6 / 39
第1章 訓練生編 『目指せ、アマツ世界を救う冒険者!』
第6話の1 スキルを選ぼう!(前編)
しおりを挟む
第6話 スキルを選ぼう!
(作者注:第6話は、スキルなどの説明を必要とする関係上、どうしても話が長くなってしまうため、第6話の1(前編)と、第6話の2(後編)に分けて投稿することにしました。)
訓練2日目。例によって、上水流さんは別メニューをこなしているので、僕と一緒に午前中の授業を受けるのは、栗林みなみさんと、昨日入ってきた山中瑞穂の2人だけである。
栗林さんとは、一昨日の事故でお尻や大事なところを見てしまった関係だし、瑞穂とは昨晩キスをしてしまった関係だが、そんなことを思い出したら授業に集中できないので、雑念を振り払いタマキ先生の話に集中することにする。
「今日の授業は、冒険者の職業とスキルについての説明よ。大事な話だから、3人ともよく聞いてね」
「はい!」
僕と栗林さん、瑞穂がほぼ揃って返事をした。大事な話と聞いて、僕だけでなく、他の2人も緊張しているようだ。
「まず職業について。このアマツ世界では、人類が凶暴なモンスターの力に対抗できるよう、モンスターと戦う冒険者を志す者には、神様から特別な力が与えられます。
その力を具現したものが『職業』で、職業には見習い職、基本職、上級職、最上級職の4段階があります。それぞれの職業に就いた上で、モンスターを倒したり、戦いを経験したり、その他冒険者としての力を行使することで経験値が上がり、経験値が一定以上の数値に達するとレベルが上がります。そして、レベルが一定以上に達するなどの条件を満たすと、より上位の職業にクラスチェンジして、さらに強力な力を得ることが出来ます。
もっとも、アマツ生まれの人が冒険者を目指す場合、通常は見習い職の『見習い冒険者』からスタートして、年単位の時間を掛けて厳しい修行を積み、ようやく基本職にクラスチェンジできるんだけど、皆さんは女神アテナイス様の力で転生してきた日本人なので、最初から基本職に就いているという恵まれた立場にあります。その分、冒険者としての活躍を期待されている立場なので、期待を裏切らないように頑張ってください。いえ、きよたんは基本職では無くて、上級職の騎士だったわね」
「先生、質問いいですか?」
「きよたん、どうぞ」
「アテナイスさんからは、騎士は『上級職』ではなくて『中級職』と聞いたような気がするのですが、どちらが正しいんですか?」
「ああ、その話ね。若干話がややこしいんだけど、結論から先に言うと、どちらも間違いではありません。
このアマツ世界が栄え、優秀な冒険者がたくさんいた時代には、職業の段階は見習い職、基本職、中級職、上級職の4段階と説明されていたみたいです。しかし、モンスターの活発化や人類同士の内紛などで人類社会が衰退し、上級職の冒険者が稀少な存在になってくると、次第に中級職の冒険者が『上級職』と呼ばれるようになり、上級職の冒険者は『最上級職』と呼ばれるようになりました。
そして、現在のトーキョー・シティーには、最上級職の冒険者は1人もいないので、かつて『中級職』と呼ばれていた騎士も貴重な存在となり、現在では『上級職』と呼ぶのが普通になっています。
どうして『最上級職』の冒険者がいなくなってしまったかについては、今後アマツの歴史に関する授業で若干詳しく説明するから、今日は省略するわね」
「分かりました」
「次に、基本職には『戦士』『武闘家』『僧侶』『魔術師』『探検家』『商人』の6種類があるんだけど、それぞれの特徴について簡単に説明しておくわね。
まず、『戦士』は読んで字のごとく、剣とかの武器で戦う職業ね。重装備の鎧を装備することもでき、後衛の味方をかばうスキルなんかも習得できるので、パーティーにとっては守りの要になる役割で、どんなパーティーでも最低1人は、戦士系の冒険者が必要と言われているわね。
『戦士』がレベル30以上になり、かつSTRとVITが80以上、INTが40以上という条件を満たすと、上級職の『騎士』にクラスチェンジできるわ。『騎士』は、『戦士』と区別しやすくするために『ナイト』と呼ばれることもあるけど、『騎士』になると剣を使った各種の必殺技なんかも習得できるようになるわ。
もっとも、きよたんは既に『騎士』のレベル1だから、このあたりの過程はあまり関係ない話になっちゃうけど、自分がいかに恵まれた立場にあるかってことは自覚しておいてね」
「はい」
「次に『武闘家』だけど、これも呼んで字のごとく、自分の肉体を使ってパンチやキックなんかで敵を攻撃する職業ね。戦士と違って重装備の鎧なんかは基本的に装備せず、敵の攻撃は回避で防ぐのが基本になるから、後衛の味方を守る役割にはあまり向いていないけど、武闘家の得意とする打撃系の攻撃は、守りの堅い敵にも大ダメージを与えることが出来るから、パーティーに1人いると攻撃の要として重宝するわ。
武闘家の上級職は『上級格闘家』とも言うんだけど、一般的には『モンク』と呼ばれているわ。武闘家からモンクにクラスチェンジするには、レベル30以上で、かつSTRとAGIが80以上、VITが40以上必要になるの。『モンク』になると、気功みたいな力を使った必殺技なんかも習得できるみたいね。
もえちゃんは、ここに来た当初は武闘家のレベル1だったけど、パーティーを組む相手が見つからないまま訓練を重ねて行って、今では既に『モンク』へのクラスチェンジを果たしているわ」
「……そうすると、もえさんはかなり凄い人なんですか?」
栗林さんがおずおずと質問する。
「それはもう、凄いなんてもんじゃないわよ。基本能力もかなり高くて、訓練にも非常に熱心で、武闘家としては10年に1度の逸材と言われているわ。その代わり、それ以外の能力についてはダメダメだけど」
「……分かりました」
「そして、次はみなみちゃんが最初から就いている『僧侶』だけど、これは味方の治療などを得意とする魔法の専門家よ。建前上は、女神アテナイス様に仕える聖職者ということになっていて、冒険者として旅に出る人以外は、アテナイス教の寺院で傷病者の治療に当たっていることが多いけど、信仰心の強さは特に関係ないし、地球でいうカトリックの聖職者なんかと違って、結婚もえっちも自由にできるから、その点は安心してね。
『僧侶』の上級職は『司祭』で、僧侶と区別しやすくするために『アークプリースト』と呼ばれることもあるわ。本来、アークプリーストは『首席司祭』というような意味で、日本語名と英語名の意味が微妙に違っているけど、そのへんは気にしないで頂戴ね。『司祭』にクラスチェンジするには、レベル30以上で、かつINTとDEXが80以上必要になるけど、司祭になると、死者を蘇らせることができる『リザレクション』とか、凄い魔法も習得できるみたいね。
みなみちゃんは、きよたんやもえちゃんのパーティーに加わるつもりなら、既に上級職に就いている2人の足を引っ張らないよう、できるだけ早く『司祭』へのクラスチェンジを目指す必要があるわね」
「は、はい! あまり自信はないですけど、一生懸命頑張ります」
「次は、瑞穂ちゃんが最初から就いている『魔術師』ね。これは、攻撃魔法などを得意とする魔法の専門家よ。モンスターの中には、物理攻撃が効きにくい相手なんかもいるから、そういう敵に出会った時には魔術師の出番ね。
