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闇−140
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「んご」
腕に小動物の乗る重みを感じながらアレックスは目を覚ました。
黒猫の上等な毛並みよりも遥かに艶々とした黒髪が皮膚をサラリと刺激をする。
疲れた……とは言っても魔族の長であるアレックスにしてみると一眠りをするほどでもなかったが、ただお茶会の騒動や式の緊張で明らかに疲労が蓄積していたツキヨの様子に『心配症』の発作が起きて寝台に運び入れたことは正解だったなと、すやぁと眠る新妻の寝顔を見ながら納得をした。
さすがにここで破廉恥行為をしたらレオ、フロリナ、ビクトリアに襲撃された挙げ句ツキヨに嫌われることは明白であり、その為に寝た振りをしていただけだったのが気がつくと小動物を腕に置いて本当に眠ってしまっていた。
ツキヨは指輪やあの馬鹿家族に気を取られていたため、気がついていなかったが間抜け面の息子がツキヨの手に触れた瞬間、アレックスは憤怒の塊となり今にも馬鹿家族を魂ごと木っ端微塵にする寸前だった。
『……息子は22歳と20歳なので同じ年頃の若い息子たちとツキヨ皇后陛下と親しくお付き合いができればと考えておりますのよ』
あの馬鹿女の言葉に根を持つつもりはないものの、目の前で『ツキヨと同じ年頃の若い息子』という発言をされたうえ『親しくお付き合い』などと追加されるといくらアレックスでも『決して埋めることのできない年の差』を嫌でも感じざるを得ない。
見た目も人間の年齢的にも45歳くらいであるがツキヨは17歳である。
近く18歳にはなるが傍から見れば親子か誘拐犯と被害者、もしくはロリコ……。
魔族と人が帝国内で婚姻することはしばしばあるものの帝国外ではごく一部の地域や国以外ではまだまだ少ない。
『皇后陛下の極めて親しい若い男』や『(ロリコ……)皇帝陛下へ若い愛妾』を勧めてくる自称・忠義者はこの先も途絶えることはないだろう。
不意にアレックスの胸中に深く暗い闇のような靄のようなものが渦巻く。
感じたものがないものが。
寝息を立てて腕の中に収まるツキヨを意識するとますます靄が増えて大きな渦となる。
空いている片方の手を回し、ツキヨの黒髪をかけ分けて眠る顔を見つめるがまた更に靄が増える。
物事に永遠はない。有限である。
ただ、それは人の理であり高位魔族にとっては鼻息で吹き飛ばしてしまう程度のものであり、脆弱な人間の戯言や言い訳である。
儀式によってアレックスとほぼ無限に同じ時を生きられるようになったツキヨであるはずなのに『人間の戯言』として鼻息で吹き飛ばして笑っていたことに絡め取られる。
絡め取られる……何に?
「ん……」
黒く長いまつ毛が震えるとゆっくりと黒い瞳を隠していた瞼が開いた。
「お、あ……わ、悪りぃ。起こしたか」
どぎまぎとアレックスは何かに絡め取られたまま声をかける。
「アレックス様……すっかり眠って……すいません」
いつもは饒舌なアレックスが何も言わずにツキヨを抱き締める。
ふんわりと柑橘系の香りがツキヨを包み込むとアレックスのいつもの鼓動が感じる。
「……どうしましたか?」
「え……ぁ???」
ツキヨを困らせるものや悲しいこと、苦しいこと、怒り……何事も一切伝わらないはず。
「いや、何も……」つい、言葉が口どもる。
「そう……ですか。目が覚めたらアレックス様が不安そうな顔をしていたので心配をしたのです」
「不安?不安な顔?」
闇のような靄が再びぐるぅりと渦巻く。
「はい、まるで道標に騙され迷っているような……ひゃっ!」
ぐっと抱き締める力が強くなる。
「あぁ、俺は今、悪質な道標に騙されて不安になっていたんだ……そうか、そうなんだ。
ツキヨが俺のところから消えちまう……そんな悪い夢を見たんだ」
「私がアレックス様のところから消えてしまうのですか?」
「あぁ、俺も知らねぇどっかへ行っちまう……」
