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第6話 この世界の生き方を

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「入学式に来てないと思ったらなんか怪我してね?」
「入学式の朝から喧嘩してきたのか……」
「やっぱ中学の時から変わらないんだな」
「怖っ。目合わせないようにしとこ。目つけられたら学校生活終わるじゃん」

 教室に入った途端、全員が俺から目を逸らす。
 マジかよ。こんな嫌われてたんだ。錦小路。俺これからどうしよう。
 机に座った途端、頭を抱える。その様子を見て、クラスメイトたちは、さぁっと気づかれないように俺から遠ざかった。じゃっかん心が痛い。
 にしても、嫌な勘違いされたな。まぁ今までの錦小路の行動を思い返したら納得しかないんだけどさ。

「よっ、錦小路」

 ふと声をかけられて感動しつつ振り返る。

「おう。おはよう。成田か」
 
 すぐ後ろには、いかにもモブっぽい顔をした少年が立っていた。物語では錦小路の金魚のフン、噛ませ犬キャラとして登場する。喧嘩はそこそこ強かったはず、だ。

「うん。おはよう。そういえばさ、なんか怪我してんじゃん」
「ちょっといろいろあってな」
「ふうん。入学式の朝から喧嘩するなんてさすがだよな、錦小路」
「いや、はは」

 苦笑いをする。本来の錦小路なら何て言ってたんだろうな。マジでキモイおっさんがさぁ、とか言って笑いものにしてたんだろうか。

「相手、どんな奴だったの? もしや今度は大学生? 錦小路、中学のときから年上に挑んでたもんな。そうそう。あいつは傑作だったよな。お前がさ、頭踏みつけて謝らせたやつ。1時間くらいかかったよなぁ。金もらうのに」

 おっとそれは初耳だ。
 こいつら軽いギャングじゃねぇかよ。クズ極まりないね。

「そんなこと、あったっけなぁ」

 はは、とまた苦笑する。
 どうにか話題の方向性を変えよう。原作ではあまり描かれてなかったけど、こいつもそれなりに闇落ちするはずだ。早くこんなところから足を洗わせないと。

「それよりさ、昨日新しく学校の近くにカフェできたの知ってる? 今日の放課後時間あったらそこ行こうぜ」
「あ? あぁ」

 成田が怪訝そうな顔をして頷く。でも良かった。
 どうやら錦小路には逆らえないみたいだし、大人しくはなってくれるか。

「今日の授業だりぃな」
「そうだな」

 こちとら2回目の学生だからな。余計にめんどくさいってもんよ。

「どうする……サボる?」

 成田がおずおずと聞いてくる。

「いや、サボんねぇよ。学費だってもったいないし」
「は、はぁ」

 成田が困ったような顔をする。普段の俺と違いすぎるせいだろうな。
 でもどうしよう。疑われたところで、前みたいなキャラに戻るわけにもいかない。死ぬ可能性があるからな。成田、戸惑わせてごめんよ。



 結局俺たちは1時間目から6時間目まで、真面目に授業を受けた。錦小路が賢かったのか、それとも高校の勉強2回目だからか、マジで簡単だった。それなのにこんなに真面目に授業受けて、ほんと偉いよ俺。

「あの、錦小路。明日はどっか行く?」
「明日? 明日はなぁ。たしかもうすぐ実力テストあっただろ? その勉強しないとなぁ」
「勉強? 錦小路、いつも勉強しなくてもいい点数取ってるじゃん」
「まぁ、そうなんだけどさ……」

 そうだったっけ。
 でも錦小路の記憶ではちゃんと勉強してるんだよな。ってことは他人には隠してたのか。
 頼んだスムージーを飲みながら必死に思い出す。どうやら隠れて家でコソコソ勉強していたようだ。

「でも勉強したいときもあるよな。そうしようか」
「う、うん」

 成田、素直すぎて怖いな。でもそっか。中学の頃に錦小路に憧れて近づいてきた成田は、それから錦小路の言うことを聞くようになった。あと多少の恐怖もあったんだろうな。物語の中で悪役だった錦小路は、やっぱり憧れられることもあったのだ。

「そういや最近、俺金欠なんだよな。新入生の中から探そうか。金持ってそうなやつ」
「いやぁ、遊ぶ頻度減らすか?」
「はっ!? でも今度合コンとかしたいって。するとしたら相手女子大生だぜ? 遊ぶ頻度減らせるわけないじゃん」
「うーん。じゃあその合コンやめにするか」
「は!? でもお前、彼女切らしてただろ。普段そんなことないじゃん。ほんとどうしたんだよ」

 ぐっ。そう言われたら弱い。
 でもそう言われたときの答えはもう考えてあるんだ。

「いやぁ、高校生からはちょっと真面目にやろうと思って。親とかにも迷惑かかるし、大学受験もあるしさ」
「ふぅん。そっ、か……」

 成田は納得しいないような顔だ。でも仕方ない。お前を救う方法はこれしかないんだ。

「じゃあ……合コンも取り消すか」
「うん。そうしよう。ごめんな。勝手に決めて」
「いや、いいよ」

 成田は下を向いたまま答える。申し訳なさすぎるな。悪友が急に変わったわけだし。
 もう少し俺は、この世界での生き方を考えるべきかもしれない。
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