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第3話 俺はあいつを殺す

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 長いこと時間はかかったが、どうにかソロでの活躍を再開できるようになった。約2ヶ月くらいかな。
 その間は熊などを仕留め、売り捌いた。

「で、今日からまた独り身ダンジョン生活か。懐かしいな」

 もう何年も1人でしていなかった気がする。慣れとは恐ろしいものだ。
 中に入ると、久しぶりの薄暗さ。
 壁際にロウソクが立てられているとは言っても、やっぱり暗いことに変わりはない。

 感覚でゴブリンの首を切り落とし、オークの心臓へと剣を突き刺す。無駄のない動き。できるだけ疲れないようにするためだ。
 そういや、新しく俺代わりにパーティーに入ったメンバー、上手くやってるかな。まぁ、魔法が使えるんだったら、それなりに使えるんだろう。

 たまにドロップしたものを狙って、悪党が襲いかかってくる。そうしたらそいつの首を掻き切る。殺人の趣味はないが、こうしないと自分が死ぬ。
 躊躇なく殺さなければならない。
 だから、アリス達に冒険者になってほしくなかったんだ。2人は純粋そうだから。
 
 1日目の収穫はかなりの量になった。このペースでいけば、余裕のある暮らしができるだろう。貯金だってできるはずだ。さっそく家も借りたし、今のうちに稼いでおきたい。


 そんな生活を続けて、2年が経った。


 ある日ダンジョンに潜ると、懐かしい気配がした。カイト達のものだ。
 現在攻略されてるのは、上から数えて50層まで。カイトたちがいるのは……同じ1層くらいかな。じゃないと気配なんて感じれないし。移動だけで時間かかかるから、まぁ、それがもっともだろう。
 攻略するには、大規模なパーティーで大量の食料を運び込み、交代でするのが理想的だ。

 階層が増えるにつれ強い獲物も増える。
 俺が主に活動するのも、ちょうど30層だった。

「……ちっ。どっちにしろ鉢合わせするのか」

 俺が生き延びているのを知っているのかは分からないが、厄介なことに変わりはない。一応変装はしているが、気配でバレるだろう。
 殺そうとしてくるのか、どうするのか……

「ヤられそうなら、ヤらなきゃいけないもんな」

 もう二の舞は嫌だ。

「覚悟を決めろ、ノア」

 俺の活動には、家族の食もかかってる。ようやく、1番下の弟が5歳になったところだ。腹いっぱい食わせてやりたい。

 意を決して、俺はダンジョン深くへと潜り込んだ。


 初めのうちは良かった。あまり他の冒険者に出会うこともなく、これなら無事帰れるかな、とも思ったのだが……

「アーノルド?」

 残念ながら、帰りに見つかってしまった。

「お久しぶりです、カイトさん」

 目と口をまぁるく開けた、元リーダーに。

「お前、死んだんじゃなかったのかよ!?」

 カイトが俺のことを指さし、パーティーメンバーがザワザワと声を上げた。俺のことは、てっきりもう死んだんだと思っていたんだろう。

「残念ながら、生きていましたよ。ところで、どうです? そちらの状況は。楽しくやっていますか?」

「まぁ、楽しくはやってるけど……」

「ちょっとカイト、アーノルドは死んだんじゃなかったの? どうして生きてるのよ! 事故で死んだって言ってたじゃない」

 パーティーメンバー唯一の女性であるメアリーが、カイトに詰め寄った。

「死んだと思ってたんだが……生きてたみたいだ」

「生きてたみたいだ、じゃないわよ! アーノルドがいなくなってから、このパーティーの評判ガタ落ちじゃない! あの《剣聖》を事故で死なせたって。給料だってかなり減ったのよ?」

「そうだぜ。急に新しいメンバーを連れてきたが、戦力外だよ。《剣聖》に比べりゃあ」

 他のメンバーからもワイワイと不服が上がった。かなり、内部が荒れてたみたいだ。

「違うんだ。俺が悪いわけじゃない。コイツが悪いんだ! コイツが弱いから……」

「俺だって、そんな詳しい説明もなにもなく入ってきたので、知らなかったんですよ! 教えてくれなかったし! あの《剣聖》のあとだなんて!」

 カイトは新しいメンバーに責任転嫁し始めた。もう終わりだな、人間として。

「まぁ、お互い頑張りましょう。では、俺はこれで」

 ただ面倒なことには巻き込まれたくない。さすがにもう一度パーティーにお呼ばれになることはないだろうが。こいつらのプライドが許さないだろう。
 俺が礼をして、立ち去ろうとした、その時だった。
 不意に腕が掴まれた。目の前には炎。カイトの魔法だ。

「お前を、殺してやる……」

「愚かな人ですね」

 お腹を一思いに斬る。
 炎が直撃するよりも、俺の剣先の方が速かった。

「ガッ……?」

「遥か東の国では、罰を拭うために腹を切る文化があるそうです。これは、俺を崖から落とし、殺そうとした罪と、あまつさえ、今も殺そうとした罪だ」

 血が顔全体にかかった。
 メアリーが悲鳴を上げる。
 俺はそんな元メンバーを横目に、地上を目指した。
 あいつらカイトがいなくなって、どうなるんだろうか。知りたくはないけど。

「にしても、けっこうキツイな」

 単なる知り合いじゃない。一時は、命を預けて戦った中だ。

「ほんと、世も末……」

 ため息をつき、顔の血を落としてからギルドに向かう。
 マーシーの前に行くと、見覚えのある2人がいた。

「アリスと、ソフィア……?」

「あっ、ノア! 私たち、ちゃんと合格したよ! 鍛えてよ」

「お、お願いします」

 ちょっとだけ図々しくなった2人。
 目から溢れるものを拭ったあと、俺は微笑んで2人に手を振った。

「久しぶり。まずは、ご飯でも食べにいこうか」
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