「もしも道標が間違っていたら私が元に戻します」
「俺を……頼むから『有限』に気づかされなかったときの……俺に戻してくれ……永遠に戻してくれ」
「物事に永遠はありません。でも、間違っている道標があれば私がアレックス様のために何度も直します」
黒い瞳がまた隠れた途端、アレックスの唇に優しい桃色の唇が触れた。
アレックスの靄―――不安がさあっと霧散する。
「不要な道標は俺が破壊しよう」
「誤った道標は私が直しますね」
ツキヨの唇にアレックスも触れる。
道標はツキヨの手によって直された……何度も直してくれるなら道標に騙されるのも悪くない。
『不安』と『有限』を知ったここからあるのは、深い暗闇か。愛と歓びか。
*
寝衣のままアレックスに抱き上げられたツキヨはフロリナとビクトリアに無事に引き渡され、軽く湯浴みをしてエリと一緒に晩餐会の支度を始めた。
晩餐会用のドレスはエストシテ王国のドレスのように首から胸元まで緻密かつ繊細なレースに覆われている。
布はオリエ布を使用しているが胸下の切り替え辺りを結ぶ幅広のリボンは胸元のレースを贅沢に加工をしてそのまま使っている。
「このレースはぁぁ……なんとぉぉぉぉっ!!!ツキヨちゃんのためにィィ鍛えに鍛えた可愛い可愛い天使ちゃんたちが気合いを込めて編んだのっっっ!!!!」
前々から孤児院や手に職のない人らにオリエ布の端切れや布にあまり適さないとされた糸で布小物やぬいぐるみを作る計画をしていたのがついに日の目を見て、ドレスのレースとして使われた。
「胸元はっっっ!将来有望なイケメンのミルコくぅぅん!ハァハァ……翡翠みたいな瞳がアタシの心を鷲掴みィィ!
リボンはシングルマザーのタチアナさんんんんっっ!!!彼女はガチガチムチムチンコな気合いありまくりのママンっ!!
んっかーーーっ!素晴らしいぃぃぃっっっ!!!ふぉぉぉぉっーーー!!!」
一人で興奮状態となった赤毛の美丈夫はビクトリアにそっと回収された。
布により少しずつ改善され始めていることを実感しつつツキヨはおとなしくフロリナに化粧を施され、大授と宝飾品を身に着け最後に宝冠を黒髪に固定された。
戻ってきたビクトリアは「ハァ……麗しい……くうっっ!」と呟くと手巾で鼻を押さえながらうずくまった。
なお、フロリナは既に鼻に詰め物がされていた。
窓から大きな満月が見えた頃、控えの間の扉が叩かれた。
開けたそこには、最礼装の闇を溶かし込んだような黒い軍服を新たに着込み、長い銀髪を一つにまとめたアレックスが立っていた。
髪をまとめる組紐は黒い糸で編まれ、両端部は大粒の色の濃いアメジストがつけられている。
「準備はできたみたいだな」
長い足でつかつかと中に入る……まとめた銀髪がサラサラと揺れ、組紐のアメジストも合わせて煌めく。
「はい……」
その姿を見たツキヨは突然気恥ずかしくなり、俯く。
「こんなに可愛い格好を俯いて隠そうとしても無駄だぜ」
ニヤリと笑いツキヨの顎を軽く掴み顔を上げさせる。
髪をまとめたアレックスの艶やかで見慣れない姿に照れたとは言えないツキヨだった。
「おい、アレックス。イチャイチャ遊んでないでそろそろ広間へ行くぞ」
ちょっと羨ましそうな声でレオが開けたままの扉から話しかける。
「この姿を見せたくない俺の気持ちがレオにはわかるかっ?!どっかに誘拐されたらどうすんだっ!!眩しくて目が潰れる!魔族の奴らは確実に目を痛める!死ぬ!こんな危険があふれ出す煮汁のような晩餐会は今すぐ中止にしろ!中止DEATH!」
アレックスが胸を抱えうずくまり喚く。
「同意」
「お館様、畏まりました」
「このビクトリアの命をかけて晩餐会を中止にいたします」
「中止に賛成よっっっ!!この姿は危険よ!危険物よ!ああぁんっ!」
蝶ネクタイをした魔鬼死魔無君も突然現れて何度も頷く。
各自、中止の方向でわらわらとあらぬ方向へ動き始めたのをツキヨは慌てて止める。
頑張って止める。
凄い頑張って止める。
程なくして中止命令は皇后陛下自ら取り消した。
晩餐会中止派の六人?から子供のようにブーブーとその手の文句を言われることに慣れているツキヨは堂々たる姿だった。
