闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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閑話 マルセル父ちゃんと魔鬼死魔無君

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勝手に100話達成記念!時系列は無視してマルセルがアレックスの屋敷に滞在中に魔鬼死魔無君と交流をする話です。
魔鬼死魔無君好きな方(いるのか?)お待たせしました!!?

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「うーん…こうなったらこの間みたいに魔鬼死魔無君を置いていくしかないと思う」
 アレックスの執務室でレオは眉間に皺を寄せながら言う。

「ツキヨもエリに呼び出されてフロリナと出てしまうし…俺らも急に城に行かざるを得ないし…チッ…仕方ねぇか…」
 執務机の椅子にどっかりと座ったアレックスのそばに魔鬼死魔無君がふよふよとしている。
「ところで…こいつはどんな役に立つんだ?ちょっと、俺の手を殴ってみろよ」
 魔鬼死魔無君に向かってレオは右手のひらを向ける。

 ペチペチ…


「おい、飼い主!なんとかしろよ!これ!!どうすんのこれ!!!」
「俺もここまで物理攻撃ができないとは知らなかったぜ…多分ツキヨの方が強いな…」
 魔鬼死魔無君は照れる。
「照れてる場合じゃねぇよ!!」
 レオが赤くなった頬?をグイグイと引っ張る。

「まぁ…今時、物騒な話も聞かねぇし、マルセルも客間になるべくいるようにしてもらって後は最悪、何かあったら俺がすっ飛んで来るようにするか…」
 マルセルの滞在中、アレックス、ツキヨ、レオ、フロリナが客人であるマルセルを置いてまで外へ行かざるを得ないため魔鬼死魔無君に客人警護を任せることとなったが、こんな非力だったとはと今更二人は頭を抱えることとなった。
「こんなのにあの騒ぎの後にツキヨちゃんの警護を任せたお前が偉いわぁ…」
「俺もこいつと何かコミュニケーションを取るとかねぇし常に繋がってるからそんなもんだとしか考えていなかったんだよ!」
 
 溜息をつく二人を無表情で魔鬼死魔無君は小さな目で見つめていた。


***

 ツキヨとフロリナはせっかちなエリの呼び出しに慌ただしく馬車で店に向かってしまうと、マルセルのいる客間でアレックスとレオが魔鬼死魔無君を紹介をした。
「…はぁ…なんとも不思議な感じですね…えっと、魔鬼死魔無君?僕はマルセル。よろしくね」
 どこかツキヨに似た笑顔でマルセルは挨拶をすると握手をしようと手を伸ばした。

[????]

「あぁ、握手を知らないのかな?これは友達になった時にする挨拶だよ。手を握り合うと友達になるんだよ」
 よくわからないが魔鬼死魔無君はマルセルの手をそっと握った。

[トモダチ…???]

【こーいうとこが、ツキヨに似てるんだよなぁ…】
 ニヤと笑うアレックスだった。

「マルセルさんには本当に申し訳ないですが、すぐに戻ってきますし万が一の時はアレックスと直接繋がっているようなものなので問題はないかとは思います」
「ここはこんな長閑なところだし、僕もカルスさんの書類とか納品物のこととかをまとめないといけないのでレオさんたちは気にせず行ってきてください」
「悪りぃけど、二人?で留守を頼んだぜ」

 笑顔でマルセルはアレックスたちを送り出すと客間の机で書類を書きまとめる。

「えーっと…ライラ商会とその下のベニート商会へ収穫したら葡萄をまずは3箱ずつ…あ、おっと…」
 机から書類が一枚ひらりと落ちたのを魔鬼死魔無君が拾ってマルセルに渡した。
「おー。ありがとう…」
 えへへ…と言うように頬をぽりぽりと掻いている姿を見ると「あ、そうか。会話ができないんだよね」とマルセルが困った顔をすると魔鬼死魔無君は身振り手振りで何かを伝える。
 胸を張り、手で丸を作る…「あぁ、大丈夫って訳かな?」…うんうん!と頭をヘドバンレベルで頷く。
「もし、退屈だったら散歩とかしてきてもいいよ。僕は書類をまとめてるからね。好きなことしていていいよ」
 そして、マルセルは机に再び向かった。

 少しだけ開いた窓から秋になりかけの風が入ってきた。
 窓の向こうの屋敷沿いの道に小汚い服を着た二人組の男が辺りをキョロキョロしながら歩いていた。

「そうだ、魔鬼死魔無君。食べ物は食べられるかな?」
 手元の鞄からマルセルは割れたり、形の悪いクッキーを取り出した。
「僕の領地で作っているものだけど、割れて売り物にならない分はこうやっておやつに持ち歩いているんだけど、食べられる?大丈夫かな?」
 袋から半分に割れたクッキーを魔鬼死魔無君の手に乗せる。
「もし、嫌いじゃなかったら食べてみてね」

[タベル…???]

