騎士
LV:1
HP:1300/1300
MP:650/650
STR:120
AGI:110
DEX:108
VIT:130
INT:138
LUK:140
残りスキルポイント:42
<習得済みスキル>
● 装備
・片手剣(レベル5)
・盾(レベル1)
・重装備(レベル1)
・槍(レベル1)
・両手剣(レベル1)
● 技
・かばう(レベル1)
・挑発(レベル1)
・カウンター(レベル1)
・はやぶさ斬り(レベル1)
● 能力上昇
・防御力上昇(レベル1)
● その他
・計算(レベル15)
・音楽(レベル12)
「なんか僕だけ、スキルポイントと習得済みスキルが異様に多いような気がするんですけど」
「きよたんは最初から騎士のレベル1だから、たぶん見習い冒険者段階で取れる10ポイント、戦士段階で取れる30ポイント、そして騎士へのクラスチェンジ段階で取れる2ポイントが獲得済みで、さらに戦士の全スキルと、騎士の初期スキル『はやぶさ斬り』が最初から習得済みになっているのよ。まさにチートだわ。ただ、私もきよたんみたいな訓練生の指導をしたことは無いし、きよたんは全ての基本能力値が100以上で、どのスキルを習得しても本職の人たち以上に上手く使いこなせるだろうから、逆にスキル選びが難しいのよ。初心者スキル全部と、5種類ある基本職のスキル全部と上級職の初期スキルが最初から習得可能だけど、42ポイントじゃさすがに全部取ることは出来ないし。うーん……」
そう言いながら悩むタマキ先生。先生まで判断に困るくらいなら、相当に難しい決断を迫られそうな気がする。
「きよたん。とりあえず、『性愛』は……」
「さっきの説明だと、『性愛』はお嫁さんスキルだから、男の僕が取る必要はないですよね?」
「逆よ。これだけは絶対に、真っ先に取っておきなさい!」
僕は思わず、心の中でずっこけそうになったが、力説するタマキ先生の表情は真剣そのものだった。どうやら、僕をからかっているわけではないらしい。
「……どうして、えっちで相手を気持ち良くさせるだけのスキルが、そんなに重要なんですか?」
「きよたん、アマツは性の問題に関してはすごく大らかな世界だけど、その分えっちの実力はシビアに評価されるのよ。特に男性の場合、男としての価値は、えっちのパワーとテクニックで決まると言っても過言ではないわ」
「はあ……」
「きよたん、いまいち実感が沸かないって顔してるわね。分かりやすいように、例を挙げて説明してあげるわよ。きよたんや瑞穂ちゃんがお世話になった、あの農家のダイゴロー・トードーさん。確か年齢は40代後半で、トーキョー近辺では特に裕福というわけではないけど、今年に入ってから5人目のお嫁さんをもらったそうよ。お相手は貧しい家の生まれだったけど、今年13歳になるという、結構可愛い娘だったわ」
「そんなことしていいんですか!?」
「アマツの風習では、女の子は生理が来たら結婚可能とみなされるから、日本と違って、法的にも倫理的にも全く問題はないわ。一方、私の亡き夫カイ・シブサワさんは、私と結婚した当時40歳過ぎで、トーキョーで銀行業をはじめとする様々な事業を経営しており、トードーさんとは比較にならないほどの資産家だったけど、奥さんに逃げられて、私と出会うまで再婚相手がなかなか見つかりませんでした」
「はあ……」
「はい、ここで問題です。結婚について、トードーさんとシブサワさんの明暗が分かれた原因は何でしょう?」
「そのシブサワさんが、性格的にすごく問題のある人だったんですか? 奥さんに暴力を振るうとか」
「不正解。シブサワさんは、性格的にはむしろ紳士的で、とても良い人でした。でも、シブサワさんは若い頃に勉強ばかりしていて、冒険者になったことも無かったから、若い頃もえっちは不得意で、回数もあまりこなせなかったらしいの。20代のとき、奥さんとの間に一人息子のコウ君が生まれたんだけど、その後はほとんどえっちをしなくなり、やがて奥さんから離婚を言い渡されてしまいました。ちなみにアマツの法律では、夫がお嫁さん以外の女性といくらえっちしても離婚原因にはならないけど、夫の性的不能や、正当な理由なく夫が1年以上えっちしてくれない場合には、お嫁さんは離婚を請求できるのよ」
「……要するに、夫が浮気をしたというだけでは離婚は認められないけど、夫がえっちできない場合は、それだけで離婚が認められるってことですか?」
「そのとおり。その後シブサワさんは病弱だったこともあり、コウ君のためにも次の奧さんを探していましたが、えっちを人生最大の楽しみだと考えているアマツの女性たちは、いくら裕福でも、誰も性的不能のシブサワさんと結婚しようとはしませんでした。そして6年前、私はシブサワさんの家にコウ君の剣術師範として招かれ、その後シブサワさんに結婚を申し込まれました。その際、シブサワさんが亡くなったら遺産の半分が私のものになる、シブサワさんが生きている間でも、ちょうど思春期を迎えていたコウ君が相手ならえっちしても構わないという条件を出され、私は悩みながらもシブサワさんとの結婚に応じましたが、それでも周囲の女性たちからは、タマキさんって変わり者だねなどと色々言われました。このようにアマツでは、いくら頭が良くて資産家でも、えっちの出来ない男性はここまで立場が弱いのよ」