『魔術師』の上級職は『上級魔術師』も言うけど、一般的には『アークウィザード』と呼ばれているわ。魔術師からアークウィザードにクラスチェンジするには、レベル30以上で、かつINTとDEXが80以上必要になるけど、アークウィザードになると、より強力な攻撃魔法のほか、既に行ったことのある町などへ一瞬で移動できる『テレポート』とか、色々便利な魔法も習得できるようになるわ。
瑞穂ちゃんも、きよたんやもえちゃんのパーティーに加わるつもりなら、できるだけ早く『アークウィザード』へのクラスチェンジを果たす必要があるわね」
「ふっ。この聖なる邪神バロール様の力をもってすれば、アークウィザードへのクラスチェンジなど容易きこと。一瞬で成し遂げてみせようぞ」
「瑞穂ちゃん。言うのは簡単だけど、レベル1の基本職が上級職へクラスチェンジするには、通常半年から1年くらいかかるからね。既に上級職に就いている、きよたんやもえちゃんに協力してもらわないと、早期のクラスチェンジは無理よ」
「ううう、あうう……」
中二病モードになって大言壮語を吐いた瑞穂は、タマキ先生にたしなめられて、何も言い返せなくなってしまった。
「次は『探検家』ね。この職業は、昔は『盗賊』『シーフ』とも呼ばれていたんだけど、正義の味方なのに職業名が『盗賊』なのはおかしいという指摘があって、なり手も非常に少なくなってしまったので、『探検家』に名称変更されたという経緯があるらしいわ。『探検家』になるには、AGIとDEXが40以上必要で、戦う手段は主に弓矢と短剣くらいだけど、扉の鍵をこじ開けたり、モンスターのアジトやダンジョンの場所を探知したり、罠を設置したり解除したりとか、色々冒険に便利なスキルを覚えられるわ。冒険に絶対必要という程ではないけど、パーティーに1人いれば色々と便利な存在ね。
『探検家』の上級職は『熟練探検家』、通称『トレジャーハンター』と呼ばれているけど、探検家はもともとなり手が少なくて、トーキョーには現役のトレジャーハンターがいない状況なので、具体的にトレジャーハンターがどんな職業なのかは、残念ながら先生にもよく分かりません」
「先生、どうして『探検家』はなり手が少ないんですか?」
「きよたん。それはね、探検家のスキルが役に立つのは、主にトーキョーから離れてアマツの各地を冒険するときだから、トーキョー近辺で適当にモンスター狩りのクエストをこなすだけで楽に暮らしたいっていうパーティーにとっては、探検家はそんなに重要な存在じゃないのよ。先生としては、冒険者がそういう志の低い人たちばかりになっている現状は、本当に嘆かわしいんだけど」
「なるほど、よく分かりました」
……この世界を救うには、ガースー討伐より先に、人類の意識改革が必要かもしれない。
「そして最後に『商人』。この職業に関しては、冒険にどうして商人が必要なのかって質問されることが多いんだけど、実際にはかなり重要な存在なのよ。冒険者稼業も商売だから、お金がなければ装備品なんかも整えられないし、冒険に必要な食料なんかの調達もままならないわ。商人になると、モンスターの遺体などから価値のあるものを目ざとく発見したり、モンスターを倒して得られる素材から新しい武器や防具を制作したり、取引をするときに値切り交渉をしたりとか、地味だけど色々役に立つスキルを覚えられるわ。
一般的に、商人のいないパーティーだと、冒険もクエストの達成報酬にこだわらないと赤字になってしまうことが多いけど、腕利きの商人がいれば、クエスト達成にこだわらなくても黒字に出来るので、冒険の自由度も上がるし、このアマツ世界でお金持ちになるには、商人の様々なスキルが必須になるわよ。
『商人』にクラスチェンジするには、INTとLUKが40以上必要で、その上級職は『豪商』、通称『グレートマーチャント』って言うの。商人やグレートマーチャントは、戦闘に役立つスキルが少ない代わりに、レベルアップの際に得られるスキルポイントが他の職業の2倍になっているから、そのスキルポイントで他の職業のスキルを取って、戦闘もそれなりにこなせる冒険者になることが可能よ」
「先生、スキルポイントって何ですか?」
「きよたん、焦らないで。スキルポイントについてはこれから説明するわ。
この世界の冒険者は、各職業のレベルが上がるごとに、一定のスキルポイントを獲得することができ、そのスキルポイントを消費することで、任意のスキルを習得することが出来ます。ただし、自分が就いている職業の固有スキルは、一定のレベルに達すると自動的に取得するか、所定の条件を満たしていればスキルポイントを消費せずに習得できるから、スキルポイントを消費するのは、それ以外のスキルを習得するときだけです。
つまり、このスキルポイントを使って他の職業のスキルを覚えることで、例えば僧侶が戦士系のスキルを取って、前衛でも戦える僧侶を目指すこともできるし、戦士が僧侶や魔術師のスキルを取って、魔法も使える戦士を目指すことも可能というわけ。もっとも、STRが極端に低い冒険者が戦士のスキルを取っても無意味だし、INTが極端に低い戦士や武闘家が魔法を習得してもほとんど使いこなせないから、スキル選びは自分の基本能力値との相性も考える必要があるの。
このスキルポイントを有効に活用することが、この世界で冒険者として成功するかどうかの鍵と言っても差し支えないわね」
「あの、タマキ先生……。そんなこと言われても、どのスキルを選べばいいかなんて全然分からないです……」
「みなみちゃん、心配しなくても大丈夫よ。これから個人別に、どのスキルを選べばいいか先生がアドバイスしてあげるから」
◇◇◇◇◇◇
「それじゃあ、これからみなみちゃんのステータスを確認するわね」
タマキ先生は、僕が冒険者登録をしたときと同じ要領で、栗林さんのステータス画面を表示させた。
NAME:ミナミ クリバヤシ(栗林 みなみ)
SEX:MALE(女)
AGE:15
JOB:僧侶
LV:1
HP:120/120
MP:50/50
STR: 9
AGI: 6
DEX:62
VIT:34
INT:41
LUK:38
「うーん、DEX(器用さ)はそこそこ高いけど、STR(筋力)とAGI(敏捷性)は一桁しかないわね。この能力値で扱えそうな武器はクロスボウくらいしかないから、習得するスキルは魔法関係と、DEXの高さを活かせるものに絞った方がいいわね」
「……先生、私の能力値低くて、すみません」
「別に、みなみちゃんが謝る必要はないわよ。チート級の基本能力を誇るきよたんは別として、普通は誰でも苦手なことの1つや2つくらいあるわよ。では、2ページ目を確認するわね。
残りスキルポイント:11
<習得済みスキル>
● 装備
・杖(レベル3)
● 魔法
・ヒール(レベル3)
・キュア(レベル2)
● その他
・計算(レベル4)
・絵画(レベル6)
「まず、各スキルの内容について簡単に説明するわね。装備の『杖』というのは、攻撃に使うものではなくて、魔法の効果を増幅させる魔具よ。杖を使い続けて熟練度レベルが上がると、魔法の増幅効果がより高まるわ。
そして魔法の『ヒール』は、怪我をした人の傷口を塞ぐ魔法。怪我を悪化させないための応急措置に使えるけど、怪我によって失われた体力を回復させる効果は無いわ。『キュア』は、怪我や病気で弱っている人の体力を回復させる魔法で、体内の毒を取り除く効果もあるわ。戦闘なんかで怪我をした仲間を治療するには、この『ヒール』と『キュア』を併用するのが一般的ね。杖とヒール、キュアのスキルは、僧侶の職業を選んだ日本人なら、みんな最初から習得しているわ。