 彼は、本来アレックスの魔気の分身体であり、人の言葉はいくら理解していても「行動の意味」や「感情の意味」などは魔鬼死魔無君にしてみると必要も理由もなく、不自由なこともなかった。
 心や精神、感情を持たない霊的なものであった。

[タベル…]

 マルセルも口に放り込みポリポリと食べている姿を見て魔鬼死魔君は口へポイッと放り込んだ。
 そして、「食べる」という行為を「初めて身を持って」理解した。
 「食べる」ことによって魔鬼死魔無君は初めて美味しい、甘い、嬉しいという言葉の意味も付随して理解をした。
 黒い手をそっと出す「あ!食べても大丈夫そう?!たくさん持ってきたから食べて食べて!」と割れたり、焦げたりしたクッキーを手に何枚も乗せてあげた。
「気に入ってくれたみたいで良かったよ。また、今度来るときには魔鬼死魔無君は、もう僕の友達だからたくさん持ってきてあげるよ」
 細かい意味は分らないがサクサク、ポリポリと魔鬼死魔無君はクッキーを食べた。

 しばらく、でお菓子を楽しんでからマルセルはまた机に向かい計算をしたりして書類と格闘を始めた。
 魔鬼死魔無君はふわふわと漂っていた。



 キィッ…

 不意に魔鬼死魔無君は厨房の方から何か音を感じ取る。
 
 ト…ン…

 続いた聞き慣れない音が気になって、そっと扉を潜り抜けて厨房へ様子を見に行った。


***

 この時間帯、料理長や侍女たちは少し離れているところにある寮や自宅へ戻って休憩をしているため人数はほとんどいなかったが、そこにはマルセルの部屋の窓から見た二人組の男がいた。

「おい、ジャン。裏口が開いていて誰もいねぇなんて、呑気なお貴族様だなぁ」
「兄貴、がっぽり行こうぜ!」
 小声で話しながら二人とも手に短剣を持ち、厨房から廊下へ出た。
「この絵も高そうだな…ジャンこれも入れておけ」
「よし、兄貴任せろ」
 背中の荷物入れに花の絵が描かれた小さい絵画をポイと入れた。

 魔鬼死魔無君は絵画を盗る瞬間を、以前アレックスが読んだ本の話をしていたがその中に出てくる「伝説の家政婦」の「秘儀・壁隠れの身」という技を使い物影から見つめていた。
 
 ちなみに「伝説の家政婦」というのは各国に伝わる有名な説話であり、彼女の駆使する技は今も隠密たちが習う技の一つで彼女は影に生きる者たちの憧れでもあった。

 そして、男は玄関ホールに出る手前の飾棚にしまわれた白い一輪挿しを手に取った。
「青い花模様なんて珍しいな…」
 兄貴は乱暴にジャンの袋へ突っ込んだ。

 魔鬼死魔無君は「アレックス様…きれいで嬉しいですがこんな高いものじゃなくても」「いいんだよ!ツキヨが気に入ったんだろ?!これは今日から家宝だ!ハハハ」という会話を思い出す。

 花瓶が盗られてしまった…というあとを想像する。
 アレックスは「怒る」だろう。
 ツキヨは「泣く」だろう。
 その感情を彼らは「体を使って表現」をしてから、あの二人をレオたちと「捕まえる」、そしてツキヨは「喜ぶ」だろう…。

 ツキヨが「体を使って表現泣く」をするのだけは魔鬼死魔無君でもよくわからないがあってはいけないことだと思っている。


 …すぃっと魔鬼死魔無君は背を向けて飾り棚を物色する二人の背中をツンツンと突いた。

「誰だ!!」
「くそ!見つかったか!」
 振り向いた二人は短剣を背後の的に向ける…がそこには右手を上げて挨拶をする黒い影がいただけだった。

「ジャン、なんだこいつ?」
「魔族の貴族の家だしペットの魔物じゃないかな?もしかしたら、どっかから紛れ込んで着いてきたのかも」
「こんなペッタンコなやつ、どうでもいいか。ほら、他のもん探すぞ」
 また、物色を始めた二人に半分無視をされてちょっとムッとした魔鬼死魔無君はジャンの背中をツンツンと突いた。
「兄貴ぃ!また、このペッタンコが邪魔するぜ!」
「じゃれてきてる猫みたいなもんだろ」