「……」
「一方、ダイゴロー・トードーさんは若い頃に冒険者をしており、職業は戦士だったそうです。13歳くらいのときに初体験を済ませて以来、今日までえっちしなかった日は一日も無いという絶倫さんで、『性愛』スキルも当然のように習得しています。今では冒険者を事実上引退し、『農業』のスキルを取って農園を経営されていますが、仕事でトーキョーに泊まるときには、大体知り合いか行きずりの女性とえっちして帰って行くけど、トードーさんは今でもえっちの名人として女性たちに人気なので、相手に不自由することはないみたいです」
「そうなんですか……。ところで、確かに『農業』っていう初心者スキルがありますけど、あれって冒険で何の役に立つんですか?」
「ああ、あれはね。冒険ではまず役に立たないけど、冒険者を引退した後のセカンドキャリアで役に立つスキルの一種よ。もちろん、農業自体はスキルを持っていなくても出来るけど、『農業』のスキルを取って熟練度を上げて行けば、農業の生産性は最大で10倍以上もの差を付けられるのよ。トードーさんはそのスキルを活かして、農場で高品質の美味しい野菜を作って生計を立てているわけ。他にも、主にセカンドキャリア向けっていう初心者スキルは沢山あるのよ」
「栗林さんが持っている『絵画』とか、僕が持っている『音楽』とかも、セカンドキャリア向けのスキルですか?」
「えーとね、『絵画』は明らかなセカンドキャリア向けのスキルだけど、『音楽』は一応冒険でも役に立つことがあるのよ」
「どんな風にですか?」
「アークウィザードの固有スキルに、『音楽』のスキルを持っていないと習得できない『音楽魔法』っていうのがあってね。そのスキルを持っている冒険者が音楽を奏でると、消費MP無しで様々な効果をもたらす音楽魔法を発動できるらしいわよ」
「どんな効果があるんですか?」
「私は、日本では音楽教師だったから『音楽』スキルはレベル25になっているけど、『音楽魔法』は習得していないから詳しいことは分からないけど、噂では曲によって味方を鼓舞したり癒したり、周囲の敵を一斉に眠らせたり、使い方によってはかなり役に立つものらしいわよ。ただし、例えば音楽魔法で『うらみ・ます』を歌ったら、とんでもないことになるらしいけど」
「ああ、それは確かに、とんでもないことが起こりそうな気がしますね……」
「あれ、きよたんは『うらみ・ます』を知ってるの? かなり古い歌なのに」
「知ってます。僕のお父さんがファンだったので」
「そうだったの。実は私も日本ではあの人のファンだったのよ。きよたんとは、意外なところで共通の趣味があったわね」
タマキ先生と僕は、そこまで話が進んだところで、栗林さんと瑞穂が「全然話について行けない」という感じの困り顔をしていることに気付いた。
「置いてけぼりにしちゃってごめんね。えーと、みなみちゃんと瑞穂ちゃんは、『うらみ・ます』って知ってる?」
「……すみません。全然聞いたことがないです」
「ふっ。我魔眼の邪神バロールは、世界の叡智をこの頭脳に宿す大賢者の身なれど、かような曲は我のアカシック・レコードにも入っておらぬ」
栗林さんはともかく、やたらと格好を付けた瑞穂の返答は突っ込みどころ満載だけど、面倒なので放置しておく。
「まあ、若い子だったらむしろそれが当然よね。それじゃあ、聴かせてあげましょうか」
こうして、タマキ先生が『教室』内にあったピアノで演奏を担当し、僕が歌を担当するという形で、二人に『うらみ・ます』を聴かせることになった。今まで気付かなかったけど、『教室』にはさりげなくピアノも置かれていたのだ。
…………。
「きよたん、なかなかの歌唱力だったわね。本来女性が歌う曲で、しかも結構難しいのに、上手く自分流にアレンジして、感情豊かに歌えていたわ」
タマキ先生は褒めてくれたが、『うらみ・ます』を聴いていた栗林さんと瑞穂は、曲が終わるころにはほとんどグロッキー状態で、机の上に突っ伏していた。
「な、なんという恐ろしい歌なのだ……。聴いているだけで呪われそうなのだ……」
瑞穂が、机に突っ伏しながらそんな呻き声を発している。栗林さんはブルブルと震えて、感想を喋る余裕すら無いようだ。
「うーん、やっぱり不評だったみたいね。ちなみに、もえちゃんにも『うらみ・ます』をソロで聴かせたことがあるけど、もえちゃんには『そんな呪いの歌、もう二度と聴きたくないわよ』って言われちゃったわ」
……タマキ先生、ひょっとして全ての訓練生に『うらみ・ます』を聴かせているんじゃないだろうな? 僕は慣れてるから平気だけど、耐性の無い人が聴いたらドン引きするぞ。
「えーと、きよたんの質問で、話がまた脱線しちゃったわね。何の話をしていたんだっけ?」
「僕が『性愛』スキルを習得する必要性についての話です」
「そうだったわね。きよたん、『性愛』スキルは冒険上も、女性の冒険者と親睦を深めるのに不可欠だし、例えばきよたんが女性の冒険者を自分のパーティーにスカウトしようとするときには、まずその女性とえっちして、女性がきよたんのえっちに満足したら仲間に加わってくれるというのが一般的なのよ。同じパーティーのメンバーになれば、必然的に何度もえっちすることになるから、女性としては男性がえっちで自分を満足させてくれるかどうかは、この上なく重要な問題なのよ」