後年のゴドリバー帝国の歴史書に「戦なき世に現れた戦乙女」と評される皇后陛下の姿だった。
ツキヨが預かり知らぬところで、そのとき歴史が動いた。
***
不満げな空気が漂うがレオの先導でアレックスにエスコートをされてツキヨは晩餐会の会場へ長い廊下を歩く。
殿は花嫁よりも華々しい美丈夫のエリが務める。
アレックスの影からこっそり魔鬼死魔無君が顔を出してツキヨに手を振る。
それにフフッと笑い返すツキヨはまた緊張していたことに気がつく。
「また、緊張屋さん開店か。ほら、顔をこっち向けろ」
ゆっくりと歩きながら顔をアレックスに向けると額、両頬、両耳にリップ音をわざと鳴らしながら口づけられる。
「唇は、紅が落ちた!とかでビクトリアたちに殺されるから、寝台の上でのお楽しみだ」
緊張は吹き飛び去ったが今度は白粉が役に立たないほど、顔が真っ赤になったのが自覚できる。
「あ……」
「おっと、もう晩餐会の会場だ。早く赤い顔をなんとかしないと不埒な皇后陛下になっちまうぜ」
残酷な神―――レオが重厚な扉を開く。
「ゴドリバー帝国アレクサンダー皇帝陛下、並びにツキヨ皇后陛下のご入来」
拍手が鳴り響く中、堂々とした皇帝陛下のエスコートで頬を赤く染めた皇后陛下は恥ずかしそうにやや俯きながら会場へ足を運び入れる―――その姿は春先の可憐な花のように初々しいと晩餐会の招待客は微笑ましく見守っていた。
ツキヨにとってそれが救いだった。
腕に小動物の乗る重みを感じながらアレックスは目を覚ました。
黒猫の上等な毛並みよりも遥かに艶々とした黒髪が皮膚をサラリと刺激をする。
疲れた……とは言っても魔族の長であるアレックスにしてみると一眠りをするほどでもなかったが、ただお茶会の騒動や式の緊張で明らかに疲労が蓄積していたツキヨの様子に『心配症』の発作が起きて寝台に運び入れたことは正解だったなと、すやぁと眠る新妻の寝顔を見ながら納得をした。
さすがにここで破廉恥行為をしたらレオ、フロリナ、ビクトリアに襲撃された挙げ句ツキヨに嫌われることは明白であり、その為に寝た振りをしていただけだったのが気がつくと小動物を腕に置いて本当に眠ってしまっていた。
ツキヨは指輪やあの馬鹿家族に気を取られていたため、気がついていなかったが間抜け面の息子がツキヨの手に触れた瞬間、アレックスは憤怒の塊となり今にも馬鹿家族を魂ごと木っ端微塵にする寸前だった。
『……息子は22歳と20歳なので同じ年頃の若い息子たちとツキヨ皇后陛下と親しくお付き合いができればと考えておりますのよ』
あの馬鹿女の言葉に根を持つつもりはないものの、目の前で『ツキヨと同じ年頃の若い息子』という発言をされたうえ『親しくお付き合い』などと追加されるといくらアレックスでも『決して埋めることのできない年の差』を嫌でも感じざるを得ない。
見た目も人間の年齢的にも45歳くらいであるがツキヨは17歳である。
近く18歳にはなるが傍から見れば親子か誘拐犯と被害者、もしくはロリコ……。
魔族と人が帝国内で婚姻することはしばしばあるものの帝国外ではごく一部の地域や国以外ではまだまだ少ない。
『皇后陛下の極めて親しい若い男』や『(ロリコ……)皇帝陛下へ若い愛妾』を勧めてくる自称・忠義者はこの先も途絶えることはないだろう。
不意にアレックスの胸中に深く暗い闇のような靄のようなものが渦巻く。
感じたものがないものが。
寝息を立てて腕の中に収まるツキヨを意識するとますます靄が増えて大きな渦となる。
空いている片方の手を回し、ツキヨの黒髪をかけ分けて眠る顔を見つめるがまた更に靄が増える。
物事に永遠はない。有限である。
ただ、それは人の理であり高位魔族にとっては鼻息で吹き飛ばしてしまう程度のものであり、脆弱な人間の戯言や言い訳である。
儀式によってアレックスとほぼ無限に同じ時を生きられるようになったツキヨであるはずなのに『人間の戯言』として鼻息で吹き飛ばして笑っていたことに絡め取られる。
絡め取られる……何に?