次に『計算』のスキルは、買い物や家計管理なんかに必要な計算能力よ。アマツ世界の平均的な教育水準は日本よりかなり低くて、お釣りの計算さえろくに出来ない人も結構いるから、こういうスキルが必要になるのよ。日本では、学校の義務教育で算数や数学を教えているから、日本人なら『計算』のスキルは大抵持っているわね。……約1名、例外もいたけど」
「例外……ですか?」
栗林さんが首をかしげて質問すると、タマキ先生はため息をついて答えた。
「もえちゃんよ。あの子、日本では小さい頃からボクシングの選手になることを夢見て練習ばかりして、勉強はものすごい苦手だったんですって。日本人にしては珍しく『計算』スキルを持っていなかったんで、私が試しに『九九って知ってる?』って聞いてみたら、『九九って何よ』て真顔で聞き返されたわ」
「私も、勉強はあまり得意なほうじゃなかったですけど、もえさんはある意味凄いですね……」
栗林さんが、控えめな感じでそう感想を漏らした。僕としては、内心では『高校1年生で九九を知らない日本人がいたのか』と驚いていたけど、口に出すと後で上水流さんに殴られそうな気がしたので、黙っていることにした。
「話が脱線するから『計算』の話はこのくらいにして、最初から『絵画』のスキルを持っているのは、若干珍しいわね。みなみちゃん、日本では絵を描いてたの?」
「はい。日本で暮らしていた時には、病弱でほとんど何も出来なかったので、漫画を読んだり絵を描いたりするのが、ほぼ唯一の趣味だったんです」
「ちなみに、どんな絵を描いてたの?」
「……男と男の友情、そして愛です」
そう答えた途端、栗林さんの表情が一変した。
「でも、このアマツに来てから、いまいち創作意欲が沸かないんですよ。このセンターにいる男の子はきよたかさんしかいませんし、私としては攻めタイプの男性がもう1人欲しいところなんですけど。一時は、何となく男っぽいもえさんを男性に見立てようと考えたこともありますけど、もえさんはやっぱり女の子なので男に見立てるのは無理がありますし。……そうだ! この前来たヨーイチさんって男の人、明らかに攻めタイプですよね!? ヨーイチさんが攻め、きよたかさんが受け、まさに理想の愛、尊いです……」
普段の大人しそうな態度から一変して、危険な目つきで残念すぎる妄想を早口でまくし立てる栗林さん。あまりのことに、僕ならずタマキ先生や瑞穂もドン引きしている。
「みなみちゃん。分かったからやおい話はそのくらいにして。そしてスキルポイントを消費して取るスキルだけど、みなみちゃんはDEXが結構高くて、INTもそれなりに高いけど、STRとAGIが極端に低いから、習得するスキルはDEXとINTを活かせるものを重点的に選んだ方がいいわね」
「どれがいいんですか? 種類がかなり多くて、全然分からないんですけど……」
「みなみちゃん。女の子だったら、見習い冒険者でも取れる初心者スキルのうち、まず『性愛』『料理』『裁縫』の3つは絶対に取った方がいいわよ。この3つは、まとめて『女子力スキル』とか『お嫁さんスキル』とか呼ばれていて、お嫁さんを目指す女性冒険者なら必須のスキルだから。あと、3つともDEXが影響するスキルだから、みなみちゃんにも向いているわ」
「あの、『料理』と『裁縫』は、何となく分かるんですけど、……『性愛』ってどういうスキルなんですか?」
「えっちが上手くなるスキルよ。『性愛』は、えっちの勉強をしたり、色んなえっちを経験することで熟練度が上がり、熟練度レベルが上がると、男の人にえっちでより強い快感を与えられるのよ」
「え、えっちするためのスキルなんですか……?」
「そうよ。男性1人に女性数人のハーレムパーティーなら、みんな競ってえっちしようとするのが当たり前だから。競争に勝って、きよたんに可愛がってもらいたいなら、当然えっちも上手くならないと飽きられちゃうわよ。もちろん、『性愛』スキルが無くてもえっち自体はできるけど、『性愛』のレベルが30くらいになると、与えられる快感が10倍くらいになるって言われているわね」
「……わ、分かりました。とりあえず、その3つは取っておくことにします」
栗林さんが、顔を朱に染めながらそう答える。
……あの栗林さんが、僕とえっちするためのスキルを取っちゃった!
いや、栗林さんは、タマキ先生に勧められるままにスキルを取っただけで、僕とえっちしたいためにスキルを取ったんじゃない。間違っても、変な妄想をしてはダメだ。
僕が、なんとか平常心を維持しようと努力していると、タマキ先生にその様子を咎められた。
「きよたん、どうしたの? 顔を真っ赤にして深呼吸なんか始めちゃってるけど」
「い、いえ、何でもありません。僕のことは気にしないで、授業を続けてください」
「みなみちゃんとえっちがしたいなら、はっきりそう言った方がいいわよ?」
「い、いえ、決してそういう邪な欲求は……」
「きよたん、あからさまな嘘は良くないわよ。顔にはっきりと書いてあるわ。自分は、みなみちゃんとえっちしたいという欲望を必死に我慢していたけど、みなみちゃんが自分とえっちするために『性愛』のスキルを取ったのを知って、それだけで欲望が爆発寸前になってしまいましたってね?」
「え? 顔に?」
「それから、みなみちゃんとえっちしたいというのは、決して邪な欲求じゃないわよ。アマツの常識では、同じパーティーの男女は夫婦同然の間柄とみなされるから、えっちしたいというのは極めて健全な欲求よ。むしろ、えっちを求めない方がみなみちゃんに失礼なくらいね。もう一度聞くわ、きよたん。みなみちゃんとえっちしたいという、健全な欲求はあるのかしら?」
「そ、そういう欲求が全く無いわけでは無いですけど、僕も栗林さんも、そういう常識にまだ慣れていないし、仮にするとしても、もっと親睦を深めて、お互いの気持ちを確かめ合ってからに……」
「なんだ、結局みなみちゃんとえっちがしたいんじゃない。きよたんの本音が出たわね」
「えっと、だから、あの、そういう露骨な言い方は……」
「まあいいわ。きよたんをからかうのは面白いけど、脱線ばかりしていると授業が進まないから、次に行くわね。僧侶は攻撃手段が少ないから、早めにレベルアップするためにも、モンスターを倒す攻撃用のスキルが必要ね。先生のお勧めは、魔導師の初期スキル『ファイア』と、腕力が無い子でも大きなダメージを与えられる『クロスボウ』ね。
あと、みなみちゃんみたいに後衛職しか務まらない女の子は、ゴブリンの流れ矢なんかに当たって結構簡単に死んじゃうことが多いから、少しでも生存確率を上げるためにも、『防御』と『回避』のスキルも取っておきたいわね。これで、残りのスキルポイントは何ポイントになるかしら?」
「え、ええと……」
「『ファイア』で2ポイント、『性愛』『料理』『裁縫』『クロスボウ』『防御』『回避』で各1ポイント消費するので、残り3ポイントになるはずです」
栗林さんが口ごもっているので、僕が代わりに答えた。
「さすが、きよたんは計算が速いわね。残り3ポイントあるなら、『馬丁』と、戦士の初期スキル『盾』はどうかしら?