「……話の前提として、アマツでは同じパーティーのメンバーだったら、えっちするのが当然なんですか?」
「当然よ。アマツに限らず地球だって、実際に若い男女が一緒に旅を続けていたら、えっちせずにはいられないわよ。日本の有名なRPGにだって、『おはようございます。昨日はお楽しみでしたね』って有名なセリフがあるでしょ?」
「まあ、確かにそういう古いネタはありましたけど……」
ちなみに、僕がそんな古いネタを知っているのは、お父さんからそんな話を聞かされたことがあるからである。念のため。
「それに、きよたんが強くなってアマツの各地を旅するようになれば、竜族とか神族とか、通常の人類を大きく上回る種族と出会うこともあると思うけど、アマツ世界では、人間の男性冒険者はえっちが好きで上手だという評判が他の種族にも広まっているから、そうした人たちの協力を得ようとするとき、えっちで相手を満足させる必要があるなんて試練を課される可能性もあるわよ。分かったら、『性愛』のスキルを習得して、今夜からでもえっちに励みなさい!」
「もう分かりました! 『性愛』はちゃんと習得しますから、授業を進めてください!」
◇◇◇◇◇◇
「うん。ちゃんと『性愛』スキルは取ったわね。それできよたん、君の方針次第でお勧めスキルが変わって来るんだけど、いくつか先生の質問に答えてくれる?」
「どうぞ」
「ここにいるみなみちゃんと瑞穂ちゃんは、絶対に自分のパーティーに加えるつもり?」
「本人が嫌がらない限りは、そのつもりですけど」
「分かったわ。それなら、回復魔法や攻撃魔法なんかは必要最低限で済むし、『ライト』は瑞穂ちゃんが持ってるから要らないわね」
なるほど、そうやって必要なスキルを絞っていくわけですね。
「次に、ここにいないもえちゃんは、パーティーに加えるつもり?」
「上水流さんは、昨日睨まれたりしたのがちょっと気になりますけど、凄い戦力になってくれそうなので、本人が嫌でなければパーティーに加わってもらうつもりです」
「そう。武闘家のいないパーティーなら『棍棒』スキルも必要になるんだけど、もえちゃんが入るならそれも必要なさそうね。それときよたん、アマツ出身の訓練生たちをパーティーに誘ってみる気はない?」
「アマツ出身の訓練生?」
「そう。アマツ出身の訓練生たちは、見習い冒険者から基本職にクラスチェンジするための地道な鍛錬が必要とするけど、アマツの一般常識を教える授業は必要ないから日本人訓練生とは別メニューになってるんだけど、探検家や商人にクラスチェンジできる子も何人かいるわよ。ちなみに、全員が女の子で、しかも結構な美人揃いよ」
「その中に、何か能力的に優れた、お勧めの人とかはいるんですか?」
「うーん、残念ながら今いる訓練生の中には、そこまで優れた子はいないかな。基本能力値も高くて40台止まり。その代わり、『お嫁さんスキル』や最低限必要なスキルのレベルはしっかりと上げているから、パーティーの穴埋め要員は務まるはずよ。それに、探検家と商人の適性を持った女の子を2人ほどスカウトして仲間に加えれば、探検家と商人のスキルも必要最低限で済むわよ」
「……スカウトするには、どうすればいいんですか?」
「さっき説明したとおり、スカウトしたい女の子とえっちして、女の子からOKをもらえばパーティーに加えられるわよ。アマツ出身の女の子たちもきよたんには興味深々だから、えっち自体を断られる心配はしなくていいけど、童貞のままだと恥をかいちゃうから、先にタマキ先生の10日間特別講座でえっちのイロハを習得して……」
「結構です!」
「きよたん、なんで即答で断るのよ? 気持ちいいのに。それとも、先生はきよたんの好みじゃない? それなら、コハルさんでも構わないけど」
「そういう問題じゃありません! その、僕だって初めてのえっちは好きな子としたいから、そういう授業みたいな形で初体験をしてしまうのは嫌なんです!」
「面倒くさい子ね。じゃあ、初めてはもえちゃん、みなみちゃん、瑞穂ちゃんのうち誰がいいの? 今夜、ご指名の子と一緒に『えっちするまで出られない部屋』に閉じ込めてあげるわよ」
「乱暴過ぎですよ! しかもよりによって、栗林さんと瑞穂もいるところでそんな話をするなんて!」
「そんなことないわよ。それにみなみちゃんも瑞穂ちゃんも、未だに机に突っ伏したふりをして、しっかり聞き耳を立ててるわよ。もえちゃんも含めて、指名されたら断られる心配はまず無いわよ。それで、誰が良いの?」
「まだ決めてません! というか、3人ともこの世界で会ったばかりで、そのうち誰が好きかなんて急に決められません! それより、いい加減授業を先に進めてください!」
「しょうがいないわねえ。じゃあ、当面探検家と商人はいないという前提で、冒険に必要なスキルはきよたんが取るしかないわね。それと、先生からの質問はあと1つ」
「何ですか?」
「その、アテナイス様からもらった剣って、普通の片手剣っていう扱いで良いの?」