「ん……」
黒く長いまつ毛が震えるとゆっくりと黒い瞳を隠していた瞼が開いた。
「お、あ……わ、悪りぃ。起こしたか」
どぎまぎとアレックスは何かに絡め取られたまま声をかける。
「アレックス様……すっかり眠って……すいません」
いつもは饒舌なアレックスが何も言わずにツキヨを抱き締める。
ふんわりと柑橘系の香りがツキヨを包み込むとアレックスのいつもの鼓動が感じる。
「……どうしましたか?」
「え……ぁ???」
ツキヨを困らせるものや悲しいこと、苦しいこと、怒り……何事も一切伝わらないはず。
「いや、何も……」つい、言葉が口どもる。
「そう……ですか。目が覚めたらアレックス様が不安そうな顔をしていたので心配をしたのです」
「不安?不安な顔?」
闇のような靄が再びぐるぅりと渦巻く。
「はい、まるで道標に騙され迷っているような……ひゃっ!」
ぐっと抱き締める力が強くなる。
「あぁ、俺は今、悪質な道標に騙されて不安になっていたんだ……そうか、そうなんだ。
ツキヨが俺のところから消えちまう……そんな悪い夢を見たんだ」
「私がアレックス様のところから消えてしまうのですか?」
「あぁ、俺も知らねぇどっかへ行っちまう……」
「もしも道標が間違っていたら私が元に戻します」
「俺を……頼むから『有限』に気づかされなかったときの……俺に戻してくれ……永遠に戻してくれ」
「物事に永遠はありません。でも、間違っている道標があれば私がアレックス様のために何度も直します」
黒い瞳がまた隠れた途端、アレックスの唇に優しい桃色の唇が触れた。
アレックスの靄―――不安がさあっと霧散する。
「不要な道標は俺が破壊しよう」
「誤った道標は私が直しますね」
ツキヨの唇にアレックスも触れる。
道標はツキヨの手によって直された……何度も直してくれるなら道標に騙されるのも悪くない。
『不安』と『有限』を知ったここからあるのは、深い暗闇か。愛と歓びか。
*
寝衣のままアレックスに抱き上げられたツキヨはフロリナとビクトリアに無事に引き渡され、軽く湯浴みをしてエリと一緒に晩餐会の支度を始めた。
晩餐会用のドレスはエストシテ王国のドレスのように首から胸元まで緻密かつ繊細なレースに覆われている。
布はオリエ布を使用しているが胸下の切り替え辺りを結ぶ幅広のリボンは胸元のレースを贅沢に加工をしてそのまま使っている。
「このレースはぁぁ……なんとぉぉぉぉっ!!!ツキヨちゃんのためにィィ鍛えに鍛えた可愛い可愛い天使ちゃんたちが気合いを込めて編んだのっっっ!!!!」
前々から孤児院や手に職のない人らにオリエ布の端切れや布にあまり適さないとされた糸で布小物やぬいぐるみを作る計画をしていたのがついに日の目を見て、ドレスのレースとして使われた。
「胸元はっっっ!将来有望なイケメンのミルコくぅぅん!ハァハァ……翡翠みたいな瞳がアタシの心を鷲掴みィィ!
リボンはシングルマザーのタチアナさんんんんっっ!!!彼女はガチガチムチムチンコな気合いありまくりのママンっ!!