『馬丁』は、馬の世話や飼育をするためのスキルで、遠くへ冒険するなら馬は必須になるから、パーティーに最低1人は、『馬丁』のスキル持ちが必要になるし、これもDEXが必要なスキルだからみなみちゃん向きよ。
それと、『盾』のスキルを取っておいて、戦場では女の子でも扱える軽量のバックラーを装備しておけば、ゴブリンの流れ矢程度で殺される心配はほぼ無くなるわ。『馬丁』が1ポイント、『盾』が2ポイントだから、これでちょうどスキルポイントを上手く使いきれるわね」
「分かりました」
栗林さんは、タマキ先生から指示されたとおり、ステータス画面の3ページ目を操作してスキルを習得した。その結果、栗林さんの習得済みスキルは以下のようになった。
残りスキルポイント:0
<習得済みスキル>
● 装備
・杖(レベル3)
・クロスボウ(レベル1)
・盾(レベル1)
● 魔法
・ヒール(レベル3)
・キュア(レベル2)
・ファイア(レベル1)
● 能力上昇
・防御(レベル1)
・回避(レベル1)
● その他
・計算(レベル4)
・絵画(レベル6)
・性愛(レベル1)
・料理(レベル1)
・裁縫(レベル1)
・馬丁(レベル1)
「スキルは、熟練度レベルが1だとほとんど何の役にも立たないけど、『性愛』以外のスキルは訓練でもレベル10くらいまでは上げられるから、卒業までに可能な限り訓練してあげるわね。その代わり、『性愛』の訓練は、夜の自由時間を使ってきよたんと自主的にやってね」
「え? きよたかさんと一緒に、何の訓練をすればいいんですか……?」
「えっちの訓練に決まってるじゃない。いきなりえっちするのが恥ずかしいなら、一緒にお風呂に入って触りっこしたり、お医者さんごっこをしたりでもいいわ。そうやって、どうすればきよたんと自分が気持ち良くなれるのか分かるようになれば、『性愛』の熟練度も上がっていくわよ。ただし、オナニーじゃ『性愛』の熟練度は上がらないから注意してね。さあ、次は瑞穂ちゃんの番ね」
揃って顔を真っ赤にしている僕と栗林さんを放置して、タマキ先生は瑞穂の指導に入った。
◇◇◇◇◇◇
ステータス画面に、瑞穂の能力値が表示された。中二病だからてっきりアホの子かと思っていたが、INTと計算の熟練度レベルは、意外にも栗林さんより若干高い。
NAME:ミズホ ヤマナカ(山中 瑞穂)
SEX:MALE(女)
AGE:13
JOB:魔術師
LV:1
HP:110/110
MP:60/60
STR:15
AGI:18
DEX:46
VIT:31
INT:52
LUK:43
残りスキルポイント:8
<習得済みスキル>
● 装備
・杖(レベル3)
● 魔法
・ライト(レベル2)
・ファイア(レベル1)
● その他
・計算(レベル5)
・性愛(レベル1)
・料理(レベル1)
・裁縫(レベル1)
「あれ? 瑞穂ちゃん、どうして最初から性愛、料理、裁縫のスキル持ってるの?」
「ふっ。我は永遠の叡智を求める、魔眼の大賢者バロール。我が眷属の嫁として当然取っておくべきスキルなど、他人に指図されずとも自ら習得するのが当然であろう」
瑞穂が中二病モードに入ったが、名乗りが若干変わっている。設定がまだ固まっていないのか、それとも気分次第で設定を変えるつもりなのか。いずれにせよ、ずいぶん完成度の低い幼稚な中二病だ。
「要するに、みなみちゃんへの説明を脇で聞いていて、勝手に自分で取っちゃったわけね。まあ、そのお嫁さんスキルは瑞穂ちゃんにも勧めるつもりだったから支障は無いけど、スキルは一度選んじゃうと選び直しは出来ないから、気を付けてね」
「承知した。だが、この大賢者バロール様の叡智をもってしても、解らぬことがあるので、ちと尋ねたいのだが」
「質問なら受け付けるけど、簡潔にお願いね」
「この、『初心者スキル』一覧の最後にある、『魔眼』なるスキルは一体如何様なものか?」
瑞穂が質問した『魔眼』スキルは、僕もちょっと気になっていた。初心者スキルのほとんどは消費スキルポイント1なのに、魔眼だけは消費スキルポイントが5もあるし、ひょっとしたら凄いスキルなのかも。
「ああ、それね。『魔眼』は単なるネタスキルだから、取っちゃだめよ。習得した当初は何の役にも立たないけど、自分が魔眼の持ち主だって感じの中二病ごっこを続けていると徐々に熟練度が上がり、レベル30くらいになると左眼が時々光り出して、レベル50を超えると、魔眼の力を使ってMP消費なしで強力な魔法攻撃を放てるように……」
「我が意を得たり!! このスキルこそ、魔眼の持ち主たる聖なる邪神バロールのためにあるようなもの!」
瑞穂はそう叫んで、タマキ先生の話を最後まで聞くことなく、『魔眼』スキルを勝手に習得してしまった。
「ああっ! 瑞穂ちゃん、本当に『魔眼』スキル取っちゃったの!? なんてことするの、もう取り返しが付かないわよ!」
タマキ先生が物凄い剣幕で怒りだしたので、さすがの瑞穂も「えっ」という感じになり、少したじろいだ。
「瑞穂ちゃん、先生の話は最後まで聞きなさい。『魔眼』を取って熟練度レベルを50超えくらいにまで上げれば、強力な魔法攻撃を放てるようになると伝えられているけど、そこまで熟練度レベルを上げるには、少なくとも1年か2年くらいは恥ずかしい中二病ごっこを続けなきゃいけないし、そもそも過去にそんなスキルを取った冒険者なんて1人もいないから、本当に効力があるかどうかさえ怪しいと言われているスキルなのよ! よりによって、そんなネタスキルに5ポイントも使っちゃったら、本当に必要なスキルが取れなくなって、特に初期の訓練や冒険にかなり支障が出ちゃうわよ!」
タマキ先生にそう説教されて、瑞穂も自分が取った行動をようやくまずいと思うようになったらしく、
「うえええええん、おにいちゃーん、どうしよう~」
僕にすがり付いて泣き始めた。
「瑞穂、スキルの選び直しは出来ないんだから、今更泣いたってしょうがないだろ。残りのスキルポイントで最善を尽くすしか無いよ」
「きよたんの言うとおりだけど、瑞穂ちゃんの残りはもう3ポイントしかないわよ。とりあえず、死んじゃったら取り返しが付かないから『防御』と『回避』、レベルを上げやすいように『クロスボウ』でも取るしかないわね。それ以外にも、初期段階で取っておくべきスキルはいくつかあるんだけど、その辺は今後の訓練でレベルアップさせて、獲得したスキルポイントで徐々に取っていくしか無いわ。その分、普通の訓練生より厳しい訓練になるわよ。それと瑞穂ちゃん、これから新しいスキルを習得するときは、事前に必ず先生やお兄ちゃんに相談すること。約束できる?」
タマキ先生の問いに、瑞穂は泣きながら黙って頷いた。
こうして、瑞穂の習得済みスキルは、以下のようになった。
残りスキルポイント:0
<習得済みスキル>
● 装備
・杖(レベル3)
・クロスボウ(レベル1)
● 魔法
・ライト(レベル2)
・ファイア(レベル1)
● 能力上昇
・防御(レベル1)
・回避(レベル1)
● その他
・計算(レベル5)
・性愛(レベル1)
・料理(レベル1)
・裁縫(レベル1)
・魔眼(レベル1)
……あーあ。今後どうなることやら。
(第6話の2に続く)