先生からの質問に、僕ではなく話を聞いていたらしいアテナイス様が口を挟んできた。
「ふせいかーい! この女神アテナイス様が、腕によりを掛けて作った特製の『アテナイス・ソード』が、ただの片手剣なんてあり得ないわよ。よく聞きなさい! このアテナイス・ソードは、一振りで片手剣と、魔法の威力を高める杖の機能を兼ねられる、世界でたった一振りの業物なのよ!」
「……アテナイス様、確かに片手剣と杖の機能を兼ねられる武器は貴重な存在ですが、それだけでは『世界でたった一振り』とは言えないのんではないでしょうか? 例えばこのトーキョーでも、非常に高価ではありますが、ミスリルソードが片手剣と杖の機能を兼ねられる武器として時々売りに出されていますし……」
タマキ先生の突っ込みに、アテナイスさんは少し沈黙した後、
「そ、それだけなはずないじゃないの! 片手剣としても杖としても、その威力はミスリル・ソードなんかの比じゃないし、その気になれば槍にも両手剣にも棍棒にも鞭にも弓にも短剣にもナイフにも変化させられるわよ。上はガースー討伐から、下はリンゴの皮むきまで何でもこなせる万能の最強装備、それが『アテナイス・ソード』なんだから!」
……いや、さすがにリンゴの皮剥き機能は要らないだろ。内心そう思いつつ、
「それでアテナイスさん、具体的にはどうすれば、形態を変化させられるんですか?」
「あ、きよたん、それはね、えーと……」
「アテナイスさん、今『えーと』って言いませんでした?」
「言ってないわよ! そうだ、例えば槍に変化させたいのなら、アテナイス・ソードを持って『槍になーれ、槍になーれ』と唱えてごらんなさい。そうすれば槍に変化するわよ。他の形態も同じ要領でやればいいわ」
それって、絶対その場の思い付きで考えた後付けの設定だろうと内心思いつつ、実際に試してみたらそのとおりになったので、これ以上の突っ込みは止めにした。
「タマキ先生、女神様からのお答えは以上のとおりです」
「分かったわ。でも、槍はともかく、棍棒や鞭として使う機会はあまり無いだろうから、初期のスキル選びとしては『杖』を使えるようにしておけばいいわ。『料理』や『裁縫』は、みなみちゃんや瑞穂ちゃんに任せればそれでいいとして、他に取っておきたいのは、生存率を上げるための『回避』、敵の気配を察知できる『索敵』、日本語が通じない相手とコミュニケーションを取ることが出来る『通訳』、それと騎士なら馬に乗って戦うことも結構あるから、『馬術』のスキルも必要ね。『性愛』『杖』と合わせて6ポイントの消費になるから、初心者スキルはそのくらいでいいと思うわ。それ以外の初心者スキルは、後になって必要だと思ったら取る感じでも特に問題ないから」
「分かりました。ところで、僕には『防御』のスキルは要らないんですか? 習得済みスキルの一覧にも無いし、習得できる初心者スキルの一覧にも見当たらないんですけど」
「それは大丈夫よ。きよたんの持っている『防御力上昇』のスキルは、いわば『防御』の上位互換スキルで、『防御』の3倍の効果があるから、『防御力上昇』のスキルを習得すると『防御』は消えちゃって、その熟練度は『防御力上昇』に引き継がれるの。他に質問はある?」
「大丈夫です。今のところはありません」
「次に武闘家の固有スキルだけど、戦士系の職業でも『攻撃力上昇』『回避力上昇』『体術』は結構役に立つから、先生も取ってるし、他の冒険者も戦士系のベテランは大体取ってるわね。体術で2ポイント、他は3ポイント消費するから、これで8ポイント。『回避力上昇』は、『回避』の3倍の効力がある上位互換スキルで、習得すると『回避』は消えちゃうけど、先に『回避』を取らないと『回避力上昇』のスキルは取れない仕組みになっているから、『回避力上昇』を取るのに必要なスキルは実質4ポイントね。ただし、全体でスキルポイントが足りるかどうか計算する必要があるから、習得するのはちょっと待っててね」
「分かりました」
「次に、『アテナイス・ソード』が強力な杖の機能を兼ね備えているなら、その機能を活かすためにも、回復系と攻撃系の魔法も最低限取っておいた方がいいわね。僧侶の固有スキルから『ヒール』と『キュア』、いやごめんなさい、ヒールは初心者スキルだったわね。それと『アローズ』、他の攻撃系魔法より威力は若干落ちるけど物理属性と光属性を兼ね備えていてほとんどの敵に効く『ホーリーカッター』、『治療系魔法効果上昇』、そして魔導師スキルから『攻撃系魔法効果上昇』。『ヒール』が1ポイント、治療系と攻撃系の魔法効果上昇が各3ポイント、他は各2ポイントだから、合計13ポイントになるわね」
「『ヒール』と『キュア』の機能は、先程栗林さんへの説明で聞きましたけど、『アローズ』はどんな魔法なんですか?」
「『アローズ』には2種類の効果があってね、1つは、敵の攻撃なんかで眠っちゃったり、一時的に気絶しちゃったりした味方を一瞬で起こす効果があるの。もう1つは、眠っている性欲を目覚めさせる効果、つまり相手をえっちな気分にさせちゃう効果があるわ」
「……眠っている味方を起こす魔法は必要だと思いますけど、もう1つの余計な効果を封じることは出来ないんですか?」