んっかーーーっ!素晴らしいぃぃぃっっっ!!!ふぉぉぉぉっーーー!!!」
一人で興奮状態となった赤毛の美丈夫はビクトリアにそっと回収された。
布により少しずつ改善され始めていることを実感しつつツキヨはおとなしくフロリナに化粧を施され、大授と宝飾品を身に着け最後に宝冠を黒髪に固定された。
戻ってきたビクトリアは「ハァ……麗しい……くうっっ!」と呟くと手巾で鼻を押さえながらうずくまった。
なお、フロリナは既に鼻に詰め物がされていた。
窓から大きな満月が見えた頃、控えの間の扉が叩かれた。
開けたそこには、最礼装の闇を溶かし込んだような黒い軍服を新たに着込み、長い銀髪を一つにまとめたアレックスが立っていた。
髪をまとめる組紐は黒い糸で編まれ、両端部は大粒の色の濃いアメジストがつけられている。
「準備はできたみたいだな」
長い足でつかつかと中に入る……まとめた銀髪がサラサラと揺れ、組紐のアメジストも合わせて煌めく。
「はい……」
その姿を見たツキヨは突然気恥ずかしくなり、俯く。
「こんなに可愛い格好を俯いて隠そうとしても無駄だぜ」
ニヤリと笑いツキヨの顎を軽く掴み顔を上げさせる。
髪をまとめたアレックスの艶やかで見慣れない姿に照れたとは言えないツキヨだった。
「おい、アレックス。イチャイチャ遊んでないでそろそろ広間へ行くぞ」
ちょっと羨ましそうな声でレオが開けたままの扉から話しかける。
「この姿を見せたくない俺の気持ちがレオにはわかるかっ?!どっかに誘拐されたらどうすんだっ!!眩しくて目が潰れる!魔族の奴らは確実に目を痛める!死ぬ!こんな危険があふれ出す煮汁のような晩餐会は今すぐ中止にしろ!中止DEATH!」
アレックスが胸を抱えうずくまり喚く。
「同意」
「お館様、畏まりました」
「このビクトリアの命をかけて晩餐会を中止にいたします」
「中止に賛成よっっっ!!この姿は危険よ!危険物よ!ああぁんっ!」
蝶ネクタイをした魔鬼死魔無君も突然現れて何度も頷く。
各自、中止の方向でわらわらとあらぬ方向へ動き始めたのをツキヨは慌てて止める。
頑張って止める。
凄い頑張って止める。
程なくして中止命令は皇后陛下自ら取り消した。
晩餐会中止派の六人?から子供のようにブーブーとその手の文句を言われることに慣れているツキヨは堂々たる姿だった。
後年のゴドリバー帝国の歴史書に「戦なき世に現れた戦乙女」と評される皇后陛下の姿だった。
ツキヨが預かり知らぬところで、そのとき歴史が動いた。
***
不満げな空気が漂うがレオの先導でアレックスにエスコートをされてツキヨは晩餐会の会場へ長い廊下を歩く。
殿は花嫁よりも華々しい美丈夫のエリが務める。
アレックスの影からこっそり魔鬼死魔無君が顔を出してツキヨに手を振る。
それにフフッと笑い返すツキヨはまた緊張していたことに気がつく。
「また、緊張屋さん開店か。ほら、顔をこっち向けろ」
ゆっくりと歩きながら顔をアレックスに向けると額、両頬、両耳にリップ音をわざと鳴らしながら口づけられる。
「唇は、紅が落ちた!とかでビクトリアたちに殺されるから、寝台の上でのお楽しみだ」
緊張は吹き飛び去ったが今度は白粉が役に立たないほど、顔が真っ赤になったのが自覚できる。
「あ……」
「おっと、もう晩餐会の会場だ。早く赤い顔をなんとかしないと不埒な皇后陛下になっちまうぜ」
残酷な神―――レオが重厚な扉を開く。
「ゴドリバー帝国アレクサンダー皇帝陛下、並びにツキヨ皇后陛下のご入来」
拍手が鳴り響く中、堂々とした皇帝陛下のエスコートで頬を赤く染めた皇后陛下は恥ずかしそうにやや俯きながら会場へ足を運び入れる―――その姿は春先の可憐な花のように初々しいと晩餐会の招待客は微笑ましく見守っていた。
ツキヨにとってそれが救いだった。
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