(作者注:第6話は、スキルなどの説明を必要とする関係上、どうしても話が長くなってしまうため、第6話の1(前編)と、第6話の2(後編)に分けて投稿することにしました。)
訓練2日目。例によって、上水流さんは別メニューをこなしているので、僕と一緒に午前中の授業を受けるのは、栗林みなみさんと、昨日入ってきた山中瑞穂の2人だけである。
栗林さんとは、一昨日の事故でお尻や大事なところを見てしまった関係だし、瑞穂とは昨晩キスをしてしまった関係だが、そんなことを思い出したら授業に集中できないので、雑念を振り払いタマキ先生の話に集中することにする。
「今日の授業は、冒険者の職業とスキルについての説明よ。大事な話だから、3人ともよく聞いてね」
「はい!」
僕と栗林さん、瑞穂がほぼ揃って返事をした。大事な話と聞いて、僕だけでなく、他の2人も緊張しているようだ。
「まず職業について。このアマツ世界では、人類が凶暴なモンスターの力に対抗できるよう、モンスターと戦う冒険者を志す者には、神様から特別な力が与えられます。
その力を具現したものが『職業』で、職業には見習い職、基本職、上級職、最上級職の4段階があります。それぞれの職業に就いた上で、モンスターを倒したり、戦いを経験したり、その他冒険者としての力を行使することで経験値が上がり、経験値が一定以上の数値に達するとレベルが上がります。そして、レベルが一定以上に達するなどの条件を満たすと、より上位の職業にクラスチェンジして、さらに強力な力を得ることが出来ます。
もっとも、アマツ生まれの人が冒険者を目指す場合、通常は見習い職の『見習い冒険者』からスタートして、年単位の時間を掛けて厳しい修行を積み、ようやく基本職にクラスチェンジできるんだけど、皆さんは女神アテナイス様の力で転生してきた日本人なので、最初から基本職に就いているという恵まれた立場にあります。その分、冒険者としての活躍を期待されている立場なので、期待を裏切らないように頑張ってください。いえ、きよたんは基本職では無くて、上級職の騎士だったわね」
「先生、質問いいですか?」
「きよたん、どうぞ」
「アテナイスさんからは、騎士は『上級職』ではなくて『中級職』と聞いたような気がするのですが、どちらが正しいんですか?」
「ああ、その話ね。若干話がややこしいんだけど、結論から先に言うと、どちらも間違いではありません。
このアマツ世界が栄え、優秀な冒険者がたくさんいた時代には、職業の段階は見習い職、基本職、中級職、上級職の4段階と説明されていたみたいです。しかし、モンスターの活発化や人類同士の内紛などで人類社会が衰退し、上級職の冒険者が稀少な存在になってくると、次第に中級職の冒険者が『上級職』と呼ばれるようになり、上級職の冒険者は『最上級職』と呼ばれるようになりました。
そして、現在のトーキョー・シティーには、最上級職の冒険者は1人もいないので、かつて『中級職』と呼ばれていた騎士も貴重な存在となり、現在では『上級職』と呼ぶのが普通になっています。
どうして『最上級職』の冒険者がいなくなってしまったかについては、今後アマツの歴史に関する授業で若干詳しく説明するから、今日は省略するわね」
「分かりました」
「次に、基本職には『戦士』『武闘家』『僧侶』『魔術師』『探検家』『商人』の6種類があるんだけど、それぞれの特徴について簡単に説明しておくわね。
まず、『戦士』は読んで字のごとく、剣とかの武器で戦う職業ね。重装備の鎧を装備することもでき、後衛の味方をかばうスキルなんかも習得できるので、パーティーにとっては守りの要になる役割で、どんなパーティーでも最低1人は、戦士系の冒険者が必要と言われているわね。
『戦士』がレベル30以上になり、かつSTRとVITが80以上、INTが40以上という条件を満たすと、上級職の『騎士』にクラスチェンジできるわ。『騎士』は、『戦士』と区別しやすくするために『ナイト』と呼ばれることもあるけど、『騎士』になると剣を使った各種の必殺技なんかも習得できるようになるわ。
もっとも、きよたんは既に『騎士』のレベル1だから、このあたりの過程はあまり関係ない話になっちゃうけど、自分がいかに恵まれた立場にあるかってことは自覚しておいてね」
「はい」
「次に『武闘家』だけど、これも呼んで字のごとく、自分の肉体を使ってパンチやキックなんかで敵を攻撃する職業ね。戦士と違って重装備の鎧なんかは基本的に装備せず、敵の攻撃は回避で防ぐのが基本になるから、後衛の味方を守る役割にはあまり向いていないけど、武闘家の得意とする打撃系の攻撃は、守りの堅い敵にも大ダメージを与えることが出来るから、パーティーに1人いると攻撃の要として重宝するわ。
武闘家の上級職は『上級格闘家』とも言うんだけど、一般的には『モンク』と呼ばれているわ。武闘家からモンクにクラスチェンジするには、レベル30以上で、かつSTRとAGIが80以上、VITが40以上必要になるの。『モンク』になると、気功みたいな力を使った必殺技なんかも習得できるみたいね。
もえちゃんは、ここに来た当初は武闘家のレベル1だったけど、パーティーを組む相手が見つからないまま訓練を重ねて行って、今では既に『モンク』へのクラスチェンジを果たしているわ」
「……そうすると、もえさんはかなり凄い人なんですか?」
栗林さんがおずおずと質問する。
「それはもう、凄いなんてもんじゃないわよ。基本能力もかなり高くて、訓練にも非常に熱心で、武闘家としては10年に1度の逸材と言われているわ。その代わり、それ以外の能力についてはダメダメだけど」
「……分かりました」
「そして、次はみなみちゃんが最初から就いている『僧侶』だけど、これは味方の治療などを得意とする魔法の専門家よ。建前上は、女神アテナイス様に仕える聖職者ということになっていて、冒険者として旅に出る人以外は、アテナイス教の寺院で傷病者の治療に当たっていることが多いけど、信仰心の強さは特に関係ないし、地球でいうカトリックの聖職者なんかと違って、結婚もえっちも自由にできるから、その点は安心してね。
『僧侶』の上級職は『司祭』で、僧侶と区別しやすくするために『アークプリースト』と呼ばれることもあるわ。本来、アークプリーストは『首席司祭』というような意味で、日本語名と英語名の意味が微妙に違っているけど、そのへんは気にしないで頂戴ね。『司祭』にクラスチェンジするには、レベル30以上で、かつINTとDEXが80以上必要になるけど、司祭になると、死者を蘇らせることができる『リザレクション』とか、凄い魔法も習得できるみたいね。
みなみちゃんは、きよたんやもえちゃんのパーティーに加わるつもりなら、既に上級職に就いている2人の足を引っ張らないよう、できるだけ早く『司祭』へのクラスチェンジを目指す必要があるわね」
「は、はい! あまり自信はないですけど、一生懸命頑張ります」
「次は、瑞穂ちゃんが最初から就いている『魔術師』ね。これは、攻撃魔法などを得意とする魔法の専門家よ。モンスターの中には、物理攻撃が効きにくい相手なんかもいるから、そういう敵に出会った時には魔術師の出番ね。