「出来ないわよ。味方に『アローズ』の魔法を使えば、眠っていてもすぐ起きると同時に、性欲を大きく高める効果があるわ。戦闘用だけじゃなくて、えっちを盛り上げる効果もあるわ。実際には、戦闘中に眠っている味方を起こす機会ってそんなに多く無いから、むしろメインで使われるのは後者ね。決して余計な効果なんかじゃないわよ」
「でも、仮に僕がその『アローズ』で、例えば栗林さんを起こして、それで栗林さんがえっちな気分になっちゃったら……」
「それはもちろん、きよたんの名槍清隆丸で気持ち良くしてあげなさい」
……また、そっち方面の話になってしまうのか。
「きよたん、どうしたの? 今度は突っ込まないの?」
「もう、突っ込んだら負けの世界だと悟りましたから、どうぞ先生、続きをお願いします」
「若干反応がつまらないけど、次に商人の固有スキルね。戦利品の商品価値や相手の強さなどが瞬時に分かる『鑑定』のスキルは冒険に必須で、『簿記』と『法律』も結構重要ね。それときよたんなら、熟練度に応じてLUKにプラスの補正がかかる『LUK上昇』も是非取っておきたいわね。どれも2ポイントのスキルだから、合計8ポイント」
「……すみません、他は何となく分かるんですけど、ただ運が良くなるだけのスキルがそんなに重要なんですか?」
「きよたんは、LUKの基本値が最初から140もあるから、『LUK上昇』の効果が大いに活きるのよ。他の上昇系スキルも同じなんだけど、このスキルがもたらすプラス補正の効果はね、元の能力値に足し算じゃなくて掛け算で補正が掛かって、LUK上昇は色んな行動をしているうちに自然と熟練度が上がって、熟練度レベル10で2倍、レベル20で3倍、レベル30で4倍って感じになるのよ。だから、基本能力値が高いほど凄い効果を発揮するわけね」
「はあ」
「だから、基本のLUKが壊滅的に低いもえちゃんあたりが取ってもあまり意味が無いけど、LUKが最初から140もあるきよたんがLUK上昇を取れば、騎士としてのレベルが上がるにつれてLUKの基本値が上がって、さらにLUK上昇の熟練度レベルも上がって、最終的には実質的なLUKが1000を超えるような、物凄い強運の持ち主になれるわよ。ガースー討伐なんて、この世界の人類にとっては夢物語みたいな偉業を成し遂げるには、実力だけじゃなくて運にも恵まれる必要があるから、LUKが高いに越したことはないわ」
「理屈としては分かりますけど、LUKって具体的にどんな効果があるんですか?」
「具体的には表現しにくいけど、LUKが低いほどつまらない事故なんかに遭いやすく、LUKが高いほど嬉しい出来事が起こりやすくなるわ。それに、私の経験上も、LUKの低い冒険者は途中で死んじゃう可能性が高いけど、LUKの高い冒険者は、他の能力が低くてもしぶとく生き残る傾向があるわね。ちなみに先生自身は、現時点でLUKが107あって、きよたんを除けばこのセンターで一番の強運の持ち主だから、何度か危ない目に遭ってもこうして生き残れただけでなく、シブサワさんの遺産をゲットして結構な資産家になることも出来たんだと思うわ」
「まあ、確かにそういう傾向があるなら、取っておいた方が無難そうですね」
「じゃあ最後に、探検家の固有スキルね。遠距離攻撃用にホーリーカッターを使う前提なら弓関係のスキルは要らないけど、わずかな手掛かりからモンスターのアジトや、お宝の眠るダンジョン、行方不明の人などを効率よく探すことのできる『捜索』、迷宮のようなダンジョンや建物に入っても道に迷わなくなる『迷宮探索』、様々な罠の発見、解除、設置が上手になる『罠』、対応する鍵を持っていなくても扉や宝箱をこじ開けられる『解錠』は、持っていると便利ね。『罠』は3ポイント、他は2ポイントのスキルだから、合計9ポイントになるわね。どう? 残り42ポイントで全部取れるかしら?」
「えーと、『ヒール』を含めて初心者7、武闘家8、僧侶9、魔導師3、商人8、探検家9ですから、合計44ポイントになると思います。全部習得するには、あと2ポイント足りません」
「うーん、2ポイント足りないなら、『解錠』は無理に取らなくていいわ」
「どうしてですか?」
「『解錠』のスキルは、使える場面が比較的限られている上に、本来なら鍵を手に入れなきゃいけないところを、無理やりこじ開けちゃうチートスキルだから。同じチートなら、例えば鍵が無くて開けられない宝箱なんて、いざとなったらもえちゃんに頼んで力づくでぶっ壊しちゃえばいいのよ」
「まあ、上水流さんなら大抵の扉や宝箱なんて、簡単に破壊できそうですね」
タマキ先生のぶっちゃけた発言に、僕は苦笑するしかなかった。
◇◇◇◇◇◇
そんなわけで、僕のスキル習得状況は、最終的に以下のようになった。
残りスキルポイント:0
● 装備
・片手剣(レベル5)
・盾(レベル1)
・重装備(レベル1)
・槍(レベル1)
・両手剣(レベル1)
・杖(レベル1)
● 特技
・かばう(レベル1)
・挑発(レベル1)
・カウンター(レベル1)
・はやぶさ斬り(レベル1)
● 魔法
・ヒール(レベル1)
・キュア(レベル1)
・アローズ(レベル1)
・ホーリーカッター(レベル1)