 今度は非力な腕でポカスカと兄貴の背中を叩くが完全に無視をされた。

「上階には当主の部屋や女房の部屋があるからそこで宝石や金目のもんを探すぞ」
「あぁ…って、目の前にペッタンコが…」
 二人の行く手を拒むように魔鬼死魔無君がいる。
「チッ…魔物の癖に!」
 ザァッと短剣で袈裟掛けに切りつけた…が魔鬼死魔無君はビックリしただけで血も傷も何もない。
「くそ。悪霊系で実体がないのか…面倒くせぇヤツだな…」
「兄貴…このペッタンコは手に掴むことはできるし、非力だから捕まえて厨房の貯蔵庫にでも突っ込んでおけばいいんじゃねぇの?魔族の家なんだから、そのまま勘違いして『食べる』かもしれないぜ、ハハハ!」
「それもいいな。影みたいなもんだから『食べても』腹の足しになるかはわかんねぇけどな!ガハハ!」
 
 笑いながら兄貴が腰に下げた縄を手に持つ。



[タベル…?タベル…タベル…タベル…]


 何かが閃いたのか人の腰の高さほどの背丈しかない魔鬼死魔無君の顔?には合わないくらい大きな口をぐぉぉっと開けた。

 口の中は闇。どんな闇よりも暗く深い闇だけが口の中に広がっていた。

 「ヒィッ!」と小さな声だけを残してそのぐわぁっと開いた空間…闇色の口に兄貴は捕食された。立っていたところに膝から下が残っていたが人形の足をすぱっと切断したように血は出ていなかった。

[タベル…]

「兄貴!!お前が『食べた』のか?!」
 怖れ慄いたジャンは腰を抜かしてへたり込み、毛足の長い絨毯の上でそのままズルズルと後ずさる。
「盗んだもんは返すから!ゆ、許してくれ!!頼む!『食べない』でくれ!!」
 背中の荷物を降ろして絨毯に置いて、さらにずるずると絨毯の上を後ずさる。

[…タベル?…タベル!?…タベル]


「…っ!」
 
 ジャンが感じた最後は天地左右も空間も全く存在しない、闇で痛みもなく霧散をする肉体と「魂」だった。


 二人がので袋から盗ったものを出してそっと元に戻してから袋と兄貴の膝下を「食べた」。

 マルセルからもらったクッキーみたいな味はしなかった。


***

 また、そっとマルセルの部屋へ入る。
 大きな声で騒いでいたのに何も反応していないのが不思議だったが…マルセルは机に突っ伏して居眠りをしていた。
 風のせいで床には書類が散らばっていたのを魔鬼死魔無君が拾い集めていると「んが…!」とマルセルが目を覚ました。
「あ!寝てしまった!あわわ…」
 寝ぼけ眼で書類を持った魔鬼死魔無君を見ると「あー、僕…寝てしまって。拾ってくれてありがとうね。いやぁ…一気にまとめようとしたら疲れちゃったよ、あはは」とマルセルは書類を受け取る。

 マルセルは魔鬼死魔無君の頭?を撫でた。

「わ!ごめん、ごめん!つい、ツキヨの子供のころみたいに思ってしまって…背も同じくらいで魔鬼死魔無君みたいによく書類を拾ってくれたりしたんだよ」

 魔鬼死魔無君はマルセルへの不思議な感情を持った。
 しかし、その感情を言い表すのに魔鬼死魔無君は身振り手振りでもどうしたらいいのか分らないくらい不思議な感情だった。


「おう、戻ったぜ!」
「ただいま戻りました!」
 玄関から同時に4人が帰ってきた。

「あ、おかえりなさい!魔鬼死魔無君も行こう!」

 マルセルが手を差し出すと黒い手がそっと掴んで2人一緒に玄関へ早足で向かった。

「魔鬼死魔無君ただいま。お父様と一緒にいてくれてありがとうね」
「おう、なんか問題はねぇみたいだな。ありがとうよ」
「魔鬼死魔無君が子供のころのツキヨみたいに書類とか拾ってくれて…仲良くしてましたよ」
「なに!?おい、マルセル…そのころのツキヨの詳細を聞かせてくれねぇか…?」
「いいですよ!」
「え!!お父様!恥ずかしいからやめてください!」

「温かいものをご用意しますので続きは応接室でお願いいたしますわ」

 レオは魔鬼死魔無君をじっと見た。
 魔鬼死魔無君はレオをじっと見た。

 …。
 ……。
 ………。

 レオはアレックスの荷物を持ち、執務室へ戻った。
 魔鬼死魔無君はそっとアレックスの影に戻った。

 
 明日のこと…未来のことなんて考えたことのない魔鬼死魔無君がマルセルのクッキーがいつ食べられるのか考えていた。
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