『魔術師』の上級職は『上級魔術師』も言うけど、一般的には『アークウィザード』と呼ばれているわ。魔術師からアークウィザードにクラスチェンジするには、レベル30以上で、かつINTとDEXが80以上必要になるけど、アークウィザードになると、より強力な攻撃魔法のほか、既に行ったことのある町などへ一瞬で移動できる『テレポート』とか、色々便利な魔法も習得できるようになるわ。
瑞穂ちゃんも、きよたんやもえちゃんのパーティーに加わるつもりなら、できるだけ早く『アークウィザード』へのクラスチェンジを果たす必要があるわね」
「ふっ。この聖なる邪神バロール様の力をもってすれば、アークウィザードへのクラスチェンジなど容易きこと。一瞬で成し遂げてみせようぞ」
「瑞穂ちゃん。言うのは簡単だけど、レベル1の基本職が上級職へクラスチェンジするには、通常半年から1年くらいかかるからね。既に上級職に就いている、きよたんやもえちゃんに協力してもらわないと、早期のクラスチェンジは無理よ」
「ううう、あうう……」
中二病モードになって大言壮語を吐いた瑞穂は、タマキ先生にたしなめられて、何も言い返せなくなってしまった。
「次は『探検家』ね。この職業は、昔は『盗賊』『シーフ』とも呼ばれていたんだけど、正義の味方なのに職業名が『盗賊』なのはおかしいという指摘があって、なり手も非常に少なくなってしまったので、『探検家』に名称変更されたという経緯があるらしいわ。『探検家』になるには、AGIとDEXが40以上必要で、戦う手段は主に弓矢と短剣くらいだけど、扉の鍵をこじ開けたり、モンスターのアジトやダンジョンの場所を探知したり、罠を設置したり解除したりとか、色々冒険に便利なスキルを覚えられるわ。冒険に絶対必要という程ではないけど、パーティーに1人いれば色々と便利な存在ね。
『探検家』の上級職は『熟練探検家』、通称『トレジャーハンター』と呼ばれているけど、探検家はもともとなり手が少なくて、トーキョーには現役のトレジャーハンターがいない状況なので、具体的にトレジャーハンターがどんな職業なのかは、残念ながら先生にもよく分かりません」
「先生、どうして『探検家』はなり手が少ないんですか?」
「きよたん。それはね、探検家のスキルが役に立つのは、主にトーキョーから離れてアマツの各地を冒険するときだから、トーキョー近辺で適当にモンスター狩りのクエストをこなすだけで楽に暮らしたいっていうパーティーにとっては、探検家はそんなに重要な存在じゃないのよ。先生としては、冒険者がそういう志の低い人たちばかりになっている現状は、本当に嘆かわしいんだけど」
「なるほど、よく分かりました」
……この世界を救うには、ガースー討伐より先に、人類の意識改革が必要かもしれない。
「そして最後に『商人』。この職業に関しては、冒険にどうして商人が必要なのかって質問されることが多いんだけど、実際にはかなり重要な存在なのよ。冒険者稼業も商売だから、お金がなければ装備品なんかも整えられないし、冒険に必要な食料なんかの調達もままならないわ。商人になると、モンスターの遺体などから価値のあるものを目ざとく発見したり、モンスターを倒して得られる素材から新しい武器や防具を制作したり、取引をするときに値切り交渉をしたりとか、地味だけど色々役に立つスキルを覚えられるわ。
一般的に、商人のいないパーティーだと、冒険もクエストの達成報酬にこだわらないと赤字になってしまうことが多いけど、腕利きの商人がいれば、クエスト達成にこだわらなくても黒字に出来るので、冒険の自由度も上がるし、このアマツ世界でお金持ちになるには、商人の様々なスキルが必須になるわよ。
『商人』にクラスチェンジするには、INTとLUKが40以上必要で、その上級職は『豪商』、通称『グレートマーチャント』って言うの。商人やグレートマーチャントは、戦闘に役立つスキルが少ない代わりに、レベルアップの際に得られるスキルポイントが他の職業の2倍になっているから、そのスキルポイントで他の職業のスキルを取って、戦闘もそれなりにこなせる冒険者になることが可能よ」
「先生、スキルポイントって何ですか?」
「きよたん、焦らないで。スキルポイントについてはこれから説明するわ。
この世界の冒険者は、各職業のレベルが上がるごとに、一定のスキルポイントを獲得することができ、そのスキルポイントを消費することで、任意のスキルを習得することが出来ます。ただし、自分が就いている職業の固有スキルは、一定のレベルに達すると自動的に取得するか、所定の条件を満たしていればスキルポイントを消費せずに習得できるから、スキルポイントを消費するのは、それ以外のスキルを習得するときだけです。
つまり、このスキルポイントを使って他の職業のスキルを覚えることで、例えば僧侶が戦士系のスキルを取って、前衛でも戦える僧侶を目指すこともできるし、戦士が僧侶や魔術師のスキルを取って、魔法も使える戦士を目指すことも可能というわけ。もっとも、STRが極端に低い冒険者が戦士のスキルを取っても無意味だし、INTが極端に低い戦士や武闘家が魔法を習得してもほとんど使いこなせないから、スキル選びは自分の基本能力値との相性も考える必要があるの。
このスキルポイントを有効に活用することが、この世界で冒険者として成功するかどうかの鍵と言っても差し支えないわね」
「あの、タマキ先生……。そんなこと言われても、どのスキルを選べばいいかなんて全然分からないです……」
「みなみちゃん、心配しなくても大丈夫よ。これから個人別に、どのスキルを選べばいいか先生がアドバイスしてあげるから」
◇◇◇◇◇◇
「それじゃあ、これからみなみちゃんのステータスを確認するわね」
タマキ先生は、僕が冒険者登録をしたときと同じ要領で、栗林さんのステータス画面を表示させた。
NAME:ミナミ クリバヤシ(栗林 みなみ)
SEX:MALE(女)
AGE:15
JOB:僧侶
LV:1
HP:120/120
MP:50/50
STR: 9
AGI: 6
DEX:62
VIT:34
INT:41
LUK:38
「うーん、DEX(器用さ)はそこそこ高いけど、STR(筋力)とAGI(敏捷性)は一桁しかないわね。この能力値で扱えそうな武器はクロスボウくらいしかないから、習得するスキルは魔法関係と、DEXの高さを活かせるものに絞った方がいいわね」
「……先生、私の能力値低くて、すみません」
「別に、みなみちゃんが謝る必要はないわよ。チート級の基本能力を誇るきよたんは別として、普通は誰でも苦手なことの1つや2つくらいあるわよ。では、2ページ目を確認するわね。
残りスキルポイント:11
<習得済みスキル>
● 装備
・杖(レベル3)
● 魔法
・ヒール(レベル3)
・キュア(レベル2)
● その他
・計算(レベル4)
・絵画(レベル6)
「まず、各スキルの内容について簡単に説明するわね。装備の『杖』というのは、攻撃に使うものではなくて、魔法の効果を増幅させる魔具よ。杖を使い続けて熟練度レベルが上がると、魔法の増幅効果がより高まるわ。
そして魔法の『ヒール』は、怪我をした人の傷口を塞ぐ魔法。怪我を悪化させないための応急措置に使えるけど、怪我によって失われた体力を回復させる効果は無いわ。『キュア』は、怪我や病気で弱っている人の体力を回復させる魔法で、体内の毒を取り除く効果もあるわ。戦闘なんかで怪我をした仲間を治療するには、この『ヒール』と『キュア』を併用するのが一般的ね。杖とヒール、キュアのスキルは、僧侶の職業を選んだ日本人なら、みんな最初から習得しているわ。