● 能力上昇
・攻撃力上昇(レベル1)
・防御力上昇(レベル1)
・回避力上昇(レベル1)
・攻撃系魔法効果上昇(レベル1)
・回復系魔法効果上昇(レベル1)
・LUK上昇(レベル1)
● その他
・計算(レベル15)
・音楽(レベル12)
・通訳(レベル1)
・性愛(レベル1)
・索敵(レベル1)
・馬術(レベル1)
・鑑定(レベル1)
・簿記(レベル1)
・法律(レベル1)
・捜索(レベル1)
・迷宮探索(レベル1)
・罠(レベル1)
「うん、これできよたんは攻撃も防御も魔法も高いレベルでこなせる上に、探検家や商人にとって重要なスキルも押さえている、パーティーのリーダーとしてほぼ理想的なスキルの持ち主になれたわね。後は、各スキルの勉強や訓練をして、熟練度レベルを上げていけばいいと思うわ。大抵のスキルについては、頑張れば訓練の範囲内でレベル10くらいまで上げられるけど、『性愛』のスキルレベルについては、頑張って自分で上げてね」
「性愛のスキルですか……」
「いい加減にオナニーは卒業して、女の子たちと積極的にえっちしなさいってことよ。アマツの冒険者たちは、避妊ポーションのおかげで妊娠する心配もなく、性病なんて仮にあっても『キュア』で簡単に治せるから、えっちを我慢する理由なんて何一つ存在しないわよ。思う存分楽しみなさい」
「……分かりました」
心理的にはまだ違和感ありまくりだけど、これ以上タマキ先生に逆らっても仕方ないので、一応従っておくことにする。
「そして授業の最後に、もえちゃんのスキル習得状況を見せてあげるわね」
タマキ先生はそう言って、上水流さんのステータス画面を表示した。
NAME:モエ カミズル(上水流 萌音)
AGE:16
JOB:モンク
LV:3
HP:1420/1420
MP:50/50
STR:143
AGI:132
DEX: 41
VIT:138
INT: 17
LUK: 20
残りスキルポイント:7
● 装備
・ナックルダスター(レベル46)
・戦闘靴(レベル32)
・弓矢(レベル17)
・片手剣(レベル3)
・棍棒(レベル2)
・盾(レベル4)
・槍(レベル3)
・両手剣(レベル3)
・短剣(レベル6)
・鞭(レベル8)
● 特技
・パンチ(レベル55)
・キック(レベル38)
・体術(レベル36)
・連続パンチ(レベル42)
・かばう(レベル12)
・挑発(レベル15)
・ジャンピングキック(レベル27)
・カウンター(レベル16)
・旋風脚(レベル11)
・潜伏(レベル17)
・暗視(レベル16)
● 能力上昇
・攻撃力上昇(レベル44)
・回避力上昇(レベル38)
・防御力上昇(レベル27)
・速射(レベル11)
● その他
・弓矢製作(レベル4)
・馬術(レベル12)
・馬丁(レベル2)
・採掘(レベル26)
「ここでは、今までの授業で出てこなかった各スキルの説明は省略するけど、もえちゃんは武闘家・モンクとして必要なスキルを熱心に上げていて、トーキョーでは一番の腕利きと評されるエダマメさんのパーティーでも戦力として活躍できるほどの実力者です。基本能力値は概ね互角でも、今の状態のきよたんでは、もえちゃんには到底敵わないわね。特に『パンチ』は、日本で女子ボクシングの日本代表を目指していたというだけのことはあって、最初からスキルがレベル30もあったのよ。
その反面、スキルポイントの無駄遣いが非常に多くて、武闘家なら剣や棍棒なんてまず使う機会無いのに、あたしは武芸百般に秀でたいからなんて言って各武器のスキルだけ習得して、武器の練習はすぐに飽きて止めるっていったことを繰り返しているのよ。弓矢や馬術の練習はそれなりに好きみたいだけど、弓矢の製作や馬の世話なんかは性格的に苦手らしくて、これもすぐ飽きちゃったのよね。ただ、身体の鍛錬を兼ねて時々手伝いに行っている、トーキョーの近辺にある鉱山の仕事はもえちゃんに合っていたらしくて、男以上に力持ちで仕事をこなせると評判になっているわ。
そして、『お嫁さんスキル』と呼ばれる『性愛』『料理』『裁縫』のスキルについては、もえちゃんは『自分は魔王と戦うために来たのよ。えっちをするために来たんじゃないわ!』などと言って、スキルポイントは余っているのに、先生がいくら勧めても取ってくれません。冒険者としての服装も、もえちゃんが女性向けの武闘家服じゃなくて男性向けのズボンを選んだこともあって、トーキョーやその近辺では、もえちゃんを男性だと勘違いしている人も少なからずいるみたいなのよ」
「上水流さんって、ずいぶんと禁欲的な人なんですね」
僕が素直に感想を述べると、タマキ先生は若干顔をしかめながら、首を横に振った。
「実はそうでもないのよ。あの年齢で、しかもボクシング一筋の生活を送っていたにしては、日本ではえっちの経験自体はあったみたいなのよ。それもたぶん1回や2回くらいじゃなくて、結構しちゃってたみたい。なんか、他人には言いたくない事情があるみたいだから私も詳しいことは聞いてないんだけど、もえちゃんはVITがきよたん以上に高くてえっちも経験しちゃってるから、若くて健康な肉体を相当持て余しているみたいなのよ」
えっ……?
「もえちゃんは結構な頻度で、自分の部屋で激しいオナニーをしてるみたいなの。ベッドのシーツがびしょびしょになるくらい。特にきよたんが来てからの、昨日や一昨日は凄かったわ。普段のもえちゃんとは別人みたいに、『きよたん、きよたん……』って切なそうな喘ぎ声を上げながら、壁の向こう側からもエッチな水音が聞こえるくらい、激しいオナニーを続けていたわよ」
「そ、そんな馬鹿な、タマキ先生、何かの冗談ですよね……?」
「きよたかさん、タマキ先生の言っていることは本当です。私も昨晩、きよたかさんが来ないなら、女の子同士で親睦を深めようと思ってもえさんの部屋にお邪魔しようとしたら、もえさんはきよたかさんの名前を呼びながら明らかにお取込み中って感じだったので、邪魔しちゃいけないと思って戻ったんです。それから、やっぱりもえさんは女の子なんだなあ、きよたかさんとの関係ではわたしのライバルなんだなあって思うようになって、もえさんを男に見立てることが出来なくなっちゃったんです」
栗林さんも、狼狽する僕に追い討ちを掛けるような証言をしてきた。あと、栗林さん今、僕との関係では上水流さんを自分のライバルだって言わなかった……?
「……タマキ先生、たぶん上水流さんにとっては絶対知られたくない秘密を、どうして僕に話すんですか? 何と言うか、もう少しデリカシーというものがあってもいいと思うんですけど……」
「それはね、可哀そうなもえちゃんを救えるのがきよたんしかいないからよ。それに、今夜お風呂に入った後にでも、もえちゃんの部屋の方へちょっと足を向けてみれば、誰にでも分かることだから。訓練生の中で知らなかったのは、きよたんと瑞穂ちゃんくらいじゃないかしら?」
「ふっふっふ、笑止! あのメスゴリラが、我が眷属との交尾を欲して連日連夜発情しておることなど、この聖なる邪神バロール様の魔眼にかかれば、容易に見破れるわ! 夜は言うに及ばず、昨日の訓練中も、時々名槍清隆丸を物欲しそうに眺めながら、お股をもじもじさせてズボンをちょっと濡らしておったぞ」
「要するに、瑞穂ちゃんも知ってたのね。そうすると、気付いていなかったのはきよたんだけ。秘密でもなんでもないわ。それに、昨日もえちゃんの機嫌が悪かったのは、一昨日勇気を出してきよたんをえっちに誘ったのに、きよたんが自分の部屋に来てくれなかったから拗ねてたのよ」
「……僕、上水流さんにそんな誘い受けましたっけ?」
「ほら、一昨日先生がもえちゃんに質問したとき、きよたんがどうしてもしたいっていうならしてもいいわよ、みたいなこと言ってたでしょ? もえちゃんは、ああ見えて結構恥ずかしがり屋さんだからストレートには言わないけど、もえちゃんの『えっちしてもいいわよ』っていうのは『えっちして』っていう意味なのよ」
「そんなこと言われたって、僕にどうしろと言うんですか……?」
「簡単な事よ。どうせ同じパーティーになれば繰り返しえっちする仲になるんだから、遅くとも訓練生を卒業するまでには、もえちゃん、みなみちゃん、瑞穂ちゃんの全員とえっちして、冒険を始めた後で揉めないように、えっちの順番やルールもきちんと決めておきなさい。初めては好きな人としたいって言うんなら順番はきよたんに任せるけど、もえちゃんはもう、きよたんとのえっちを待ちきれない状態になっちゃってるから、なるべく早く、できれば今日か明日くらいにはしてあげてね」
「……」
「ちょうどお昼の時間になったので、これで午前の授業はお終い。お昼休みの後、午後はみんなが今日習得したスキルの基礎訓練をやるわよ」
タマキ先生はそれだけ言って、さっさと教室を立ち去ってしまった。
◇◇◇◇◇◇
みんなで昼食を済ませた後の休み時間。僕は、栗林さんと一緒に一足早く教室に戻り、2人でちょっと話をすることになった。昼食中に栗林さんの方から誘ってきたのだ。
「きよたかさん。今日の授業、なんだかすごい内容でしたね……」
栗林さんが、若干顔を赤らめながら、そう話を切り出してきた。
「そうだね。先生の言いたいことは分からなくもないけど、あまりに話すことが露骨過ぎるというか、生々し過ぎるというか……」
「きよたかさん、先生の授業理解できるんですか!?」
「まあ、大体は」
「……きよたかさんって、頭がいいんですね。私なんか、半分も理解できなかったです……」
「まあ、今日の授業は本筋とはあまり関係ない脱線も多かったし、別に知らなくてもいいマニアックな話もあったから」
「でも、何とか理解できたことがあります。私、きよたかさんのパーティーに入ったら、きよたかさんのお嫁さんみたいな立場になるんですね。それで、きよたかさんとも、その・・・・・えっちなことをする関係になるんですね」
「うん、僕もまだ実感は湧かないけど、そういう関係になっちゃうみたいだね」
「それに関して、きよたかさんにお聞きしたいことがあったんです」
「何?」
「きよたかさんは、私のことをどんな風に思っていますか?」
そう尋ねてくる栗林さんの表情は、いつになく真剣そのものだった。
「どんな風にって言うのは?」
