ベテラン整備士、罪を着せられギルドから追放される。ダンジョン最下層まで落とされたけど、整備士の知識で地上を目指します~

時雨

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第4話 少女は空から降ってきた

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「で、若返って体力も戻ったことだし、次は何をしよう。でもここの洞窟いい感じだし、水もあるしなぁ。下手に動き回るのもちょっと……」

 満身創痍から復活し、余裕が出てきたことで、周囲の状況がちゃんと確認できるようになった。逆に今まで全く見えてなかったようだ。ずっと地上に上がることしか考えてなかったもんな。

「まずは水が飲めるかどうかの確認と、それから食料が確保できるかだよな。生肉ばっかり食べるわけにもいかないし……」

 この先上の層に上がったところで、確保できる保証もない。もっと長く旅が続くことを考えると、今のうちに貯めておきたい。
 とりあえずと水を口に含む。ピリッとしたりはしないし、害はなさそう。味も普通だ。
 飲み込んでも違和感はない。ただの水だったようだ。俺は持ち歩いていた袋に水を入れた。動物の皮を加工したものだ。

「これで水の確保はよし、と。食べ物は……肉以外でここにあるものっつったら……キノコか」

 もしかしたら、ドロップアイテムで何かしら手に入るかもしれないが、そのためにモンスターと戦いたくはない。今まで俺はただの整備士で、冒険者ではなかった。さっきはたまたま上手くいったものの、強いモンスターなんて倒したことがないし、これから倒せるかは分からない。危険すぎる。
 ふぅ、とため息をつくと俺は立ち上がった。仕方ないよな。

「キノコ、取りに行くか……!」

 生きたいという気力が今までとは桁違いだ。しかもすぐ行動に起こすことができる。若いって素晴らしい。




 キノコの群れの近くには、どうやらモンスターはいないようだった。モンスターは独特の禍々しいオーラを出してるから、いたらすぐに分かる。

「まぁ、このキノコが1番毒々しいんだけど」

 キノコは柄が緑色で、見たことないもののようだった。これでは、食べられるキノコか毒キノコかどうか分からない。

「さてどうすっかなぁ。キノコは干したら持ち歩けるし、欲しいところなんだけど食べるには……」

 リスクが大きすぎる。まぁ、得体の知れない肉を食べた人が言えないセリフですが。

「うーん。一応切り取ってみるか……」

 ここはダンジョン、未開の地。誰も来ないし何でもあり。
 俺は意を決して、左腰に着けたナイフを取り出した。キノコの柄の部分を少し拝借する。

 5つほど回収したときだろうか。
 目の前のキノコに、ドン、と強い衝撃が来た。思わず身構える。おそらく何かが来た。気配を見る感じ、モンスターではないだろうけど。

 キノコのカサに跳ね返るようにして落ちてきたのは……果たして女の子だった。地面に落ちるところを、ギリギリキャッチする。おかげで腕は折れそうになったし若干痛めたけど。

「あの、大丈夫ですか……?」

 鎖骨の辺りを叩くと、ゆっくりと少女は目を開いた。引き込まれそうな、深くて青い瞳。それに少々パサついているものの、綺麗な黒髪。顔も細部まで整っていて、あまりの美しさに思わず少女から体を離す。

「ここ、は……?」

 意識がまだはっきりしないのか、少女はぼんやりした様子で呟いた。

「ダンジョンのかなり深い層だ。君も穴から落ちたの?」
「……はい。確か、そのはず、です。モンスターと戦ってるときに、落ちてしまって……」
「俺と同じだな」

 いやまぁ、俺は落とされたんだけど。
 少女に大きく頷いて見せると、さっきとった水をゆっくり飲ませた。しかし、口から溢れるばかりで、飲み込むことはできないようだ。

「今水飲むのは危険か。もうちょっと意識の回復待つしかないよな」

 もし今水を飲ませて、喉に詰まらせたりしたら本末転倒だ。一応口移しで与える、ということはできなくもないけど、そっちもリスクはありすぎる。

 数分経っただろうか。少女が、ゆっくり起き上がった。意識が戻ったようだ。袋を渡すと、ゴクゴクと音を立てて水を飲んだ。

「あの、貴方の名前は……私はミヤビと申します」
「ミヤビか。いい名前だな。俺はアルフだ。アルフ・スペンサー」
「貴方こそかっこいい名前ですね」

 ミヤビが笑う。ほんわりとしたその笑い方に、心が癒されるのを感じた。今まで気持ち悪いモンスターばっかり見てきたから。
 
「あの、」

 ミヤビの笑顔に勝手に癒されていると、ふと困惑したような面持ちをした。

「どうしたの?」
「貴方は私を気持ち悪いと思わないのですか?」

 目をパシパシさせながら首を傾げる少女とその色素に納得する。うちの国は、基本髪色が白や金、それから茶髪などで、黒髪はほとんどいない……どころか、可愛くない人の第1条件として挙げられている。
 おそらく、黒髪の遺伝子は最近敵対している隣国のものだからだろう。
 そのためこの国にやってくる隣国の移民は、黒髪で識別されて迫害される傾向にあった。もちろん髪を染めることもできなくもないけど、染め粉というのは案外お金がかかる。庶民には買えない代物だった。

「いや別に。綺麗だと思うよ」

 不安そうな表情をする少女にはっきりと答えた。確かに身なりは貧相だけど、気持ち悪いとは思えない。すると宝石のような青い目からポロポロと涙が零れだし、慌てる。

「ええっとほら。髪もツヤがあるし、瞳とか本当に……ほら、サファイアって知ってる? あれみたいで本当に綺麗だし……あ、そういえばモンスター倒したらたまにサファイアドロップするんだよ。それがすっごく綺麗なの」

 慌てすぎて早口になる。コミュニケーションを取るのは苦手だ。ベチャベチャ喋り続ける自分に、少女はくふくふと笑いだした。

「ありがとうございます。さふぁいあ? っていうの、見てみたいです……それでここは、どうなっているんですか?」
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