次に『計算』のスキルは、買い物や家計管理なんかに必要な計算能力よ。アマツ世界の平均的な教育水準は日本よりかなり低くて、お釣りの計算さえろくに出来ない人も結構いるから、こういうスキルが必要になるのよ。日本では、学校の義務教育で算数や数学を教えているから、日本人なら『計算』のスキルは大抵持っているわね。……約1名、例外もいたけど」
「例外……ですか?」
栗林さんが首をかしげて質問すると、タマキ先生はため息をついて答えた。
「もえちゃんよ。あの子、日本では小さい頃からボクシングの選手になることを夢見て練習ばかりして、勉強はものすごい苦手だったんですって。日本人にしては珍しく『計算』スキルを持っていなかったんで、私が試しに『九九って知ってる?』って聞いてみたら、『九九って何よ』て真顔で聞き返されたわ」
「私も、勉強はあまり得意なほうじゃなかったですけど、もえさんはある意味凄いですね……」
栗林さんが、控えめな感じでそう感想を漏らした。僕としては、内心では『高校1年生で九九を知らない日本人がいたのか』と驚いていたけど、口に出すと後で上水流さんに殴られそうな気がしたので、黙っていることにした。
「話が脱線するから『計算』の話はこのくらいにして、最初から『絵画』のスキルを持っているのは、若干珍しいわね。みなみちゃん、日本では絵を描いてたの?」
「はい。日本で暮らしていた時には、病弱でほとんど何も出来なかったので、漫画を読んだり絵を描いたりするのが、ほぼ唯一の趣味だったんです」
「ちなみに、どんな絵を描いてたの?」
「……男と男の友情、そして愛です」
そう答えた途端、栗林さんの表情が一変した。
「でも、このアマツに来てから、いまいち創作意欲が沸かないんですよ。このセンターにいる男の子はきよたかさんしかいませんし、私としては攻めタイプの男性がもう1人欲しいところなんですけど。一時は、何となく男っぽいもえさんを男性に見立てようと考えたこともありますけど、もえさんはやっぱり女の子なので男に見立てるのは無理がありますし。……そうだ! この前来たヨーイチさんって男の人、明らかに攻めタイプですよね!? ヨーイチさんが攻め、きよたかさんが受け、まさに理想の愛、尊いです……」
普段の大人しそうな態度から一変して、危険な目つきで残念すぎる妄想を早口でまくし立てる栗林さん。あまりのことに、僕ならずタマキ先生や瑞穂もドン引きしている。
「みなみちゃん。分かったからやおい話はそのくらいにして。そしてスキルポイントを消費して取るスキルだけど、みなみちゃんはDEXが結構高くて、INTもそれなりに高いけど、STRとAGIが極端に低いから、習得するスキルはDEXとINTを活かせるものを重点的に選んだ方がいいわね」
「どれがいいんですか? 種類がかなり多くて、全然分からないんですけど……」
「みなみちゃん。女の子だったら、見習い冒険者でも取れる初心者スキルのうち、まず『性愛』『料理』『裁縫』の3つは絶対に取った方がいいわよ。この3つは、まとめて『女子力スキル』とか『お嫁さんスキル』とか呼ばれていて、お嫁さんを目指す女性冒険者なら必須のスキルだから。あと、3つともDEXが影響するスキルだから、みなみちゃんにも向いているわ」
「あの、『料理』と『裁縫』は、何となく分かるんですけど、……『性愛』ってどういうスキルなんですか?」
「えっちが上手くなるスキルよ。『性愛』は、えっちの勉強をしたり、色んなえっちを経験することで熟練度が上がり、熟練度レベルが上がると、男の人にえっちでより強い快感を与えられるのよ」
「え、えっちするためのスキルなんですか……?」
「そうよ。男性1人に女性数人のハーレムパーティーなら、みんな競ってえっちしようとするのが当たり前だから。競争に勝って、きよたんに可愛がってもらいたいなら、当然えっちも上手くならないと飽きられちゃうわよ。もちろん、『性愛』スキルが無くてもえっち自体はできるけど、『性愛』のレベルが30くらいになると、与えられる快感が10倍くらいになるって言われているわね」
「……わ、分かりました。とりあえず、その3つは取っておくことにします」
栗林さんが、顔を朱に染めながらそう答える。
……あの栗林さんが、僕とえっちするためのスキルを取っちゃった!
いや、栗林さんは、タマキ先生に勧められるままにスキルを取っただけで、僕とえっちしたいためにスキルを取ったんじゃない。間違っても、変な妄想をしてはダメだ。
僕が、なんとか平常心を維持しようと努力していると、タマキ先生にその様子を咎められた。
「きよたん、どうしたの? 顔を真っ赤にして深呼吸なんか始めちゃってるけど」
「い、いえ、何でもありません。僕のことは気にしないで、授業を続けてください」
「みなみちゃんとえっちがしたいなら、はっきりそう言った方がいいわよ?」
「い、いえ、決してそういう邪な欲求は……」
「きよたん、あからさまな嘘は良くないわよ。顔にはっきりと書いてあるわ。自分は、みなみちゃんとえっちしたいという欲望を必死に我慢していたけど、みなみちゃんが自分とえっちするために『性愛』のスキルを取ったのを知って、それだけで欲望が爆発寸前になってしまいましたってね?」
「え? 顔に?」
「それから、みなみちゃんとえっちしたいというのは、決して邪な欲求じゃないわよ。アマツの常識では、同じパーティーの男女は夫婦同然の間柄とみなされるから、えっちしたいというのは極めて健全な欲求よ。むしろ、えっちを求めない方がみなみちゃんに失礼なくらいね。もう一度聞くわ、きよたん。みなみちゃんとえっちしたいという、健全な欲求はあるのかしら?」
「そ、そういう欲求が全く無いわけでは無いですけど、僕も栗林さんも、そういう常識にまだ慣れていないし、仮にするとしても、もっと親睦を深めて、お互いの気持ちを確かめ合ってからに……」
「なんだ、結局みなみちゃんとえっちがしたいんじゃない。きよたんの本音が出たわね」
「えっと、だから、あの、そういう露骨な言い方は……」
「まあいいわ。きよたんをからかうのは面白いけど、脱線ばかりしていると授業が進まないから、次に行くわね。僧侶は攻撃手段が少ないから、早めにレベルアップするためにも、モンスターを倒す攻撃用のスキルが必要ね。先生のお勧めは、魔導師の初期スキル『ファイア』と、腕力が無い子でも大きなダメージを与えられる『クロスボウ』ね。
あと、みなみちゃんみたいに後衛職しか務まらない女の子は、ゴブリンの流れ矢なんかに当たって結構簡単に死んじゃうことが多いから、少しでも生存確率を上げるためにも、『防御』と『回避』のスキルも取っておきたいわね。これで、残りのスキルポイントは何ポイントになるかしら?」
「え、ええと……」
「『ファイア』で2ポイント、『性愛』『料理』『裁縫』『クロスボウ』『防御』『回避』で各1ポイント消費するので、残り3ポイントになるはずです」
栗林さんが口ごもっているので、僕が代わりに答えた。
「さすが、きよたんは計算が速いわね。残り3ポイントあるなら、『馬丁』と、戦士の初期スキル『盾』はどうかしら?