「私に、女の子としての魅力を感じるかどうかっていうことです。私は、日本では病気ばかりして、同年代の男の子と話す機会なんて無かったんで、私が女の子として、どのくらい魅力があるか分からないんです。胸もそんなにないですし、一昨日も昨日も待ってたのに、きよたかさんは私の部屋に来てくれませんでしたし、私には女の子としての魅力が無いんでしょうか……」
「そんなことは無いよ! 栗林さんはむしろ、女の子としては物凄く可愛いよ! まあ、正直に言えば時々男同士の同性愛みたいな話をするのがちょっと気持ち悪いけど、それ以外は完璧なくらい僕の好みだから!」
「も、物凄く可愛い、ですか?」
栗林さんが、驚いたような顔をして再度尋ねてきた。どうやら本当に、自分は可愛くないと誤解していたらしい。
「うん、嘘は一切言ってない。栗林さんは、めちゃくちゃ可愛いと思う。これは100%僕の本音だから、信用していいよ」
「それじゃあ、きよたかさん。きよたかさんは私を見て、えっちしたいと思いますか?」
再び、真剣な表情で尋ねてくる栗林さん。僕としては答えにくい質問だけど、逃げるのは難しそうだ。
「……栗林さん、正直に答えていい?」
「正直に、きよたかさんの本音を聞かせてほしいです」
「それじゃあ言うね。男の子としての本音を言えば、栗林さんとは・・・・・・ものすごくえっちがしたいです」
「も、ものすごく、……ですか!?」
僕の返事を聞いて、先程以上に驚く栗林さん。2人きりの機会だから、この際全部ぶっちゃけちゃおう。
「栗林さんはすごく可愛くて、しかも最初に会ったときから、いきなりの事故で栗林さんの大事なところを見ちゃって、それ以来、その可愛らしい巫女服を着ている栗林さんを見ただけで、えっちしたい気分になっちゃうんだ。でも、僕がこれまで栗林さんの部屋へ行かなかったのは、栗林さんに魅力がないからでも、えっちしたくないわけでも無くて、むしろ僕が今と違って、ズボンもパンツも穿いていない状態で、夜に浴衣姿の栗林さんと2人きりになったら、それだけで僕の理性が崩壊して、栗林さんに乱暴なことをしてしまいそうで、それが怖かったんだ。
でも、夜になると僕の性欲はもう我慢できないくらいになっちゃうから、たぶん誰にも分からない秘密の場所でこっそりと処理して、それも1回や2回じゃ収まらないから何度もしちゃって、しかもそのとき栗林さんとの事故をどうしても思い出しちゃうから、次の日にはもっと栗林さんとえっちしたくなっちゃって、こうして今栗林さんと教室で話しているだけでも、栗林さんへのえっちな欲望を、理性で何とか抑えている、っていうのが正直なところです」
僕の正直な気持ちを聞いて、栗林さんは頬を真っ赤に染めた。
「え、ええと、私としてはですね……、きよたかさんとえっちする覚悟は一応出来ていますし、きよたかさんなら初めての相手として不満とかはないんですけど、やっぱり女の子の方からえっちを誘うのは恥ずかしいし、はしたないような気がするので、できればきよたかさんの方から誘って欲しいんですけど……」
「いや、だから僕も恥ずかしいのをこらえて、今栗林さんに正直な想いを全部話したんだけど。栗林さんさえ嫌でなければ、今夜にでも僕とえっちしてほしい」
「あ、もう私、きよたかさんにえっちを誘われちゃってるんですね。今度は私が答えなきゃいけないんですよね。えーと、どうしよう、私ものすごく可愛いって言われちゃった、ものすごくえっちしたいって言われちゃった、どうしよう……?」
栗林さんは、僕の率直な申し出にかなり慌てふためいている様子だったが、僕としては今のところ、初えっちの第一希望は栗林さんである。タマキ先生にも早くしろとせがまれているから、この際今日決着を付けちゃおう。そう思っていたのだが……。
「そういえばきよたかさん、一昨日来たヨーイチさんと一緒にパーティー組みませんか?」
顔を真っ赤にしてあたふたしていた栗林さんが、例のおかしな目付きになって、突然そんなことを言い出した。
「はあ!?」
「攻めタイプのヨーイチさんと、受けタイプのきよたかさんが愛し合っている姿、想像するだけで尊いです……。もし、お二人が一緒にパーティーを組まれるのなら、私はどこまでも付いていきます!!」
「あ、あの、栗林さん? 僕たちが今まで話していたのは、そういう話題ではなくて……」
僕がそう言い掛けたところで、午後の訓練開始を告げる予鈴が鳴ってしまった。さすがに、いつ他の人が入って来るか分からない状況では、こんな話は出来ない。
「失敗か……」
訓練の準備をしながら、僕はそう独りで呟いた。
栗林さんの真意はよく分からないが、あの場面で唐突に話題を変えたということは、要するに今夜はお断りということなんだろう。
午前中の授業でタマキ先生の生々しいえっちな話を散々聞かされて、僕も若干頭がおかしくなって、本来は慎重に隠すべきことを正直に言い過ぎたのがまずかったのか。
結局この日、僕と栗林さんとの関係には、それ以上の進展は無かった。
(第7話に続く)
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