『馬丁』は、馬の世話や飼育をするためのスキルで、遠くへ冒険するなら馬は必須になるから、パーティーに最低1人は、『馬丁』のスキル持ちが必要になるし、これもDEXが必要なスキルだからみなみちゃん向きよ。
それと、『盾』のスキルを取っておいて、戦場では女の子でも扱える軽量のバックラーを装備しておけば、ゴブリンの流れ矢程度で殺される心配はほぼ無くなるわ。『馬丁』が1ポイント、『盾』が2ポイントだから、これでちょうどスキルポイントを上手く使いきれるわね」
「分かりました」
栗林さんは、タマキ先生から指示されたとおり、ステータス画面の3ページ目を操作してスキルを習得した。その結果、栗林さんの習得済みスキルは以下のようになった。
残りスキルポイント:0
<習得済みスキル>
● 装備
・杖(レベル3)
・クロスボウ(レベル1)
・盾(レベル1)
● 魔法
・ヒール(レベル3)
・キュア(レベル2)
・ファイア(レベル1)
● 能力上昇
・防御(レベル1)
・回避(レベル1)
● その他
・計算(レベル4)
・絵画(レベル6)
・性愛(レベル1)
・料理(レベル1)
・裁縫(レベル1)
・馬丁(レベル1)
「スキルは、熟練度レベルが1だとほとんど何の役にも立たないけど、『性愛』以外のスキルは訓練でもレベル10くらいまでは上げられるから、卒業までに可能な限り訓練してあげるわね。その代わり、『性愛』の訓練は、夜の自由時間を使ってきよたんと自主的にやってね」
「え? きよたかさんと一緒に、何の訓練をすればいいんですか……?」
「えっちの訓練に決まってるじゃない。いきなりえっちするのが恥ずかしいなら、一緒にお風呂に入って触りっこしたり、お医者さんごっこをしたりでもいいわ。そうやって、どうすればきよたんと自分が気持ち良くなれるのか分かるようになれば、『性愛』の熟練度も上がっていくわよ。ただし、オナニーじゃ『性愛』の熟練度は上がらないから注意してね。さあ、次は瑞穂ちゃんの番ね」
揃って顔を真っ赤にしている僕と栗林さんを放置して、タマキ先生は瑞穂の指導に入った。
◇◇◇◇◇◇
ステータス画面に、瑞穂の能力値が表示された。中二病だからてっきりアホの子かと思っていたが、INTと計算の熟練度レベルは、意外にも栗林さんより若干高い。
NAME:ミズホ ヤマナカ(山中 瑞穂)
SEX:MALE(女)
AGE:13
JOB:魔術師
LV:1
HP:110/110
MP:60/60
STR:15
AGI:18
DEX:46
VIT:31
INT:52
LUK:43
残りスキルポイント:8
<習得済みスキル>
● 装備
・杖(レベル3)
● 魔法
・ライト(レベル2)
・ファイア(レベル1)
● その他
・計算(レベル5)
・性愛(レベル1)
・料理(レベル1)
・裁縫(レベル1)
「あれ? 瑞穂ちゃん、どうして最初から性愛、料理、裁縫のスキル持ってるの?」
「ふっ。我は永遠の叡智を求める、魔眼の大賢者バロール。我が眷属の嫁として当然取っておくべきスキルなど、他人に指図されずとも自ら習得するのが当然であろう」
瑞穂が中二病モードに入ったが、名乗りが若干変わっている。設定がまだ固まっていないのか、それとも気分次第で設定を変えるつもりなのか。いずれにせよ、ずいぶん完成度の低い幼稚な中二病だ。
「要するに、みなみちゃんへの説明を脇で聞いていて、勝手に自分で取っちゃったわけね。まあ、そのお嫁さんスキルは瑞穂ちゃんにも勧めるつもりだったから支障は無いけど、スキルは一度選んじゃうと選び直しは出来ないから、気を付けてね」
「承知した。だが、この大賢者バロール様の叡智をもってしても、解らぬことがあるので、ちと尋ねたいのだが」
「質問なら受け付けるけど、簡潔にお願いね」
「この、『初心者スキル』一覧の最後にある、『魔眼』なるスキルは一体如何様なものか?」
瑞穂が質問した『魔眼』スキルは、僕もちょっと気になっていた。初心者スキルのほとんどは消費スキルポイント1なのに、魔眼だけは消費スキルポイントが5もあるし、ひょっとしたら凄いスキルなのかも。
「ああ、それね。『魔眼』は単なるネタスキルだから、取っちゃだめよ。習得した当初は何の役にも立たないけど、自分が魔眼の持ち主だって感じの中二病ごっこを続けていると徐々に熟練度が上がり、レベル30くらいになると左眼が時々光り出して、レベル50を超えると、魔眼の力を使ってMP消費なしで強力な魔法攻撃を放てるように……」
「我が意を得たり!! このスキルこそ、魔眼の持ち主たる聖なる邪神バロールのためにあるようなもの!」
瑞穂はそう叫んで、タマキ先生の話を最後まで聞くことなく、『魔眼』スキルを勝手に習得してしまった。
「ああっ! 瑞穂ちゃん、本当に『魔眼』スキル取っちゃったの!? なんてことするの、もう取り返しが付かないわよ!」
タマキ先生が物凄い剣幕で怒りだしたので、さすがの瑞穂も「えっ」という感じになり、少したじろいだ。
「瑞穂ちゃん、先生の話は最後まで聞きなさい。『魔眼』を取って熟練度レベルを50超えくらいにまで上げれば、強力な魔法攻撃を放てるようになると伝えられているけど、そこまで熟練度レベルを上げるには、少なくとも1年か2年くらいは恥ずかしい中二病ごっこを続けなきゃいけないし、そもそも過去にそんなスキルを取った冒険者なんて1人もいないから、本当に効力があるかどうかさえ怪しいと言われているスキルなのよ! よりによって、そんなネタスキルに5ポイントも使っちゃったら、本当に必要なスキルが取れなくなって、特に初期の訓練や冒険にかなり支障が出ちゃうわよ!」
タマキ先生にそう説教されて、瑞穂も自分が取った行動をようやくまずいと思うようになったらしく、
「うえええええん、おにいちゃーん、どうしよう~」
僕にすがり付いて泣き始めた。
「瑞穂、スキルの選び直しは出来ないんだから、今更泣いたってしょうがないだろ。残りのスキルポイントで最善を尽くすしか無いよ」
「きよたんの言うとおりだけど、瑞穂ちゃんの残りはもう3ポイントしかないわよ。とりあえず、死んじゃったら取り返しが付かないから『防御』と『回避』、レベルを上げやすいように『クロスボウ』でも取るしかないわね。それ以外にも、初期段階で取っておくべきスキルはいくつかあるんだけど、その辺は今後の訓練でレベルアップさせて、獲得したスキルポイントで徐々に取っていくしか無いわ。その分、普通の訓練生より厳しい訓練になるわよ。それと瑞穂ちゃん、これから新しいスキルを習得するときは、事前に必ず先生やお兄ちゃんに相談すること。約束できる?」
タマキ先生の問いに、瑞穂は泣きながら黙って頷いた。
こうして、瑞穂の習得済みスキルは、以下のようになった。
残りスキルポイント:0
<習得済みスキル>
● 装備
・杖(レベル3)
・クロスボウ(レベル1)
● 魔法
・ライト(レベル2)
・ファイア(レベル1)
● 能力上昇
・防御(レベル1)
・回避(レベル1)
● その他
・計算(レベル5)
・性愛(レベル1)
・料理(レベル1)
・裁縫(レベル1)
・魔眼(レベル1)
……あーあ。今後どうなることやら。
(第6話の2に続く)
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる